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第1章・君をいつの間にか2

「なぁ、なぁ、理苑~!私らまた、同じクラスやんな。アンタ、バスケ部に入るって言うてたやん。私もお姉ちゃんからな……」

小学校からのクラスメイトの女子の言葉は、理苑の耳に入らなかった。

自分が押して行くはずだった祥太郎の車椅子を、何故か兄が押している。

兄が祥太郎の耳元で何かを囁く。

首をすぼめるようにして、くすぐったそうに笑う祥太郎。

あんな優しそうな兄は、家でも見た事がなかった。

最近でこそ少し落ち着いたが、家での兄は常にイライラしていた。

言い争いの後、いつも父に殴られて、最後には家を飛び出していた。

祥太郎が自分以外の人間に笑顔を向けると、何故か胸がモヤモヤする。

そしてまた、この気持ちが何なのか考えようとすると、無意識にブレーキをかける。

兄がクラスメイトに祥太郎を受け渡していた。

何故、自分の所に連れて来なかったのか腹が立った。

「ちょっと、聞いてんの?帰り、一緒に帰ろうって言うてんねんけど」

「何でオレがお前と帰らなアカンねん」

「そ、そんな言い方、ないやん!私はただ……」

理苑は彼女が言い終わる前に、振り切るように体育館へ入った。
 
自らの気持ちが分からなくて苛立ちを覚える。

桜吹雪が雪に見える程、理苑は身も心も冷え切っていた。
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