第3章・君のとなりに5

「祥太郎くんを僕にください」

実家に帰るなりの開口一番があまりにもベタだったので、理苑以外のその場の人間が全員固まった。

「はい。どうぞ。でも、大事にしてやってね」

母がニコニコと応えたものだから、今度は理苑が固まった。

父は複雑な表情だったが、やはり以前の野坂親子喧嘩騒動の情報が伝わっていたようだった。

「こないだね、来斗くんから聞いたんよ。来斗君、必死に説明してくれてね。理苑の実家にも、来斗くんが説得したみたいで、一昨日、ご夫婦で来はってね」

祥太郎は、そういえば来斗が『俺が動くから』と言っていた事を思い出した。

「でも実はママは、そんなん聞く前から分かってたけどね」

『えぇ?!』と、叫んだ二人の声がハモった。

「理苑が祥太郎が大好きなのは幼稚園の頃からやし。祥太郎かて彼女どころか結婚もしないて言うし。理苑があんまりにも祥太郎を好き過ぎて、小さい時に手を出したら困るかな?とは思ってたけど」

母のあまりの洞察力に父も絶句していた。

そんな父を、母が肘でつついて促す。

「と……とにかく、二人は普通ではない関係だから、大変な事もあるやろうけど、覚悟は出来てるんやろな?」

「おじさん。オレ、祥太郎がおらん人生の方が大変な事やから」

それ以上の事なんてないから。

理苑はそう言うと、愛しくてたまらないといった目で、隣の祥太郎を見つめた。
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