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第3章・君のとなりに4

料亭で会う、とは聞いていたが、本当にこんな政治家が出て来そうな豪華な場所でされるとは思わなかった。

親会社の幹部が東京から来てのコンペと聞いて、説明する内容も分かり易く……と思い巡らせていたが、実際に会ってみると説明はそこそこで、それがどれ程に儲かるかという事がメインで、ほとんど岩井の独壇場だった。

祥太郎は体調も良くなかったので、勧められる酒はそこそこに、注ぎ役に徹する事にした。

気が付いたら、お偉いさんはいつの間にか帰っていて、何故か祥太郎と岩井の二人きりになっていた。

濃密な空気と、岩井の視線が悩ましいものになっているのを流石の祥太郎も気が付いて、全身に鳥肌が立つのを止められなかった。

「き、今日はお世話になりました。私もこれで失礼します」

「まぁ、まぁ、もう少し、僕にお酌をしてくれないかな」

祥太郎が返答に窮していると、岩井の方から更に聞いてきた。

「この間、僕が白木君の家に行った時に出て来た綺麗な男の子は彼氏?」

理苑の懸念は正しかった。

やっぱりこの人おかしい。

祥太郎は震えが来そうになるのを必死に堪えた。

「違います。部屋をシェアしてる友達で……」

「でも、彼はそう思ってないみたいみたいだったけどね。あの時、僕なんか視線で殺されそうだったしね」

「そんな事は……」

「そう?でも、このキスマークは彼がつけたんじゃないの?」

そう言うと、岩井は腕を伸ばして祥太郎の襟を器用に捲った。

祥太郎はその手を叩くようにして、拒絶した。

「……だとしても、貴方には関係ないと思いますけど」

「関係はあるよ。僕は初めから君を口説くつもりだったから」

理苑!理苑!理苑!

呪文のように祥太郎は心の中で唱えた。

恐慌状態に陥りそうになる自分を何とか奮い立たせて、頭を下げてから立ち上がった。

「申し訳ありませんけど、お気持ちはお受け出来ません。……失礼します」

祥太郎は扉に急ぎ向かったが、岩井に腕を取られ、引き倒された。

鍛えているだろう体型だとは思ったが、押さえ込まれた自分の体は寸分も動かない。

「僕、柔道は有段者なんだよね。今日は逃すつもりないから」

キスされる!と思って、とっさに顔を反らせようとしたが、顎を強く捉えられ無理矢理に唇を合わせられた。

全身の力を使って、暴れまくってやったが、その下から逃れられない。

だが、祥太郎の唇に滑り混んで来た岩井の舌を、引き千切るように思いっきり噛みついてやった。

痛みで体を引いた岩井の下半身に、力一杯の蹴りを入れる。

揉んどり打つ岩井の下から抜け出した時、メールの着信音が鳴る。

「失礼しますっ!」

カバンを急ぎ奪うように持ち、部屋を飛び出した。

店を出て、人通りの多い道に出ると人心地ついて、メールを開いた。

直輝からのメールだった。
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