第1章・君をいつの間にか2

桜吹雪の中、祥太郎は母に車椅子を押され、中学の入学式を迎えた。

理苑が早目に迎えに来てたのだが、その時は立ち上がれなくて、「先に行ってくれ」と言うと、一緒に行くとごねられた。

だが、初登校から遅刻させる訳にはいかないと、祥太郎の母に説得され、渋々先に中学へ向かった。

祥太郎は何とかギリギリで、体調が優れないのを押して、式の始まるギリギリで門を通った。

只でさえサイズの大きい学ランなのに、さらに華奢な祥太郎の体は服の中を泳ぐような有り様だった。

祥太郎の学ランがそんなにもブカブカなのは、御下がりだったからだ。

その時、その御下がりをくれた本人が笑顔で歩いて来た。

「よお、祥太郎。入学式、何とか来れたんやな」

来斗らいとくん、久しぶりやね」

そう母が言うと、祥太郎は驚きを隠せないまま、凝視してしまった。

来斗は理苑の6つ年上の兄で、理苑より更に外国からの血を感じさせる、彫りの深い相貌だった。

彼の周りは常に女の子が騒いでいて、近所でも2度同じ女の子を連れている姿を見た事がないと噂になる程だ。

そんな昔からアイドル並みにモテていた来斗だったが、その身長の高さに祥太郎も見上げてしまう。

ついこの間までは平均的だったのが、急激に伸びたのか、190センチを越える長身に成長していた。

「ら、来斗くん、エラいデカなってる……」

「野坂家の男は、後から身長伸びてくるねん。理苑も今は小さいけど、多分、大きなるで。あ、オバチャン、父兄は何か集まるて言うてたで。祥太郎は俺が押して行くわ」

母は来斗に祥太郎を預け、小走りに去って行った。

「祥太郎、また細なったな。ちゃんと食べなアカンで」

「来斗くんも理苑と同じ事言うねんな。……今……食べたいねんけど、あんまり入らんねん」

「お前に理苑の食欲、分けてやりたいな。アイツ、ラーメン大盛り食べた後、その汁ん中にどんぶり飯入れるんやで。アイツの胃、絶対、肥大してるわ」

ついこの間まで、来斗が荒れて何度も警察沙汰になった事を、理苑から聞いていた。

今の彼は、そんな事を感じさせない穏やかさだ。

最も、荒れていたという高校時代も、祥太郎にとってはいつも優しい『親友のお兄さん』だった。

「来斗くん、エエの?せっかくの入学式やのに、理苑を写真撮らなアカンのんちゃうん?」

「野郎の入学式なんか、集合写真だけで十分や。アイツが妹で、セーラー服でも着てたらナンボでも写真、撮ったるねんけどな」

そのあまりな物言いに、祥太郎も笑ってしまう。

そんな悪態を付きつつも、来斗と理苑は仲の良い兄弟だった。

独りっ子の祥太郎は、幼稚園の時に「ママ、理苑のお兄ちゃんみたいなお兄ちゃん、今から産んで!」と母に訴えた程だった。

来斗は今も、憧れのお兄さんだった。

「クラス発表、見たら、お前、理苑と同じクラスやったぞ。直輝とは分かれてたけど」

「ホンマに?そしたらまた、理苑に迷惑かけるなぁ」

「エエやん。祥太郎はおっとりしてるんやから、チャカチャカしてる理苑に世話させたったらエエねん。存分に甘えとけ。ほら、クラスの他の奴もお前を呼んでるで。式の間はバトンタッチするけど、帰りはまた押したるから」

「来斗くん、ありがとう」

そう言って、来斗は数人のクラスメイトに祥太郎を受け渡した。
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