第1章・君をいつの間にか1

「祥太郎、また、ゲームしてるかロボットの設計図ばっかり書いてんやろ?ロボットの材料かて、いるんちゃうんか。オレ、そこの量販店まで車椅子、押したるで?」

「……アカンねん。俺、ここんとこ頭痛が酷くて、車椅子も乗られへんねん。材料、欲しいけど……行かれへん」

「何買うか分かったら買うて来たるねんけど、オレ、アホやから分からんわ。ごめんな」

「何言うてるねん。こないだ、直くんが来てくれて聞いたけど、理苑、テストの成績、良かったらしいやん。オマケに水泳大会も優秀選手に選ばれるし、めっちゃスゴいやん」

「……直輝、来たんか」

川村直輝なおきも、祥太郎や理苑と同じ、幼稚園からの幼なじみである。

ロボット好きの祥太郎と、電化製品マニアの直輝は、趣味が近く仲が良かった。

しかし、アウトドア派の理苑と直輝は、いまいち波長が合わない。

理苑は、いつも祥太郎の口から直輝の名前が出ると、胸の辺りがモヤモヤした。

いつも無意識に、直輝の来るだろう時間をワザとずらして来ている自分がいる。

だが、その理由をあまり考えないようにしていた。

「おい!お前、立って大丈夫なんか?無理すんなや」

「大丈夫や。理苑とゲームすんねん。電源、入れんと」

「なぁ、なぁ、祥太郎。動けんねんやったら、オレと腕相撲しようや。オレ、クラスでトップやねん。お前に勝てたら、『真のトップ』になるねん」

「『真のトップ』ってなんやねん」

「ほら、はよこっち来て」

理苑は、祥太郎の服の裾を引っ張り、テーブルまで連れていった。

嬉しそうな理苑に苦笑しながら、祥太郎は誘われるまま、右腕の長シャツをめくる。

理苑は息を飲んだ。

祥太郎の腕は白いだけでなく、あまりにも細かった。

想像以上に骨が浮き出た右腕は、生きているのが不思議な程に、生命の息吹きを感じる事が出来なかった。

「スポーツやってるお前に、寝たきりの俺が勝てる訳ないわな。せやけど、元気やったら絶対に負けへんのに」

たかが腕相撲で、理苑はその腕をへし折ってしまうのではないかとドキドキした。

祥太郎もサッカーをやってた頃は、理苑を上回る程にスポーツ万能だった。

今でもその負けん気の強さが、強気の発言をさせてしまう。

「お前……体重、何キロやねん……」

「こないだ、病院で計ったら35キロやった」

「オレは50キロあったわ……エラい、ちゃうな……」

「……俺……大きくなるんかなぁ……」

祥太郎は、視線を宙に浮かせて呟いた。

そんな姿に、理苑は胸を痛めた。

腕相撲、せんかったら良かった。

祥太郎に辛い思いをさせてしもた。

その後悔が自分を苛む。

「調子良かったら、オレが車椅子引いて学校行ったるし!オレ、先生に頼まれて、ずっとお前の後ろの席やからな。白木くんの面倒は、野坂くんがみてね……って言われてるねん。お前の世話は、オレがしたるから!」

祥太郎は理苑の肩を拳で軽く殴り、「ホンマ頼むで」と言って、寂しげに笑った。
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