第2章・君がいるだけで5

ロボットも後少しで完成、という所で、約束していた海の近くのホテルに泊まる日が来た。

電車で1時間半、3泊4日。

祥太郎にとって、小学校の低学年以来の旅行だった。

電車の車窓越しに、そのホテルが見えて来た。

「ホンマにあそこに泊まるんか?何かスゴい豪華な所やん。いくらするんや?」

「親父も値段、知らんと思う。何や、取引先の関係やて言うてたし」

電車を降りるとすぐのホテルで、しかもチェックインしてみたら、とんでもないクラスの部屋だった。

「ちょっ……ホンマに、俺、払わんでエエんやろな!こんな所、後で払えって言われても無理やで!」

「大丈夫やって。他の予算も、オレ、バイトしてたから考えんでいいで」

部屋の中にバーカウンターまである。

高校生にバーカウンターのある部屋は不釣り合いだと思ったが、ここまで来て部屋を替えてくれなどとは、えらく楽しそうな理苑を見てると言い難い。

「祥太郎は窓際のベッド使いーや。景色いいし。ほんなら、はよ着いたし……泳ぎに行こうか」

その後、祥太郎が想像する通りの事が起きた。

理苑の行く先、行く先に女の子が群れて来る。

水着姿の理苑は、着痩せするタイプなのか、かなり筋肉質な体型だった。

盛り上がった胸筋、見事に割れた腹筋、長い手足は、まるで芸術作品のようだった。

祥太郎もスタイルが悪い訳ではないのだが、隣にいる男が彫刻のような美しい肉体であると、流石に引け目を感じてしまう。

次第に先日の街中のナンパ所ではなくなってきて、女の子の人垣が出来るまでになってしまった。

まるで有名人が現れたような現象に、祥太郎も言葉を失ってしまう。

理苑から離れたほんの数メートルが、何キロにも感じる。

これはどうしたものかと悩んでいたら、「祥太郎!」と呼ばれ、人垣から長い腕が伸びてきた。

理苑の大きな手が祥太郎の腕を掴んで、海の中へ連れて行った。

女の子達も流石に海の中にまで、追いかけては来なかった。

祥太郎が立ち泳ぎをしているのに対して、理苑はまだギリギリ立てる深さだったのが悔しかった。

「何やねん。涼しい顔しやがって。俺は必死に泳いでるのに!」

「足が長いのは仕方ない事やん。何なら、オレに掴まれば?」

その言い様が悔しかったので、思いっきり負荷をかけるように理苑に抱き付いてやった。

すると、まるで宝物を抱えるかのように、理苑の腕が祥太郎の腰に優しく巻き付いた。

「あ~……幸せやな~オレ」

「男に抱き付かれて『幸せ』って、お前、アホやろ」

「何とでも言うて。殺伐としたオレの人生も捨てたモンやないと、今、実感してるところ」

「暑さで頭に虫が湧いたか、理苑!」

しかしそう言う祥太郎も、理苑と疎遠になっていた辛い時期を思えば、今の自然な関係にまて戻れた事には嬉しく思っていた。
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