第2章・君がいるだけで4

理苑の家から帰って、自分の部屋でベッドに転がり、祥太郎は天井を見つめた。

あれだけ男前で、女をあしらうのに長けた理苑が、誰とも付き合った事がないはずはない。

自分はどうだろう。

女性に甘やかな感情を抱いた事が一度もない。

というか、恋するという気持ちがどんなものかも想像出来ない。

闘病生活の長さが、祥太郎の感情を内に籠らせた。

恋する気持ちだけではない。

全ての感情を抑えてしまう習性が、身に付いてしまっていた。

誰かが強く欲するものを、それを押し退けて奪うような事が出来ない。

自分が欲しいと思っても、他の人間が同じものを求めていると分かると譲ってしまう。

だから理苑と関係修復を望む彼女を、自分が訪れた事によって、追い返すようになってしまい、胸が傷んだ。

理苑はもう求めてないだろう関係でも、せめて彼女が納得出来るまでとことん話をさせてやった方が良かったのではと、今更ながらに後悔してしまう。

そんな事を考えていると、ピンポンとベルの音がした。

理苑が約束通り、午後から家に来たらしい。

ドカドカと足音がして、ノックもせずに祥太郎の部屋へ入ってきた。

「祥太郎~、もう昼飯、食べた?」

午前中の出来事が何もなかったかのように、理苑は笑顔を浮かべて、ベッドに横たわる祥太郎の側に腰かけた。
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