第2章・君がいるだけで4

その日は母から、理苑の家にお裾分けを持たされて、午前中から自転車を走らせた。

昼から理苑が家に来る予定だったが、生物だから足がつく前に持って行けと言われ、追い出された。

理苑の家の前に着くと、1人の女性が立っていた。

艷やかなロングヘアの美しい女性だった。

大人っぽいワンピースは、高校生には見えない。

佇む彼女を押し退けてインターフォンを押す訳にもいかなかったので、一応、声をかける。

「あの……野坂さん家に御用ですか?お留守でした?」

「あ、いえ、いらっしゃったんですけど……」

女性が困っているようだったので、祥太郎はインターフォンを押してやった。

『あ、祥太郎?ちょっと、待ってな~』

理苑がインターフォン越しに応えた。

扉の向こうで足音がしてから、勢いよくドアが開く。

「昼から約束やったのに、どないしたん?」

理苑は祥太郎を笑顔で迎えたが、隣に立つ女性に目を移らせると表情を曇らせた。

「理苑、あのね、私、まだ話終わってない……」

「まだおったんか。はよ帰れ」

祥太郎が聞いた事もないような、冷たい言葉を吐く理苑。

「私、まだ納得してないし!何がアカンかったん?私、尽くしてたやん!」

「警察呼ぶぞ。これ以上、オレに関わるなって言うたやろ」

「悪い所あるんやったら直すし!なぁ、私の何がアカンかったん?」

殺伐とした雰囲気に祥太郎は言葉を挟む事が出来なかったが、自分が今、ここにいない方が良い事だけは判った。

申し訳ないと思いつつ、理苑に手荷物だけを渡す。

「あのな、理苑、これママからお前ん所に渡せって言われたらやつ。俺、もう帰るから。今日の約束は明日にしよ?」

そう言い終わる前に、祥太郎は力強い腕に引かれて、理苑の腕の中に抱き込まれた。

背中で扉の閉まる音がした。

「祥太郎……ゴメンな。変な所、見せた」

「あの人、お前の彼女とちゃうんか?追い返して良かったんか?」

理苑はバツが悪そうに、ガリガリと頭を掻いた。

「ちゃうねん。彼女と違う……いや、誤魔化してもアカンな。前に付き合ってた奴やねん。もう、とっくに別れた」

夏休みに彼氏の実家まで追いかけてくるという、彼女の執着が垣間見えた。

大学生か社会人だろう綺麗に化粧をした女は、年下の彼氏に捨てられたくないと必死の形相だった。

会っていない間の2年余りの、理苑の生活を初めて見た気がした。

「ホンマにエエんか?」

「エエねん。ところで、何持って来てくれたん?あ、オバチャンの作ったケーキやん!食べよ、食べよ!」

そう言って肩を抱かれて、リビングに連れて行かれた。

あまり聞かれたくなさそうな理苑に、祥太郎もこれ以上、彼女の事を話すのは躊躇われた。
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