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第2章・君がいるだけで3

「祥太郎、大丈夫やった?オレ、祥太郎と離れたら困るから、しがみついてゴメンな」

「しがみついてって……もう、お前、子供やないんやから」

「だって、こんな所、来たん初めてなんやもん。帰り、バラバラになっても困るし」

「俺、こんなんでライブ聴いたん初めてや……。めっちゃ恥ずかしい」
 
「ごめんなぁ。俺、ライブとか全然解らんで」

帰りの電車の中で、あっけらかんと詫びてくる理苑に呆れてしまった。

ふと、中3のクリスマスに、理苑からキスされた事を思い出した。

あれに関して深く考えた事がなかった祥太郎だが、今更ながらに思い巡らせた。

あの時、どういう意味でしたのだろう。

男友達にあんな事を普通、するものだろうか。

それに釣られるようにして、卒業式で見た女子とのキスも思い出した。

あれは理苑の彼女だろうか。

彼女がいるなら、何故、祥太郎にキスしたのか。

ライブでも、彼女でもないのに男友達を、あんな風に優しく抱き寄せるものなのだろうか。

理苑の行動が、祥太郎には理解出来なかった。

「祥太郎、どないしたん?」

「あ、いや、アニメソングしか聴かんお前が、あんなん楽しめたんかな?と思って」

「楽しかったで。演奏、上手かったから、それだけでも聴く価値あった」

「そんなら良かった」

祥太郎は考えるのをやめた。

今の理苑との穏やかな関係を、壊すような事はしたくはない。

不意に、理苑が急に思い出したかのように、隣に座る祥太郎の膝を叩いた。

「そういえば、親父の会社の関係で結構良いホテル、タダで泊まれるねんやん。海の近くで泳ぐんも出来るし、魚釣れる所もあるらしくって……」

「へぇ、スゴいな」

「何、他人事みたいに言うてんの!お前に行こうって誘ってるんやん」

電車がトンネルの中を通過した。

祥太郎は隣に座る理苑に顔を向けた。

「俺?」

「祥太郎、昔は泳げてたけど、今も泳げるか?体、大丈夫なんか?」

「いや、体は大丈夫やけど、そんな高い所、今日のライブもおじさんからおごって貰ったのに、申し訳ない」

「そんなん気にせんで良いねんやん。会社のんで、親父もなんも金払うてないし」

「そうか。そんなら、行かせてもらうわ」

「オレ、泳ぎは祥太郎に負けへんで。小学校でスイミング、選手コースまでいってたからな」

「アホやな。海で泳ぐのにプールの技術が通じるか!」

「そっか。そしたら、ライフジャケット、着ておこ」

「何か……海なんかでお前がフラフラ歩いてたら、女が鈴なりに寄って来る気がする」

「フラフラってなんやねん。オレ、海に泳ぎに行くんやから、ナンパなんてするつもりないで」

理苑は心外だ!というように、唇を尖らせた。
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