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第1章・君をいつの間にか1

「あ!オレ!オレ!チィーッス」

野坂理苑りおん は、勝手知ったるナントカで、鍵が開くなりドカドカと友人の家に上がり込んだ。

幼稚園からの付き合いで、かれこれ9年近くになる。

最早、自宅のうるさい兄弟がいないだけでも、友人宅の方が居心地が良かった。

「理苑、いらっしゃい。いつもごめんねぇ。今日も祥太郎……具合、あんまり良くないんやけど……」

「あ、オバチャン、気にせんとって~な。オレ、学校の連絡ついでに来てるだけやし」

「相変わらず男前やね!クラスの女の子がほっとかんやろ?」

「これがオバチャン、オレ、全然、モテへんねん。ま、うちのクラス、ドSばっかりでロクな女おらんから、モテても嬉しないんやけどな」

理苑は4分の1、アメリカ人の血を引くクォーターで、その彫りの深い顔立ちは明らかに日本人のものとは異なっていた。

長いまつ毛に明るい色の瞳は、幼稚園の頃、美少女と見紛う愛らしさで、そのくるりと巻き気味の長めの髪の毛は、担任の先生に「邪魔だから」という理由で、毎日リボンで結わえられていた。

その美少女然とした姿は幼稚園内でも有名で、お迎えの母親達からもモテモテだった。

小6になった今では、髪型はそのままに長めではあるけれど、思春期の男の子らしくヒョロリと身長だけ伸びてしまい、もう女の子に間違われる事はなくなった。

「オウ、祥太郎!元気……て、ちゃうか。相変わらず、白い顔やなぁ」

「理苑、プリント、いつもありがとう」

「帰り道やし。気にすんな。お前、メシ食うてるのんか?こないだよりガリガリやん」

幼稚園からの幼なじみ、白木祥太郎しょうたろうは、理苑からプリントを受け取ると、それを開きもせず膝の上に置いた。

日の光を浴びていない白い面差しに、骨が浮き出た体は、明らかに不健康そうで、子供らしからぬやつれ様だった。

2年前にサッカーの試合で倒れて以来、ずっと復調する事なく今に至る。

元気だった頃の男の子らしく色黒で、筋肉質だった少年らしい姿はなく、変わらず黒目がちな大きな瞳だけが、痩せた顔には痛ましい程だった。

医者には思春期が過ぎて、成長が止まれば徐々に良くなるだろうと、気の遠くなるような事を言われ。

祥太郎は、もう、何ヵ月も学校に行っていない。
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