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第2章・君がいるだけで1

理苑の家に来るのは、7年ぶり位だろうか。

あの頃のゲームやオモチャだらけの子供部屋は様変わりしていて、勉強机とタンスだけのシンプルな部屋になっていた。

「おう!祥太郎!久しぶりやな!元気そうやん」

出迎えてくれた理苑の兄の来斗は、今は父親の会社を手伝って、来春には結婚するらしい。

長身の兄弟が並ぶと壮観だった。

「来斗くん、何かオジサンみたいになったな」

「……お前、相変わらず天然で攻めてくるな。その言葉、お前やなかったらシメてる所や」

「でも、昔と変わらんとカッコいいよ」

「何や、その落としてから持ち上げるん……お前、魔性やな!」

来斗は祥太郎の首を絞めながら、頭を拳でグリグリした。

来斗は昔から祥太郎に優しかったが、それは今も変わらない。

その時が戻ったような感覚に、祥太郎も嬉しくなった。

理苑はさり気なく、再会に嬉々とする来斗と祥太郎を引き離した。

「来斗、暇ならオレと祥太郎にジュース、持って来てーや。外、めちゃめちゃ暑いから喉乾いた」

「何で俺が弟なんかに、ジュース持って来なアカンねん。お前が入れろや。……俺の分も」

「何、こんな時ばっかり、兄の権利の行使?大体、何で今日はオマエ家にいてるねん」

「可愛い弟が久しぶりに帰ってきてるんやから、そら可愛がってあげんとアカンかと思うて」

「いらんわ!アホ!」

相変わらずの兄弟の会話に、祥太郎は笑った。

「二人共、変わらんね。俺、来斗くんをお兄ちゃんに欲しかったん、思い出したわ」

「祥太郎みたいな可愛い弟なら、いつでも俺、お兄ちゃんになったるで。理苑と違うて、やかましないし」

「やかまして悪かったな!もう、来斗は自分の部屋に行ってて!オレらはこれから、夏休みの予定を立てんの!」

そう言うと、理苑は来斗の背中を押して、部屋から追い出した。

祥太郎は『別に来斗がいてても良いのに』とチラリと思ったが、久しぶりに自然と話せる理苑との会話を楽しみたいのもあって、それは言わなかった。

やがて、ジュースを持って戻ってきた理苑は、祥太郎をベッドに腰掛けるよう促した。

「ロボットも作るんやるけど、このライブも行かへん?」

理苑が机の引き出しから出してきたライブのチケットは、祥太郎の好きなアメリカのバンドだった。

「理苑……このバンド、知らんやろ?」

「うん。オレ、正直言うたら、アニメソングしか分からへん」

「ホンマに変わらず、昔から見た目と反比例する残念さやな、お前……」

「親父が何や会社の関係から、くれたんやん。このバンドの協賛してるんやて。オマエ、こんなん好きやったなと思って」

「好きやけど。理苑はつまらんやろう?」

「いや、こんなん行ってみたいわ。このバンドの事とかだけやなくて、音楽の事、色々教えて?」

理苑は少し変わった気がする。

これまでも優しくはあったが、昔は我は通すタイプだった。

祥太郎が寝込んでいる時でも、したいゲームを祥太郎に構わずやってるような奔放な所があった。

「何かお前、印象変わったな。何かあったんか?」

「何かあったとかとちゃうけど……単に自分に素直になろうと思って。もう、迷わへんし」

どうぞ、と言って理苑はジュースを差し出した。
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