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第2章・君がいるだけで1

高3の夏休み。

祥太郎は小遣い欲しさにバイトをしようと思っていたが、両親に止められた。

特に母は小さい頃、体が弱かった自分の印象からか、学校以外に無理する必要がないと、バイトする事に関しては頷かなかった。

終業式の帰り道、自転車を漕ぐ祥太郎の足取りは、心なしか重かった。

同じ専門学校に通う直輝も、有名な電気工学の教授と研究とか何とかいって、夏休みも多忙なようだった。

直くんとロボット、完成させようと思ってたのに。

祥太郎は久しぶりに寂しく感じる自分に気が付いた。

自転車で風を切っていても、空気が暑い。

そんな時、懐かしい声が耳をついた。

「祥太郎!久しぶりやな!」

道路を挟んで通りの向こうに、長身の男が立っていた。

それはここにいるはずのない、幼なじみの姿だった。

「……理苑……」

呆然と呟きながら、手を振りつつ道路を渡ってくる理苑を見つめていた。

身長は、中学の頃から更に伸びて、兄の来斗程になった理苑。

その風貌にもう少年らしさはなく、とても高校生には見えない程に大人びている。

相変わらず、その茶色い瞳は人懐っこさを残していたが、日本人らしからぬ彫りの深いその見た目は、精悍な男のものになっていた。

理苑の長い足はガードレールを難なく乗り越え、祥太郎の目の前に立った。

「祥太郎。何か、ガッチリしたな。昔は華奢やったから、別人みたいになったわ」

「お前かて昔と違うて、どこのアイドルか分からん位に派手になったな」

祥太郎は、確かにあれから身長も伸びた。

長身の理苑には及ばなかったが、170センチは越えたし、元より骨太だったので、肉は付いていないがガッチリした印象はある。

キリリとした眉も、くっきりとした大きな瞳も健康そのものな印象で、とても昔は寝たきりの生活を送っていた病弱少年の面影はなかった。

「理苑、学校はどないしてん。夏休み言うたかて、部活があるやろ?」

「オレな、こないだの試合で肩痛めたから、ちょっと早いけど先に引退したんやんか。大学受験の準備も兼ねて夏休みは、こっちに帰ってきてん」

初めて聞く事だった。

理苑の家とは、あれから疎遠になっていた。

親同士はそれなりに付き合いがあったようだが、どういう訳か親から理苑の話題を聞く事はなかった。

「祥太郎は夏休み、どないするん?」

「俺は来年就職やし、最後の夏休みやからロボットを完成させようかと思ってる」

「相変わらず、ロボット、作ってるんや。直輝もか?」

「いや、直くんは何か偉い人とのプロジェクトがあるとかで忙しいねん。だから俺一人で……」

「ほんなら、オレも祥太郎とロボット、作っても良い?こっちでする事ないねん」

予想だにしない理苑からの申し出に、2人の時間が何年かぶりに動き出した。
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