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第1章・君をいつの間にか6

吐く息が白い。

丸山公園は、理苑の家から2分の位置にある、近所の子供の溜まり場だった。

しかし、流石にクリスマスともなると、子供達の姿はない。

そんな中、一人でポツンとベンチに座る祥太郎を見つけた。

「オマエ、こんな寒いのに何してんねん。せっかく元気になって来てんのに、風邪ひいたら、また入院になるぞ」

「……理苑……」

何でお前がここにいるんだ?祥太郎の顔がそんな風に物語っていた。

しかし、それはすぐに笑顔に変わった。

「いや、この公園でな。よう理苑とサッカーとかしたな思うて。俺、小学校の最後らへんから、もう公園に来れんくなったし」

「サッカーはオマエの方が上手かった。野球はオレの方が上やったけどな」

「俺、手を使うスポーツ、ニガ手やねん。ホンマ言うたら、サッカーもボール使うからイマイチやし。ホンマ言うたら、陸上が一番、得意やったな」

「それって、道具使うスポーツ、全部アカンねんやん」

久しぶりに、2人の間に笑いが溢れていた。

もう何ヵ月だろう……ずっとこんな風に話せていなかった気がする。

理苑は、その心地良さに嬉しくなった。

「理苑、京都の学校行くんやて?下宿すんの?」

「うん。そこ、バスケが強い高校やねん。高校までは、親父がスポーツ一生懸命やれって言うから。祥太郎はどないするんや?」

「俺は病気で全然、勉強してなかったし、電気関係の専門学校に行こうと思ってる。家から自転車で行けるし」

全く性質の違う2人が、高校で道を分分かつようになるのは、目に見えていた。

どれだけ足掻いても、流れた月日は取り返せない。

祥太郎は長い間、言えなかった事を口にした。

「お別れやなぁ、理苑。ホンマ今まで、俺の世話してくれてありがとうな」

「……何言うねん、オマエ。今生の別れみたいに言うなや」

「もっと早よう言おうと思っててん。みんなに好かれてるお前を、こんな俺が縛りつけてるのが苦しかった」

祥太郎は、そんなにも自らを卑下していたのか。

そんな風に今まで思っていたのか。

理苑は瞬間、頭から火が出るように怒りで熱くなった。

「ふざけんな!オレが仕方なく、お前の隣にいてたと思うてるんか!」

「理苑はずっと勘違いしてるねん。幼稚園の初めて会うた時から、俺を面倒みなアカン癖がついてるねんやん」

理苑は全身から炎が立ち上がるような錯覚を覚えた。

この衝動を、自分を押さえられない。

祥太郎の言葉が、グサグサと理苑の心臓を突き刺した。

頭1つ分背の低い、祥太郎の腕を無理矢理に引き寄せた。

祥太郎の大きく、黒目がちな瞳が驚きに見開いて、自分を見つめる。

もう、何も考えられなかった。

その怒りのまま、祥太郎の後ろ首を引き寄せ、理苑の唇は祥太郎の唇を捕らえた。

しばらく時が止まったかのように、二人は動かなかった。

祥太郎から逃れようとする激しい拒絶を感じて、時が動き出したように理苑はその腕を離した。

「……ゴメン」

理苑はうつ向いて、祥太郎の顔を見ないまま、踵を返して走り去った。
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