最終章・永遠
空港にて。
2週間の新婚旅行に行く為の荷物は、光司の想像を絶する量だった。
「何、コレ……。引っ越しでもすんの?」
旅行に同行するリエカが光司に説明した。
リエカには珍しく、頭を被うヒジャブはそのままだったが、キャリアウーマンのようなスーツを着用している。
スタイルの良いリエカは、仕事の出来る女のようで、立ち姿も美しい。
「国外でも買える物は良いけど、民族衣装は買えないのよ、コウジ。向こうでの要人との会食の回数を考えたら、この位になってしまうの。これでも最小人数で行くから少ない方よ?」
新婚旅行には、光司とスウェイド、リエカ、アッシュ、SPが10人余りと……何故かカメラマンが数人。
これが少人数かは分からなかったが、確かにスウェイドのプライベートジェット機に乗り合わせても、ゆとりはある。
アッシュとスウェイドは、スリーピースのスーツにクフィーヤを被り、リエカと3人で並ぶと一流の企業戦士のようだった。
「何で俺だけ、民族衣装なんだよ……。それも女物の……」
光司が項垂れるので、アッシュがフォローした。
「コウジ様には式の直後ですので、まだ『美しい正妃』のイメージでいって頂きたいので、我慢して下さいね。……ま、追々、ボロは出ると思うんですけどね」
「アッシュ……お前、どうしていつもこう、何気に一言多いんだよ……」
光司のテンションが低いので、盛り上げようとしたスウェイドが、更に抉った。
「コウジ、とても似合っているぞ?お前は誰よりも美しい。自信を持て。だが、口は開くな。猿がバレる」
「誉めてねーんだよ!お前ら!」
叫ぶ光司の口をリエカが塞いだ。
「コウジ、おしとやかに、おしとやかに……ね?」
「ううぅ……すんごい、息苦しい……」
「コウジ様の『ちょっと暴露番組』は、この新婚旅行を撮影して、帰国後、放送されます。粗暴な所を『元気で快活な』と変換し、上手く編集して、国民を騙す為の特別番組になる予定です」
「黒いアッシュ……いつも容赦ない……」
しかし、それは光司自身も猫を被り続けるのは不可能であるし、ある程度、情報開示するのは光司の為になると踏んでの事だった。
結婚式もそうだったが、これからの王族としての生活は、光司の想像を遥かに越える苦難もあるだろう。
「スウェイド……確かあんまり向こうで偉い人と会わなくて良いんだよな?お城巡りをいっぱい出来るんだよな?」
「地方の要人は外して、国王や首相だけに絞ったぞ?城巡りは出来るが、さっきもアッシュが言った通り、カメラは付いて来る」
やっぱりただの旅行ではなかった。
生まれながらに王族として育ったスウェイドやリエカ、側近のアッシュは、公人としての日常に不都合を感じてはいないが、光司の感性はまだ『一般人』だ。
人の目に慣れてはいない。
言葉が少なくなった光司を察したリエカが、その肩を叩いた。
「コウジ、大丈夫よ。いつかは慣れるから。……いいえ、慣れないとダメなの。貴方が愛した人は一国を動かす人なんだから。それを覚悟で殿下の元に来たのでしょう?」
自分はスウェイドに付いて行くと決めた。
自分の意志で。
一国の王子であるスウェイドの側で生きていくのは大変な事だが、離れて生きていくなど出来ない。
近い内に現国王が退任し、スウェイドがヴァリューカの全権を握る日が来る。
それは逃れられない現実だった。
「コウジ様、気負わないで下さい。ありのままの貴方が良いんですよ。貧しい者や、弱い者に優しく慈愛溢れる貴方がこの国に必要なんです。勿論、スウェイド様にも」
アッシュが優しく微笑んだ。
いつも助けてくれたアッシュ。
日本人として生きたいのなら、その道を選んでも良いと言ってくれた忠誠心は、命をかけたものだった。
「私は、どんなお前でも、コウジでなければならんと言っただろう。お前を愛している。お前しか愛せない。これから、コウジに降りかかる全てのものを、私も背負う覚悟がある」
地位も性別も、あらゆる障害を全部受け止めて、光司を迎えたスウェイド。
光司もスウェイドしか愛せない。
これからは、スウェイドの為に生きていく。
スウェイドと共に生きていく。
そのスウェイドの唇が、ゆったりと光司の唇に重なる。
慈愛に満ちたキスは、光司を幸福で充たすのだった。
ー終ー
2015,12
2週間の新婚旅行に行く為の荷物は、光司の想像を絶する量だった。
「何、コレ……。引っ越しでもすんの?」
旅行に同行するリエカが光司に説明した。
リエカには珍しく、頭を被うヒジャブはそのままだったが、キャリアウーマンのようなスーツを着用している。
スタイルの良いリエカは、仕事の出来る女のようで、立ち姿も美しい。
「国外でも買える物は良いけど、民族衣装は買えないのよ、コウジ。向こうでの要人との会食の回数を考えたら、この位になってしまうの。これでも最小人数で行くから少ない方よ?」
新婚旅行には、光司とスウェイド、リエカ、アッシュ、SPが10人余りと……何故かカメラマンが数人。
これが少人数かは分からなかったが、確かにスウェイドのプライベートジェット機に乗り合わせても、ゆとりはある。
アッシュとスウェイドは、スリーピースのスーツにクフィーヤを被り、リエカと3人で並ぶと一流の企業戦士のようだった。
「何で俺だけ、民族衣装なんだよ……。それも女物の……」
光司が項垂れるので、アッシュがフォローした。
「コウジ様には式の直後ですので、まだ『美しい正妃』のイメージでいって頂きたいので、我慢して下さいね。……ま、追々、ボロは出ると思うんですけどね」
「アッシュ……お前、どうしていつもこう、何気に一言多いんだよ……」
光司のテンションが低いので、盛り上げようとしたスウェイドが、更に抉った。
「コウジ、とても似合っているぞ?お前は誰よりも美しい。自信を持て。だが、口は開くな。猿がバレる」
「誉めてねーんだよ!お前ら!」
叫ぶ光司の口をリエカが塞いだ。
「コウジ、おしとやかに、おしとやかに……ね?」
「ううぅ……すんごい、息苦しい……」
「コウジ様の『ちょっと暴露番組』は、この新婚旅行を撮影して、帰国後、放送されます。粗暴な所を『元気で快活な』と変換し、上手く編集して、国民を騙す為の特別番組になる予定です」
「黒いアッシュ……いつも容赦ない……」
しかし、それは光司自身も猫を被り続けるのは不可能であるし、ある程度、情報開示するのは光司の為になると踏んでの事だった。
結婚式もそうだったが、これからの王族としての生活は、光司の想像を遥かに越える苦難もあるだろう。
「スウェイド……確かあんまり向こうで偉い人と会わなくて良いんだよな?お城巡りをいっぱい出来るんだよな?」
「地方の要人は外して、国王や首相だけに絞ったぞ?城巡りは出来るが、さっきもアッシュが言った通り、カメラは付いて来る」
やっぱりただの旅行ではなかった。
生まれながらに王族として育ったスウェイドやリエカ、側近のアッシュは、公人としての日常に不都合を感じてはいないが、光司の感性はまだ『一般人』だ。
人の目に慣れてはいない。
言葉が少なくなった光司を察したリエカが、その肩を叩いた。
「コウジ、大丈夫よ。いつかは慣れるから。……いいえ、慣れないとダメなの。貴方が愛した人は一国を動かす人なんだから。それを覚悟で殿下の元に来たのでしょう?」
自分はスウェイドに付いて行くと決めた。
自分の意志で。
一国の王子であるスウェイドの側で生きていくのは大変な事だが、離れて生きていくなど出来ない。
近い内に現国王が退任し、スウェイドがヴァリューカの全権を握る日が来る。
それは逃れられない現実だった。
「コウジ様、気負わないで下さい。ありのままの貴方が良いんですよ。貧しい者や、弱い者に優しく慈愛溢れる貴方がこの国に必要なんです。勿論、スウェイド様にも」
アッシュが優しく微笑んだ。
いつも助けてくれたアッシュ。
日本人として生きたいのなら、その道を選んでも良いと言ってくれた忠誠心は、命をかけたものだった。
「私は、どんなお前でも、コウジでなければならんと言っただろう。お前を愛している。お前しか愛せない。これから、コウジに降りかかる全てのものを、私も背負う覚悟がある」
地位も性別も、あらゆる障害を全部受け止めて、光司を迎えたスウェイド。
光司もスウェイドしか愛せない。
これからは、スウェイドの為に生きていく。
スウェイドと共に生きていく。
そのスウェイドの唇が、ゆったりと光司の唇に重なる。
慈愛に満ちたキスは、光司を幸福で充たすのだった。
ー終ー
2015,12
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