第3章・昇華1

「明日の10時に、お母様のご実家である草下邸を訪問予定です」

喫茶店で光司はパフェを食べていた。

アッシュには、「さっき、アイスクリームを食べたのに」と言われたが、「お店オススメを食べないでどうする!」と押しきった。

「もう、約束してきたのか?」

「大使館を通じてアポは取ってあります。先方にも、コウジ様の簡単な情報と、ヴァリューカでの王族のお方との婚姻予定である事も申し上げてあります。性別まではお伝えしていませんが」

日本はまだ同性婚の認められない国だという事と、光司の祖父が高齢だという事も踏まえての判断だった。

「これはスウェイド様がご立腹になられる事を承知で申し上げますが……もし、コウジ様が日本でのお暮らしをお望みでしたら、その様になさったら宜しいかと思われます」

「でもそうしたらアッシュが……」

「その際は、私の事はお忘れ下さい。コウジ様は、こちらで暮らしていたかも知れない人生を、リセットして再スタートするだけの事ですから」

確かに、それはスウェイドの本意ではないだろうし、もし、その選択を光司が選んだら、自分の命はないかも知れない。

それでも、光司には自ら望む人生を選んで欲しいとアッシュは思った。

「父さんの実家は、今はどうなってんの?」

「お父様の方は、ご実家では漁業をされてらしたようですが、今は、どなたもおられないようです。捜索願いは出ていましたが、もう、お祖父様もお祖母様もお亡くなりになられているかと」

「そっか……」

漁師の息子と、財閥の令嬢……当時、父と母が反対されていたのが、目に見えるようだった。

「万が一、草下側がコウジ様を奪わんが為に強行手段を取りかねない事も考えまして、スウェイド様のお名前をお借りしました。今回は私を交えての、ご高齢のお祖父様へ『面会』という名目にさせて頂いております」

アッシュは抜け目のない男だと、光司は改めて痛感した。

「アッシュが来てくれて助かったよ。ありがとう」

「私は、殿下とコウジ様に命を捧げた臣下でございますから」

正直、跡継ぎを必死に探している草下が、光司を奪わんと何をしでかすか分からない。

前もって、ヴァリューカ王族の名前を出しておいたが、これが逆に母国ならば光司は簡単に奪われている。

現にスウェイドは強引に光司を自分の物にした。

大企業がそんな暴挙に出ないであろう事と、日本が平和主義である事を願うばかりだった。
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