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第3章・昇華1

「スゲー!スゲーな!日本って!めちゃめちゃ近代的だな!アッシュ!」

近頃、あまりに殺伐とした日常であった光司の息抜きに、アッシュは草下邸を訪れる前に観光へと連れ出した。

それには、光司も予想以上に喜んだ。

新宿、渋谷、浅草、横浜と、巡って四日目。

毎日、どこに連れて行っても御上りさん状態で、大声で狂喜乱舞する光司は、本当に今まで娯楽の少ない人生だったのだと思う。

こうしてジーンズ姿でいると、普通の日本の青年にしか見えない。

もし、日本で生まれ育っていたら、こんな困難な人生を歩む事もなかっただろう。

『あの……、今、お暇ですか?』

3人組の女性達がアッシュに声をかけてきた。

「コウジ様!彼女は何と言っているんですか?」

「またかよ!えっと……」

本日、何度目か光司が代わりに答える。

『ごめんね?この後、約束があるから』

光司の言葉に、女性達はおずおずと去っていった。

「今さらだけど、アッシュ、モテモテだな!」

「日本の女性の嗜好は今一つ、分かりません」

いつもは、すぐ隣にスウェイドというカリスマ的に神懸かった美形がいる為に、アッシュの容貌は地味に埋もれていたが、それでも日本人から見れば彫りの深い、そして背が高く、見目麗しい外国人だ。

光司と同じくジーンズ姿で、二人共、一応ブランドの服を着ているのだが、その印象は全く違う。

どんなブランドを着ようが安価な服にしか見えない日本人の光司に対し、上背のあるアッシュが着るとモデルのように見える。

アッシュは、宗教的にも頭のクフィーヤを被りたかったが、テロも多発しているこのご時世に、仏教かもしくは無宗教の人間の多い日本ではそれは控えた。

そして、日本人は総じて『黒髪』という概念があったが、その考えは飛行機から降りた途端に崩壊した。

明るい髪色の光司が埋没する程に、あらゆる頭髪の人間が闊歩している。

服装も驚く程に奇抜で、何故か伝統衣装である着物を着ている人間をまるで見ない。

スウェイドと外交や留学などで世界中を廻っていたアッシュだったが、想像を越えた日本の文化にカルチャーショックを受けていた。

ふと隣を見ると、光司がアイスクリームを口の周りにべったりと付けていたので、つかさずアッシュは「失礼致します」と言ってそれをハンカチで拭ってやると、何処からともなく『きゃ~!』と黄色い歓声が聞こえた。

何故そこで『歓声』なのか。

日本人は分からない。

1日も早く、ヴァリューカに帰りたくなるアッシュだった。
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