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第2章・妄愛3

夜になると、昼間の慌ただしさから一変、カーテンが風でたなびく音に聞き入る程の静寂であった。

窓から見える噴水も、今はその水の流れを止めていて静かだ。

「コウジ……」

スウェイドが背後から、優しく抱き締めてきた。

クロエの言葉が毒針のように光司の胸に刺さったまま、血を流し、膿んでいる。

スウェイドの顔を見るのが怖い。

自分の考えを肯定されたら、もう側にはいられない。

「今日は大変だったな。コウジ……大丈夫か?」

「うん……。ちょっとショックだったけど……」

「お前は何も悪くない。気にする必要もない。むしろ、ハーレムを管理出来なかった私に責がある。だが、今後を考えるきっかけにはなった」

スウェイドの言葉が耳に入らない。

本当に欲しい言葉は、光司にはもたらされないからだ。

すると、スウェイドの大きな手が、光司の夜着のボタンを外して、その隙間から侵入してきた。

光司の体は、そこから快楽の電流が流れたように、ビクビクと跳ねた。

「嫌……だ。スウェイド……」

「……忘れさせてやる。ベッドでこれ以上ない程に感じさせて、何も考えられなくしてやる」

「今日は嫌だ。……とてもそんな気になれない」

体だけの関係……それが事実かもしれない現実を今、受け止める事が出来ない。

「お前の体は私のものだろう?私のぺニスにだけ悶える、こんな淫らな体は他にはない」

言わないでくれ。

ただの淫乱だと、蔑まれるのはもう耐えられない。

自分がただの肉の塊のように思えてしまう。

気持ちのないスウェイドには、もう抱かれたくない。

「今日は本当に嫌なんだ。どうしてもヤリたいなら、ハーレムに行けよ」

「コウジ?どうした?具合が悪いのか?」

「あんたとは、ヤリたくねーって言ってんの!俺に触んな!」

初めての時以来の激しい拒絶に、スウェイドはカッとなった。

「私とセックスしないと言うのか?!側室の分際で!」

その言葉に、光司の中の何かが弾けた。

スウェイド自身から、お前は体だけの存在なのだと言われたのも同然だった。

「俺とはヤる事ばっかで!あんたは会えばヤるばっかで!俺とは寝るしかねーじゃんかよ!俺は商売女かよ!」

怒涛のように怒りが爆発する。

「俺のじぃさんの事とか、もう分かってんだろ!何で俺には何も言ってくれねーんだよ!何で俺は、あんた以外の他の奴から、そんなん聞かされなきゃなんねーんだよ!」

「コウジ……それは……」

「うるせー!ヤリてーなら、もう、一人でやってろ!」

光司はスウェイドの腕から擦り抜け、部屋を飛び出した。



アッシュが執務室に入ると、部屋の中は荒れ果てて酷い惨状だった。

物という物があちこちに飛び散り、カーテンは破かれ、盗賊が押し入ったのかと思う程に荒れた部屋に、スウェイドが立っていた。

「スウェイド殿下……。これは……」

「コウジが客室に鍵をかけて出て来ん!アッシュ!扉を破壊して、コウジを引っ張り出せ!」

「……どうしてその様な事になられたんですか?」

「知らん!急にセックスはしないと言い出すわ、親の事を黙っていたのを怒り出すわ!手が付けられん!」

はぁー、とアッシュは長い溜め息を吐いた。

「だから、ちゃんとご説明なさればと申しましたのに。スウェイド様は、何かとお言葉が足りなくていらっしゃいます」

光司にずっと付いているアッシュには、目に見えるような光景だった。

こんな状態では、光司を正室に迎えるどころか、光司の居場所がなくなってしまう。

そして光司に心酔しているスウェイドには、まともな判断が出来なくなっている。

こんなにも政治的手腕のある、全てに於いて完璧で落ち度のない男が、ここまでとち狂った姿を今まで見た事がない。

何とかは盲目……とはこの事なのだろうが、それにしてもこれ程に判別を見失うのは、かつてのスウェイドからは考えられない事だった。

「大変、申し上げ難い事ですが、コウジ様のお気持ちが治まるのは、並大抵の事ではない、とご忠告させて頂きます」

「アッシュ!どうにかしろ!」

この幼なじみでもある私の王子は、どこまで無茶を言うのだろうと、アッシュは内心呆れてしまった。

「それならばお約束して下さい」

アッシュは胸に手を当てて、深く頭をさげた。

「コウジ様の件は、私に一任して下さる事。私がどのような行動に出ても、反対なさらずにお待ち下さる事」

そう言い終えると、『部屋を片付けますから、隅の椅子に座ってて下さい』と、スウェイドを押し退けた。
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