第2章・妄愛3
「失礼するわね」
そう言うとノックも無く、クロエが侍女を引き連れて、スウェイドの部屋へ入ってきた。
光司は、衛兵は何をしているのだろう……と思い、扉を見ると、その向こうに数人の女性が衛兵を引き連れて何処かへ行く姿が見えた。
クロエと共に来た侍女かハーレムの女が、色仕掛けで衛兵を連れ出しているのだと察知した。
扉がパタン……と閉まった。
アッシュは今、近くにいない。
スウェイドは公務だ。
考えたくはないが、クロエはこの時間を狙ってきたのかと思うと、そら恐ろしくなり、体がすくんだ。
『たとえスウェイド様の部屋でも、1人にならないでね』とリエカに言われた事が過ったが、今はどうする事も出来ない。
「お久しぶりです。クロエ様」
「お元気そうね。コウジ」
クロエの頬は痩けて目の下に黒いクマまで現れ、心労により、痛々しい程にやつれ果てていた。
その姿は、先日までのあの妖艶な美女と同一人物とは思えなかった。
明らかに、クロエの容貌は狂気を孕んでいる。
隣にいる侍女ですら、彼女の異常さを感じてか顔が青ざめていた。
アッシュを呼ぶにはどうしたら良いだろう、と光司の心臓は早鐘の如くガンガンと鳴り響いた。
「毎晩、スウェイド様がいらっしゃるのでしょう?大したものね。どんなテクニックを使っているのやら。スラム育ちも侮れないものね」
スウェイドの気持ちを計れない今の光司には、クロエの言葉の一言一句が突き刺さる。
例えそれが、ひがみから来ているものだと分かっていても、冷静に受け取れなくなっていた。
「貴方の身元が分かったそうね」
初耳だった。
何故、自分の事なのに自分は知らず、クロエが知っているのか。
でも心の何処かで、今、何も言わない方が良いのだと、何かが光司の口を見えない手で塞ぐ。
「貴方、日本の草下財閥の御曹司らしいわね。どこの馬の骨かと思ったら、とんだお坊ちゃまだったんじゃない。ご実家も貴方をお待ちだそうよ?帰られるんでしょう?」
「わ、分かりません……」
「あら?ご自分の事なのに、知らないの?スウェイド様は何故、仰らないのかしら?」
スウェイドからは何も聞いていない。
何故、言ってくれないのかも分からない。
「貴方、愛されていないのよ。だから放置されているんでしょう?もう、日本にお帰りなさいよ。貴方にこの国は合わなくてよ。所詮、スウェイド様の性欲を満たしているだけの男娼なんだから」
聞きたくない。言われたくない。
自分が思っていた疑念をクロエに指摘されて、ただの想像でしかなかったものが現実へと形に変えていく。
それでも、スウェイドから直接聞いていない事を、勝手に認めたくはなかった。
「ありがとうございます。クロエ様。その事は、詳しくはスウェイド様からお聞きします」
「宜しかったら、私が日本への帰れるように、スウェイド様に進言して差し上げてよ?」
「……お帰り下さい」
その光司の一言が、クロエの中の何かを崩壊させた。
やつれたクロエの相貌が、鬼のような形相に変化した。
「この私がこれ程に譲歩しているというのに、聞けないというの?このスラム上がりが!」
クロエの右手に光る物があった。
それはスローモーションのように、光司の頭上に振りかざされ、額に向かって降りてきた。
その瞬間、突然、目の前の視界に真っ黒なものが過る。
「なりません!クロエ様!コウジ様は、正妃様になられる御方です!」
鈍い衝突音を聞いたかと思ったら、自分にすがりつく侍女が深紅の血を流しているのが見えた。
そう言うとノックも無く、クロエが侍女を引き連れて、スウェイドの部屋へ入ってきた。
光司は、衛兵は何をしているのだろう……と思い、扉を見ると、その向こうに数人の女性が衛兵を引き連れて何処かへ行く姿が見えた。
クロエと共に来た侍女かハーレムの女が、色仕掛けで衛兵を連れ出しているのだと察知した。
扉がパタン……と閉まった。
アッシュは今、近くにいない。
スウェイドは公務だ。
考えたくはないが、クロエはこの時間を狙ってきたのかと思うと、そら恐ろしくなり、体がすくんだ。
『たとえスウェイド様の部屋でも、1人にならないでね』とリエカに言われた事が過ったが、今はどうする事も出来ない。
「お久しぶりです。クロエ様」
「お元気そうね。コウジ」
クロエの頬は痩けて目の下に黒いクマまで現れ、心労により、痛々しい程にやつれ果てていた。
その姿は、先日までのあの妖艶な美女と同一人物とは思えなかった。
明らかに、クロエの容貌は狂気を孕んでいる。
隣にいる侍女ですら、彼女の異常さを感じてか顔が青ざめていた。
アッシュを呼ぶにはどうしたら良いだろう、と光司の心臓は早鐘の如くガンガンと鳴り響いた。
「毎晩、スウェイド様がいらっしゃるのでしょう?大したものね。どんなテクニックを使っているのやら。スラム育ちも侮れないものね」
スウェイドの気持ちを計れない今の光司には、クロエの言葉の一言一句が突き刺さる。
例えそれが、ひがみから来ているものだと分かっていても、冷静に受け取れなくなっていた。
「貴方の身元が分かったそうね」
初耳だった。
何故、自分の事なのに自分は知らず、クロエが知っているのか。
でも心の何処かで、今、何も言わない方が良いのだと、何かが光司の口を見えない手で塞ぐ。
「貴方、日本の草下財閥の御曹司らしいわね。どこの馬の骨かと思ったら、とんだお坊ちゃまだったんじゃない。ご実家も貴方をお待ちだそうよ?帰られるんでしょう?」
「わ、分かりません……」
「あら?ご自分の事なのに、知らないの?スウェイド様は何故、仰らないのかしら?」
スウェイドからは何も聞いていない。
何故、言ってくれないのかも分からない。
「貴方、愛されていないのよ。だから放置されているんでしょう?もう、日本にお帰りなさいよ。貴方にこの国は合わなくてよ。所詮、スウェイド様の性欲を満たしているだけの男娼なんだから」
聞きたくない。言われたくない。
自分が思っていた疑念をクロエに指摘されて、ただの想像でしかなかったものが現実へと形に変えていく。
それでも、スウェイドから直接聞いていない事を、勝手に認めたくはなかった。
「ありがとうございます。クロエ様。その事は、詳しくはスウェイド様からお聞きします」
「宜しかったら、私が日本への帰れるように、スウェイド様に進言して差し上げてよ?」
「……お帰り下さい」
その光司の一言が、クロエの中の何かを崩壊させた。
やつれたクロエの相貌が、鬼のような形相に変化した。
「この私がこれ程に譲歩しているというのに、聞けないというの?このスラム上がりが!」
クロエの右手に光る物があった。
それはスローモーションのように、光司の頭上に振りかざされ、額に向かって降りてきた。
その瞬間、突然、目の前の視界に真っ黒なものが過る。
「なりません!クロエ様!コウジ様は、正妃様になられる御方です!」
鈍い衝突音を聞いたかと思ったら、自分にすがりつく侍女が深紅の血を流しているのが見えた。