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第1章・呪縛4

「指輪は無くさないように、ネックレスで通して、首に下げておいて下さい」

アッシュが金の細い鎖に母の形見を通し、光司の首に掛けてくれた。

「それと、ご忠告させて頂きますね」

「え?俺、何か悪さした?」

悪さしたのはスウェイド様です……と、心の中で呟きながら首を振った。

「先日、お会いになられた、従兄弟のザイール様ですが……大変、問題のある方でして」

「え~?また、要注意人物~?」

光司は眉間にシワを寄せ、心底嫌そうな顔をした。

「とにかく、スウェイド様を敵視しておられて、スウェイド様の物は何でも欲しがる方でして。リエカ様にも求婚されて、誘拐騒ぎになった事もありまして」

「そんなに凄いなら、スウェイドのハーレムを全部欲しいとか言うんじゃないの?」

「これがその辺りは異常に嗅覚の優れた方で、スウェイド様の本当に大切な物だけを欲しがる困った方なのです」

スウェイドのハーレムは大事じゃないのだろうか。

国中の美女を集めていると噂のハーレムだ。

「スウェイド様はある意味、女性嫌いで、ただの性欲処理としか思われておられません。ですから他の奥方様方より、貴方の方が危ないんです」

「よく分かんねーけど、ザイール様には近寄っちゃいけねーんだな?アッシュの人を見る目は確実だから、信用する。ザィール様が来たら、ダッシュ!な!」

走るポーズをする光司に、アッシュは微笑んだ。

光司は本当に愛らしい。

飾らない姿も、慈愛に満ちた行動も、口は悪いが、正妃に相応しい。

男ではあるが。

他の側室達の問題がなければアッシュも言う事がないのだが、こうなると何が最善策か分からなくなってきた。

オマケにザイールまで湧いて出るとは思わなかった。

ザイールと話した時と、スウェイドからの話からすると、このままで済むとは思えない。

光司を鍵のかかる箱に隠して下さいと、スウェイドに進言したくなる。

前のリエカの時も国中のスキャンダルになる寸前だった。

ザイールに襲われたリエカは、その貞操を奪われる前に自害しようとしたのだ。

流石にあの時は、国王から事実上の島流しを一年間食らったザイールだった。

しかし、あれでも懲りてなさそうだと、光司の更なる強固な警護を増員した。

これから、アッシュの胃炎は治る時が来るのだろうか。

アッシュが胃を押さえると、「腹、下してんの?」と心配そうに覗き込んでくる光司にだけは、心配はかけたくなかった。



ザイールが光司を狙っている。

その執拗さだけは、子供の頃から痛い程に感じていた。

何故、あんなにもスウェイドに対抗意識を持つのか。

光司に対するあの反応は、リエカに会った時以上だったように思う。

それを制する為にも、早々に光司へ正室としての教育し、式を挙げ、皆に知らしめる。

今夜の夕食では、他の側室達にも文句を言わせるつもりもなかった。

スウェイドの本心は、もう揺らぐ事がなかった。
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