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第1章・呪縛4

「ザイール様、この度はご無理をお願いして、申し訳ございません」

「構わないよ、アッシュ。……でもね、その新しい可愛い側室に、少し会わせてくれないかな?」

「申し訳ございませんが、お伝えしました通り、コウジ様は体調不良でお休みになっておられます」

「コウジ?変わった名前だね?ヴァリューカの人間じゃないのかな?」

ザイールは益々、会いたくなった。

スウェイドは夜がかなり精力的であるという、あらゆる噂の絶えない男だった。

新しい側室も、そんなスウェイドに応えきれなかったのか。

だが、女がどんなに媚びを売ってきても、その寵愛は第一側室のリエカだけに注がれていると思っていたが。

リエカを越える女なのか。

ザイールは、興味をそそられずには いられなかった。

「ちょっと、スウェイドに挨拶してから、代わりのお仕事に行ってくるよ」

執務室に行く振りをして、スウェイドの部屋に向かった。

ハーレムにいたら自分は入る事が出来ないので諦めて帰るしかないが、もし、スウェイドの部屋にいたとしたら、会う事が出来るかも知れない。

衛兵は王族であるザイールには逆らう事が出来ず、難なく中に通してしまった。

「コウジちゃん?起きてるかな?」

ベッドに人が寝ている。

近付くと、小さな男の子が微かな寝息を立てて眠っていた。

ヴァリューカの人間にはない、茶色の髪、小さな玉子型の顔、象牙色の肌、開いたら大きそうな眼。

ザイールはその瞳の色を見てみたいと思った。

「コウジちゃん?起きて?目、開けて?」

ザイールは光司の頬を撫でると、その吸い付くようなきめ細やかな肌に、うっとりと酔いしれた。

自分は豊満な女が好みのはずなのに、下半身が反応する。

ザイールはまるで吸い込まれるようにして、頬からその首筋にソロリと手を這わせた。

「触るな!」

振り返るとスウェイドが怒りも露に、立っていた。

「衛兵が飛んで来たから、何事かと思ったら、お前は人の側室を奪うつもりか!」

「とんでもない。僕はコウジちゃんに一目、会いたいと思っただけだよ」

「お前は、何でも私の物を欲しがるが、それだけは絶対にやらん」

スウェイドの真剣さに、ザイールは息苦しくなる程のかつてない高揚感を感じた。

「この子、可愛いね。どこで見つけたの?」

「答える必要はない。早く出ていけ」

「紹介してよ。スウェイドがそんなに執着するの、リエカ以来、初めてだよね?僕もお知り合いになりたいな」

「コウジが目を覚ます。出ていけと言ってるだろう」

「そんなにこの子のお尻、イイの?」

二人の声が耳を打ち、光司はゆっくりと目を開けた。

「……何?」

光司の声に二人が振り返った。

「わぁ!琥珀色の綺麗で大きな瞳だね。その瞳を食べてしまいたいよ。コウジ、初めまして。僕はスウェイドの従兄弟のザイール」

光司は起き抜けに、飛んでもない美青年から口説くように囁かれ、驚いた。

「口で言っても分からないようだな」

そう言うとスウェイドはザイールの襟首を引っ掴み、部屋の外に追い出した。

「コウジ……大丈夫か?昨日は……すまなかった」

昨日と言われ、その地獄のような苦しみを思い出して、光司は体をビクつかせた。

「もう、あんな乱暴はしない。本当にすまなかった」

スウェイドが心から謝罪しているのは分かったが、何と応えたら良いのか分からなかった。

外でその会話を聞いていたザイールは、楽しくて仕方ないと言う風に、笑いを堪えていた。

「まだ、僕が入れそうな隙間がある……みたいだね」
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