アインクラッド編
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「さて、では始めようか」
私とキリト以外は、未だに眠り続けている。
そんな中、ベンヌがいなくなった場所で、ヒースクリフは普段と何も変わらない表情でそう言った。
「何をだよ……アンタ、今までスーがやられるのを黙って見てたのか?」
ゆらりと立ち上がったキリトは、ヒースクリフに問う。
彼の表情は、前髪でよく見えなかった。
「一対一での勝負という規則だ。それに割り込んだのは、君だよ」
馬鹿にしたような笑いを含めながら、ヒースクリフがそういう。
「どういうことだよ!? アンタ、それでも同じ攻略組かよ!」
「まさか、君がまだ気付いていない訳はないだろう?」
「何の話だ」
一瞬、間が空く。
ヒースクリフは、ここで決着をつけるつもりでいる。
「私が、茅場だ」
彼の言葉に、キリトは愕然とした。
「…………そうか、やっぱりアンタだったのか」
「だから、彼等の戦いにも手を出さなかった。どうなるのか、見物でもあったしね。しかし、君が乱入してくるだろうと予想もしていた」
「で、今から何を始めるつもりなんだ?」
私がいるのに、私抜きでどんどん会話が進んでいく。
「さっきと同じさ。だが、今の君らじゃ一対一のデュエルにしても、勝負にならないだろう」
「なんだと?」
「まぁ、そう怒らないでくれ。だから、少しハンデをつける。二人がかりで私と戦う」
その言葉に、私とキリトは思わず目を合わせた。
「私に勝てば、このゲームをクリアせずとも、この世界から脱出させることを約束しよう。もちろん、君らだけじゃなく、全プレイヤーを」
「…………」
キリトは、無言で剣を握り直した。
それは、彼の意見を肯定するということだろうと思った。
「君はどうする? スー」
突然話を振られ、驚いてヒースクリフを見る。
彼が、いつもと同じ表情をしていたことが、とても恐ろしかった。
「スー、お前は無理するな」
「…………やる」
「スー!?」
「私は、早く現実に帰りたい。もう、こんな世界嫌だ。だから、自分が戻れるためなら、多少の犠牲は厭わない。そう、さっき決めたんだ」
「それでこそ、私が選んだプレイヤーだ」
小さく、誰にも聞こえないように笑って言ったヒースクリフの言葉は、上手く聞き取ることが出来なかった。
「何か言った?」
「いや? では、始めようか」
長い時間が過ぎた。
キリトと私、ヒースクリフの三人以外が目を覚ますことのないまま、戦闘が続いている。
キリトと、互いのコンビネーションを活かしての連携攻撃を主体としているのに対して、ヒースクリフは徹底的に防御に徹して私たちの隙を狙っている。
ジリジリとしか減っていかない彼のHPに、精神的な疲労が蓄積されていく。
「くそっ……」
キリトが、剣を持ち直す。その瞬間だった、ヒースクリフは盾を前にして一瞬で距離を詰めた。
「しまった――――っ!?」
「キリト!?」
一秒もない間に、キリトは遠くの壁まで吹き飛ばされる大ダメージを与えられる。
すぐさま、私はヒースクリフから距離を取る。
「なかなか隙を見せない。さすが、キリト君とスーと言ったところだな」
「ヒースクリフ!」
彼の笑顔を見て、私は思わず彼の名を呼ぶ。
だが、なんて声をかければいいのかわからない。
キリトを吹き飛ばしたことを叱ればいいのか、こんなゲームを仕掛けたことを怒ればいいのか、こんな状況を作り出したことを憎めばいいのか……。
彼に、何を言えばこの状況は変わるのだろうか。
(変わるはずがない。彼は、最上階で倒されることを望んでいたはずなのだから)
倒されるためのゲームを考えるなんて、そんなバカなことをする彼は、今私に剣を向けている。
「さぁ、かかってこないのか?」
(…………ヒースクリフ……楽しそうだ)
距離を詰めることなく、剣を構え直す。
彼の攻撃範囲より、私の方が範囲が広くて有利。
瞬発的にスキルを発動させ、辺り構わず部屋をもぶち壊す勢いで剣を振り回した。
「何をしている、スー。それでは、私を倒すことはできないぞ」
建物を破壊したことで出るエラー発生の表示も見ないまま、破壊したことで出来た煙幕に乗じて、キリトの元へ向かう。
「キリト! 生きてる!?」
「生きてるよ、お前なに無茶苦茶やってるんだ……」
「作戦がある。聞いて」
そうして、私が言った作戦を聞いたキリトは、すぐさま頷いて行動を始めた。
機会は一度だけ。そして、その機会はもう今しかない。
煙幕に乗じて、私が建物を破壊したのは、彼を動けないように行動できる範囲を絞るため。
そして、煙幕による視界不良。これは、いかなるスキルを用いても視界良好にすることは不可能。暫くは、時間がかかってしまう。
「ああああああああっ!」
剣を奮う音が聞こえる。
キリトだとわかり、彼がおそらくヒースクリフを倒したのだろうと思った。
それと同時に、世界も終わりを告げた。
見ていた世界が、まるで幻だったかのように剥がれ落ちていく。
気付くと、空に立っていた私。
夕焼け空の向こうには、キリトとアスナが立っている。
「クリアおめでとう、スー」
「…………ヒースクリフ」
「茅場だ」
死んだはずの茅場が、隣に立っていた。
「なんで、建物破壊できるようにしてくれたのかは、聞かない方がいい?」
小さな声で彼に問いかけると、彼は笑うだけだった。
そう、本来なら建物の損壊は出来ないように、このゲームでは設定されている。ゲーム中、建物に危害を与えてもエラー発生の文字が出てくるだけで建物が壊れたりすることはないはずだった。
それを、彼が設定を変更していたということになる。
それは、つまり――――その先の彼の思考を想像したヒカルは、それ以上彼に問いかけることはしなかった。
「それにしても……まさか、こんなあっさり終わりを迎えてしまうとは、思わなかったよ」
「それは、同感」
「まぁ、何が起こるかわからない方が、ゲームは楽しいものだろう」
ゲーム至上主義な彼を見て、苦笑した。
そうして、二人でキリト達を見ていると彼等は光に包まれて消えていった。
「彼等は、元の世界に戻ったの?」
「あぁ、君も。もう、戻る時間だ。ここから目が覚めれば、そこはもう現実の君の世界だ」
「そっか。ヒースクリフは、本当にもういなくなるの?」
「私はシステムだ。これからも、この世界のシステムとして生き続ける」
「また、会えるってこと?」
「君が、再びMMORPGをしてくれれば、どこかで会う機会もあるだろう」
「そっか。じゃあ、挨拶するよ」
「あぁ、ではな」
「またね。茅場」
私がそういうと、彼は一瞬目を丸くして、その後笑顔で私に手を振った。
そうして、私もキリト達と同じように光に包まれていき、やがては意識をゆっくりと手放していった。
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第十二話
私とキリト以外は、未だに眠り続けている。
そんな中、ベンヌがいなくなった場所で、ヒースクリフは普段と何も変わらない表情でそう言った。
「何をだよ……アンタ、今までスーがやられるのを黙って見てたのか?」
ゆらりと立ち上がったキリトは、ヒースクリフに問う。
彼の表情は、前髪でよく見えなかった。
「一対一での勝負という規則だ。それに割り込んだのは、君だよ」
馬鹿にしたような笑いを含めながら、ヒースクリフがそういう。
「どういうことだよ!? アンタ、それでも同じ攻略組かよ!」
「まさか、君がまだ気付いていない訳はないだろう?」
「何の話だ」
一瞬、間が空く。
ヒースクリフは、ここで決着をつけるつもりでいる。
「私が、茅場だ」
彼の言葉に、キリトは愕然とした。
「…………そうか、やっぱりアンタだったのか」
「だから、彼等の戦いにも手を出さなかった。どうなるのか、見物でもあったしね。しかし、君が乱入してくるだろうと予想もしていた」
「で、今から何を始めるつもりなんだ?」
私がいるのに、私抜きでどんどん会話が進んでいく。
「さっきと同じさ。だが、今の君らじゃ一対一のデュエルにしても、勝負にならないだろう」
「なんだと?」
「まぁ、そう怒らないでくれ。だから、少しハンデをつける。二人がかりで私と戦う」
その言葉に、私とキリトは思わず目を合わせた。
「私に勝てば、このゲームをクリアせずとも、この世界から脱出させることを約束しよう。もちろん、君らだけじゃなく、全プレイヤーを」
「…………」
キリトは、無言で剣を握り直した。
それは、彼の意見を肯定するということだろうと思った。
「君はどうする? スー」
突然話を振られ、驚いてヒースクリフを見る。
彼が、いつもと同じ表情をしていたことが、とても恐ろしかった。
「スー、お前は無理するな」
「…………やる」
「スー!?」
「私は、早く現実に帰りたい。もう、こんな世界嫌だ。だから、自分が戻れるためなら、多少の犠牲は厭わない。そう、さっき決めたんだ」
「それでこそ、私が選んだプレイヤーだ」
小さく、誰にも聞こえないように笑って言ったヒースクリフの言葉は、上手く聞き取ることが出来なかった。
「何か言った?」
「いや? では、始めようか」
長い時間が過ぎた。
キリトと私、ヒースクリフの三人以外が目を覚ますことのないまま、戦闘が続いている。
キリトと、互いのコンビネーションを活かしての連携攻撃を主体としているのに対して、ヒースクリフは徹底的に防御に徹して私たちの隙を狙っている。
ジリジリとしか減っていかない彼のHPに、精神的な疲労が蓄積されていく。
「くそっ……」
キリトが、剣を持ち直す。その瞬間だった、ヒースクリフは盾を前にして一瞬で距離を詰めた。
「しまった――――っ!?」
「キリト!?」
一秒もない間に、キリトは遠くの壁まで吹き飛ばされる大ダメージを与えられる。
すぐさま、私はヒースクリフから距離を取る。
「なかなか隙を見せない。さすが、キリト君とスーと言ったところだな」
「ヒースクリフ!」
彼の笑顔を見て、私は思わず彼の名を呼ぶ。
だが、なんて声をかければいいのかわからない。
キリトを吹き飛ばしたことを叱ればいいのか、こんなゲームを仕掛けたことを怒ればいいのか、こんな状況を作り出したことを憎めばいいのか……。
彼に、何を言えばこの状況は変わるのだろうか。
(変わるはずがない。彼は、最上階で倒されることを望んでいたはずなのだから)
倒されるためのゲームを考えるなんて、そんなバカなことをする彼は、今私に剣を向けている。
「さぁ、かかってこないのか?」
(…………ヒースクリフ……楽しそうだ)
距離を詰めることなく、剣を構え直す。
彼の攻撃範囲より、私の方が範囲が広くて有利。
瞬発的にスキルを発動させ、辺り構わず部屋をもぶち壊す勢いで剣を振り回した。
「何をしている、スー。それでは、私を倒すことはできないぞ」
建物を破壊したことで出るエラー発生の表示も見ないまま、破壊したことで出来た煙幕に乗じて、キリトの元へ向かう。
「キリト! 生きてる!?」
「生きてるよ、お前なに無茶苦茶やってるんだ……」
「作戦がある。聞いて」
そうして、私が言った作戦を聞いたキリトは、すぐさま頷いて行動を始めた。
機会は一度だけ。そして、その機会はもう今しかない。
煙幕に乗じて、私が建物を破壊したのは、彼を動けないように行動できる範囲を絞るため。
そして、煙幕による視界不良。これは、いかなるスキルを用いても視界良好にすることは不可能。暫くは、時間がかかってしまう。
「ああああああああっ!」
剣を奮う音が聞こえる。
キリトだとわかり、彼がおそらくヒースクリフを倒したのだろうと思った。
それと同時に、世界も終わりを告げた。
見ていた世界が、まるで幻だったかのように剥がれ落ちていく。
気付くと、空に立っていた私。
夕焼け空の向こうには、キリトとアスナが立っている。
「クリアおめでとう、スー」
「…………ヒースクリフ」
「茅場だ」
死んだはずの茅場が、隣に立っていた。
「なんで、建物破壊できるようにしてくれたのかは、聞かない方がいい?」
小さな声で彼に問いかけると、彼は笑うだけだった。
そう、本来なら建物の損壊は出来ないように、このゲームでは設定されている。ゲーム中、建物に危害を与えてもエラー発生の文字が出てくるだけで建物が壊れたりすることはないはずだった。
それを、彼が設定を変更していたということになる。
それは、つまり――――その先の彼の思考を想像したヒカルは、それ以上彼に問いかけることはしなかった。
「それにしても……まさか、こんなあっさり終わりを迎えてしまうとは、思わなかったよ」
「それは、同感」
「まぁ、何が起こるかわからない方が、ゲームは楽しいものだろう」
ゲーム至上主義な彼を見て、苦笑した。
そうして、二人でキリト達を見ていると彼等は光に包まれて消えていった。
「彼等は、元の世界に戻ったの?」
「あぁ、君も。もう、戻る時間だ。ここから目が覚めれば、そこはもう現実の君の世界だ」
「そっか。ヒースクリフは、本当にもういなくなるの?」
「私はシステムだ。これからも、この世界のシステムとして生き続ける」
「また、会えるってこと?」
「君が、再びMMORPGをしてくれれば、どこかで会う機会もあるだろう」
「そっか。じゃあ、挨拶するよ」
「あぁ、ではな」
「またね。茅場」
私がそういうと、彼は一瞬目を丸くして、その後笑顔で私に手を振った。
そうして、私もキリト達と同じように光に包まれていき、やがては意識をゆっくりと手放していった。
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第十二話
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