短所は長所とも言えるので
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「さて、それじゃあ......えー...ご趣味は?」
口にしてすぐ、お見合いか、とセルフツッコミが頭に浮かんだ。
「お見合いちゃうねんから」
そして直後、現実でも同じ言葉がとんでくる。
訊ねられた本人...ボケとツッコミの本場出身の彼も同様に感じたのだから、ある意味自信を持って良いかもしれない。役には立つかは別として。
「あらゆる意味でベタやなぁ」
「改まって雑談することなんか基本ないし...」
「それが今の奈緒子さんに課せられとる使命やから。頑張ってもらわんと、雇用主として」
「雇用主ってワード出せばどうにかなると思ってない?」
「まさかぁ、思ってへんよぉ」
「言い方が胡散臭すぎる」
「酷ない?ボク病人やのに」
「病人にしては随分余裕があるみたいだけど?」
「褒め言葉やと思っとくわ」
本当に体調悪いのか、この男...いや、嘘じゃないのは知ってるけども。
「改まると正解が分かんないわね...私、ちゃんと出来てる?」
「出来とる...っちゅーか、こういう自然で気楽に話すんが雑談やない?」
「そりゃまあ......あ、そうだ。雑談ついでに相談?提案?...があるんだけど」
「提案?」
「あのさ、やっぱり負担してもらう家事減らした方が良いんじゃないかなって」
専門家ではないから断言出来ないが、状態からして彼の不調の原因はおそらく過労。
そうと分かっていて見過ごす程無神経ではない。冗談半分のつもりで言ったブラック企業云々も笑えなくなってしまう。
「私はすごく助かってるし、誠実で一生懸命なのは良いことよ?...だけど無理するのはそうと言えないわ。癖になるのはもっとダメ」
「ごもっともやな」
「でしょ?」
「けど、はい先生」
「なにかな、生徒さん」
「短所は長所とも言えるやないですか、先生」
「一理ある。しかし、まず短所と認識しているなら改善しましょうか、生徒さん」
「あー、墓穴掘ってもうたわ」
「そうね、残念でした」
「ところで奈緒子さん、相変わらずノリええな」
「自分でも己の適応力に驚いてるわ。あと話逸さないでね」
「さすがに不自然やったな...」
「だいたいね、まだ若いのに過労だなんて...」
「待って、その言い方やとボクもう手遅れになってへん?」
「手遅れじゃないけど今回ダウンしたのは事実でしょう。減らした分を私がやったって、前より楽なのは変わらないし」
「...お気遣いおおきに、奈緒子さん。せやけど、今回のはタイミング悪かっただけで負担なわけちゃうから」
「でも、」
「や、ホンマに。むしろやる事あんまない方がメンタル的にようない、他人様ん家で世話になっとる身として」
「...それだけど、もしかして追い出されるとか思ってる?しないからね?もともと迷惑かけたの私だし」
「まさか。奈緒子さんがそないなことするて思てへんよ。責任感強うて、世話焼きで、心配性で、優しいん分かっとるし、あとまあまあ押しに弱いんよなぁ......詐欺遭わんか不安なってきたわ」
「それ今言っちゃう?前半良い感じだったのに?」
「話してて心配なる時あるやん?今それ」
「あるけどさぁ...!」
「...っちゅー感じに、ほら。今もこんだけ話す元気あるやろ?」
「そ、れは...そう、だけど...」
「さっき言うたけど、悪かったんはタイミングだけ。せやから今まで通りでお願い出来へんかなぁ...?」
眉を下げてしおらしく訊かれたら、返せる答えはひとつしかない。
あー、知ってる知ってるこの流れ。話してる途中から薄々そんな予感してたし、うん。
まあ、その通りになるかは結局自分次第......そう、自分次第なわけで。
「...無理しないなら、ね」
なるほど、たしかに自分は押しに弱い。