短所は長所とも言えるので
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「ごちそーさまでした」
「次は薬ね。はい、水もどうぞ」
「ん、どーも」
空になった容器とスプーンを受け取り、代わりに渡した頭痛薬とコップへ注いだ水。口に含んだその二つが飲み込まれたのを見届け、こちらもようやく一息。
まあ、完治どころかスタートラインに立ったばかりで、息を吐くところではないのだけど...病に臥せっている子を持つ親の気持ちはこんなだろうか。
「よし、薬も飲んだことだし...今度こそ大人しく寝てなさい。くれぐれも大人しく、ね」
「そない強調する?」
「念には念ってやつよ。とにかく休みなさい。夕方くらいにまた声かけるから」
「...奈緒子さんは?」
「え、私?」
「奈緒子さんは、なにするん?ボクが休んどる間」
「そりゃ...家のこととか仕事とか?」
「ふーん...ボクのこと言えへんな」
「なにが......って、ああ、社畜がどうの?」
「せや。家のことはボクのせいでもあるけど、休日やのに仕事するんやな、て」
「特にやりたいこともないから仕事するだけ。出社した時に進んでると楽だし、嫌いな作業でもないし」
「言うたら最初に会うた時もそないなこと話しとったなぁ」
「そういえばそうだったわね。ま、急ぎの案件なわけじゃないし、適当に切り上げたら後は寛ぐつもりだけど」
「それがええと思うわ。働きすぎは毒やで」
「説得力あるんだかないんだか...ていうか早く寝なさいよ。私ももう出てくから」
「そうしたいんはやまやまなんやけど...」
「けど、なに?」
「寝付ける気ぃせえへんくて」
「あら、それは大変」
「せやろ?」
「ええ、とても。だけどね、淳君?気がしなくても寝るのよ。出来る出来ないじゃない、やるの」
「それ絶対病人相手に言うセリフちゃうやん」
「返事はイエスかハイか寝息のみよ。さあ、寝ろ」
「意義あり。雇用主は労働者の精神面も保護すべきやと思います」
「こ、小癪な...」
あくまで自分の中でではあるが、痛いところを突かれ言葉に詰まる。体調不良中でも衰えない話術に感心すべきなのか、不調状態の相手に言いくるめられかけている自分を嘆くべきか。
ともあれ、今はこの口達者な病人を休ませることが最優先であるのは分かる。
「...なにが望みなの」
「まるで脅迫者やな、ボク」
「あながち間違いではないでしょ」
「否定も肯定もせんとくわ」
「言っとくけど、家事とか本来の役割については許可出来ないからね」
「はは、それは全快してからまた頑張らさしてもらうつもり」
「なら良かった。でも、じゃあどうすんの?」
「んー......もう少しだけ、話し相手になって?」
「話し相手?」
「そ、話し相手。10分でええから」
こんなお願い、別に聞き入れる必要はない。無理にでも寝かせてしまった方が少しでも早い回復に繋がるし、それが彼の為、ひいては自分の為になる。
だから、ここでの答えは「NO」一択。
...と、理解はしている、理解は。
「...横になるのが条件よ」
結果として口から出たのが、彼の願いを受け入れる言葉だっただけの話。
だって。
言い負かされることは日常茶飯事でも、こんな風に強請られることは殆どなかった。少なくとも、記憶にあるのは同居開始日の寝室問題くらい。
それにほら、一応弱ってる相手からの頼み事でもあるし、それに、
「恩に着るわ」
こんな他意のない笑顔を向けられたら、間違った選択じゃないって思っちゃうでしょ。