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1章

1
「……どうやら、此処が最下層。実験施設みたいだな」
昇降機を降り、再び現れた神の使徒を倒したところで風夜が言う。
それを聞きながら、舞は麗玲を振り返った。
「何か感じたりする?」
「……ちょっと待って」
問い掛けると、そう答えて気配を探るように目を閉じる。
少しして目を開いた麗玲は、先にある分かれ道の右側を指した。
「この先から僅かにだけど、気配を感じるわ」
「……行ってみよう」
そう言うと舞は歩き出した。
2
分かれ道の度に麗玲に方向を確認しながら進んでいく。
それを何度か繰り返していると、幾つかの小さな檻がある部屋へと着いた。
舞は近くの檻に近付いてみたが、そこには誰もいない。
隣、その隣と視線を移してみたが、誰の姿も見つからなかった。
その時、麗玲が悲鳴のような声を上げて、ある一つの檻に駆け寄っていくのに気付いた。
「隼刀!翔月!」
舞達もその近くへ行くのと同時に、麗玲の声に反応したのか、中にいた二人が顔を上げる。
その二人の表情は酷く疲れていたが、麗玲の姿を見て目を見開いていた。
「……麗玲、様?」
「何故……?」
「何故って、助けに来たのよ。待ってて、今開けるから」
麗玲が言うのを聞きながら、舞は檻をさっと見たが、鍵穴のようなものはない。
あるのは、研究員が持っているのだろうカードを通すような部分とそれで開くのだろう、透明なカバーとその下にあるパスワード入力の為のボタンだった。
「えっと、どうすれば……」
当然、舞達は鍵になるカードなど持っていないし、パスワードも知らない。
(中から壊すのはきっと無理なんだよね)
そもそもそれが出来るなら、既に逃げ出しているだろう。
そんなことを舞が思っていると、封魔が前に進み出た。
「……少し下がってろ」
「えっ?」
低い声で言う彼に視線を向けると、その手にはかなりの力が集められているのがわかった。
それを一体どうするつもりなのかと舞が聞く前に、封魔はその力を拳に纏わせると、隼刀と翔月が閉じ込められている檻へと叩きつけていた。
バリイイィンッ
檻が壊れる音が響き渡り、粉々になって消し飛ぶ。
(ち、力技……)
思わず舞が呆然とする。
その間に麗玲は自由となった二人に駆け寄っていた。
「二人共、大丈夫?」
「はい」
「なんとか」
そう答えた二人に少しホッとしたような顔をしてから次に周囲を見回す。
「よかった。……ところで、閻夜と世璃は?」
封魔が今壊した檻には二人しかいなかったから、別の檻にいるのだろうと思ったのか、麗玲がそう問い掛ける。
顔を見合わせた後、それに首を振ったのは隼刀だった。
「二人は……、先程までは共にいたのですが、研究員達に連れていかれて」
「戻ってきてないの!?」
隼刀と翔月が頷いた時、何かが爆発するような音と共に辺りが揺れた。
「な、何!?」
バランスを崩しつつ、舞が呟いた時目の前に小さな破片が落ちてくる。
「……どうやら、この上が崩されたみたいだな」
その破片を拾い上げた飛影が上を見上げる。
「えっ?それって此処も崩れるってこと?」
「……まぁ、潰されるのも時間の問題だろうな」
「そんな冷静に言ってる場合じゃないでしょ!?」
飛影に返している間にも、舞達の頭上にひびが入り始める。
「ど、どうしよう?」
「どうするも此処に来るまでのルートはもう使えない。なら……」
足を肩幅位まで開いた封魔が天井へと手を向ける。
「……潰される前に此処を打ち抜くっ !!」
その言葉と共に放たれた力は上から降ってくる瓦礫なども全て消しとばしていった。
3
「……ひ、酷いめにあった……」
封魔が地上に繋がる穴を開けた直後、今度は風夜が起こした風の渦で打ち上げられ、地に足を着いた舞は思わずそう呟いた。
「……まぁ、勝手に行動して此処に来たのはお前達だ。文句は言えないだろ 」
「それにしてもだよ」
飛影にそう言われながら舞は自分達のことは打ち上げておいて、自分は後から翼を出して飛んで出てきた風夜を見た。
「な、なんだかごめんね」
その視線に気付いたのは彼に抱えられて、今降ろされたばかりの花音で、謝ってきた彼女に舞は首を横に振った。
「先輩は謝ることないです」
「なら、俺にはあるのか?」
「ある!一言くらい言ってからだってよかったでしょ!」
風夜にそう言い返し、軽く睨む。
その時、誰かが歩き出すような音が聞こえてきて、舞は視線を動かし立ち去ろうとしている麗玲、隼刀、翔月に気付いた。
「ちょっと待って!何処へ行くの?」
声を上げた舞に麗玲が振り返ってくる 。
「何処って、後の二人を探さないと… …」
「やめておけ」
そう声を上げたのは封魔だった。
「この施設を破壊したということは、ここを破棄したってことだ。……恐らくだが、いない二人は奴等の重要資料と共に一度神帝のところへ連れていかれた筈。……それに、今は一度ばれた以上、身を隠し研究を進めようとしているだろうな」
「……確かに。数百年前から今まで少なくても表立っては行われていない。今まで隠れて行なっていた場所がある筈だな」
神蘭が思い出すように封魔の言葉に付け加える。
「私達が知らないところでその研究を続けてきていたとしたら、同じような施設がまだ幾つもあるのかもしれない 。そこをある程度の期間ごとに動いてきていたのだとすれば、数百年気付かなかったのも仕方ないのかもな。とにかく、今は情報が少なすぎる」
「……一度、戻るべきだろうな」
飛影が肩を竦めつつ言う。
それを聞いて麗玲を見ると、彼女は少し考えていたが、渋々といった様子で頷いた。
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