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第17章

1
(これって……)
舞は自分達を襲ってきた蔓や根を防いだものや、綺羅に突き刺さった矢を見てそう思う。
それとほぼ同時に綺羅の声が響いた。
「いったーい。何よ、これ!? 」
そう言った綺羅だったが、何かを感じとったのか、其処から飛び退く。
その後、其処に振り下ろされた風の刃は直ぐに消え、声が聞こえてくる。
「……よぉ、さっきはよくもやってくれたな」
「!! 」
驚いたような視線を向ける先で、ニヤリと笑ったのは目を紅くした風夜だった。
その姿を見て、舞はやはり無事だったという思いからほっとしたが、綺羅はそれに納得いかないようだった。
「なっ……、何でどうして!?さっきのは確実に……」
綺羅の言葉に、舞は内心で否定する。
(ううん、光鈴の力が正しく発動していたとしたら、あの位ならまだ簡単に治せる筈)
動いていても問題なさそうな風夜を見て、それから彼より先に攻撃したのが矢であったのを思い出し、花音もいる筈だと視線を動かす。
彼女の姿は風夜の後方にあり、同じように見付けたらしい綺羅が声を上げた 。
「ちょっとぉ、さっきはよくも妙な術を使ってくれたね!お礼に今度は…… 」
言いながら綺羅がまた術を練ろうとしたのがわかったが、その前に花音が放った矢がその手を貫いた。
「……悪いけど、もう使わせないよ。どっちの力もね」
そう言った花音がチラリと倒れている光輝や両親を見る。
「……あなたは私の大切な人達を傷付けた。それも私の嫌いなやり方でね。……だから」
花音の周りに各属性の矢が現れる。
「あなただけは許すことが出来ない! 」
「っ……! 」
珍しく花音から放たれる殺気にまずいと思ったのか、綺羅が逃げ出そうとする。
「なっ……!? 」
その前に魔力の鎖のようなものがその身体を捉えた。
「逃がすと思ってるのか? 」
「っ……、離せ、このっ……」
風夜の拘束から逃れようと綺羅は暴れるが、その拘束から抜け出せない。
「俺もお前には大きな借りがある。… …だが、今回は譲ってやることにしたんでな」
風夜が言って、花音に視線を向ける。
それを合図に花音が放った各属性の矢は逃れることの出来ない綺羅へと容赦無く降り注いだ。
2
「……戻ってきたか。で、無事に連れ戻せたのか? 」
綺羅を倒した後、戻ってきた舞は飛影と莉鳳と共に緋皇の所へ報告に来ていた。
「ああ。……少し手間取りはしたけど ……、綺羅を始末出来たのは後々のことを考えても大きいな」
「……確かにあの能力は厄介だったが 」
「一人始末した所で、まだ特殊な奴はいるんだろう? 」
緋皇に飛影は頷く。
「まぁ、お前達が神界に行き、二人を助けたことは既に麗玲達にも気付かれてはいるだろうが、まだ神界に戻った気配はない。……少しは休息もとれるだろう」
緋皇がそう言い、退室の許可を出す。
疲れもあり休もうかと思ったが、その前に花音達の様子を見に行くことにした。
「…………か」
花音、光輝、二人の両親がいる部屋まで来て、中から聞こえてきた声に、舞は気付かれないよう少しだけドアを開けて中を覗きこむ。
四人ともちょうど背を向けていて、舞に気付いた様子はなかった。
「……どういうつもりだ?何で今更、俺の前に現れた? 」
「……それはあなたと花音が心配で… …」
「……今更なんだよ。だったら、何故俺のことを捨てた?数年も放ったらかしにしておいた?……姉上の記憶からも俺のことを消しておいて、今更心配だ?……俺の攻撃を受けても……、仕方ない?俺の気が済む?本当の願い?……ふざけるなよ!! 」
いきなりの怒声に思わず舞も肩を跳ね上げてしまった。
「……あんた達は何も変わってない。俺を捨てた時と同じ、勝手なままだ。……迷惑なんだよ!俺と姉上が心配とか言って、結局は自分達が好きにやってるだけだ。……本当に迷惑だ。とっとと帰って、もう二度と来るな」
そう言った光輝が振り返った為、舞は慌ててドアから離れ、近くの角へ身を隠す。
其処から様子を伺うと、部屋から早足で出て行く光輝とその後を花音が追い掛けていくのが見える。
その二人が完全に見えなくなってから 、舞は二人が出て行った部屋のドアを叩いた。
3
(……光輝が両親を恨んでいる理由はわかった。でも……)
あの後、両親から話を聞いた舞は再び花音と光輝を探していた。
二人を見つけたのは、城の中庭だった 。
二人の死角に入り、耳を澄ませると会話が聞こえてくる。
「……やっぱり、お父さんとお母さんのこと、許せない? 」
「……ああ」
花音の言葉に、少し間をおいて光輝は頷いた。
「……さっきも言ったけど、あの二人は自分勝手だ。……俺や姉上の気持ちなんて、考えちゃいない」
「…………」
「……俺や姉上のことなんて碌に考えてない。……俺の気持ちを勝手に決めて、死んでもいいというような態度だったのがいい例だ」
その言葉に舞は少し引っかかりを覚える。
それは舞だけでなく、花音も同じようだった。
「……光輝……、ねぇ、本当は……」
「……姉上」
遮るように口を開いて、それ以上は言うなというように首を振る。
「……とにかく、俺はあの二人と話すつもりはない。……もう少ししたら、元の世界へ戻ってもらう」
「……うん。……そうだね」
花音は他にも何か言いたげだったが、それ以上何か言うことは諦めたようだった。
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