第2章
1
灯りもついていない薄暗い通路を封魔が足早に進んでいく。
その後を花音は風夜、雷牙、星夢、刹那と共に僅かに距離をあけつつ追い掛けていた。
「……何だか、少し機嫌が悪そうね」
「まぁ、この間、奴等が言ってた奴を連れてくるのを失敗したからな」
星夢と刹那の声を聞きながら、花音は落ち着きなく辺りを見回す。
「どうした?花音」
「……うん。何だか少し落ち着かなくて……」
「……此処は神力と魔力が変に入り混じってる。……正直、俺も気分はあまりよくない。花音が落ち着かないのも、封魔が少し苛ついてるのもそれが原因だろ」
声を掛けてきた雷牙に花音が返せば、風夜がそう言った。
「……お前と封魔は花音よりずっと落ち着いてるし、気分が悪いようには見えないけどな」
雷牙がそう言って溜め息をついた時、先を歩いていた封魔が一つの扉を開け放っていた。
扉の向こうは薄暗く、蝋燭の灯りしかない。
扉から直進を通路のように開け、仮面を付けた者達が左右に分かれていた。
真っ直ぐ進んだ先には、少しデザインの違う仮面を付けた人物が二人いる。
「……来たか。遅かったな」
掛けられたその声は何処かで聞いたことがある気がした。
「……こいつらまで連れて来いなんて一体今度は何の用だ?」
不機嫌そうな声のまま、封魔が前にいる二人を見据えて口を開く。
「ふん。何の用かだと。わかっているだろう?」
「今の我々にとって、まず優先するべきなのは麗玲様をお連れすることよ」
「……つまり、今度は俺達にも行けと?」
風夜の問いに二人は頷く。
「前回は封魔が一人でいいと言ったから行かせたが、失敗した以上使えるものは全て使う」
「……こいつらはお前達の人形じゃない。……言っただろ。俺はお前達に従っても、こいつらにそれを強要するなと」
「そうね。でも、その子達が自分から協力するというなら、貴方にそれを拒否することも出来ないんじゃない?」
「……話は終わりだ」
苛立たしげに言って、封魔は踵を返す。
その様子を見て、花音は風夜達と一度顔を視線を交わし合うと、彼の後を追い掛けた。
2
「おい、待てよ」
先を行く封魔に風夜が声を掛ける。
「……何だ?」
「この間から気になってたが、奴等がいう【麗玲】というのは何者なんだ?何故奴等はそいつの転生者を連れてこようとしている?」
「……さあな」
「さあな……って、お前……」
「聞いても無駄だと思うぞ。そもそもその頃の記憶は、そいつには殆どないはずだからな」
雷牙が呆れたような声を出した後、聞こえてきた声に一瞬で空気が張り詰める。
視線を向ければ、一人の仮面を被った男がいて、その人物を警戒するように封魔が立ち位置を変えたのがわかった。
「……おいおい、そんなに警戒することないだろ?俺だよ」
そう言って、その人物が仮面を外す。
「なっ!?」
仮面を取って見えた顔に思わず目を見開く。
そこにいたのは、一年前の戦いで花音達の目の前で消滅したはずの白鬼だった。
「何故、お前が此処に?」
流石に封魔も驚いた表情を見せる。
「まぁ、それを話せば少し長くなる。それより、俺からしたらお前達が此処にいる理由が知りたいんだけどな。だが、何にせよ此処だと場所が悪い。移動しよう」
そう言うと、白鬼は何処かへ案内するように歩き出した。
3
再会した白鬼について花音達は一つの部屋に入った。
「じゃあ、まずは俺のことから話そうか」
ドアに鍵を掛け、白鬼が口を開く。
「あの時、……合成獣との戦いで致命傷を受けた俺は最後の力で攻撃を仕掛け、消滅したはずだった」
「まぁ、消えるのは俺達も見ていたしな」
雷牙に花音達も頷く。
「……ああ。俺も覚悟はしていたし、俺の魂は神界へと還る筈だった。それが完全に消滅する前に何処かへ引っ張られる感覚があって、気が付いた時には俺の身体は再構築されていた。そして、それをやったのが魔神族だ」
「つまり、今のお前は……」
「魔神族って訳だ。だから、神界には戻れない。……スパイとしても使えない俺を生かす理由はわからないけどな。……さて、今度はそっちの番だ」
「とはいっても、明確な理由があるのは封魔だけよ」
「俺達は封魔についてくるよう言われただけだよ。風夜は違うけどな」
星夢と刹那の言葉に、白鬼の視線は封魔に向けられた。
「それでお前がこいつらを連れてまで、此処にいる目的は?」
「……目的というか理由は大きく分けて三つある。……一つは魔神族からのこいつらの保護、二つ目はある者達の救出、三つ目はある人物達を倒すことだ」
「……って、本当に大きくしか言ってないな」
「二つ目と三つ目については、まだ時期じゃない」
「だから、それまでは奴等に従うってか?」
「ああ」
頷いた封魔に、白鬼は溜め息をついた。
「だが、こいつらの保護ならそれこそ理由を話して神界に……」
「それこそ無理だ。今の神界軍には……」
そこまで言って、ハッと言葉を止める。
「……そろそろ行ってくる。まだ奴等に怪しまれる訳にはいかないからな」
やはり一人で行くつもりだったのか、封魔は言って部屋を出て行く。
「ああいうところは相変わらずだな。肝心なところはいつもぎりぎりまで隠そうとする」
そう言ってから、お前達はどうするというように視線を向けてくる。
「追うつもりだけど……」
「それより最初の質問にまだ答えてもらってないぞ。『麗玲』っていうのは何者なんだ?」
「ああ。そうだったな。奴は魔神族の神子、かつて神族の神子の一人と戦い命を落とした奴だ」
それに花音は風夜達と顔を見合わせた。
灯りもついていない薄暗い通路を封魔が足早に進んでいく。
その後を花音は風夜、雷牙、星夢、刹那と共に僅かに距離をあけつつ追い掛けていた。
「……何だか、少し機嫌が悪そうね」
「まぁ、この間、奴等が言ってた奴を連れてくるのを失敗したからな」
星夢と刹那の声を聞きながら、花音は落ち着きなく辺りを見回す。
「どうした?花音」
「……うん。何だか少し落ち着かなくて……」
「……此処は神力と魔力が変に入り混じってる。……正直、俺も気分はあまりよくない。花音が落ち着かないのも、封魔が少し苛ついてるのもそれが原因だろ」
声を掛けてきた雷牙に花音が返せば、風夜がそう言った。
「……お前と封魔は花音よりずっと落ち着いてるし、気分が悪いようには見えないけどな」
雷牙がそう言って溜め息をついた時、先を歩いていた封魔が一つの扉を開け放っていた。
扉の向こうは薄暗く、蝋燭の灯りしかない。
扉から直進を通路のように開け、仮面を付けた者達が左右に分かれていた。
真っ直ぐ進んだ先には、少しデザインの違う仮面を付けた人物が二人いる。
「……来たか。遅かったな」
掛けられたその声は何処かで聞いたことがある気がした。
「……こいつらまで連れて来いなんて一体今度は何の用だ?」
不機嫌そうな声のまま、封魔が前にいる二人を見据えて口を開く。
「ふん。何の用かだと。わかっているだろう?」
「今の我々にとって、まず優先するべきなのは麗玲様をお連れすることよ」
「……つまり、今度は俺達にも行けと?」
風夜の問いに二人は頷く。
「前回は封魔が一人でいいと言ったから行かせたが、失敗した以上使えるものは全て使う」
「……こいつらはお前達の人形じゃない。……言っただろ。俺はお前達に従っても、こいつらにそれを強要するなと」
「そうね。でも、その子達が自分から協力するというなら、貴方にそれを拒否することも出来ないんじゃない?」
「……話は終わりだ」
苛立たしげに言って、封魔は踵を返す。
その様子を見て、花音は風夜達と一度顔を視線を交わし合うと、彼の後を追い掛けた。
2
「おい、待てよ」
先を行く封魔に風夜が声を掛ける。
「……何だ?」
「この間から気になってたが、奴等がいう【麗玲】というのは何者なんだ?何故奴等はそいつの転生者を連れてこようとしている?」
「……さあな」
「さあな……って、お前……」
「聞いても無駄だと思うぞ。そもそもその頃の記憶は、そいつには殆どないはずだからな」
雷牙が呆れたような声を出した後、聞こえてきた声に一瞬で空気が張り詰める。
視線を向ければ、一人の仮面を被った男がいて、その人物を警戒するように封魔が立ち位置を変えたのがわかった。
「……おいおい、そんなに警戒することないだろ?俺だよ」
そう言って、その人物が仮面を外す。
「なっ!?」
仮面を取って見えた顔に思わず目を見開く。
そこにいたのは、一年前の戦いで花音達の目の前で消滅したはずの白鬼だった。
「何故、お前が此処に?」
流石に封魔も驚いた表情を見せる。
「まぁ、それを話せば少し長くなる。それより、俺からしたらお前達が此処にいる理由が知りたいんだけどな。だが、何にせよ此処だと場所が悪い。移動しよう」
そう言うと、白鬼は何処かへ案内するように歩き出した。
3
再会した白鬼について花音達は一つの部屋に入った。
「じゃあ、まずは俺のことから話そうか」
ドアに鍵を掛け、白鬼が口を開く。
「あの時、……合成獣との戦いで致命傷を受けた俺は最後の力で攻撃を仕掛け、消滅したはずだった」
「まぁ、消えるのは俺達も見ていたしな」
雷牙に花音達も頷く。
「……ああ。俺も覚悟はしていたし、俺の魂は神界へと還る筈だった。それが完全に消滅する前に何処かへ引っ張られる感覚があって、気が付いた時には俺の身体は再構築されていた。そして、それをやったのが魔神族だ」
「つまり、今のお前は……」
「魔神族って訳だ。だから、神界には戻れない。……スパイとしても使えない俺を生かす理由はわからないけどな。……さて、今度はそっちの番だ」
「とはいっても、明確な理由があるのは封魔だけよ」
「俺達は封魔についてくるよう言われただけだよ。風夜は違うけどな」
星夢と刹那の言葉に、白鬼の視線は封魔に向けられた。
「それでお前がこいつらを連れてまで、此処にいる目的は?」
「……目的というか理由は大きく分けて三つある。……一つは魔神族からのこいつらの保護、二つ目はある者達の救出、三つ目はある人物達を倒すことだ」
「……って、本当に大きくしか言ってないな」
「二つ目と三つ目については、まだ時期じゃない」
「だから、それまでは奴等に従うってか?」
「ああ」
頷いた封魔に、白鬼は溜め息をついた。
「だが、こいつらの保護ならそれこそ理由を話して神界に……」
「それこそ無理だ。今の神界軍には……」
そこまで言って、ハッと言葉を止める。
「……そろそろ行ってくる。まだ奴等に怪しまれる訳にはいかないからな」
やはり一人で行くつもりだったのか、封魔は言って部屋を出て行く。
「ああいうところは相変わらずだな。肝心なところはいつもぎりぎりまで隠そうとする」
そう言ってから、お前達はどうするというように視線を向けてくる。
「追うつもりだけど……」
「それより最初の質問にまだ答えてもらってないぞ。『麗玲』っていうのは何者なんだ?」
「ああ。そうだったな。奴は魔神族の神子、かつて神族の神子の一人と戦い命を落とした奴だ」
それに花音は風夜達と顔を見合わせた。