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第6章

1
半数近くの魔神族をのみこんだ力に一瞬辺りが静まりかえる。
神蘭も何が起きたのかはわからない。
その時、神蘭の首を掴んでいた魔神族が声を上げた。

「何者だ!?出てこい!」

それを聞いてか、近くの建物の上から
誰かが飛び降りてくる。
その人物を見て、神蘭は思わず目を見開く。
その人物は封魔だった。
彼の姿を見たのは久し振りのことだ。
少し前に光鳳から聞いたとおり、封魔からはあまり意志のようなものは感じられない。
浮かべている表情も冷たいもので、変化に乏しい。
ただその視線が神蘭に向けられた時、僅かにその目が見開かれ、その後、更に冷たい光が宿った気がした。

「……そいつを離せ」

「断わると言ったら?」

「そうか」

短く返した封魔の姿が消える。
何処へ行ったのかと思った時には神蘭の身体は自由を取り戻していた。
それまで神蘭の首を掴んでいた魔神族は、何が起きたのかわからないといった表情を浮かべたまま倒れていく。
近くには剣を抜き放っている封魔の姿があった。
彼の視線が倒れた魔神族から、それを唖然見ていた他の魔神族達へ向けられる。

「ひっ、退くぞ!」

その視線に危険を感じたのか、魔神族の一人が声を上げる。

「逃さない」

撤退しようとする魔神族へ向けて、封魔が手に力を溜めて放つ。
その力は逃げていこうとする魔神族達をのみこんでいった。

2
魔神族の姿がなくなり、封魔も去っていこうとする。
それを見て、神蘭は痛みを堪えながらも声を上げた。

「ま、待って」

立ち止まった封魔が視線を向けてくる 。
表情は何の表情も浮かんでいないが、止まってくれたということは話を聞いてくれるつもりなのだろう。
正直、今にも飛んでしまいそうな意識をどうにか繋いでいるという状態だったが、今を逃したら次はいつ会えるかわからない。
だから、今、話しておきたい、伝えておきたいことがある神蘭は口を開いた 。

「……これで何度目だろうね。……助けてもらったの」

出会った頃から今までを思い出す。
ちゃんとお礼を言ったことはあまりないかもしれない。
それどころか、反発して今の封魔の状態の原因をつくってしまった。
そのことも謝りたい。
今回、死にかけたことで言いたいことはきちんと伝えておかなくてはと改めて思ったのだ。

「……今更なところもあるけど、助けてくれてありがとう。それと……、酷いこと言ったりしてごめんなさい」

表情は変わらないものの、聞いてくれていることはわかる。
だから、言葉が伝わっていることを信じて、一番伝えたいことを口にすることにした。

「だから」

そこで一度息を吸い、気持ちを落ち着ける。

「今度は私が助けるよ。……今よりもっと強くなって、……闘神になる。必ずなるから……待ってて」

そこまで伝えたところで、忘れかけていた身体中の傷が痛みを訴えてくる。
限界を迎えたのだろう身体から力が抜け、意識が遠のいていく。

「あと少し……、待ってて。……必ず ……必ず、助けるから……」

伝えたいことは伝えたが、もう一度繰り返す。
完全に意識が落ちる寸前、無表情だった筈の封魔が小さく笑い、頷いたのが見えた気がした。
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