短編小説

【主な登場人物】
・魔女
・赤ん坊の眠り姫





『特別な存在』




その魔女は、不器用だった。
他の魔女と魔男たちが羨むほどの強大な魔力を有しながら、彼女はそれを使いこなせずにいた。

その魔女は、周りからは「ぶきっちょ」と呼ばれ、馬鹿にされ続けてきた。
彼女は一つの魔法に集中すると、他のことが手につかなくなる。
彼女は思考が極端になりやすく、「白か黒か」「0か100か」という考え方にとらわれてしまう。
彼女は自分自身の感情をコントロールするのが苦手で、喜んだと思った次の瞬間には落ち込んだり、怒ったりしていた。

その魔女は、ベラクワ王国に仕える宮廷魔女であったが、王とその周りの人々は彼女の扱い方に困っていた。
魔力の高い魔女・魔男の存在は国にとっては重要で、他国への威圧や戦争の抑止力にもなり得たため、彼女もその意味では存在が重要視されていた。
だが、重視されていたのはその「存在」だけであり、誰も彼女の内面と向き合おうとはしなかった。

その魔女は、孤独で、常に生きづらさを感じていた。
生まれ持った強大な魔力があるにも関わらず、それを上手く使いこなせていない自分に腹を立てており、自分を見下している周りの人間たちを憎んでいた。

—どうして私はこうなの。
—苦しい。
—生きづらい。

その魔女は、国の王女が生まれた時も、ひとりだけ祝賀パーティーに呼ばれなかった。
王が、故意に呼ばなかった訳ではない。彼女を嫌っていた人間による嫌がらせを受けたのだ。
冷遇に耐えてきた彼女であったが、もう我慢の限界だった。

—みんなして、私を馬鹿にして。許さない…許さない。
—みんなに祝福されて生まれてきた姫だなんて、憎らしい。…私とは、大違いだ。
—そうだ、呪いをかけてやろう。それはそれは、恐ろしい呪いを。そうすれば、王も妃も国のみんなも、私にひれ伏して許しを乞うだろう。
—私の魔力の強さを…、私の存在を、見せつけてやるのだ!

祝賀パーティーに乱入したその魔女は、兵士たちの制圧も跳ねのけ、乳母車の中で眠る赤ん坊に近付いた。
呪いをかけようと手を伸ばした魔女に気付いたのか、王女は目を覚まし—
そして、魔女ににっこりと、微笑みかけた。
無垢な笑顔。無邪気な笑い声。
魔女は驚き、目をパチパチとさせ…、おそるおそる、指を差し出してみた。
すると、赤ん坊の小さな手が、彼女の指先をギュッと握ってくれた。

その魔女の目からは、涙があふれていた。
彼女は何故自分が泣いているのか、全く理解ができなかった。
こんな気持ちを抱くのは初めてのことだったからだ。

まるで、全てが許されたかのような安心感。
目の前で笑う幼子が、愛おしかった。

その時、魔女は王女に恋をしたのだ。

その魔女の名はマレーナといい、その王女の名はラウラという。








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