短編小説

【主な登場人物】
・セオドール王子
・近衛兵隊の副隊長イグナツ

【注意】
・BL表現を含んでおりますので、苦手な方はご注意ください。






『この世に生を受けた理由』




誕生日など、一度たりとも祝われたことがなかった。
母には疎まれ、父には物のように扱われてきたのだから、当然だ。
誕生日など、ただ単純に、老いていくことを確認する日に過ぎない。

…ただ、何故だろう。
あの方には、今日が自分の誕生日だと伝えたくなった。
どんな反応を返してくれるのだろうか。
ただの部下である自分にも、祝いの言葉をかけてくれるのだろうか。

執務室で書類に目を通している最中のセオドール王子に、オレはさりげなく言ってみた。

「そう言えば、今日はオレの誕生日なんですよ」

すると、王子の動きがピタリと止まった。
そして、彼は少し驚いたような顔をしてこちらを向いた。

「そうなのか!? おっと…」

思いがけず大きな声が出てしまったようで、王子は「すまない」と謝り、手で口元を隠した。そして、何やら嬉しそうに、ふふっと笑った。

「いや、イグナツが自分のことを教えてくれるなんて、今までに無かったから…嬉しくなってしまって」

「嬉しい…?」

「ああ。誕生日は人生で最も大切な日のひとつだろう? 君という存在が、生まれてきた記念すべき日だ」

そして、セオドール王子は真っすぐオレの目を見つめながら—

「おめでとう、イグナツ」

と言って、優しく笑ってくれた。

王子のその言葉、その柔和な微笑み…。
それだけで、オレは生まれてきて良かったと思えた。

オレが生まれてきたのは、この人と出会うためだったのだ。







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