短編小説

【主な登場人物】
・イグナツ副隊長

【注意】
・BL表現を含んでおります。






『美しいあなた』





アイネスベルン王国。

今年、建国200年を迎える強大な国。

「アイネスベルン」は、この国の古い言葉で「一人の美しい青年」の意味だ。
歴史書によれば、この国の建国者である男が、たいへんな美男子であったからだとか。

美しい国。
誇り高き王国。

――どこが、だ。

オレは、この国の名前が嫌いだ。
どれもこれも、醜く、汚いものばかりだ。

止まない国境線での争い、私腹を肥やす小役人ども、禁欲とは名ばかりの醜聞まみれの聖職者たち、互いに見下すことに余念がない見栄っ張りの貴族ども。
…ヒステリックにオレを罵倒する、母親。

何もかもが、汚らわしい。
―オレも含めて。
父親の影に怯えて必死で生きて薄汚れた自分自身も、醜いこの国にはお似合いだ。

けれども。

ただひとりだけ…あの方だけは、違う。


セオドール・ド・ベルン第二王子。
純真無垢で、誰よりも清らかな御方。
あの方だけが、この国の名前にふさわしい、「一人の美しい青年」だ。


…もし、その青年をけがす人間がいるとすれば。
それは、オレであるべきだ。

あの方は、オレのものだ。
他の誰にも、絶対に渡しはしない。




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