Love to you
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今日はこどもの日だ。
「お子様の蒼チャンにプレゼントがあります」
「は?!こどもじゃないし!」
「じゃああげませーん」
「パパー蒼ちゃんそれほちいよー」
「ん〜蒼チャンはいいこだね〜」
ほい、と手渡しされた箱。色でティファニーだと分かる。
箱を開けると、小さな指輪が入っていた。
「指輪…?何かの日だっけ」
「婚約指輪ってダイヤもついてるし学校に付けていきづらいでしょ。だからピンキーリングを買いました」
「かわいい…小指につけたらいいのかな」
黒尾さんの気の利かせ方はたまに上限を超える。
「うん!似合ってるね!それにして正解だった!」
「ありがとう…実は私もプレゼントあるんだよね…」
「えっ」
「私はティファニーではなくて、ブルガリのサングラスを買いました。どうぞお納めください」
「グラサンなんてしたら俺、爆イケになっちゃうよ〜?」
「なっちゃえなっちゃえ」
「どう?似合ってる?!」
「うん。なんかSPみたい笑」
「蒼様を全力でお守りします!」
ははっと笑う蒼が、急に「痛!」と言い出した。
「何?!どこが痛い?!」
「頭が…痛い、痛い、いつもと違う…ッ、痛、鉄!救急車呼んで!」
頭痛で救急車を呼ぶほどなのか?と思ったが医者の卵の蒼が言うから119に電話した。
「火事ですか?救急ですか?」
「一緒に住んでる女性が強い頭痛を訴えています。今までにない痛みと言ってます」
「わかりました。救急車を送るので、住所を教えてください」
「〜区の〜で」
「直ぐに向かいます」
プツップープープー
「蒼、すぐに来るって」
蒼は汗を大量にかいている。仰向けになって寝ていた。
「自分で理由がわかってんのか?」
「わかってる」
「だから救急車呼べっつったのな。普通の頭痛とちがうのか?」
「全然違う…ハンマーで殴られる感じ」
ピーポーピーポー
救急車が来たようだ。
「お待たせしました!こちらの女性ですね?」
「はい。ハンマーで殴られるような痛みだと言ってました」
「担架もってきて!ゆっくり女性乗せて!」
「旦那さんも同行されますか?」
「(旦那さん…)はい、僕も向かいます」
救急車で急いで大学病院に向かい、10分ほどで着いた。
蒼が医者にボソボソ話しかけている。
「あの…元々脳動脈瘤があって、破裂したんだと思います」
「患者、血圧上昇、意識朦朧としています。患者より脳動脈瘤があるとのこと、くも膜下出血の疑いあり」
病院に到着し、急いでCTを撮った。
「緊急です。手術室に向かいます」
旦那さん!
名前を呼ばれた俺はすぐにかけつけた。
奥さん、これから手術に入ります。時間は5時間ほどかかります。緊急なので、すぐに電話をくださったのは正解でした。過去にもこういうことがありましたか?
「ないと思います。彼女は医学部生なので、自分の体の異変にすぐ気づいたんだと思います」
「なるほど。懸命な判断でした。くも膜下出血は時間との勝負なので、奥さんが自分で気づかれたのは良かったと思います。手術が終わるまで待たれますか?」
「はい。待ちます」
「では、あそこにあるソファでお待ちください」
ここまで20分、本当にあっという間のことで、情報が追いつかない。とりあえずくも膜下出血について調べた。
突出した血管が破裂して起こる突発的な病気…。
蒼はそれをわかっていたのか?
頭痛の段階で?
そういえば脳動脈瘤とか言ってたな…それも調べるか…
脳の血管にコブのようなものができ、それか破裂するとくも膜下出血になる原因にもなる…
蒼は自分の脳みそにコレがあるってわかってたのか。一度も聞いたことがなかった。
多分、俺を心配させない為に言ってなかったんだと思う。
くも膜下出血の死亡率は50%。経過中に死ぬこともある…。再出血した場合の死亡率は80%…。
ダメだ、こんなの読んじまったらマイナスな方向にしかとらえられない。生きる50%にかけて、俺はただ待つことしか出来なかった。
…
…
…
手術から6時間が経って手術室が開いた。俺は立ち上がって医者にどういう状況なのか聞いた。
「くも膜下出血で間違いありません。一ノ瀬さん自身と旦那さんの迅速な対応で、一命は取り留めました。おそらく後遺症も残らないでしょう。よく頑張ってくれました」
「…!ありがとうございます!」
「しばらくは入院が必要になります。お着替えなどの準備をお願いします。詳細は受付が案内しますので、待合室でお待ちください」
「入院…どれくらいかかるんですか?」
「2週〜3ヶ月と予後次第です」
「そんなに差があるんですね…」
「僕の経験上、断定は出来ませんが1ヶ月以内に退院できるかなと思います」
「ありがとうございました!しばらくの間、よろしくお願いします!」
あと俺ら、夫婦じゃなくて婚約者同士です。と追記したところ、「あら〜はやとちったね〜」と笑っていた。緊張していた俺も笑みがこぼれた。
「貴方も、心配なのはわかるけど、休むことをわすれないでね」
「…はい!」
こうして俺だけが帰宅し、蒼の着替えを準備して明日もっていくことにした。
蒼の判断の速さに驚いた。
たった数秒の頭痛で異変に気づいたのだ。
もしかして過去にも同じことがあったのか?
蒼が全回復するまでは毎日見舞いに行こう。
…
…
…
予定通り仕事を終えた俺は附属病院へと向かう。
…果物でも買っていくか。ナイフの持ち込みだめだろうしみかんやバナナ、マスカットを買った。
…
…
ふぅ、と深呼吸する。
ガラッ
「あ!鉄じゃーん!」
病院の重い空気を吹き飛ばすくらいのでかい声で俺の名前を叫ぶ。
「…これ、お見舞い」
「わぁ!みかんだ!みかん食べる!」
「…お前今、自分がどういう状況か分かってる?」
「死なずに済んだよ!わたしの判断と鉄の早い対応で一命を取り留めたよ!ありがとうね!」
本人的にはよくわかってるようだ。まぁ医者の卵だし俺より自分のことに詳しいだろう。
「後遺症はないだろうって言ってたけど」
「うん!マジで奇跡だよ!死ぬ確率50%!後遺症になる確率20%!どれも生き抜いた!」
「お前、脳みそに欠陥があるんだろ」
「…なぜそれを?」
「聞こえてたんだよ、脳動脈瘤って。調べたら爆弾みてぇなもんじゃん」
「元々小さくて、様子見で全然検査してなかったからねー、まさか昨日?今日?破裂するとは思わなかったよ」
「なんで言わなかったんだ」
「言う必要があるときに言おうと思ってたんだ。変に毎日心配とかされたくないし」
「それが事が起こってからじゃ遅くない?」
「ごめんごめん、言うタイミングを逃したんだよ」
確かに俺に言えば俺は毎日蒼を心配してしまうだろう。
でもそういうのは優しさっていうんじゃなくて俺を頼ってないってことでは…
「俺、そんなに頼りない?」
思ったことをそのまま口にした。
「そんなことないよ!今回は言わなかった私が悪かった! ごめんね!」
ボロッ
ボロボロ
「鉄?泣いてるの?」
だめだ、拭いても拭いても涙が止まらない。
「手術中の6時間、蒼がちゃんと帰ってくるか心配だった」
「うん」
「死亡率50%なんて、2択じゃん。しかも手術成功しても後遺症の可能性もある、もう俺、何も考えられなくなって…」
「うん、うん、心配かけてごめんね」
「本当に蒼が生きててよかった。あの時の頭痛が、俺がいる時でよかった」
「確かに!私1人だったら死んでたかもしれない」
一緒にいてくれてありがとう。
なんて蒼は言うけど、冗談でもなんでもなく、あのタイミングで発覚して良かったのかもしれない。
蒼は何事も無かったかのようにみかんに夢中になっている。
「蒼がそんな平然としていられるのは、医者の卵だからか?」
「んー、覚悟はしていた、って感じかな。いつか来るだろうって」
自分で自分を心配し続けてるってのも、ストレスになんねー?
そう思うけど、蒼のことだから平気なんだろう。
蒼の医者になるための意志、自分の抱えてた問題、俺は全然わかっていなかった。
それが一番悔しい。
ボロボロと流れる涙が止まらない。
「蒼」
俺の方が蒼に寄り添い、ギュッと抱きしめる。
「隠さなきゃいけないことは隠していい、でも言った方が俺にとってじゃなくて、蒼にとっていいことなら言って欲しい」
「うん、わかったよ」
「生きててくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。明日検査あるから、何かあったらまた言うね」
「わかった。面談時間終わるから、今日は帰る。ゆっくりして寝なよ」
「うん!わかった!ありがとうね、またね」
蒼は俺が扉を閉めるまで手を振ってくれた。
それから3週間、毎日お見舞いにきていたのだが、土曜日に医師から退院OKの指示が出た。
俺と蒼ハイタッチし、先生に御礼をして帰宅する準備をした。
「また何か気になることがあればいつでも来てください。脳神経のせいで眼や鼻に影響がでることもあります」
「先生、本当にありがとうございました!」
「お大事に」
車を駐車場に停めて、部屋へ向かう。
ガチャ
にゃーん!
んにゃ、なーーん!
「ジャスミーン!私の事忘れたかと思った!お迎えありがとう〜!」
蒼の足の周りをうろちょろするジャスミンに蒼が喜ぶ。
「そーいやジャスミンの飯の時間だな」
「あ…そゆこと…」
ガクーっとする蒼に、俺は後ろから抱きしめた。
「待って!私も前向く!」
お互いに向き合いながらギュッと抱きしめた。
「久しぶりの鉄の匂い…クンクン」
「え?俺って匂うの?」
「匂うよー、臭いとかじゃない、その人特有の匂い」
「ちょっとショックなんだけど…」
「鉄のはいい匂いだよー」
「マジ?だったらいいけど、よっ」
俺は蒼をソファに、俺の膝の上に座らせてテレビをつけ、しばらく蒼を抱きしめたり、髪をいじったり、唇に触れたり、手を握ったりして蒼にどうしたの?と聞かれた。
「蒼が今ここにいるのは奇跡なんだなって」
そう思ったら、愛しくて仕方がないって。
そういうと蒼も「病院生活は退屈で、鉄が毎日お見舞いに来るのが唯一の楽しみだったよ」と返してくれた。
「蒼、愛してるよ」
蒼の顔が真っ赤になる。
「はは、茹でダコ」
「私も鉄のこと誰よりも愛してるし!」
そう言って蒼の方からキスしてきた。
ゆっくり唇を離して、今度は激しめのキス。
「続きをやりたいのはやまやまなんだけど、1週間くらい様子見だな」
「鉄が珍しく我慢してる!」
「いや、流石に生死さ迷ってた子を退院してすぐ抱くほどサルじゃない」
「ははっ、そりゃそうだ」
蒼が生きててよかった。
最初はわけがわからなかったけど、落ち着いたら何気ない生活に戻っていた。
蒼、蒼、蒼。何度名前を呼びたいか。何度振り向いてくれるか。何度笑顔を向けてくれるか。
当たり前は当たり前じゃない。一日一日は奇跡みたいなもんだ。そうだ、毎日夕飯の時に2人で写真を撮ろう。
大切な思い出作り。
それを提案したら、蒼も喜んでくれた。
早速今日の夕飯、2人で写真を撮った。
ありったけの愛で包まれてるこの空間を、大事にしたい。
「お子様の蒼チャンにプレゼントがあります」
「は?!こどもじゃないし!」
「じゃああげませーん」
「パパー蒼ちゃんそれほちいよー」
「ん〜蒼チャンはいいこだね〜」
ほい、と手渡しされた箱。色でティファニーだと分かる。
箱を開けると、小さな指輪が入っていた。
「指輪…?何かの日だっけ」
「婚約指輪ってダイヤもついてるし学校に付けていきづらいでしょ。だからピンキーリングを買いました」
「かわいい…小指につけたらいいのかな」
黒尾さんの気の利かせ方はたまに上限を超える。
「うん!似合ってるね!それにして正解だった!」
「ありがとう…実は私もプレゼントあるんだよね…」
「えっ」
「私はティファニーではなくて、ブルガリのサングラスを買いました。どうぞお納めください」
「グラサンなんてしたら俺、爆イケになっちゃうよ〜?」
「なっちゃえなっちゃえ」
「どう?似合ってる?!」
「うん。なんかSPみたい笑」
「蒼様を全力でお守りします!」
ははっと笑う蒼が、急に「痛!」と言い出した。
「何?!どこが痛い?!」
「頭が…痛い、痛い、いつもと違う…ッ、痛、鉄!救急車呼んで!」
頭痛で救急車を呼ぶほどなのか?と思ったが医者の卵の蒼が言うから119に電話した。
「火事ですか?救急ですか?」
「一緒に住んでる女性が強い頭痛を訴えています。今までにない痛みと言ってます」
「わかりました。救急車を送るので、住所を教えてください」
「〜区の〜で」
「直ぐに向かいます」
プツップープープー
「蒼、すぐに来るって」
蒼は汗を大量にかいている。仰向けになって寝ていた。
「自分で理由がわかってんのか?」
「わかってる」
「だから救急車呼べっつったのな。普通の頭痛とちがうのか?」
「全然違う…ハンマーで殴られる感じ」
ピーポーピーポー
救急車が来たようだ。
「お待たせしました!こちらの女性ですね?」
「はい。ハンマーで殴られるような痛みだと言ってました」
「担架もってきて!ゆっくり女性乗せて!」
「旦那さんも同行されますか?」
「(旦那さん…)はい、僕も向かいます」
救急車で急いで大学病院に向かい、10分ほどで着いた。
蒼が医者にボソボソ話しかけている。
「あの…元々脳動脈瘤があって、破裂したんだと思います」
「患者、血圧上昇、意識朦朧としています。患者より脳動脈瘤があるとのこと、くも膜下出血の疑いあり」
病院に到着し、急いでCTを撮った。
「緊急です。手術室に向かいます」
旦那さん!
名前を呼ばれた俺はすぐにかけつけた。
奥さん、これから手術に入ります。時間は5時間ほどかかります。緊急なので、すぐに電話をくださったのは正解でした。過去にもこういうことがありましたか?
「ないと思います。彼女は医学部生なので、自分の体の異変にすぐ気づいたんだと思います」
「なるほど。懸命な判断でした。くも膜下出血は時間との勝負なので、奥さんが自分で気づかれたのは良かったと思います。手術が終わるまで待たれますか?」
「はい。待ちます」
「では、あそこにあるソファでお待ちください」
ここまで20分、本当にあっという間のことで、情報が追いつかない。とりあえずくも膜下出血について調べた。
突出した血管が破裂して起こる突発的な病気…。
蒼はそれをわかっていたのか?
頭痛の段階で?
そういえば脳動脈瘤とか言ってたな…それも調べるか…
脳の血管にコブのようなものができ、それか破裂するとくも膜下出血になる原因にもなる…
蒼は自分の脳みそにコレがあるってわかってたのか。一度も聞いたことがなかった。
多分、俺を心配させない為に言ってなかったんだと思う。
くも膜下出血の死亡率は50%。経過中に死ぬこともある…。再出血した場合の死亡率は80%…。
ダメだ、こんなの読んじまったらマイナスな方向にしかとらえられない。生きる50%にかけて、俺はただ待つことしか出来なかった。
…
…
…
手術から6時間が経って手術室が開いた。俺は立ち上がって医者にどういう状況なのか聞いた。
「くも膜下出血で間違いありません。一ノ瀬さん自身と旦那さんの迅速な対応で、一命は取り留めました。おそらく後遺症も残らないでしょう。よく頑張ってくれました」
「…!ありがとうございます!」
「しばらくは入院が必要になります。お着替えなどの準備をお願いします。詳細は受付が案内しますので、待合室でお待ちください」
「入院…どれくらいかかるんですか?」
「2週〜3ヶ月と予後次第です」
「そんなに差があるんですね…」
「僕の経験上、断定は出来ませんが1ヶ月以内に退院できるかなと思います」
「ありがとうございました!しばらくの間、よろしくお願いします!」
あと俺ら、夫婦じゃなくて婚約者同士です。と追記したところ、「あら〜はやとちったね〜」と笑っていた。緊張していた俺も笑みがこぼれた。
「貴方も、心配なのはわかるけど、休むことをわすれないでね」
「…はい!」
こうして俺だけが帰宅し、蒼の着替えを準備して明日もっていくことにした。
蒼の判断の速さに驚いた。
たった数秒の頭痛で異変に気づいたのだ。
もしかして過去にも同じことがあったのか?
蒼が全回復するまでは毎日見舞いに行こう。
…
…
…
予定通り仕事を終えた俺は附属病院へと向かう。
…果物でも買っていくか。ナイフの持ち込みだめだろうしみかんやバナナ、マスカットを買った。
…
…
ふぅ、と深呼吸する。
ガラッ
「あ!鉄じゃーん!」
病院の重い空気を吹き飛ばすくらいのでかい声で俺の名前を叫ぶ。
「…これ、お見舞い」
「わぁ!みかんだ!みかん食べる!」
「…お前今、自分がどういう状況か分かってる?」
「死なずに済んだよ!わたしの判断と鉄の早い対応で一命を取り留めたよ!ありがとうね!」
本人的にはよくわかってるようだ。まぁ医者の卵だし俺より自分のことに詳しいだろう。
「後遺症はないだろうって言ってたけど」
「うん!マジで奇跡だよ!死ぬ確率50%!後遺症になる確率20%!どれも生き抜いた!」
「お前、脳みそに欠陥があるんだろ」
「…なぜそれを?」
「聞こえてたんだよ、脳動脈瘤って。調べたら爆弾みてぇなもんじゃん」
「元々小さくて、様子見で全然検査してなかったからねー、まさか昨日?今日?破裂するとは思わなかったよ」
「なんで言わなかったんだ」
「言う必要があるときに言おうと思ってたんだ。変に毎日心配とかされたくないし」
「それが事が起こってからじゃ遅くない?」
「ごめんごめん、言うタイミングを逃したんだよ」
確かに俺に言えば俺は毎日蒼を心配してしまうだろう。
でもそういうのは優しさっていうんじゃなくて俺を頼ってないってことでは…
「俺、そんなに頼りない?」
思ったことをそのまま口にした。
「そんなことないよ!今回は言わなかった私が悪かった! ごめんね!」
ボロッ
ボロボロ
「鉄?泣いてるの?」
だめだ、拭いても拭いても涙が止まらない。
「手術中の6時間、蒼がちゃんと帰ってくるか心配だった」
「うん」
「死亡率50%なんて、2択じゃん。しかも手術成功しても後遺症の可能性もある、もう俺、何も考えられなくなって…」
「うん、うん、心配かけてごめんね」
「本当に蒼が生きててよかった。あの時の頭痛が、俺がいる時でよかった」
「確かに!私1人だったら死んでたかもしれない」
一緒にいてくれてありがとう。
なんて蒼は言うけど、冗談でもなんでもなく、あのタイミングで発覚して良かったのかもしれない。
蒼は何事も無かったかのようにみかんに夢中になっている。
「蒼がそんな平然としていられるのは、医者の卵だからか?」
「んー、覚悟はしていた、って感じかな。いつか来るだろうって」
自分で自分を心配し続けてるってのも、ストレスになんねー?
そう思うけど、蒼のことだから平気なんだろう。
蒼の医者になるための意志、自分の抱えてた問題、俺は全然わかっていなかった。
それが一番悔しい。
ボロボロと流れる涙が止まらない。
「蒼」
俺の方が蒼に寄り添い、ギュッと抱きしめる。
「隠さなきゃいけないことは隠していい、でも言った方が俺にとってじゃなくて、蒼にとっていいことなら言って欲しい」
「うん、わかったよ」
「生きててくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。明日検査あるから、何かあったらまた言うね」
「わかった。面談時間終わるから、今日は帰る。ゆっくりして寝なよ」
「うん!わかった!ありがとうね、またね」
蒼は俺が扉を閉めるまで手を振ってくれた。
それから3週間、毎日お見舞いにきていたのだが、土曜日に医師から退院OKの指示が出た。
俺と蒼ハイタッチし、先生に御礼をして帰宅する準備をした。
「また何か気になることがあればいつでも来てください。脳神経のせいで眼や鼻に影響がでることもあります」
「先生、本当にありがとうございました!」
「お大事に」
車を駐車場に停めて、部屋へ向かう。
ガチャ
にゃーん!
んにゃ、なーーん!
「ジャスミーン!私の事忘れたかと思った!お迎えありがとう〜!」
蒼の足の周りをうろちょろするジャスミンに蒼が喜ぶ。
「そーいやジャスミンの飯の時間だな」
「あ…そゆこと…」
ガクーっとする蒼に、俺は後ろから抱きしめた。
「待って!私も前向く!」
お互いに向き合いながらギュッと抱きしめた。
「久しぶりの鉄の匂い…クンクン」
「え?俺って匂うの?」
「匂うよー、臭いとかじゃない、その人特有の匂い」
「ちょっとショックなんだけど…」
「鉄のはいい匂いだよー」
「マジ?だったらいいけど、よっ」
俺は蒼をソファに、俺の膝の上に座らせてテレビをつけ、しばらく蒼を抱きしめたり、髪をいじったり、唇に触れたり、手を握ったりして蒼にどうしたの?と聞かれた。
「蒼が今ここにいるのは奇跡なんだなって」
そう思ったら、愛しくて仕方がないって。
そういうと蒼も「病院生活は退屈で、鉄が毎日お見舞いに来るのが唯一の楽しみだったよ」と返してくれた。
「蒼、愛してるよ」
蒼の顔が真っ赤になる。
「はは、茹でダコ」
「私も鉄のこと誰よりも愛してるし!」
そう言って蒼の方からキスしてきた。
ゆっくり唇を離して、今度は激しめのキス。
「続きをやりたいのはやまやまなんだけど、1週間くらい様子見だな」
「鉄が珍しく我慢してる!」
「いや、流石に生死さ迷ってた子を退院してすぐ抱くほどサルじゃない」
「ははっ、そりゃそうだ」
蒼が生きててよかった。
最初はわけがわからなかったけど、落ち着いたら何気ない生活に戻っていた。
蒼、蒼、蒼。何度名前を呼びたいか。何度振り向いてくれるか。何度笑顔を向けてくれるか。
当たり前は当たり前じゃない。一日一日は奇跡みたいなもんだ。そうだ、毎日夕飯の時に2人で写真を撮ろう。
大切な思い出作り。
それを提案したら、蒼も喜んでくれた。
早速今日の夕飯、2人で写真を撮った。
ありったけの愛で包まれてるこの空間を、大事にしたい。