先日蒼が泣き出したときは、どうなるかと思ったけど、蒼はいつも通り学校に来て、いつも通りに過ごしていた。

「蒼」

できるだけ一緒にいようと思い、
昼休みは2組に顔を出し一緒にメシを食うようになった。

「お前、今日もパンだけかよ」

「わたしはパンが好きなのよ。特に学校行く途中に朝からやってるパン屋が好きなの」

「そんなんじゃ栄養不足になるだろ」

「もう身長165cmあるから、栄養とか気にしなくていいもーん」

蒼は確かに女子の中では背が高い方だ。
オレと10cm近くしか変わらないのが軽くショックだけど、オレはまだまだ伸びるし(多分)、蒼の成長期は「おそらく」終わったらしいからこれ以上伸びることはないだろうとひと安心する。

「モデルにしては背が低い方だから、あと5cmは欲しいんだけどなぁ」

今から牛乳飲んだら伸びるかな？なんてアホなことを言いながらパンをかじる蒼。

ひとまず、先日のことを引きずってないようで良かった。

「あの、一ノ瀬さん」

食事中に、蒼のクラスメイトが話しかけてきた。

「ん？どしたの？」

「実は...一ノ瀬さんが載ってる雑誌買ってさ、わたし、ファンになっちゃったの！」

その女子は蒼が載ってるらしい雑誌を手にして「顔が完璧すぎる」「いつもの一ノ瀬さんと雰囲気が違ってそこがまたいい」「かっこよすぎて尊い」など興奮しながら、オレの存在なんて無視しながら蒼に熱意を伝えていた。

「それで...一ノ瀬さんのサインが欲しいの！」

思い切って色紙とペンを渡す女子に対して、蒼は慌てる様子もなくサラサラと色紙にサインを書いた。

「応援してくれてありがとう。これからも頑張るね」

この女子の行動を見ていた生徒たちが、「私も！」「俺も！」とこぞってやってきた。

「はーい。順番にならんでねー」

蒼は慣れた様子でサインを書いていく。
数名だけだったので直ぐに終わったが、まさか蒼がそこまで有名なやつだとは思ってもいなかった。まぁ、女性雑誌なんて読む機会もねぇんだけど。

「尊いとか言われて、お前は女神かよ」

「ははっ！いいねそれ、西浦の女神、タカヤは崇め称えないといけないよ」

「うるせー、調子に乗るな」

「ふふ、タカヤ、あれから気使ってくれてありがとね」

「おー、オレにできることなら、何でも言えよ」

「ありがとうね。ところでさ」

レンとの配球確認はどう？と尋ねてきた蒼。

野球バカはとことん野球バカだな。まぁ、それで気が紛れるならいいんだけど。

「あいつ、意外と俺の意図を汲み取ってるみたいで、割とスムーズにいってるよ」

「そっか！良かった！じゃあ次のメニューを次回また教えるね。」

まだあんのかよ...と思いつつも、楽しそうな蒼を見れて良かった。

もう二度とあんな思いはさせたくない。

「話戻るけどよ、お前のこと、俺がちゃんと支えるからもっと頼れよ」

「ふふ、タカヤも、わたしのこともっと頼っていいからね。」

お互いにお互いを信頼していこうと、2人で約束した、昼休み。