Chuchu
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「蒼」
「タカヤ!お待たせ!」
部活帰り、蒼に引き止められたので蒼が来るまでチャリ置き場で待っていた。
チャリは乗らずに、押しながら2人で歩道を歩く。
「蒼、どっか行きたいところでもあるのか?」
「あっ、あのね...」
白い髪を指先で弄りながら、蒼はオレから目線を外す。
「今日、うち親いないから遊びに来ないかなって...」
「親御さん、いないのか...」
わざわざ親がいない時間帯に誘うというのは、
それはつまり、"そういうこと"もOKなのだろうか。
男子高校生の発想なんて、自然とそれに直結してしまうものだ。
「いいけど、お前は大丈夫なのか?」
遠回しに確認する。
「う、うん。心の準備はできてる...」
どうやら本人もその気のようだ。
ここで断れば蒼は今後誘いづらくなるだろう。
「じゃ、お言葉に甘えて行かせてもらおうかな」
「!!夕飯は私作るから、一緒に食べよう!」
蒼の表情がパッと明るくなった。
勇気をだして誘ってくれたのだから、オレもオレで覚悟を決める。蒼から誘う前にオレから誘いたかったけど、男として。
蒼の家に着く。初めて送った時はあまりよく見てなかったけど、意外とデカイ家なことに驚きを隠しつつ、入れてもらう。
「あがってあがって!」
「はいはい」
テンション高めの蒼を見るのはオレの誕生日以来だな。
「まずは2階に行くよ!ここが私の部屋!」
階段を上ってすぐ右側にある部屋に案内される。
なんつーか、もっと女っぽいキラキラした部屋をイメージしていたのだが、ベッドにローテーブルに棚と割とシンプルで、あえて言うなら何故オルガンが置いてあるのかということにツッコミを入れたかった。
「お前、ピアノとか弾けんの?」
「あー、オルガンね。たまに弾くの。指先集中の運動だね。」
野球とピアノになんの関係があるのか甚だ謎だが、指を鍛えるためだと言われれば妙に納得してしまう。
「なんか弾いて見せて」
「いいよ」
蒼がオルガンの椅子に座る。
「じゃ、ショパンのエチュード、10-4弾きまーす」
ふぅ、と一呼吸おいて蒼が演奏を始めた。
指が速すぎてオレの目じゃ追いつかねぇ。
ショパンという人物は授業で習ったことがあるが、生で初めて聞いたもので、めちゃくちゃテンポの速い曲をソツなくこなす蒼の集中力は凄まじかった。
「はい、途中だけどこれくらいでいいかな?」
「すげーな...ピアノ習ってたのか?」
「3歳から中学まで習ってたよ」
「だったら、野球よりこっちの方が本職じゃねぇか」
「ふふ、でも上手い子はもっと上手いんだよね」
「なんで野球はじめたんだ?」
「結局、体動かすことの方が自分には向いてたんだよ。サッカーと野球やってみて、野球の方が楽しかったんだよね。バスケも楽しかったけど。」
こいつの事だから、サッカーもバスケも余裕なんだろうな...運動神経とか、反射神経とか、生まれ持った才能ってのもやっぱりあるわけで、蒼はスポーツに恵まれていたんだろう。
「蒼はなんでもできるな」
「いやそれが、美術とかは超苦手なのよ」
見て、私の絵。と言って蒼は棚から1枚の紙をとりだした。
「授業の選択、美術にしたんだけどホントに絵心がないのよ、わたし」
たしかに、言っちゃ悪いがとても上手いとは言えない自画像だった。
「ははっ...お前これ、成績大丈夫なのかよ」
「一生懸命描いてるところだけは褒められたよ」
「くっ...おもしれー。オレも選択美術にすれば良かったな。お前が描いてるところ見てみてぇ」
「やめてよー。これでも頑張ってるんだから!とりあえず1回下に降りよう!ご飯作るよ!」
そう言って今度はダイニングに案内された。
「テレビ見たいならリビングの方にあるから勝手につけていいよー」
「オレ、蒼が料理するところ見てたい」
「なん...緊張すること言わないで!」
「包丁もってこっち向くなよ。あと、手伝うことあればやるぞ」
「じゃあ、食器棚から大きいお皿と小さいお皿だしてー。今日はハヤシライスを一からつくるよ。一ノ瀬家秘伝のハヤシライスと、サラダね」
蒼は手馴れた手つきで材料を切っていく。こうしてると、なんだか家族みてーだなーとか考えながら蒼の後ろ姿を眺める。我ながら小っ恥ずかしい妄想をしてしまう。
「親御さんたちはどこいってんの?」
「お父さんもお母さんも看護師で、夜勤なんだよ」
「それじゃあ蒼1人になることも多いわけ?」
「そうだね。私1人っ子だから、よくあることだよ」
「さみしくねーの?」
「あはは、もう慣れたよ。さすがに高校生だし、親離れしてるよー」
蒼は笑って言うけど、それは今だから大丈夫なわけであって、小学生や中学生のころは1人だけ家にいるのは相当寂しかったんじゃねーの、と憶測でモノを考えていたら、なんだか蒼の背中がたまらなく愛おしく見えた。
「わっ」
思わず後ろから蒼を抱きしめたらビックリされた。けど、嫌がりはしなかった。
「もーすぐできるよー」
「腹減った」
「私もお腹すいたぁ」
「うまそーだなー」
「ハヤシライスってね、一からでも意外と簡単につくれるんだよ」
「ふーん」
悪戯心から、蒼の首筋に軽く口付けをする。
何回も、角度を変えて、筋に沿って舌を這わせる。
「...っ。タカヤのばか!ここでそんなことしないの!」
「はいはい。続きはベッドでしような」
「!!!ばか!!!」
できたから皿ちょーだい!と怒り気味に俺に指示する蒼も、それはそれで可愛く見えた。
「お、めちゃくちゃウマいな、これ」
「でしょー!小さい頃から好きなの」
「小さい頃か...蒼の小さい頃のアルバムとかねぇの?」
「私の部屋にあるよ。食べ終わったら見る?」
「そうだな。見たい。つか、メシ作ってくれてありがとう」
「どういたしまして!おかわりもあるからねー」
蒼の手料理を堪能して、2人で食器を洗い、再び2階へと戻った。
「タカヤ!お待たせ!」
部活帰り、蒼に引き止められたので蒼が来るまでチャリ置き場で待っていた。
チャリは乗らずに、押しながら2人で歩道を歩く。
「蒼、どっか行きたいところでもあるのか?」
「あっ、あのね...」
白い髪を指先で弄りながら、蒼はオレから目線を外す。
「今日、うち親いないから遊びに来ないかなって...」
「親御さん、いないのか...」
わざわざ親がいない時間帯に誘うというのは、
それはつまり、"そういうこと"もOKなのだろうか。
男子高校生の発想なんて、自然とそれに直結してしまうものだ。
「いいけど、お前は大丈夫なのか?」
遠回しに確認する。
「う、うん。心の準備はできてる...」
どうやら本人もその気のようだ。
ここで断れば蒼は今後誘いづらくなるだろう。
「じゃ、お言葉に甘えて行かせてもらおうかな」
「!!夕飯は私作るから、一緒に食べよう!」
蒼の表情がパッと明るくなった。
勇気をだして誘ってくれたのだから、オレもオレで覚悟を決める。蒼から誘う前にオレから誘いたかったけど、男として。
蒼の家に着く。初めて送った時はあまりよく見てなかったけど、意外とデカイ家なことに驚きを隠しつつ、入れてもらう。
「あがってあがって!」
「はいはい」
テンション高めの蒼を見るのはオレの誕生日以来だな。
「まずは2階に行くよ!ここが私の部屋!」
階段を上ってすぐ右側にある部屋に案内される。
なんつーか、もっと女っぽいキラキラした部屋をイメージしていたのだが、ベッドにローテーブルに棚と割とシンプルで、あえて言うなら何故オルガンが置いてあるのかということにツッコミを入れたかった。
「お前、ピアノとか弾けんの?」
「あー、オルガンね。たまに弾くの。指先集中の運動だね。」
野球とピアノになんの関係があるのか甚だ謎だが、指を鍛えるためだと言われれば妙に納得してしまう。
「なんか弾いて見せて」
「いいよ」
蒼がオルガンの椅子に座る。
「じゃ、ショパンのエチュード、10-4弾きまーす」
ふぅ、と一呼吸おいて蒼が演奏を始めた。
指が速すぎてオレの目じゃ追いつかねぇ。
ショパンという人物は授業で習ったことがあるが、生で初めて聞いたもので、めちゃくちゃテンポの速い曲をソツなくこなす蒼の集中力は凄まじかった。
「はい、途中だけどこれくらいでいいかな?」
「すげーな...ピアノ習ってたのか?」
「3歳から中学まで習ってたよ」
「だったら、野球よりこっちの方が本職じゃねぇか」
「ふふ、でも上手い子はもっと上手いんだよね」
「なんで野球はじめたんだ?」
「結局、体動かすことの方が自分には向いてたんだよ。サッカーと野球やってみて、野球の方が楽しかったんだよね。バスケも楽しかったけど。」
こいつの事だから、サッカーもバスケも余裕なんだろうな...運動神経とか、反射神経とか、生まれ持った才能ってのもやっぱりあるわけで、蒼はスポーツに恵まれていたんだろう。
「蒼はなんでもできるな」
「いやそれが、美術とかは超苦手なのよ」
見て、私の絵。と言って蒼は棚から1枚の紙をとりだした。
「授業の選択、美術にしたんだけどホントに絵心がないのよ、わたし」
たしかに、言っちゃ悪いがとても上手いとは言えない自画像だった。
「ははっ...お前これ、成績大丈夫なのかよ」
「一生懸命描いてるところだけは褒められたよ」
「くっ...おもしれー。オレも選択美術にすれば良かったな。お前が描いてるところ見てみてぇ」
「やめてよー。これでも頑張ってるんだから!とりあえず1回下に降りよう!ご飯作るよ!」
そう言って今度はダイニングに案内された。
「テレビ見たいならリビングの方にあるから勝手につけていいよー」
「オレ、蒼が料理するところ見てたい」
「なん...緊張すること言わないで!」
「包丁もってこっち向くなよ。あと、手伝うことあればやるぞ」
「じゃあ、食器棚から大きいお皿と小さいお皿だしてー。今日はハヤシライスを一からつくるよ。一ノ瀬家秘伝のハヤシライスと、サラダね」
蒼は手馴れた手つきで材料を切っていく。こうしてると、なんだか家族みてーだなーとか考えながら蒼の後ろ姿を眺める。我ながら小っ恥ずかしい妄想をしてしまう。
「親御さんたちはどこいってんの?」
「お父さんもお母さんも看護師で、夜勤なんだよ」
「それじゃあ蒼1人になることも多いわけ?」
「そうだね。私1人っ子だから、よくあることだよ」
「さみしくねーの?」
「あはは、もう慣れたよ。さすがに高校生だし、親離れしてるよー」
蒼は笑って言うけど、それは今だから大丈夫なわけであって、小学生や中学生のころは1人だけ家にいるのは相当寂しかったんじゃねーの、と憶測でモノを考えていたら、なんだか蒼の背中がたまらなく愛おしく見えた。
「わっ」
思わず後ろから蒼を抱きしめたらビックリされた。けど、嫌がりはしなかった。
「もーすぐできるよー」
「腹減った」
「私もお腹すいたぁ」
「うまそーだなー」
「ハヤシライスってね、一からでも意外と簡単につくれるんだよ」
「ふーん」
悪戯心から、蒼の首筋に軽く口付けをする。
何回も、角度を変えて、筋に沿って舌を這わせる。
「...っ。タカヤのばか!ここでそんなことしないの!」
「はいはい。続きはベッドでしような」
「!!!ばか!!!」
できたから皿ちょーだい!と怒り気味に俺に指示する蒼も、それはそれで可愛く見えた。
「お、めちゃくちゃウマいな、これ」
「でしょー!小さい頃から好きなの」
「小さい頃か...蒼の小さい頃のアルバムとかねぇの?」
「私の部屋にあるよ。食べ終わったら見る?」
「そうだな。見たい。つか、メシ作ってくれてありがとう」
「どういたしまして!おかわりもあるからねー」
蒼の手料理を堪能して、2人で食器を洗い、再び2階へと戻った。