オレの生活の一部に家族がある。
オレの生活の一部に野球がある。
オレの生活の一部に部活がある。
オレの生活の一部にチームメイトがいる。
オレの生活の一部に一ノ瀬蒼がいる。

一ノ瀬蒼は突然オレの世界に入り込んできた。

天真爛漫、一騎当千、秀外恵中、勉強もスポーツもなんでもこなす天賦の才を持つ人間だ。しかもただの天才じゃない、努力出来る天才だ。

一ノ瀬蒼という人間は、一ノ瀬蒼たらしめるために幾度となく様々な壁を打ち破ってきた人間だとオレは思う。

嫉妬、執着、羨望、期待、数多の人間からそのような眼で見られ、彼女は重い何かを背負っているかのようにも見える。

一ノ瀬蒼と付き合うようになってからは、更にそれを身近に感じるようになった。

一ノ瀬蒼は、何を思っているのだろう。

きっと口にはださない何かがあるはずだ。

何もできないオレに｢いつもありがとう｣という彼女。

その感謝の裏に、不安や過去の傷を隠しながら虚気平心を保っているのではないかと脳裏を過ぎる。

聡い彼女の世界はどのように映っているのだろう。
オレのことがどのように見えているのだろう。
自分のことをどのように評価しているのだろう。

努力家である彼女はいつも何かに飢えているように見える。勉強じゃ足りない、練習じゃ足りない、試合じゃ足りない、モデルじゃ足りない、常に先を行く彼女は何を求めているのだろう。

｢蒼｣

名前を呼ぶと、笑顔で振り向いてくれる。

その笑顔の裏に、どれだけの傷を負ってきた？

オレにできることは何がある？教えて欲しい。

教えてと頼んだところで、彼女はきっと満足していると言うだろう。

ならばせめて、その笑顔がなくならないように彼女を大切にし、彼女の要望に応え、彼女のためになる行動をとろうと強く決心した。

オレにとってお前は宝物だし、宝石よりも輝いて見える存在だし、オレが一番の理解者でありたい。

それだけは決して揺るがない、オレから蒼への決心。