chuchu 短編
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受験期間珍しく土日の連休になったときのこと。
「おー遅れ...た...」
朝7時、やたら早いデートの待ち合わせに着いた時だった。ついでに着替えももってこいと言われていた。
「タカヤ!」
「お前...今日ヒール履いてんのか」
目線が、蒼とあまり変わらないのだ。
同じくらいの身長になってしまった。
俺の方が少し、高いくらい。
「タカヤの背越さないように高さは合わせたよ笑」
それにしたって、長身になったもんで周りの目線はより一層目立つわけで。
冬だと言うのにサングラスかけてるし。
まぁ身バレ防止には必要な措置だ。
「帽子ももってきたか?」
「うん。あるよー」
「かぶっとけ」
髪をポニーテールにして帽子をかぶる蒼。
さすがに前回の雑誌で表紙を飾ったからか、サングラスをしても周りの目線がチラつく。
「うーん、髪の毛、染めようかなぁ」
「そこまでしなくていいだろ?そうじゃなきゃ、お前の良さというか、ひとつのアイデンティティが失われる気がする」
「そーお?タカヤがそういうならそのままでいっか」
俺のために染めようとしてたのか。まぁ、毎回目立つのも蒼的には申し訳ないのだろう。
「オレのことは気にすんな。つーか、もう慣れた」
「さすがタカヤ!頼りになるなぁ!」
「お前といたら異常なことも普通に思えて感覚バグるっつの。両手投げなんて聞いたことねーし」
「わたしの努力の賜物よねぇ。もっと褒め讃えよ!」
「はいはい、偉い偉い。今日はどこ行くんだ?」
「む、テキトーだなぁ!今日はこれから、福岡に行きマース!」
「はぁ?!」
いったいこいつは何を言ってるんだ。
「羽田で乗って、福岡まで1本!福岡空港は博多と地下鉄が近いからすっごく便利な場所にあるの!」
「いやお前、突然すぎんだろ。」
「博多からは福岡の高校の監督が迎えに来てるから準備万端!泊まる場所も取ってるよ!」
「お前...オレそんなに金ねーぞ」
「カードで払ったから大丈夫!親にも事情説明したから!」
とりあえず行こう!と手を握って電車へ走り出す蒼。
もしかしてこいつ、自分の母校の野球部見せようとしてるのか?
そんなことしていいのか?つーか、相手校は休みじゃないのか?
「いろいろパニクってるみたいだけど、今日はわたしの母校の練習をみてもらいます!連絡はしてあります!」
「おおう、予想はついてた」
「1泊2日で予定パンパンだから、いそごう!」
こうしてオレらは無事、羽田空港へたどり着いた。
「9時の便があるからそっから2時間、お昼は軽く済ませて、昼練見させてもらお」
お前は何から何まで俺らのために...
「金は出世払いで返すな」
「あはは!楽しみにしてる!でもタカヤとここにこれたほうが嬉しいよ!」
荷物は元々少なかったので、すんなり保安検査場を通過した。
ピーンポーン
博多行の便の方、これよりご搭乗できます。
ドキドキしてきた。こんなに遠方まで行くのははじめてだ。
しかも女子野球の練習を見に行くなんて。
...
...
2時間ほど経ったか、福岡空港に着いていた。
「蒼、起きろ」
「んー、モーちょっと」
「降りる時間だ。周りに迷惑かけんな」
「ふあーい」
んーっと、けのびをして目を覚ます蒼。
やっと空港を降りて、地下鉄も繋がっててあっという間に博多に着いた。確かにすげー便利だ。
「あ!カントク〜!」
「蒼!元気だった?」
「超元気です!わたし、さらに進化しましたよ!」
「はは、それは楽しみだなぁ。学校行こうか」
「今日はよろしくお願いします!」
「君が捕手の阿部くんだね?蒼から話は聞いてるよ。なかなかキレのある捕手ってね」
「ありがとうございます!」
「今日は練習見にきたとよね?」
九州の言葉だ...。
「はい!あとはデータ活用法とかも知りたいです」
「まぁ、それくらいなら問題なかね。とりあえず学校へ向かおうか」
車で蒼の母校へ向かう。
「なんで蒼は野球続けんかったと?」
突然のコトバに一瞬沈黙になる。
「...チームが変わるくらいなら、やらなくてもいいかなって思っちゃったんです」
「そんなにうちのチームが良かったと?まぁ、蒼は大活躍してたもんね」
「誰とやるか、ってのはすごく大事だと思います!でも、大学では復活するつもりです!」
「ほんとね?それはよかった。みんな心配しとったとよ」
「みんなに会えるのが楽しみです!」
「よし、ついたし、グラウンド行こうか」
「久しぶりにみんなと会える〜!」
「オレは完全アウェーじゃねぇか」
「大丈夫!すぐに馴染めるよ!みんないい子だから!」
「「おはようございます!!!」」
「はい、おはよう。今日はみんなと久々に会う、蒼が来てくれました」
「きゃ〜蒼〜!」
「久しぶり〜!元気しとった?」
「隣の男子は誰?!彼氏?!」
「はは!みんな久しぶり!隣にいるのは彼氏であり西浦の正捕手の阿部隆也です!タカヤ!」
「阿部です。今日は練習見て勉強させてもらいにきました。よろしくお願いします」
「蒼、マネジで好き勝手やってない〜?」
「それはもうやりたい放題っすよ。投手として練習に参加したり」
「だと思ったー!蒼のことだけん、なんだかんだまだボール投げとるっちゃねーてみんなで言っとったとよ!」
みんながクスクスと笑う。
「さて、トスバッティングにもどるよ!」
「「はい!!!」」
急に全員顔つきが変わりマジモードになった。
「今日はキャッチボールして、ノックして、トスバッティングして、紅白戦して、最後にひとりひとり紅白戦の報告を報告して終わり」
「練習の報告ってのは、いつもやってるんですか?」
「うちは紅白戦をよくやってて、その後は必ず反省会をしとーとよ。一人一人の感想、ミスしたら次どうするか、周りもどう気をつけたらいいか、そういう情報共有みたいなものをやる」
「なるほど...でも、結構時間使いません?」
「脳みそ、勝つってイメージをもたせるのも大事だからね。そこは惜しまないよ」
「勝つイメージをもたせる練習というのはやってこなかったですね」
「今西浦は10人しかおらんとでしょ?したら、新入生入ってからやってみたらいい。絶対ためになると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
こうしてトスバッティングが終わり紅白戦が始まった。
「じゃーーーーん!!」
「?!お前!!」
「練習着だよ!実は紅白戦に参加するんだー!えへ」
「えへ、じゃねぇよ。そういうのは事前に言えよな」
そしたら俺も防具持ってきたのに。
「タカヤはわたしの勇姿を見てて!」
両利きのグローブを見て、みんなが驚いている。
そりゃそーだ。今どき両利きのピッチャーなんてみたことがねぇ。そもそも両利きにするメリットがないからだ。あいつは練習用にいいから、っつーことでなったみてぇだけど。
紅白戦、蒼は後攻で早速投げることに。
一球目はストレートをインハイに。
急速あがってっから、相手は振り遅れた。
二球目はスクリューを外に。
これも西浦で身につけた球種だ。バッターにとっては驚くことばかりだろう。
三球目、チェンジアップを真ん中低めに。
緩急ついて相手はタイミングがとれず振り切ってしまった。
三球三振。
「...蒼は数ヶ月のうちにかなり成長したねぇ...」
「はい。たった数ヶ月であの伸び代はやばいです。まだ何かしてやろうと考えてそうな...」
「阿部くんは蒼のことよくみとるね」
「練習中はバッテリー組んでますからね」
「それだけじゃなかろ?付き合ってるっていうのも大きかと思うんよ」
「まぁ、今日の福岡行きといい、紅白戦参加と言い、フットワークの軽さにはついていくので必死ですが」
「蒼はみんなをひっぱってくれるでしょ?」
「あ、それはオレも思いました。あいつにはそういう人を惹きつける力があると思います。」
「でしょ?あの子がうちにいたときも相当助けられたよ。自らが進んで、チームを引っ張る。自分がエースであることの荷の重さを抱えながらも誰よりも前に進む。だからみんなはついていく。女子野球界は放っておかなかったよ。でも引越し先では女子野球はやらないって言う。だから今、蒼がどこで何をしてるか知らない記者やスカウトはたくさんいてね、聞かれるんだけど、今のところは断っとるとよ」
「それは...ありがたいです。蒼は今の環境を気に入ってるみたいだし、外野が足を踏み込んでくるのは今は良くないと思います」
「でもほら、モデル、やってるでしょ?いつか野球界にも耳に入ると思うから、バレるのも時間の問題だと思うとよ。だから阿部くん、蒼のこと、守ってやってね」
「はい!」
気づけば1回表が終わっていた。蒼はランナーを1人も出さなかったらしい。
「はぁーー!みんなと久しぶりに野球ができて楽しい!!!」
「このまま完封しそうだな」
「狙ってるよ!新生一ノ瀬蒼はそんなに簡単にやられないってね!」
...
...
9回裏、蒼がタイムリーツーベースヒットを放ち3:1でゲーム終了となった。
「4打数2安打かぁ〜〜。打つ方は練習してないからなぁ〜」
充分だと思うが。
「それじゃ、反省会はじめるよ!」
カントクの一言で全員が輪になる。
「じゃあ投手のわたしから。みんなもっと、守備位置を気にして欲しい。打者ごとに好き嫌いを研究して、それぞれに合った守備位置をとってほしい。それだけでだいぶ変わる。プレッシャーにもなる。あとは盗塁をもっと学ぶこと。盗塁してる人、全然いなかったよね。練習メニューに入れてもいいと思う。盗塁はヒット一本分トクするんだから、やれるならいくらでもやった方がいい」
みんながそうかぁ〜と感心している。
こうやって1人ずつが気づいた点を述べて言った。
たしかにこれは、新入生が入ってきたらやってみたい。絶対やりがいがあることだ。
「はい!じゃあストレッチしたら今日は終わり!」
「「はい!」」
「カントク、チームのみんな、今日はありがとうございました!勉強になりました!たまには遊びにくるね!」
「俺も今日は勉強になりました。ありがとうございました」
「ふたりともまたいつでも来てね〜!」
「蒼〜寂しいよ〜」
「埼玉行くことあったら言うね!」
「2人とも、今日見て感じたことをぜひ次の練習から活かしほしい。またいつでも来ていいからね」
「「はい!ありがとうございました!」」
...
「いやー。楽しかったね」
「見応えはあったな」
「やっぱり紅白戦ができないのがうちはきついね。はやく新入生入ってこないかなぁ」
「そうだな、10人はほしいとこだよな」
「マネジも増やさなきゃな」
「そしたらお前、本格的に練習用ピッチャーになるな」
「はは!それでもいけど!あ、今日泊まるホテルはここになりまーす。普通のビジネスです」
普通のビジネスにしても、エントランスからして高そうな雰囲気が漂っている。
「チェックインして、そのあとご飯食べに行こ。予約してあるんだ」
蒼に言われるがまま、チェックインし、またすぐ外に出た。
「博多と言えば水炊きなんだよ」
「そうなのか。めんたいこのイメージしかなかった。」
「近くにあるから行こう!」
2人で手を繋いで歩く。
「ついた」
本当に近くにあってものの数分で着いてしまった。
「予約してた一ノ瀬です」
「一ノ瀬さま、お待ちしておりました」
何だかすげー高そうな店内で緊張してしまう。こんなラフな格好できていい店なんだろうか。
「お席はこちらでございます。メニューはこちらから、コースでお選びいただけます」
「水炊きのコースでお願いします」
「かしこまりました。追加でお野菜など足せますがいかがいたしましょう?」
「鶏もも肉と野菜セットを2人前追加でお願いします」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
蒼がサクサクとメニューを決めていくので俺が口を開く余裕などなかった。むしろどうしたらいいのか分からないから助かったけど。
「ここはね、もつ鍋もやってるんだ。もつ鍋も美味しいけど、やっぱり素材の味を楽しんで欲しいから水炊きにしたの」
「もつ鍋も有名なんだな」
「博多ラーメンや明太子こと並ぶくらい地元じゃ有名だよ。すごく美味しいからまた今度来た時たべようね」
「次はオレも自分で金払うから、勝手にやるなよ」
「あはは!今日は意外なことだらけだったでしょう?疲れた?」
「全然。俺動いてないしな。むしろお前は疲れてないのか?」
「実はちょっと眠いー」
へへ、と言いながらへらへらするこいつを見るのも久しぶりかもしれない。
「おまたせしました」
IHの上に鍋が置かれる。
「こちら水炊きのコースです。お野菜が浸ってきたら食べ頃です。白く濁っているのは白米もお出汁の一部としていれているからです。まずはぜひお出汁の味をご正味いただき、その次にポン酢、ゆずこしょうなどで味の変化をお楽しみください。また、こちらお肉、お野菜の順番でお召し上がりください。」
失礼します、と言って店員が去っていった。
「オレが知ってる水炊きと全然違う...」
「でしょ?本場の水炊きはこうなのよ!野菜が浸ってきたら食べようねー」
「なんで肉から先に食うんだ?」
「お肉が固くなるからだよー」
なるほど。そういう理由があるのか。それほどきちんとした店なんだな。
まずは出汁を軽く飲んでみた。
「うまい...」
「お出汁美味しいでしょ?このままでも充分だけど、わたしは柚子胡椒つけて食べるのが好きなんだー」
蒼は早速柚子胡椒につけて食べている。
じゃあオレはポン酢で...。
「うまい...」
「はは、タカヤそれしか言ってないじゃん」
「そんくらいマジでうめぇ。水炊きってもっとシンプルなものかと思ってたけどそうじゃないんだな。奥深い味がする」
「気に入って貰えてよかった!」
腹いっぱいになるまで水炊きと米を食べ、ホテルに戻った。
「シャワー浴びてくるねー」
「おー」
...
「生理始まってた...」
ガチャっと、風呂場から出ると同時に蒼は青ざめた顔をしていた。
「なんか顔色悪いぞ、生理きついのか?」
「うん...体調悪くなる...薬もってきておいてよかったー」
「それならよかった。じゃあオレも浴びてくるな」
「うん!」
5分後
ガチャ
「はや!!」
「男だからこんなもんだろ」
「まぁ髪も短いしねぇ...」
2人で一緒のベッドに入る。
「今日...できなくてごめんね」
「別に気にしてねーよ。それよかお前の体調のほうが気になるっつの」
「薬飲めば大丈夫だから、安心して」
「ならよかった。寝るぞ」
「うん、おやすみなさい」
部屋の灯りを暗くして、眠りについた。
翌朝、朝食をバイキングで食べ、博多を散策して無事夕方、埼玉まで戻ってきた。
「ハードスケジュールだったのに付き合ってくれてありがとうね」
「楽しめたから良かったよ。ただし次からは相談しろよな」
「ふふっ、りょーかい」
こうして弾丸1泊2日の福岡旅行は幕を閉じた。
蒼も俺も、帰宅したあと泥のように眠った。
「おー遅れ...た...」
朝7時、やたら早いデートの待ち合わせに着いた時だった。ついでに着替えももってこいと言われていた。
「タカヤ!」
「お前...今日ヒール履いてんのか」
目線が、蒼とあまり変わらないのだ。
同じくらいの身長になってしまった。
俺の方が少し、高いくらい。
「タカヤの背越さないように高さは合わせたよ笑」
それにしたって、長身になったもんで周りの目線はより一層目立つわけで。
冬だと言うのにサングラスかけてるし。
まぁ身バレ防止には必要な措置だ。
「帽子ももってきたか?」
「うん。あるよー」
「かぶっとけ」
髪をポニーテールにして帽子をかぶる蒼。
さすがに前回の雑誌で表紙を飾ったからか、サングラスをしても周りの目線がチラつく。
「うーん、髪の毛、染めようかなぁ」
「そこまでしなくていいだろ?そうじゃなきゃ、お前の良さというか、ひとつのアイデンティティが失われる気がする」
「そーお?タカヤがそういうならそのままでいっか」
俺のために染めようとしてたのか。まぁ、毎回目立つのも蒼的には申し訳ないのだろう。
「オレのことは気にすんな。つーか、もう慣れた」
「さすがタカヤ!頼りになるなぁ!」
「お前といたら異常なことも普通に思えて感覚バグるっつの。両手投げなんて聞いたことねーし」
「わたしの努力の賜物よねぇ。もっと褒め讃えよ!」
「はいはい、偉い偉い。今日はどこ行くんだ?」
「む、テキトーだなぁ!今日はこれから、福岡に行きマース!」
「はぁ?!」
いったいこいつは何を言ってるんだ。
「羽田で乗って、福岡まで1本!福岡空港は博多と地下鉄が近いからすっごく便利な場所にあるの!」
「いやお前、突然すぎんだろ。」
「博多からは福岡の高校の監督が迎えに来てるから準備万端!泊まる場所も取ってるよ!」
「お前...オレそんなに金ねーぞ」
「カードで払ったから大丈夫!親にも事情説明したから!」
とりあえず行こう!と手を握って電車へ走り出す蒼。
もしかしてこいつ、自分の母校の野球部見せようとしてるのか?
そんなことしていいのか?つーか、相手校は休みじゃないのか?
「いろいろパニクってるみたいだけど、今日はわたしの母校の練習をみてもらいます!連絡はしてあります!」
「おおう、予想はついてた」
「1泊2日で予定パンパンだから、いそごう!」
こうしてオレらは無事、羽田空港へたどり着いた。
「9時の便があるからそっから2時間、お昼は軽く済ませて、昼練見させてもらお」
お前は何から何まで俺らのために...
「金は出世払いで返すな」
「あはは!楽しみにしてる!でもタカヤとここにこれたほうが嬉しいよ!」
荷物は元々少なかったので、すんなり保安検査場を通過した。
ピーンポーン
博多行の便の方、これよりご搭乗できます。
ドキドキしてきた。こんなに遠方まで行くのははじめてだ。
しかも女子野球の練習を見に行くなんて。
...
...
2時間ほど経ったか、福岡空港に着いていた。
「蒼、起きろ」
「んー、モーちょっと」
「降りる時間だ。周りに迷惑かけんな」
「ふあーい」
んーっと、けのびをして目を覚ます蒼。
やっと空港を降りて、地下鉄も繋がっててあっという間に博多に着いた。確かにすげー便利だ。
「あ!カントク〜!」
「蒼!元気だった?」
「超元気です!わたし、さらに進化しましたよ!」
「はは、それは楽しみだなぁ。学校行こうか」
「今日はよろしくお願いします!」
「君が捕手の阿部くんだね?蒼から話は聞いてるよ。なかなかキレのある捕手ってね」
「ありがとうございます!」
「今日は練習見にきたとよね?」
九州の言葉だ...。
「はい!あとはデータ活用法とかも知りたいです」
「まぁ、それくらいなら問題なかね。とりあえず学校へ向かおうか」
車で蒼の母校へ向かう。
「なんで蒼は野球続けんかったと?」
突然のコトバに一瞬沈黙になる。
「...チームが変わるくらいなら、やらなくてもいいかなって思っちゃったんです」
「そんなにうちのチームが良かったと?まぁ、蒼は大活躍してたもんね」
「誰とやるか、ってのはすごく大事だと思います!でも、大学では復活するつもりです!」
「ほんとね?それはよかった。みんな心配しとったとよ」
「みんなに会えるのが楽しみです!」
「よし、ついたし、グラウンド行こうか」
「久しぶりにみんなと会える〜!」
「オレは完全アウェーじゃねぇか」
「大丈夫!すぐに馴染めるよ!みんないい子だから!」
「「おはようございます!!!」」
「はい、おはよう。今日はみんなと久々に会う、蒼が来てくれました」
「きゃ〜蒼〜!」
「久しぶり〜!元気しとった?」
「隣の男子は誰?!彼氏?!」
「はは!みんな久しぶり!隣にいるのは彼氏であり西浦の正捕手の阿部隆也です!タカヤ!」
「阿部です。今日は練習見て勉強させてもらいにきました。よろしくお願いします」
「蒼、マネジで好き勝手やってない〜?」
「それはもうやりたい放題っすよ。投手として練習に参加したり」
「だと思ったー!蒼のことだけん、なんだかんだまだボール投げとるっちゃねーてみんなで言っとったとよ!」
みんながクスクスと笑う。
「さて、トスバッティングにもどるよ!」
「「はい!!!」」
急に全員顔つきが変わりマジモードになった。
「今日はキャッチボールして、ノックして、トスバッティングして、紅白戦して、最後にひとりひとり紅白戦の報告を報告して終わり」
「練習の報告ってのは、いつもやってるんですか?」
「うちは紅白戦をよくやってて、その後は必ず反省会をしとーとよ。一人一人の感想、ミスしたら次どうするか、周りもどう気をつけたらいいか、そういう情報共有みたいなものをやる」
「なるほど...でも、結構時間使いません?」
「脳みそ、勝つってイメージをもたせるのも大事だからね。そこは惜しまないよ」
「勝つイメージをもたせる練習というのはやってこなかったですね」
「今西浦は10人しかおらんとでしょ?したら、新入生入ってからやってみたらいい。絶対ためになると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
こうしてトスバッティングが終わり紅白戦が始まった。
「じゃーーーーん!!」
「?!お前!!」
「練習着だよ!実は紅白戦に参加するんだー!えへ」
「えへ、じゃねぇよ。そういうのは事前に言えよな」
そしたら俺も防具持ってきたのに。
「タカヤはわたしの勇姿を見てて!」
両利きのグローブを見て、みんなが驚いている。
そりゃそーだ。今どき両利きのピッチャーなんてみたことがねぇ。そもそも両利きにするメリットがないからだ。あいつは練習用にいいから、っつーことでなったみてぇだけど。
紅白戦、蒼は後攻で早速投げることに。
一球目はストレートをインハイに。
急速あがってっから、相手は振り遅れた。
二球目はスクリューを外に。
これも西浦で身につけた球種だ。バッターにとっては驚くことばかりだろう。
三球目、チェンジアップを真ん中低めに。
緩急ついて相手はタイミングがとれず振り切ってしまった。
三球三振。
「...蒼は数ヶ月のうちにかなり成長したねぇ...」
「はい。たった数ヶ月であの伸び代はやばいです。まだ何かしてやろうと考えてそうな...」
「阿部くんは蒼のことよくみとるね」
「練習中はバッテリー組んでますからね」
「それだけじゃなかろ?付き合ってるっていうのも大きかと思うんよ」
「まぁ、今日の福岡行きといい、紅白戦参加と言い、フットワークの軽さにはついていくので必死ですが」
「蒼はみんなをひっぱってくれるでしょ?」
「あ、それはオレも思いました。あいつにはそういう人を惹きつける力があると思います。」
「でしょ?あの子がうちにいたときも相当助けられたよ。自らが進んで、チームを引っ張る。自分がエースであることの荷の重さを抱えながらも誰よりも前に進む。だからみんなはついていく。女子野球界は放っておかなかったよ。でも引越し先では女子野球はやらないって言う。だから今、蒼がどこで何をしてるか知らない記者やスカウトはたくさんいてね、聞かれるんだけど、今のところは断っとるとよ」
「それは...ありがたいです。蒼は今の環境を気に入ってるみたいだし、外野が足を踏み込んでくるのは今は良くないと思います」
「でもほら、モデル、やってるでしょ?いつか野球界にも耳に入ると思うから、バレるのも時間の問題だと思うとよ。だから阿部くん、蒼のこと、守ってやってね」
「はい!」
気づけば1回表が終わっていた。蒼はランナーを1人も出さなかったらしい。
「はぁーー!みんなと久しぶりに野球ができて楽しい!!!」
「このまま完封しそうだな」
「狙ってるよ!新生一ノ瀬蒼はそんなに簡単にやられないってね!」
...
...
9回裏、蒼がタイムリーツーベースヒットを放ち3:1でゲーム終了となった。
「4打数2安打かぁ〜〜。打つ方は練習してないからなぁ〜」
充分だと思うが。
「それじゃ、反省会はじめるよ!」
カントクの一言で全員が輪になる。
「じゃあ投手のわたしから。みんなもっと、守備位置を気にして欲しい。打者ごとに好き嫌いを研究して、それぞれに合った守備位置をとってほしい。それだけでだいぶ変わる。プレッシャーにもなる。あとは盗塁をもっと学ぶこと。盗塁してる人、全然いなかったよね。練習メニューに入れてもいいと思う。盗塁はヒット一本分トクするんだから、やれるならいくらでもやった方がいい」
みんながそうかぁ〜と感心している。
こうやって1人ずつが気づいた点を述べて言った。
たしかにこれは、新入生が入ってきたらやってみたい。絶対やりがいがあることだ。
「はい!じゃあストレッチしたら今日は終わり!」
「「はい!」」
「カントク、チームのみんな、今日はありがとうございました!勉強になりました!たまには遊びにくるね!」
「俺も今日は勉強になりました。ありがとうございました」
「ふたりともまたいつでも来てね〜!」
「蒼〜寂しいよ〜」
「埼玉行くことあったら言うね!」
「2人とも、今日見て感じたことをぜひ次の練習から活かしほしい。またいつでも来ていいからね」
「「はい!ありがとうございました!」」
...
「いやー。楽しかったね」
「見応えはあったな」
「やっぱり紅白戦ができないのがうちはきついね。はやく新入生入ってこないかなぁ」
「そうだな、10人はほしいとこだよな」
「マネジも増やさなきゃな」
「そしたらお前、本格的に練習用ピッチャーになるな」
「はは!それでもいけど!あ、今日泊まるホテルはここになりまーす。普通のビジネスです」
普通のビジネスにしても、エントランスからして高そうな雰囲気が漂っている。
「チェックインして、そのあとご飯食べに行こ。予約してあるんだ」
蒼に言われるがまま、チェックインし、またすぐ外に出た。
「博多と言えば水炊きなんだよ」
「そうなのか。めんたいこのイメージしかなかった。」
「近くにあるから行こう!」
2人で手を繋いで歩く。
「ついた」
本当に近くにあってものの数分で着いてしまった。
「予約してた一ノ瀬です」
「一ノ瀬さま、お待ちしておりました」
何だかすげー高そうな店内で緊張してしまう。こんなラフな格好できていい店なんだろうか。
「お席はこちらでございます。メニューはこちらから、コースでお選びいただけます」
「水炊きのコースでお願いします」
「かしこまりました。追加でお野菜など足せますがいかがいたしましょう?」
「鶏もも肉と野菜セットを2人前追加でお願いします」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
蒼がサクサクとメニューを決めていくので俺が口を開く余裕などなかった。むしろどうしたらいいのか分からないから助かったけど。
「ここはね、もつ鍋もやってるんだ。もつ鍋も美味しいけど、やっぱり素材の味を楽しんで欲しいから水炊きにしたの」
「もつ鍋も有名なんだな」
「博多ラーメンや明太子こと並ぶくらい地元じゃ有名だよ。すごく美味しいからまた今度来た時たべようね」
「次はオレも自分で金払うから、勝手にやるなよ」
「あはは!今日は意外なことだらけだったでしょう?疲れた?」
「全然。俺動いてないしな。むしろお前は疲れてないのか?」
「実はちょっと眠いー」
へへ、と言いながらへらへらするこいつを見るのも久しぶりかもしれない。
「おまたせしました」
IHの上に鍋が置かれる。
「こちら水炊きのコースです。お野菜が浸ってきたら食べ頃です。白く濁っているのは白米もお出汁の一部としていれているからです。まずはぜひお出汁の味をご正味いただき、その次にポン酢、ゆずこしょうなどで味の変化をお楽しみください。また、こちらお肉、お野菜の順番でお召し上がりください。」
失礼します、と言って店員が去っていった。
「オレが知ってる水炊きと全然違う...」
「でしょ?本場の水炊きはこうなのよ!野菜が浸ってきたら食べようねー」
「なんで肉から先に食うんだ?」
「お肉が固くなるからだよー」
なるほど。そういう理由があるのか。それほどきちんとした店なんだな。
まずは出汁を軽く飲んでみた。
「うまい...」
「お出汁美味しいでしょ?このままでも充分だけど、わたしは柚子胡椒つけて食べるのが好きなんだー」
蒼は早速柚子胡椒につけて食べている。
じゃあオレはポン酢で...。
「うまい...」
「はは、タカヤそれしか言ってないじゃん」
「そんくらいマジでうめぇ。水炊きってもっとシンプルなものかと思ってたけどそうじゃないんだな。奥深い味がする」
「気に入って貰えてよかった!」
腹いっぱいになるまで水炊きと米を食べ、ホテルに戻った。
「シャワー浴びてくるねー」
「おー」
...
「生理始まってた...」
ガチャっと、風呂場から出ると同時に蒼は青ざめた顔をしていた。
「なんか顔色悪いぞ、生理きついのか?」
「うん...体調悪くなる...薬もってきておいてよかったー」
「それならよかった。じゃあオレも浴びてくるな」
「うん!」
5分後
ガチャ
「はや!!」
「男だからこんなもんだろ」
「まぁ髪も短いしねぇ...」
2人で一緒のベッドに入る。
「今日...できなくてごめんね」
「別に気にしてねーよ。それよかお前の体調のほうが気になるっつの」
「薬飲めば大丈夫だから、安心して」
「ならよかった。寝るぞ」
「うん、おやすみなさい」
部屋の灯りを暗くして、眠りについた。
翌朝、朝食をバイキングで食べ、博多を散策して無事夕方、埼玉まで戻ってきた。
「ハードスケジュールだったのに付き合ってくれてありがとうね」
「楽しめたから良かったよ。ただし次からは相談しろよな」
「ふふっ、りょーかい」
こうして弾丸1泊2日の福岡旅行は幕を閉じた。
蒼も俺も、帰宅したあと泥のように眠った。