入試期間中グラウンドに入れないので何をするかという話で、タカヤが神奈川の強豪校の練習を見に行かないかと提案した。
反対する人もなく、みんなで分担して強豪校に行くことになった。

それはもう少しあとの話。
今日は2月14日、バレンタインデーである。

「一ノ瀬蒼さん！これもらってください！」

「一ノ瀬さん！よかったら食べてください！」

「蒼ちゃん！これ、バレンタイン！」



「というのが、昼休みオレといる間だけでも10件ほどきた。」

部室で「「スゲー！！」」という声が湧く。

「蒼はスーパースターだなー」

「コースケ、スーパースターは恥ずかしい」

「事実じゃん？」

「うっ...全く知らない子たちからチョコをもらってこれ、お返しとかいるのかな？何組の誰かなんて覚えてないよ〜」

「お返しなんて求めてないんだろ、あげたいだけだと思うぞ」

うんうん、とみんなが頷く中で、ショージが大きな箱を取り出した。

「あの...これ作ったんだけどさ...」

手に持った箱を開けると、色とりどりのマカロンが並んでいた。

「バレンタイン、俺でゴメンな」

「このお店と変わらないマカロンを巣山くんが作ったの？！」
と、ちよちゃんのテンションが上がる。

「ショージすげー！」

「食っていい？食っていい？」

「俺ピンクがいいー！」

「緑はなんだ？」

「ピスタチオだよ！」

みんながマカロンを堪能しているなか、蒼が気まずそうに声をかけた。

「あのー...私も作ってきたんだけどさ、さっき冷蔵庫からだしてきた...」

箱に入っているのは、クッキーシュー。

「わー！シュークリームだ！」

「やばい！部活前にマカロンもシュークリームも食えるなんて！」

「一ノ瀬さん...これ膨らますの大変じゃなかった？」

「うん...ショージの言う通り。失敗作は自分で供養した」

すげー！うめぇー！とユウやフミキが盛り上がっている中、ショージと蒼の出来のいいスイーツを見て、ちよは変に手作りとかしなくてよかった〜と身に染みて感じていた。

「タカヤは、はい。特別に作ったフィナンシェを授けます」

「おー、サンキュー」

「タカヤばっかりずりぃー！」

「ごめんねユウ、こればっかりは我慢して」

「くぅー！なんか悔しい！ショージのマカロンもっとくれ！」



「あとこれ、ブラバンとダンス部にも持っていきたいんだけど」

手作りで重いかな？と心配するショージに、
みんな喜ぶと思うよ、とフミキがフォローする。

「じゃあ、花井、ついてきてくれ！」

「おう、行くか！」

「あ、待って！！わたしもダンス部には持っていきたいものがある！！」

というわけで、3人でダンス部がいる体育館に向かった。

「友井さん！」

「えっ、わたし？！」

「あ、花井キャプテンに巣山くんに蒼ちゃん、どうしたの？」

「応援ありがとうございました！これ、作ったものですが、よかったらもらってください！」

「あやのちゃん！みあちゃん！越智先輩！先日はお世話になりました！わたしからも、作り物だけどみんなで食べてください！」

「えーなに？バレンタインだからー？」

「本物の一ノ瀬蒼だー」

「女神像だー」

「これ手作り？すごーい」

わいわいとみんなが寄ってきた。

「越智センパーイ！蒼ちゃんが来てますよー！」

「蒼〜！久しぶり！元気してた？」

「はい！越智先輩相変わらずキレイっすね！うちの部員が応援のお礼もってきたので、食べてください！わたしからもあるので合わせてどうぞ！」

「ありがたくいただくね」

「あの、お、お返しは、な、な、」

「夏の応援で？」とあやのちゃん。

「「うっす！」」

「じゃあまたー！」

手を振ってダンス部をあとにした。
ついでだからブラバンにもついていくことにした。

「うわ！一ノ瀬蒼がいる...！」

「一ノ瀬蒼だ！初めて見た！」

「生で見るとマジでやばい！」

「野球部のマネしてるってホントだったんだ」


「あの！夏は応援ありがとうございました！作り物ですが、みなさんで食べてください！」

「お礼は来年の、夏の応援でお願いします！」

「3人とも、ありがとう！みんなでありがたくいただきます！また応援いきますね！」

「「ありがとうございます！」」

「ふぅー、一緒について行っただけで緊張したねぇ」

「俺も緊張した...！2人ともついてきてくれてありがとう！」

「相変わらず蒼は目立ってたな...よし！練習もどるぞ！」



グラウンドに戻るとみんなランニングに出ていた。

「俺とショージは追いかけるから、じゃあな！」

「行ってらっしゃーい！」

「蒼ちゃん、ダンス部とブラバン行ってきたの？」

「うん！あいさつしてきた！」

「蒼ちゃんが行ったら目立ちそうだけど、大丈夫だった？」

「んーーーーたぶん大丈夫！」

ホントに大丈夫だったのかな...と心配するちよとは裏腹に、蒼は平然としていた。

「今日はキャッチボールと氷鬼とノック終わったら実戦形式やるから、蒼ちゃんのメインはピッチャーだね」

「そうなんだ！じゃあ今のうちにご飯炊きにいく？」

「そうだね！それがいい！」

「おにぎり作るとこまでやれたらいいけど」

「まぁそこはタイミングみて決めよ」

「ありがとう！」

ちよちゃんとお米を炊きにきた。

「蒼ちゃん、身長伸びてない？」

「え？！嘘？！」

「なんか、初めて会った時より目線が高くなった気がする...」

「は、測りたいぃ〜」

「測る場所あるから、一緒に行こうよ」

「行くー！」

というわけで、身長測定器があるところへ2人で向かった。

「ふぅー、ドキドキする」

「測るね〜」

カチャン

蒼の頭のてっぺんで測定器を止める。

「えっと〜167.8！」

「え？！やば！中3から2センチも伸びてる！」

「すごいね〜！女の子でこんなに伸びる子少ないと思うよ」

「170いかないかな〜いってほしいな〜」

「身長伸ばすためには、タンパク質が大事だね！」

「よーし、朝と夜は納豆と豆腐沢山食べる！」

「モデルさんってやっぱり身長が大事なんだね」

「すごく大事だよ！170でも低いくらい！ホンモノは180近くあるからね！」

「モデルにホンモノもニセモノもあるの？」

「日本のモデルだったらそこまで求められないけど、海外の大きなショーにでるなら175はいるね。」

「蒼ちゃんは世界を目指してるの？」

「そうだよ！わたしは大学卒業したらモデルに専念するつもり！世界で活躍したいと思ってる！最低でも170は欲しい！」

でも高校と大学では、青春を謳歌したいけどね！

そう言う蒼ちゃんは相変わらず眩しかった。

将来のことまで考えてて、偉いなぁ...

「わたし、蒼ちゃんの夢応援する！」

「へへ、ありがとう〜」

蒼ちゃんのやりたい「青春」を聞きながら、
2人でグラウンドに戻った。

みんなは氷鬼をしていた。

「ちよちゃん、お米炊けてそうだから今のうちにおにぎり作りに行こう」

「そうだね！」

ノックが終わるまでまだまだ時間があるからおにぎりをひたすら作る。





「全部できた！何気にこれが一番大変な仕事じゃない？」

「そうなんだよね...数が数だから、やってる仕事では一番大変かも」

「にしても、今日も手伝えて良かった」

「そんなこと気にしてたの？」

「気にするよー。ちよちゃんひとりにさせるの申し訳ない」

「あはは！わたしのことは気にしなくていいよ！それより蒼ちゃんにしかできないことやってほしいもん！」

「て、天使がいる〜！」

「天使って、大袈裟〜！」

キャッキャと笑いながらグラウンドにもどる。

ノックが始まっていた。

「蒼！」

「タカヤ、何？」

「このあとの練習参加するんだろ、球受けるから準備しろ」

「あ、そうだった。ちよちゃん、私抜けるね！」

「はーい、いってらっしゃーい」

彼女がピッチャーで、彼氏がキャッチャーで、バッテリーも組めちゃって、2人が出会うために蒼ちゃんは西浦に来たんじゃないだろうか...。

でも、バッテリーを組んでるときの2人は恋人同士とは思えない、ホンキで野球をしている人たちにしか見えない。

「一球！」

パァン！

「二球！」

パァン！

蒼ちゃんの顔が、さっきまでニコニコ笑顔だったのと真反対になっている。阿部くんのミットだけを見て、他には興味もない、ちょっとだけ冷たそうな、周りが凍りつくような、それくらい集中力がすごい。ゾクッとしてしまう。

「十球！」

パァン！

「次、ツーシームな、一球！」

2人とも、練習中は恋人とか関係ないんだな。
すごいなぁ...。

...ノックの球出しに行こう...。

「カントク、球出しします」

「ありがとう！」

わたしにはわたしの出来ることをやっていこう。