Chuchu
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「しのおか」
阿部くんから珍しく声をかけられた。
「阿部くん。どうしたの?」
「蒼のことなんだけど...練習ばっか参加してマネジ仕事あんまりできてないだろ?しのおか大丈夫か?」
阿部くんが、わたしの心配をしてくれてる...。
思わず顔がボッと赤くなる。
絶対に誰にも言えないことだけど、わたしは阿部くんのことが好きだった。
野球のことで頭いっぱいで、休み時間も野球の話ばっかりで、三橋くんの面倒をアレコレみてる阿部くんに憧れていた。
でも、蒼ちゃんというどう頑張っても勝てっこない相手が阿部くんの彼女になって、私の恋は人に知られることなく散っていった。
それでも、こうやって心配して声をかけてくれると今でも緊張してしまう。
「練習以外の時はキビキビ動いてくれてすごい助かってるよー」
「でもほぼ練習のときとかあるだろ?」
「それはまぁ、わたしは慣れてるし気にしてないよ。蒼ちゃんが練習に参加した方がいいなら応援するし」
「しのおか様様だな」
ひぃ、また顔が赤くなるような事言わないで〜!
「あいつがマネジするときはこき使っていいからな」
「あはは、阿部くんお母さんみたいだよ」
「しのおかにばっかり迷惑かけらんねーからな、よろしくな!」
「はーい」
久しぶりに阿部くんと話せた。顔が火照ってしまう。わたし、諦めきったと思ったのだけど、まだ阿部くんのこと、好きなのかな。
「ちよちゃーん今はマネジ仕事できるよー」
「じゃあ、ちょっと早いけどお米研ぎに行こー」
「おー!いこいこー!」
こんなに見た目が整っていて、声も可愛くて、一生懸命で、性格もいい子に勝つなんて、到底無理な話で。そりゃ恋愛に興味なかった阿部くんも彼女を好きになるはずだよ。
「手が、手が冷たいー」
「あはは、もう真冬だからねー、悴むよね」
「ううう、洗った!」
「オッケー、じゃあ炊飯しようか」
「炊飯ボタン、オン〜!ふう、マネジ仕事も案外力仕事だよねー」
「たしかに体力使うかも。おにぎり握る時とか、無になるよ」
「たしかに!なんかもう、握っては次、握っては次、で終わりが見えないんだよねー。無になるね」
「あはは、蒼ちゃんも一緒だ」
「わたし最近、練習ばっか参加しててマネジ仕事がちょっとしかできなくてごめんね?」
「カントクに呼ばれたら行かなきゃ仕方ないし、全然大丈夫だよー」
「次の1年生が入るまでにもう1人マネジほしいよね」
「ほんとにそう!蒼ちゃんの言う通り!」
蒼ちゃんは、見てないようで周りのことをよく見てる。練習だけじゃなくてマネジのことも気にかけてくれる。
「蒼、ちゃんはさ、阿部くんと喧嘩したりしないの?」
「わたしとタカヤ?喧嘩したことないなー」
やっぱり、そうだよね。お似合いの2人だもん。
「タカヤはね、わたしの心が読めるんだよ。だから喧嘩になる前に話が終わる。ホントにキャッチャーに向いてるよ」
恋愛話から野球の話になるのが蒼ちゃんらしい。
「あはは。なんというか、蒼ちゃんに対して過保護なところもあるよね」
「そう!ほんとにそう!でもね、タカヤの言うことはみんなが納得することだから、最近はおとなしく言うこときいてるよ...」
うーん、やっぱりわたしが入り込む隙なんて全然ない。もともとないけど。
「でも恋愛に全く興味なかった阿部くんが誰かと付き合うなんて、思ってもなかったよー」
「...ちよちゃんってもしかしてさ、」
一番聞かれちゃいけないことを聞かれてしまった。
「タカヤのこと、好きだった?」
「そ、そんなことないよ?!恋愛なんて考えることもなかったよ!」
「そう?なら良かった。もし好きだったら、つらいもんねー」
うう、墓穴を掘ってしまった。
にしても、蒼ちゃんの勘が鋭い...
恋愛の話はこれくらいにしておこう。
「今日も地獄坂やるの?」
「やるやるー!あんな楽しい練習やったことなかったよ!」
アレを楽しいと思えるメンタルがすごい...
本当に眩しい子だ...笑顔も吸い込まれていきそうになる。
「全部もってて、うらやましいな...」
「ん?何か言ったー?」
「ううん!地獄坂楽しいっていうの、蒼ちゃんくらいだよって!」
「はは!みんなとやるから楽しいんだよー!」
グラウンドに戻ると、カントクがノックをしていた。
「わたし、球出ししてくるね!」
「蒼ちゃんありがとう!わたしドリンク補充してくるね!」
今日は1日マネジらしく働けそうだ。ちよちゃんの手助けになってるといいな。
「カントク、ボール渡します」
「ありがとう!」
カキーン
「OK!いいミスだよ!」
カキーン
「ナイキャ!成功は頭に焼き付けてね!」
前にメントレの講師がきて、カントクのノックの仕方も変わった。褒める指導だ。
そのおかげか、みんなも固くならずに練習できてると思う。
「ラスト行くよ!」
カキーン
「ナイキャ!10分休憩して!Tやるよ!」
「蒼ちゃん、おにぎり作りに行こう」
「はやいね?オッケー」
「暗くなるのも早くなってきたから、練習も切り上げるの早くなると思う」
「なるほど、考えてもなかった」
というわけで、おにぎり作りにはいる。
握っては並べ、握っては並べ、中の具ごとに作っていく。
「この量をひとりでやってたちよちゃん、ホントすごいなー」
「蒼ちゃんが来てくれて本当にありがたかったよ」
「わたしのこと、好きにこき使っていいからね!」
「あはは、それはお互い様だよー(阿部くんと同じこと言ってる...)」
「お互いでチームをひっぱっていこう!」
ああ、この子のこういう所に魅力を感じる。
所詮サポートと言われるマネジでチームをひっぱっていくという言葉が出る人はなかなかいないと思う。
「そうだね!がんばろ!」
阿部くんも彼女のこういうところに惹かれたんだろう。女のわたしでも素敵な子だなと思ってしまう。
今日は蒼ちゃんのいいところがたくさん見れたな。
「全部握り終わったー!」
「みんなTとトスバッティング終えて、そのあと地獄坂に行くと思うよ」
「間に合うかな?!グラウンドいこー」
夕日と重なる彼女の笑顔は本当に綺麗で眩しくて。
「あ!みんな休憩してるんだ!お疲れ様ー!」
休憩中のみんなにすんなり混ざることができる純粋さも、練習に対する執念も、やってみたいという好奇心も、全部がうらやましい。
わたしも、野球やってたら変わってたかな...。
ううん、きっと今と変わらないと思う。
あーいうことができるのは、蒼ちゃんだからできるんだ。
だから阿部くんも、蒼ちゃんのことが好きになったんだ。
「地獄坂行こー!ゴーゴー!」
「蒼のメンタルの強さはどこから来てんだよ、タカヤ」
「花井にわからんならオレにもわからん。まぁ、スーパーハイテンションなのは色々溜まってんだろうな」
「俺には自分を追い込んで楽しんでるように見えるよ...」
「案外その通りかもしんねぇ。走ったあとあいつ楽しそうだしな」
「運動バカはすげぇなぁ...」
「しのおかはどう思う?」
「へ?!」
突然阿部くんに話を振られて変な声がでた。
「蒼がなんでオレらのキッツイ練習に混ざりたがるのかだよ」
「あ、あー、それなら前に蒼ちゃんや阿部くんが言ってたとおり、みんなと混ざって練習することに意味があるんだと思うよ。多分、キツイとかはどうでもいいんだと思う」
「ほんとにあいつは...」
阿部くんが笑ってる。
「じゃ、一ノ瀬蒼、スタートします!」
地獄坂について、さっそく蒼ちゃんが走り出した。
「あ!蒼待て!俺も行くー!」
次いで田島くんたちも走り出す。
「ハァーーーーーーーー!今日も今日とて疲れたーーーー!!!!」
走り終わった蒼ちゃんは笑いながらみんなの会話に参加する。すごい行動力だなぁ。
「ちよちゃん!おにぎり取りに行こー」
「うん!蒼ちゃんおつかれ!」
「いやー、バテバテになるのきっついけどたのしー」
「阿部くんと花井くんが蒼ちゃんの強いメンタルはどこから来てるんだって言ってたよ」
「小さい頃からいろいろ挑戦するのが好きだったからねー。試練とか訓練とか、燃える」
なるほど。蒼ちゃんにとっては試練が厳しければ厳しいほど火がついちゃうんだ。
「それは蒼ちゃんの才能だね。好奇心旺盛で、ふつうはみんな嫌がることを、自らチャレレンジしたいって、なかなかいないと思う」
「ちよちゃんも、見ててやりたいって思わない?!」
「いやー、はは。大抵の人はやりたくないと思うよ」
「そうなの?!わたしは見てるだけじゃ我慢できなくなるよー」
この子は本当にすごいな。さっきは才能だって言ったけど、努力も出来る子だ。
「蒼ちゃんがうらやましいな」
「えっ、わたし?!」
「うん、才能あるのに努力もできて、みんなから好かれて、容量もよくて、見た目も性格もよくて、なんでもできて、全部がうらやましいよ」
ハッとしてしまった。なんてことを言ってしまったんだろう、わたし。これじゃ妬んでるみたいだ。
蒼ちゃんはじっとわたしのことを見つめていた。
「ごめん、変なこと言っちゃ「羨ましいと思うなら、わたしにはない部分で戦えばいいんだよ」」
「?...蒼ちゃんにない部分なんて...ある?」
それに今戦うって言った?
「わたしはちよちゃんになれないし、ちよちゃんもわたしになれない。持ってない部分をお互いで補うんだよ」
そういう意味か。でもやっぱり...
「蒼ちゃんにない部分ってあるの?」
「タカヤから、ちよちゃんは試合の度に細かくデータ分析してくれてるって聞いた。わたしも野球やってた頃はキャッチャーと念入りに配球確認してた。そんなことマネジがやる仕事ではないと思ってた。でも、ちよちゃんはそれをやってる。」
蒼ちゃんから目が離せない。
「たぶん、わたしが思う以上に綿密にやってるんだろうなと思う。」
マネジのわたしにはできないことだよ、と蒼ちゃんは言ってくれた。
いや、多分蒼ちゃんでも出来ることなんだ。
わたしに気を使ってくれてるんだと思う。
「ちよちゃんひとりでデータ分析するの大変だったでしょ?これからはわたしも頼って!」
本当にこの子は...
「ありがとう。蒼ちゃんがマネジとして来てくれて良かった!」
「わたしこそありがとう!さ、おにぎり配りに行こー」
蒼ちゃんみたいな子が阿部くんの彼女になってくれてよかった。付け入る隙もない、完璧で究極な彼女。
私の恋は報われないけど、せめて2人が、仲良しで幸せでありますように。
阿部くんから珍しく声をかけられた。
「阿部くん。どうしたの?」
「蒼のことなんだけど...練習ばっか参加してマネジ仕事あんまりできてないだろ?しのおか大丈夫か?」
阿部くんが、わたしの心配をしてくれてる...。
思わず顔がボッと赤くなる。
絶対に誰にも言えないことだけど、わたしは阿部くんのことが好きだった。
野球のことで頭いっぱいで、休み時間も野球の話ばっかりで、三橋くんの面倒をアレコレみてる阿部くんに憧れていた。
でも、蒼ちゃんというどう頑張っても勝てっこない相手が阿部くんの彼女になって、私の恋は人に知られることなく散っていった。
それでも、こうやって心配して声をかけてくれると今でも緊張してしまう。
「練習以外の時はキビキビ動いてくれてすごい助かってるよー」
「でもほぼ練習のときとかあるだろ?」
「それはまぁ、わたしは慣れてるし気にしてないよ。蒼ちゃんが練習に参加した方がいいなら応援するし」
「しのおか様様だな」
ひぃ、また顔が赤くなるような事言わないで〜!
「あいつがマネジするときはこき使っていいからな」
「あはは、阿部くんお母さんみたいだよ」
「しのおかにばっかり迷惑かけらんねーからな、よろしくな!」
「はーい」
久しぶりに阿部くんと話せた。顔が火照ってしまう。わたし、諦めきったと思ったのだけど、まだ阿部くんのこと、好きなのかな。
「ちよちゃーん今はマネジ仕事できるよー」
「じゃあ、ちょっと早いけどお米研ぎに行こー」
「おー!いこいこー!」
こんなに見た目が整っていて、声も可愛くて、一生懸命で、性格もいい子に勝つなんて、到底無理な話で。そりゃ恋愛に興味なかった阿部くんも彼女を好きになるはずだよ。
「手が、手が冷たいー」
「あはは、もう真冬だからねー、悴むよね」
「ううう、洗った!」
「オッケー、じゃあ炊飯しようか」
「炊飯ボタン、オン〜!ふう、マネジ仕事も案外力仕事だよねー」
「たしかに体力使うかも。おにぎり握る時とか、無になるよ」
「たしかに!なんかもう、握っては次、握っては次、で終わりが見えないんだよねー。無になるね」
「あはは、蒼ちゃんも一緒だ」
「わたし最近、練習ばっか参加しててマネジ仕事がちょっとしかできなくてごめんね?」
「カントクに呼ばれたら行かなきゃ仕方ないし、全然大丈夫だよー」
「次の1年生が入るまでにもう1人マネジほしいよね」
「ほんとにそう!蒼ちゃんの言う通り!」
蒼ちゃんは、見てないようで周りのことをよく見てる。練習だけじゃなくてマネジのことも気にかけてくれる。
「蒼、ちゃんはさ、阿部くんと喧嘩したりしないの?」
「わたしとタカヤ?喧嘩したことないなー」
やっぱり、そうだよね。お似合いの2人だもん。
「タカヤはね、わたしの心が読めるんだよ。だから喧嘩になる前に話が終わる。ホントにキャッチャーに向いてるよ」
恋愛話から野球の話になるのが蒼ちゃんらしい。
「あはは。なんというか、蒼ちゃんに対して過保護なところもあるよね」
「そう!ほんとにそう!でもね、タカヤの言うことはみんなが納得することだから、最近はおとなしく言うこときいてるよ...」
うーん、やっぱりわたしが入り込む隙なんて全然ない。もともとないけど。
「でも恋愛に全く興味なかった阿部くんが誰かと付き合うなんて、思ってもなかったよー」
「...ちよちゃんってもしかしてさ、」
一番聞かれちゃいけないことを聞かれてしまった。
「タカヤのこと、好きだった?」
「そ、そんなことないよ?!恋愛なんて考えることもなかったよ!」
「そう?なら良かった。もし好きだったら、つらいもんねー」
うう、墓穴を掘ってしまった。
にしても、蒼ちゃんの勘が鋭い...
恋愛の話はこれくらいにしておこう。
「今日も地獄坂やるの?」
「やるやるー!あんな楽しい練習やったことなかったよ!」
アレを楽しいと思えるメンタルがすごい...
本当に眩しい子だ...笑顔も吸い込まれていきそうになる。
「全部もってて、うらやましいな...」
「ん?何か言ったー?」
「ううん!地獄坂楽しいっていうの、蒼ちゃんくらいだよって!」
「はは!みんなとやるから楽しいんだよー!」
グラウンドに戻ると、カントクがノックをしていた。
「わたし、球出ししてくるね!」
「蒼ちゃんありがとう!わたしドリンク補充してくるね!」
今日は1日マネジらしく働けそうだ。ちよちゃんの手助けになってるといいな。
「カントク、ボール渡します」
「ありがとう!」
カキーン
「OK!いいミスだよ!」
カキーン
「ナイキャ!成功は頭に焼き付けてね!」
前にメントレの講師がきて、カントクのノックの仕方も変わった。褒める指導だ。
そのおかげか、みんなも固くならずに練習できてると思う。
「ラスト行くよ!」
カキーン
「ナイキャ!10分休憩して!Tやるよ!」
「蒼ちゃん、おにぎり作りに行こう」
「はやいね?オッケー」
「暗くなるのも早くなってきたから、練習も切り上げるの早くなると思う」
「なるほど、考えてもなかった」
というわけで、おにぎり作りにはいる。
握っては並べ、握っては並べ、中の具ごとに作っていく。
「この量をひとりでやってたちよちゃん、ホントすごいなー」
「蒼ちゃんが来てくれて本当にありがたかったよ」
「わたしのこと、好きにこき使っていいからね!」
「あはは、それはお互い様だよー(阿部くんと同じこと言ってる...)」
「お互いでチームをひっぱっていこう!」
ああ、この子のこういう所に魅力を感じる。
所詮サポートと言われるマネジでチームをひっぱっていくという言葉が出る人はなかなかいないと思う。
「そうだね!がんばろ!」
阿部くんも彼女のこういうところに惹かれたんだろう。女のわたしでも素敵な子だなと思ってしまう。
今日は蒼ちゃんのいいところがたくさん見れたな。
「全部握り終わったー!」
「みんなTとトスバッティング終えて、そのあと地獄坂に行くと思うよ」
「間に合うかな?!グラウンドいこー」
夕日と重なる彼女の笑顔は本当に綺麗で眩しくて。
「あ!みんな休憩してるんだ!お疲れ様ー!」
休憩中のみんなにすんなり混ざることができる純粋さも、練習に対する執念も、やってみたいという好奇心も、全部がうらやましい。
わたしも、野球やってたら変わってたかな...。
ううん、きっと今と変わらないと思う。
あーいうことができるのは、蒼ちゃんだからできるんだ。
だから阿部くんも、蒼ちゃんのことが好きになったんだ。
「地獄坂行こー!ゴーゴー!」
「蒼のメンタルの強さはどこから来てんだよ、タカヤ」
「花井にわからんならオレにもわからん。まぁ、スーパーハイテンションなのは色々溜まってんだろうな」
「俺には自分を追い込んで楽しんでるように見えるよ...」
「案外その通りかもしんねぇ。走ったあとあいつ楽しそうだしな」
「運動バカはすげぇなぁ...」
「しのおかはどう思う?」
「へ?!」
突然阿部くんに話を振られて変な声がでた。
「蒼がなんでオレらのキッツイ練習に混ざりたがるのかだよ」
「あ、あー、それなら前に蒼ちゃんや阿部くんが言ってたとおり、みんなと混ざって練習することに意味があるんだと思うよ。多分、キツイとかはどうでもいいんだと思う」
「ほんとにあいつは...」
阿部くんが笑ってる。
「じゃ、一ノ瀬蒼、スタートします!」
地獄坂について、さっそく蒼ちゃんが走り出した。
「あ!蒼待て!俺も行くー!」
次いで田島くんたちも走り出す。
「ハァーーーーーーーー!今日も今日とて疲れたーーーー!!!!」
走り終わった蒼ちゃんは笑いながらみんなの会話に参加する。すごい行動力だなぁ。
「ちよちゃん!おにぎり取りに行こー」
「うん!蒼ちゃんおつかれ!」
「いやー、バテバテになるのきっついけどたのしー」
「阿部くんと花井くんが蒼ちゃんの強いメンタルはどこから来てるんだって言ってたよ」
「小さい頃からいろいろ挑戦するのが好きだったからねー。試練とか訓練とか、燃える」
なるほど。蒼ちゃんにとっては試練が厳しければ厳しいほど火がついちゃうんだ。
「それは蒼ちゃんの才能だね。好奇心旺盛で、ふつうはみんな嫌がることを、自らチャレレンジしたいって、なかなかいないと思う」
「ちよちゃんも、見ててやりたいって思わない?!」
「いやー、はは。大抵の人はやりたくないと思うよ」
「そうなの?!わたしは見てるだけじゃ我慢できなくなるよー」
この子は本当にすごいな。さっきは才能だって言ったけど、努力も出来る子だ。
「蒼ちゃんがうらやましいな」
「えっ、わたし?!」
「うん、才能あるのに努力もできて、みんなから好かれて、容量もよくて、見た目も性格もよくて、なんでもできて、全部がうらやましいよ」
ハッとしてしまった。なんてことを言ってしまったんだろう、わたし。これじゃ妬んでるみたいだ。
蒼ちゃんはじっとわたしのことを見つめていた。
「ごめん、変なこと言っちゃ「羨ましいと思うなら、わたしにはない部分で戦えばいいんだよ」」
「?...蒼ちゃんにない部分なんて...ある?」
それに今戦うって言った?
「わたしはちよちゃんになれないし、ちよちゃんもわたしになれない。持ってない部分をお互いで補うんだよ」
そういう意味か。でもやっぱり...
「蒼ちゃんにない部分ってあるの?」
「タカヤから、ちよちゃんは試合の度に細かくデータ分析してくれてるって聞いた。わたしも野球やってた頃はキャッチャーと念入りに配球確認してた。そんなことマネジがやる仕事ではないと思ってた。でも、ちよちゃんはそれをやってる。」
蒼ちゃんから目が離せない。
「たぶん、わたしが思う以上に綿密にやってるんだろうなと思う。」
マネジのわたしにはできないことだよ、と蒼ちゃんは言ってくれた。
いや、多分蒼ちゃんでも出来ることなんだ。
わたしに気を使ってくれてるんだと思う。
「ちよちゃんひとりでデータ分析するの大変だったでしょ?これからはわたしも頼って!」
本当にこの子は...
「ありがとう。蒼ちゃんがマネジとして来てくれて良かった!」
「わたしこそありがとう!さ、おにぎり配りに行こー」
蒼ちゃんみたいな子が阿部くんの彼女になってくれてよかった。付け入る隙もない、完璧で究極な彼女。
私の恋は報われないけど、せめて2人が、仲良しで幸せでありますように。