--- kiss ---

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ありがとうございます。だいすきです。


----花束を贈る----
(あなたとの日常に)


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【日常シリーズ】no.4 ふつかよい

「ゔゔゔゔぅぅぅぅ……」
 割れそうなほど頭が痛む。布団のなかで丸まった銀時は、湧き上がってくる吐き気をこらえていた。

「銀ちゃん……大丈夫ですか?」
「うぅぅぅぅ~、なぁ、俺の頭ぱっかり割れてない?めっさ痛てぇんだけど。さんざん吐いたのにまだ出そうなんだけど。ごっさ気持ちわりぃんだけどぉ……」

 かけ布団をめくって銀時をのぞき込んだ顔は、心配そうに眉が下がっていた。小さな手にミネラルウォーターと頭痛薬を持っているのが見えた。

「お薬飲んだら、少しは楽になりますかねぇ……私、お酒飲まないし、二日酔いがどんなものか分からないから、これ買ってくるくらいしかできなくって、ごめんね銀ちゃん」

 しょんぼりした顔で発せられた言葉の優しさに、銀時の胸はじんわりと温められた。
 神楽と新八には「自業自得!」と見捨てられた。依頼が入っている日の前夜に酒を飲み歩くなんて、まともな大人のすることじゃない。ごもっともな意見で銀時を責める2人を、何とかなだめて仕事に行かせてくれたのも、いま目の前にいる人情深い彼女だった。

「わざわざ薬まで買ってこさせて、悪かったな」
「全然いいんだよ銀ちゃん。お薬飲めますか?」
「気持ちわりーけど、飲むわ。アイツらだけで仕事行かせといて、1日中寝てるわけにもいかねぇし……」
「うん。休んで元気になったら、神楽ちゃんと新八くんに、お礼のお菓子を買いに行きましょう」

 背中を支えられて布団に起き上がる。
 薬を飲んでぼうっとしていると、母親が子どもを褒めるように頭を撫でられた。銀髪をとかすように動いた冷たい指が、地肌に触れて心地いい。濡れた手ぬぐいでおでこの汗を拭かれて、背中を軽くさすられたら、それだけで気分が少しまともになった。

「なぁ……ちょっと、こっち来て」
「ん?どうしたの銀ちゃん」
 甘えるような声で、銀時はその名を呼ぶ。
 近くに寄ってきた腰を抱き寄せて、膝枕をして欲しいとねだる。銀時を見つめて少し恥ずかしそうに顔を赤らめたが、柔らかく微笑んで「もちろん、いいですよ」と頷いてくれた。

「あ゙ぁ゙~……なんか、よくなってきた気がする」
「ほんと?良かった……もう少し眠れますか?」
「お~……」
 ふんわりとした膝に頭を乗せて、仰向けで寝転ぶ銀時の両ほほを柔らかい手が包んだ。その手に自分の手を重ねたら、気持ちのよい眠気がやってきた。二日酔いの頭痛と吐き気が、どんどん遠のいていく。

 瞳を閉じかけて虚ろな視界に、愛おしい笑顔だけが見える。春の木漏れ日のように、暖かくて平和な眼差し。そのなかで銀時は、安心しきった子どものように眠りに落ちていく。

「銀ちゃん、おやすみなさい。早く、よくなってね」
 瞳を閉じて、意識のフチから落ちる直前、その静かな声が耳に滑り込んできた。
 同時に、ふわっとした感触が唇に走る。
 キスをされたと気付いて、無意識に笑った。これがいちばんの薬だと銀時は思う。次に目覚めた時には、完全に復活しているはずだ。そうしたら必ず、いまのキスを倍にして返そう。
 そう思いながら銀時は、温くて幸福な夢の中へと落ちて行った。


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2020-7-5




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