銀ちゃんが好きな女の子
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【降る星に袖は濡れても】
2021-0707 七夕の日記念
宵闇の広がる濃紺の空を、光る砂みたいな天の川が流れる。その天の川の下、地上の川辺で銀時たちは星のネックレスを探していた。
失くし物の捜索依頼は今朝舞い込んだ。
依頼人は遠距離恋愛中の女で、彼氏とは年に一度しか会えない。贈り物の星形のネックレスを心の支えにしていたが、散歩中に河原で失くした。そこで万事屋の出番だと探したが見つからない。
夕暮れ時に仕事を終えた***が河原にやってきた。
依頼内容を聞くと、まるで織姫と彦星のような話だと言って小娘みたいにはしゃぐ。そして期待に満ちた目で「見つかったんですか?」と尋ねるから、銀時は投げやりに答えた。
「んなモン無理に決まってんだろ***〜。あんな小せぇモン、どーせ見つかんねぇから同じの買って見つけたってことにすりゃいいだろ。あ~、めんどくせぇ……遠距離だか心の支えだか知らねぇが、会えねぇだけでダメになるよーな奴らは、遅かれ早かれ別れる運命だっつーの」
本当に思っていることを何気なく口にしただけなのに、***の瞳は急に曇って夜空ほど暗くなった。張りつめた表情で見据えられた銀時は、いつになくたじろいだ。
「じゃあ、私も探してみます」
きっぱり言って河岸に降りていくのを銀時が「オイッ」と呼び止める。が、小さな背中は振り向きもせず草むらにしゃがみこんだ。日が暮れて見つかるわけがない。そう呆れた銀時を、新八と神楽がもっと呆れた目で見ていた。
「今のは、完っ全に銀さんが悪いですよ」
「銀ちゃん最低アル。ちゃんと仲直りするまで帰ってくんなヨ。さっさと***に土下座して謝ってくるヨロシ」
「っでだよぉ!?銀さんいま何も悪ぃことしてねーだろ!?」
ふたりは蔑むように首を振りつつ帰っていった。
地面にうずくまり顔を伏せる***に近づく。その後ろ姿は声もなく「まだ帰らない」と発していた。のほほんと穏やかな性格なくせに、一度決めると頑なに曲げない強情な女だ。理由も分からない銀時は髪を掻きむしりながら声をかけた。
「オイ***、いい加減にしろって」
「銀ちゃんは先に帰ってください」
「は?なに怒ってんのお前」
「怒ってないですよ」
少し棘のある丁寧な言葉遣いは、***が怒っている証拠だ。俯いたまま目も見ないから銀時もカチンときた。草をかき分けた声で着物のの袖が泥にまみれている。その袖ごと腕を掴んで強く引いたら、勢いで振り返った***の顔は、今にも泣き出しそうなしかめっ面だった。
「怒ってんだろーが。んだよ、何が嫌なんだよ。石みてぇに黙ってねぇでさっさと言えよ、この頑固女が」
「っ……だ、だって、銀ちゃんはっ、」
唇を噛み黒目を泳がせ、パッと顔を背けた。向き合って座った銀時が顔を覗こうとするとますます首を逸らす。そっぽを向いたまま蚊の鳴くような声が答えた。
「銀ちゃんはもしも私達が会えなくなって……万が一ダメになって別れてしまった時も、それが運命だったって言うんですか?そうやって諦めて、失くしたネックレスの代わりに新しいのを買うみたいに、他の誰かを好きになれるの?そんなの私……絶対イヤだもん」
「はぁ?いや、ちょ、おま、何言ってんの?」
弁解するとか「俺たちは大丈夫さハニー」みたいな甘い慰めとかをするべきだろうが出来なかった。ただ眼前の***の横顔から銀時は目が離せない。泣くのを我慢して子供のように尖らせた唇が、薄闇の中でも桃色に色づいているのが分かる。眉間にはシワが寄って、頬はぷくっと膨らましている。
じゃれつくような口喧嘩は日常茶飯事だが、***がこんなに怒るのは珍しい。好きな女の不機嫌な顔を眺めるのは愉快で、その幼稚な理由すら銀時にはおかしかった。なかなか見られない仏頂面が愛くるしくて、キスしたいと思った時にはもう首を掴んで引き寄せていた。
「あっ!?ちょっと待って、いま何か光った!」
「んあああッ!?オイィィィ、あにすんだよ!?」
あと数ミリで唇が触れるところで銀時の手は振り払われた。急に立ち上がった***が川に近づいていって、躊躇なくザブンッと踏み入った。膝下と両手を水に潜らせながら、河川敷に響く声で「銀ちゃん!」と叫ぶ。水底から何かを取り上げると満面の笑みを浮かべて***は振り返った。
「ネックレス、見つけました!!」
「マジでか!?」
驚いた銀時もブーツのまま続けて川へ入った。濡れた掌に砂粒ほど小さな星の飾りと細い鎖。水辺で光っていたのは確かに探し物のネックレスだ。***はさっきまでの仏頂面が嘘みたいに柔らかく微笑むと、透きとおる声で言った。
「銀ちゃん、私は最初から別れる運命なんて無いって信じたいです。もし私達が会えなくなっても、どんなに離れても、いつかは結ばれる運命だって思いたい」
「……天の川みてーなでけぇ川に遮られても?」
「あははっ!私、銀ちゃんに会うためだったら、どんな大きな川でも超えてみせます。だから安心して待ってていいよ、織姫さん」
「はっ!?いや、俺が織姫かよ!?」
「そうですよ。だって銀ちゃん泳げないじゃん」
だから私が泳いで行きます。
どこから湧くのか知れない自信に満ちた笑顔で***が言うから、銀時までつられて吹き出した。「天の川から降ってきたみたい」と星の飾りを空にかざす横顔はやっぱり小娘のようだった。銀時は思わず名前を呼んで「ん?」と振り向いた***の頬に手を添えた。その手の甲に***の濡れた袖と冷たい掌が重なる。
宵闇の広がる濃紺の川面に、天の川の星が降る。
星の落ちる音は多分、川のせせらぎに似てる気がする。暗闇で唇を近づけながら、ゆっくりと閉じていく***の瞼の中を覗き込んだ。たとえ織姫と彦星のように離れ離れになったとしても、この澄んだ黒目に降りそそぐ星屑の輝きは、いつまでも銀時を捕らえて離さないだろう。
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【降る星に袖は濡れても】2021-7-7
2021-0707 七夕の日記念
宵闇の広がる濃紺の空を、光る砂みたいな天の川が流れる。その天の川の下、地上の川辺で銀時たちは星のネックレスを探していた。
失くし物の捜索依頼は今朝舞い込んだ。
依頼人は遠距離恋愛中の女で、彼氏とは年に一度しか会えない。贈り物の星形のネックレスを心の支えにしていたが、散歩中に河原で失くした。そこで万事屋の出番だと探したが見つからない。
夕暮れ時に仕事を終えた***が河原にやってきた。
依頼内容を聞くと、まるで織姫と彦星のような話だと言って小娘みたいにはしゃぐ。そして期待に満ちた目で「見つかったんですか?」と尋ねるから、銀時は投げやりに答えた。
「んなモン無理に決まってんだろ***〜。あんな小せぇモン、どーせ見つかんねぇから同じの買って見つけたってことにすりゃいいだろ。あ~、めんどくせぇ……遠距離だか心の支えだか知らねぇが、会えねぇだけでダメになるよーな奴らは、遅かれ早かれ別れる運命だっつーの」
本当に思っていることを何気なく口にしただけなのに、***の瞳は急に曇って夜空ほど暗くなった。張りつめた表情で見据えられた銀時は、いつになくたじろいだ。
「じゃあ、私も探してみます」
きっぱり言って河岸に降りていくのを銀時が「オイッ」と呼び止める。が、小さな背中は振り向きもせず草むらにしゃがみこんだ。日が暮れて見つかるわけがない。そう呆れた銀時を、新八と神楽がもっと呆れた目で見ていた。
「今のは、完っ全に銀さんが悪いですよ」
「銀ちゃん最低アル。ちゃんと仲直りするまで帰ってくんなヨ。さっさと***に土下座して謝ってくるヨロシ」
「っでだよぉ!?銀さんいま何も悪ぃことしてねーだろ!?」
ふたりは蔑むように首を振りつつ帰っていった。
地面にうずくまり顔を伏せる***に近づく。その後ろ姿は声もなく「まだ帰らない」と発していた。のほほんと穏やかな性格なくせに、一度決めると頑なに曲げない強情な女だ。理由も分からない銀時は髪を掻きむしりながら声をかけた。
「オイ***、いい加減にしろって」
「銀ちゃんは先に帰ってください」
「は?なに怒ってんのお前」
「怒ってないですよ」
少し棘のある丁寧な言葉遣いは、***が怒っている証拠だ。俯いたまま目も見ないから銀時もカチンときた。草をかき分けた声で着物のの袖が泥にまみれている。その袖ごと腕を掴んで強く引いたら、勢いで振り返った***の顔は、今にも泣き出しそうなしかめっ面だった。
「怒ってんだろーが。んだよ、何が嫌なんだよ。石みてぇに黙ってねぇでさっさと言えよ、この頑固女が」
「っ……だ、だって、銀ちゃんはっ、」
唇を噛み黒目を泳がせ、パッと顔を背けた。向き合って座った銀時が顔を覗こうとするとますます首を逸らす。そっぽを向いたまま蚊の鳴くような声が答えた。
「銀ちゃんはもしも私達が会えなくなって……万が一ダメになって別れてしまった時も、それが運命だったって言うんですか?そうやって諦めて、失くしたネックレスの代わりに新しいのを買うみたいに、他の誰かを好きになれるの?そんなの私……絶対イヤだもん」
「はぁ?いや、ちょ、おま、何言ってんの?」
弁解するとか「俺たちは大丈夫さハニー」みたいな甘い慰めとかをするべきだろうが出来なかった。ただ眼前の***の横顔から銀時は目が離せない。泣くのを我慢して子供のように尖らせた唇が、薄闇の中でも桃色に色づいているのが分かる。眉間にはシワが寄って、頬はぷくっと膨らましている。
じゃれつくような口喧嘩は日常茶飯事だが、***がこんなに怒るのは珍しい。好きな女の不機嫌な顔を眺めるのは愉快で、その幼稚な理由すら銀時にはおかしかった。なかなか見られない仏頂面が愛くるしくて、キスしたいと思った時にはもう首を掴んで引き寄せていた。
「あっ!?ちょっと待って、いま何か光った!」
「んあああッ!?オイィィィ、あにすんだよ!?」
あと数ミリで唇が触れるところで銀時の手は振り払われた。急に立ち上がった***が川に近づいていって、躊躇なくザブンッと踏み入った。膝下と両手を水に潜らせながら、河川敷に響く声で「銀ちゃん!」と叫ぶ。水底から何かを取り上げると満面の笑みを浮かべて***は振り返った。
「ネックレス、見つけました!!」
「マジでか!?」
驚いた銀時もブーツのまま続けて川へ入った。濡れた掌に砂粒ほど小さな星の飾りと細い鎖。水辺で光っていたのは確かに探し物のネックレスだ。***はさっきまでの仏頂面が嘘みたいに柔らかく微笑むと、透きとおる声で言った。
「銀ちゃん、私は最初から別れる運命なんて無いって信じたいです。もし私達が会えなくなっても、どんなに離れても、いつかは結ばれる運命だって思いたい」
「……天の川みてーなでけぇ川に遮られても?」
「あははっ!私、銀ちゃんに会うためだったら、どんな大きな川でも超えてみせます。だから安心して待ってていいよ、織姫さん」
「はっ!?いや、俺が織姫かよ!?」
「そうですよ。だって銀ちゃん泳げないじゃん」
だから私が泳いで行きます。
どこから湧くのか知れない自信に満ちた笑顔で***が言うから、銀時までつられて吹き出した。「天の川から降ってきたみたい」と星の飾りを空にかざす横顔はやっぱり小娘のようだった。銀時は思わず名前を呼んで「ん?」と振り向いた***の頬に手を添えた。その手の甲に***の濡れた袖と冷たい掌が重なる。
宵闇の広がる濃紺の川面に、天の川の星が降る。
星の落ちる音は多分、川のせせらぎに似てる気がする。暗闇で唇を近づけながら、ゆっくりと閉じていく***の瞼の中を覗き込んだ。たとえ織姫と彦星のように離れ離れになったとしても、この澄んだ黒目に降りそそぐ星屑の輝きは、いつまでも銀時を捕らえて離さないだろう。
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【降る星に袖は濡れても】2021-7-7