銀ちゃんが好きな女の子
お礼画面(超短編小説)
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【我儘なんて言わせない】
ファミレスの前に立つ、***の青ざめた顔を見てすぐに気づいた。男の銀時には想像もつかないほど大変な「アレ」がやって来たのだと。思い返せば先月の同じ頃にも、痛み止めを飲んで辛そうにしていた。そのくせ銀時が部屋へ泊まりに行くと「今日は出来なくてごめんね」と気まずそうに笑うから呆れた。夜中に何度も息を詰めて痛みに耐えている***に、銀時は添い寝するしか出来なかった。
急に舞い込んだ臨時収入で、彼氏らしいことをしようと思い立ったのは数十分前。パフェを奢ると電話したら、受話器の向こうで「銀ちゃん太っ腹ですね!」と明るい声が響いた。
でも今、銀時に気づき「あっ」と浮かべた笑顔は分かりやすく強張ってるから、思わず溜息が漏れた。
「っだよ、しんどいなら先に言えっての……帰るぞ」
「えっ、どうして?パフェは?」
「んな死にそーなツラした奴がパフェなんざ食えっか」
「死にそうなんかじゃ、」
「生理なんだろ?んで、ごっさ辛ぇんだろ、お前」
「なっ……」
なんで、とポカンとした顔に二度目の溜息を吐く。短い付き合いじゃあるまいし、という小言をこらえて銀時はしゃがんだ。「おぶってやる」と言っても***が突っ立ったままだから、その手を掴んで強制的に背中に乗せた。細い腕を首に回させて歩き出した直後、耳元で慌てた声が言った。
「銀ちゃん、私、平気です。一緒にパフェ食べようよ」
「幽霊みてぇな真っ青な顔して、何ぬかしてんだこの馬鹿。パフェなんざいつでも食えんだろーが。さっさと帰って、大人しく寝ろ!」
「やだ……!銀ちゃんとデートは、いつでも出来ることじゃないもん。帰りたくない」
「んなこと言ったって、腹ァ痛ぇんだろ?」
「うっ……い、痛い、けど」
「冷や汗垂らしてデートなんざ無理だ。諦めろ」
ヤダヤダと首を振り、脚をバタつかせて「うぅ」と悔しそうな声を上げる。力の入った腕が首を締めるから苦しかった。いや息が出来ないんですけど?銀さん死にそうなんですけどぉ?そう騒ぐ銀時の顔の横で、泣きそうな声がぽつりと零した。
「せっかくのお休みに……ひとりは寂しい、です」
我儘を言わない***が珍しく、駄々をこねるガキみたいに唇を尖らせた。銀時はアパートに向かっていた足を止めて、少し悩んでから万事屋に帰った。
デートに出掛けたはずが、デートの相手を背負って戻ってきた銀時に新八と神楽が驚いていた。だが苦しそうな***に気づいてからの二人の動きは速かった。寝室の布団に横たわらせた途端、新八が湯たんぽを持ってきた。神楽はジャンプを手に取り枕元に正座した。
「***さん、これどうぞ。お腹を温めたら少しは効くかも……あ、薬は飲みましたか?」
「し、新八君、ありがとう。お薬は飲んだよ」
「***!早く寝るヨロシ!眠れるまで私がジャンプ読んであげるネ。えっと、"あはん真中殿、電気を消してくだされ。そんな西野の言葉も無視して真中は……」
「わぁぁぁぁ!神楽ちゃんストップストップ!」
和室で横になる***を新八と神楽が心配そうに覗き込む。その足元で定春もソワソワしていた。読み聞かせを断られた神楽が布団に潜りこむから、銀時は「静かに寝かせてやれ」と怒鳴った。だがすぐに***の楽しそうな声が「いいの」と制した。
「いいんです銀ちゃん、私みんなとお昼寝したい。お布団ひとつでちょっと狭いけど、神楽ちゃんはここで、その後ろに新八君、それで……銀ちゃんも来て下さい」
***は神楽を胸に抱き、その後ろに寝そべる新八の肩を手でトントンと叩きながら、銀時に手招きした。幾度目かの溜息を吐いて布団の端に横たわると、小さな背中を後ろから抱きしめる。温かい布団で新八と神楽はすぐウトウトして、じきに鼾をかきはじめる。定春が「ふんっ」と満足げに鼻を鳴らし、枕元で丸くなった。湯たんぽで温まった腹に手を回してゆっくり撫でてやると、眠たそうな声が囁く。
「銀ちゃん……今日はごめんね」
「まーた謝る。ごめんじゃねぇっつーの……俺は別にデートしてぇからとか、パフェ食いてぇからとか……ヤリてぇからとかで、お前と付き合ってんじゃねぇよ」
「ふふっ、うん、知ってます」
くすくす笑って寝返りを打ったと思ったら、胸に抱き着かれた。布団に片肘をついた銀時を***は上目遣いでチラッと見上げて、はにかむように言った。
「私がお洒落しても、髪を切っても全然気づかない銀ちゃんが……その、私が辛い時にはすぐ気づいてくれるの、すごく嬉しいんです。それで我儘言って、ここぞとばかりに甘えてごめんね。万事屋に連れて来てくれてありがとう。皆と一緒だからもう痛くないし辛くないから、心配いらないよ」
最後の言葉は嘘っぱちだと、分からない仲じゃない。
まだ痛むはずの腹に湯たんぽを押し付けた。銀時は「もう寝ろよ」と言いながら引き寄せた腰を手でさすった。瞼が閉じて眠りに落ちていく***の顔は、ファミレスの前で見た時より血色が良くなっている。静かな寝息と一緒に、力の抜けた身体が胸にもたれてきた。覗き込んだ寝顔が後ろで眠る新八と神楽と同じくらい安心しきっていて、思わず「ぶっ」と吹き出した。
———こんなの我儘なんて言えねーだろ……
すやすや眠る赤ん坊のような***の顔をもっと見ていたくて、手で前髪を払った。白い額にそっと唇を寄せて、音もなく口づける。次に目覚めた時、少しでも楽になっていて欲しいと心底願いながら。
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【我儘なんて言わせない】
2021-6-19
ファミレスの前に立つ、***の青ざめた顔を見てすぐに気づいた。男の銀時には想像もつかないほど大変な「アレ」がやって来たのだと。思い返せば先月の同じ頃にも、痛み止めを飲んで辛そうにしていた。そのくせ銀時が部屋へ泊まりに行くと「今日は出来なくてごめんね」と気まずそうに笑うから呆れた。夜中に何度も息を詰めて痛みに耐えている***に、銀時は添い寝するしか出来なかった。
急に舞い込んだ臨時収入で、彼氏らしいことをしようと思い立ったのは数十分前。パフェを奢ると電話したら、受話器の向こうで「銀ちゃん太っ腹ですね!」と明るい声が響いた。
でも今、銀時に気づき「あっ」と浮かべた笑顔は分かりやすく強張ってるから、思わず溜息が漏れた。
「っだよ、しんどいなら先に言えっての……帰るぞ」
「えっ、どうして?パフェは?」
「んな死にそーなツラした奴がパフェなんざ食えっか」
「死にそうなんかじゃ、」
「生理なんだろ?んで、ごっさ辛ぇんだろ、お前」
「なっ……」
なんで、とポカンとした顔に二度目の溜息を吐く。短い付き合いじゃあるまいし、という小言をこらえて銀時はしゃがんだ。「おぶってやる」と言っても***が突っ立ったままだから、その手を掴んで強制的に背中に乗せた。細い腕を首に回させて歩き出した直後、耳元で慌てた声が言った。
「銀ちゃん、私、平気です。一緒にパフェ食べようよ」
「幽霊みてぇな真っ青な顔して、何ぬかしてんだこの馬鹿。パフェなんざいつでも食えんだろーが。さっさと帰って、大人しく寝ろ!」
「やだ……!銀ちゃんとデートは、いつでも出来ることじゃないもん。帰りたくない」
「んなこと言ったって、腹ァ痛ぇんだろ?」
「うっ……い、痛い、けど」
「冷や汗垂らしてデートなんざ無理だ。諦めろ」
ヤダヤダと首を振り、脚をバタつかせて「うぅ」と悔しそうな声を上げる。力の入った腕が首を締めるから苦しかった。いや息が出来ないんですけど?銀さん死にそうなんですけどぉ?そう騒ぐ銀時の顔の横で、泣きそうな声がぽつりと零した。
「せっかくのお休みに……ひとりは寂しい、です」
我儘を言わない***が珍しく、駄々をこねるガキみたいに唇を尖らせた。銀時はアパートに向かっていた足を止めて、少し悩んでから万事屋に帰った。
デートに出掛けたはずが、デートの相手を背負って戻ってきた銀時に新八と神楽が驚いていた。だが苦しそうな***に気づいてからの二人の動きは速かった。寝室の布団に横たわらせた途端、新八が湯たんぽを持ってきた。神楽はジャンプを手に取り枕元に正座した。
「***さん、これどうぞ。お腹を温めたら少しは効くかも……あ、薬は飲みましたか?」
「し、新八君、ありがとう。お薬は飲んだよ」
「***!早く寝るヨロシ!眠れるまで私がジャンプ読んであげるネ。えっと、"あはん真中殿、電気を消してくだされ。そんな西野の言葉も無視して真中は……」
「わぁぁぁぁ!神楽ちゃんストップストップ!」
和室で横になる***を新八と神楽が心配そうに覗き込む。その足元で定春もソワソワしていた。読み聞かせを断られた神楽が布団に潜りこむから、銀時は「静かに寝かせてやれ」と怒鳴った。だがすぐに***の楽しそうな声が「いいの」と制した。
「いいんです銀ちゃん、私みんなとお昼寝したい。お布団ひとつでちょっと狭いけど、神楽ちゃんはここで、その後ろに新八君、それで……銀ちゃんも来て下さい」
***は神楽を胸に抱き、その後ろに寝そべる新八の肩を手でトントンと叩きながら、銀時に手招きした。幾度目かの溜息を吐いて布団の端に横たわると、小さな背中を後ろから抱きしめる。温かい布団で新八と神楽はすぐウトウトして、じきに鼾をかきはじめる。定春が「ふんっ」と満足げに鼻を鳴らし、枕元で丸くなった。湯たんぽで温まった腹に手を回してゆっくり撫でてやると、眠たそうな声が囁く。
「銀ちゃん……今日はごめんね」
「まーた謝る。ごめんじゃねぇっつーの……俺は別にデートしてぇからとか、パフェ食いてぇからとか……ヤリてぇからとかで、お前と付き合ってんじゃねぇよ」
「ふふっ、うん、知ってます」
くすくす笑って寝返りを打ったと思ったら、胸に抱き着かれた。布団に片肘をついた銀時を***は上目遣いでチラッと見上げて、はにかむように言った。
「私がお洒落しても、髪を切っても全然気づかない銀ちゃんが……その、私が辛い時にはすぐ気づいてくれるの、すごく嬉しいんです。それで我儘言って、ここぞとばかりに甘えてごめんね。万事屋に連れて来てくれてありがとう。皆と一緒だからもう痛くないし辛くないから、心配いらないよ」
最後の言葉は嘘っぱちだと、分からない仲じゃない。
まだ痛むはずの腹に湯たんぽを押し付けた。銀時は「もう寝ろよ」と言いながら引き寄せた腰を手でさすった。瞼が閉じて眠りに落ちていく***の顔は、ファミレスの前で見た時より血色が良くなっている。静かな寝息と一緒に、力の抜けた身体が胸にもたれてきた。覗き込んだ寝顔が後ろで眠る新八と神楽と同じくらい安心しきっていて、思わず「ぶっ」と吹き出した。
———こんなの我儘なんて言えねーだろ……
すやすや眠る赤ん坊のような***の顔をもっと見ていたくて、手で前髪を払った。白い額にそっと唇を寄せて、音もなく口づける。次に目覚めた時、少しでも楽になっていて欲しいと心底願いながら。
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【我儘なんて言わせない】
2021-6-19