銀ちゃんが好きな女の子
お礼画面(超短編小説)
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【いつか白になる日】
2021-0314 / ホワイトデー記念
深夜2時半に悪い夢を振り払った。
寝巻のまま***は部屋を飛び出し、真っ暗なかぶき町を駆けた。万事屋のインターホンを一度だけ押して息を詰める。祈るように組んだ手がガタガタ鳴り、眠そうな銀時が戸を開けるまでの数分が永遠ほど長く感じた。
「はぁぁ~、ま~たお前は……こんな時間に危ねぇからやめろって、何回言ったら分かるんだよ馬鹿っ!」
「っ……ご、ごめんなさい」
ぼたぼたと涙粒が落ちると同時に、太い腕に引き寄せられた。首にひしっとしがみつくと、銀時は慣れた手つきで***を横向きに抱き上げた。
「んで、今度はどんな夢ですかぁ、お嬢さん」
「……い、言いたくないっ」
涙で熱い瞼の裏に、思い出したくない光景が蘇った。「じゃーな」と言う気の抜けた声。片手を上げた銀時の大きな背中が離れていく。誰かが「あの人はもう帰ってこない」と***に告げた。追いかけたいのに足が鉛みたいに重くて動かない。そのうちに愛しい後ろ姿は真っ白い世界に消えてしまう———
似たような夢を定期的に見る度、こんな風に銀時を叩き起こすはめになる。途方もない淋しさと恐ろしさで、その胸に飛び込まずにいられなくて。
「ったくよ~、毎度毎度しょーがねーヤツだな。めんどくせぇから甘いモンでも飲んで、くだらねぇ夢なんざ忘れて寝ちまえよ、ホラ」
薄暗い居間のソファで膝を抱えていると、銀時がホットミルクを持ってきた。お砂糖がたっぷり入った白い液体から湯気が立つ。ゆっくり飲むと体が温まって、千切れそうだった心も落ちついた。「俺も飲む」と言って銀時が***からマグカップを取り上げる。ミルクをすすった唇の上に、白い髭ができた。
「ふふっ……銀ちゃん、お爺ちゃんみたいです」
「そう言ってる***もサンタみてぇになってんぞ」
慌てて口元を拭おうとした手を大きな手が掴んで止めた。そして導いた手のひらを自分の頬に押し当てる。マグで温められた指に顔をすりすりと擦りつけて、銀時は猫のように細めた瞳で***を見つめた。
「んぁ~、手ぇあったけぇー……どんな夢だか知らねーけど俺ァここにいるよ。今、***の大好きな銀さんが、手ぇ握ってやってんだろ?な?」
「……うん、ねぇ、銀ちゃ、っ、」
———ずっとここに居てくれる?この手を離さないでいてくれる?くだらない夢だって笑ってくれる?
そう尋ねようとした唇を温かいものが塞いだ。ミルク味の唇がふにっと当たり、空っぽのマグが床に落ちる。温かい手が***の後頭部をそっと撫でた。静かに触れて一瞬だけ離れ、また触れる優しいキスに、引いたはずの涙がこみあげてきた。
果たせるか分からない約束で***を縛らない。それが銀時の優しさだってことは、ちゃんと分かってる。
「大丈夫だから、もう寝ろ」
お布団に横たわると寝巻の胸元にすがりついた。「息できねぇって」と笑った銀時が、***の身体をくるりとひっくり返して後ろから抱きしめた。凛々しい胸と太い腕が全身を包む。顔の前に投げ出された銀時の手を両手で握ったら、強い力で握り返された。
「銀ちゃん、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
恐る恐る閉じた瞼の裏に、もうあの夢の光景は浮かばなかった。耳元に銀時の寝息が、背中には心臓の鼓動がとくとくと響く。ようやく安心して***は眠りに身を任せた。白んでいく意識のなか繋いだ手を引き寄せて、今までに何百回と誓ったことを繰り返し思った。
———いつか力尽きて、この身が真っ白になったとしても、私は絶対にこの手を離さない———
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【いつか白になる日】2021-3-14
2021-0314 / ホワイトデー記念
深夜2時半に悪い夢を振り払った。
寝巻のまま***は部屋を飛び出し、真っ暗なかぶき町を駆けた。万事屋のインターホンを一度だけ押して息を詰める。祈るように組んだ手がガタガタ鳴り、眠そうな銀時が戸を開けるまでの数分が永遠ほど長く感じた。
「はぁぁ~、ま~たお前は……こんな時間に危ねぇからやめろって、何回言ったら分かるんだよ馬鹿っ!」
「っ……ご、ごめんなさい」
ぼたぼたと涙粒が落ちると同時に、太い腕に引き寄せられた。首にひしっとしがみつくと、銀時は慣れた手つきで***を横向きに抱き上げた。
「んで、今度はどんな夢ですかぁ、お嬢さん」
「……い、言いたくないっ」
涙で熱い瞼の裏に、思い出したくない光景が蘇った。「じゃーな」と言う気の抜けた声。片手を上げた銀時の大きな背中が離れていく。誰かが「あの人はもう帰ってこない」と***に告げた。追いかけたいのに足が鉛みたいに重くて動かない。そのうちに愛しい後ろ姿は真っ白い世界に消えてしまう———
似たような夢を定期的に見る度、こんな風に銀時を叩き起こすはめになる。途方もない淋しさと恐ろしさで、その胸に飛び込まずにいられなくて。
「ったくよ~、毎度毎度しょーがねーヤツだな。めんどくせぇから甘いモンでも飲んで、くだらねぇ夢なんざ忘れて寝ちまえよ、ホラ」
薄暗い居間のソファで膝を抱えていると、銀時がホットミルクを持ってきた。お砂糖がたっぷり入った白い液体から湯気が立つ。ゆっくり飲むと体が温まって、千切れそうだった心も落ちついた。「俺も飲む」と言って銀時が***からマグカップを取り上げる。ミルクをすすった唇の上に、白い髭ができた。
「ふふっ……銀ちゃん、お爺ちゃんみたいです」
「そう言ってる***もサンタみてぇになってんぞ」
慌てて口元を拭おうとした手を大きな手が掴んで止めた。そして導いた手のひらを自分の頬に押し当てる。マグで温められた指に顔をすりすりと擦りつけて、銀時は猫のように細めた瞳で***を見つめた。
「んぁ~、手ぇあったけぇー……どんな夢だか知らねーけど俺ァここにいるよ。今、***の大好きな銀さんが、手ぇ握ってやってんだろ?な?」
「……うん、ねぇ、銀ちゃ、っ、」
———ずっとここに居てくれる?この手を離さないでいてくれる?くだらない夢だって笑ってくれる?
そう尋ねようとした唇を温かいものが塞いだ。ミルク味の唇がふにっと当たり、空っぽのマグが床に落ちる。温かい手が***の後頭部をそっと撫でた。静かに触れて一瞬だけ離れ、また触れる優しいキスに、引いたはずの涙がこみあげてきた。
果たせるか分からない約束で***を縛らない。それが銀時の優しさだってことは、ちゃんと分かってる。
「大丈夫だから、もう寝ろ」
お布団に横たわると寝巻の胸元にすがりついた。「息できねぇって」と笑った銀時が、***の身体をくるりとひっくり返して後ろから抱きしめた。凛々しい胸と太い腕が全身を包む。顔の前に投げ出された銀時の手を両手で握ったら、強い力で握り返された。
「銀ちゃん、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
恐る恐る閉じた瞼の裏に、もうあの夢の光景は浮かばなかった。耳元に銀時の寝息が、背中には心臓の鼓動がとくとくと響く。ようやく安心して***は眠りに身を任せた。白んでいく意識のなか繋いだ手を引き寄せて、今までに何百回と誓ったことを繰り返し思った。
———いつか力尽きて、この身が真っ白になったとしても、私は絶対にこの手を離さない———
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【いつか白になる日】2021-3-14