銀ちゃんが好きな女の子
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【私たちのお雛さま】
2021-0303 / ひなまつり記念
雛人形を出さない家の娘は婚期を逃す、なんて馬鹿げた迷信さ。そう言ってお登勢は煙草を吹かした。***はスナックのカウンターで、隣に座る銀時にふと浮かんだ疑問を投げかけた。
「万事屋にはたしか雛人形無いですよね?神楽ちゃん、欲しがってないですか?」
「あ?あの色気より食い気の怪力娘が、人形なんざ欲しがるわけねーだろ。どこで聞いたか知らねぇが、ひな祭りにはちらしずしとか言う寿司が食えるんだろって、ギャーギャー騒いでたっつーの」
ふーん、と考え込むと、脳裏に突然ウェディングドレスに身を包んだ神楽の姿が浮かんだ。手にブーケを持ち、ベールの向こうで「***、私、幸せになるアル」と微笑む顔はとても幸せそうだった。喜ばしいことなはずなのになぜか心臓が苦しくて、手ぬぐいを絞るみたいにギューっと締め付けられた胸がひどく痛んだ。
———あ、や、やだな……子どもみたいに可愛いあの神楽ちゃんが、誰かのものになるなんて。妹みたいに甘えてくれるあの子が旅立つなんて、想像しただけで悲しくなっちゃうよ……
そう思いながら***は横を向いて、銀時の顔を見た瞬間、ギョッとして大声を上げた。
「銀ちゃん!?目から血が出てるけど大丈夫!?」
「あ゛あ゛あ゛!?っんだよ***!?コレ血じゃねーから!焼酎のいちご牛乳割り飲み過ぎて、目から吐いてるだけだから!神楽が嫁ぐの想像して血の涙流してるとかじゃ、断じてないからァァァ!!!」
苦悶の表情で両目から血をだくだくと流す銀時に、お登勢が溜息をついた。だが***には銀時の気持ちが痛いほどよく分かる。娘のような妹のような、大切な女の子がお嫁に行くのはとても悲しい。私がこんなに寂しいのだから、銀ちゃんはもっと寂しいはずだ。
自分勝手な願いだけれど神楽にはもう暫く、色気よりも食い気の少女でいて欲しい。銀時の血の涙が止まった頃、***はそっと太い腕に手をのばし、水色の渦巻き模様の袖をくいくいと引っ張った。
「ねぇ、銀ちゃん、大江戸スーパーに買い出しに行きませんか?材料買って、いっぱいちらしずし食べさせてあげようよ。神楽ちゃんはホラ、色気より食い気だもの」
「……ったく、しょーがねーなァァァ!***がそんなに言うんなら、銀さんも渋々ながら付き合ってやるよ!まったくよォォォ、ほんっとあのガキァ世話が焼けるっつーのォォォ!!!」
本当は乗り気なくせに、と思ったけど言わない。
くすくす笑う***の手を引いて「なに笑ってんだよ」と怒りながらスーパーへ向かう銀時は少し早歩きだった。買い込んだ大量の食材に目を丸くした新八も巻き込んで、炊けるだけのお米をたんまり炊いたら、大きな寿司桶いっぱいに五目ちらしが出来上がった。
「うわぁ~!***がこれ作ってくれたアルか!?銀ちゃん、私これ全部食べていいアルか!?」
青い瞳を輝かせた神楽がどんどん平らげていく。銀時と***はそれを満足げに眺めていた。
———神楽ちゃん、全部食べてね。いっぱい食べてね。ずっと万事屋でご飯を食べて、きっといつまでも私たちのお雛さまで居てね……
ほっぺたいっぱいに頬張る神楽を見つめて、***は祈るように思った。そしてソファに並んで座る銀時に小さな声でこそこそと囁いた。
「ねぇ、銀ちゃん、雛人形はずっと飾らないでね」
「言われなくても、んなモンうちにはねぇよ」
大きな手が***の頭をぐしゃっと撫でた。
「ちらしずし、おかわり!」という神楽の弾けるような声が、万事屋に響き渡っていた。
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【2021-0303ひなまつり記念】私たちのお雛さま
2021-0303 / ひなまつり記念
雛人形を出さない家の娘は婚期を逃す、なんて馬鹿げた迷信さ。そう言ってお登勢は煙草を吹かした。***はスナックのカウンターで、隣に座る銀時にふと浮かんだ疑問を投げかけた。
「万事屋にはたしか雛人形無いですよね?神楽ちゃん、欲しがってないですか?」
「あ?あの色気より食い気の怪力娘が、人形なんざ欲しがるわけねーだろ。どこで聞いたか知らねぇが、ひな祭りにはちらしずしとか言う寿司が食えるんだろって、ギャーギャー騒いでたっつーの」
ふーん、と考え込むと、脳裏に突然ウェディングドレスに身を包んだ神楽の姿が浮かんだ。手にブーケを持ち、ベールの向こうで「***、私、幸せになるアル」と微笑む顔はとても幸せそうだった。喜ばしいことなはずなのになぜか心臓が苦しくて、手ぬぐいを絞るみたいにギューっと締め付けられた胸がひどく痛んだ。
———あ、や、やだな……子どもみたいに可愛いあの神楽ちゃんが、誰かのものになるなんて。妹みたいに甘えてくれるあの子が旅立つなんて、想像しただけで悲しくなっちゃうよ……
そう思いながら***は横を向いて、銀時の顔を見た瞬間、ギョッとして大声を上げた。
「銀ちゃん!?目から血が出てるけど大丈夫!?」
「あ゛あ゛あ゛!?っんだよ***!?コレ血じゃねーから!焼酎のいちご牛乳割り飲み過ぎて、目から吐いてるだけだから!神楽が嫁ぐの想像して血の涙流してるとかじゃ、断じてないからァァァ!!!」
苦悶の表情で両目から血をだくだくと流す銀時に、お登勢が溜息をついた。だが***には銀時の気持ちが痛いほどよく分かる。娘のような妹のような、大切な女の子がお嫁に行くのはとても悲しい。私がこんなに寂しいのだから、銀ちゃんはもっと寂しいはずだ。
自分勝手な願いだけれど神楽にはもう暫く、色気よりも食い気の少女でいて欲しい。銀時の血の涙が止まった頃、***はそっと太い腕に手をのばし、水色の渦巻き模様の袖をくいくいと引っ張った。
「ねぇ、銀ちゃん、大江戸スーパーに買い出しに行きませんか?材料買って、いっぱいちらしずし食べさせてあげようよ。神楽ちゃんはホラ、色気より食い気だもの」
「……ったく、しょーがねーなァァァ!***がそんなに言うんなら、銀さんも渋々ながら付き合ってやるよ!まったくよォォォ、ほんっとあのガキァ世話が焼けるっつーのォォォ!!!」
本当は乗り気なくせに、と思ったけど言わない。
くすくす笑う***の手を引いて「なに笑ってんだよ」と怒りながらスーパーへ向かう銀時は少し早歩きだった。買い込んだ大量の食材に目を丸くした新八も巻き込んで、炊けるだけのお米をたんまり炊いたら、大きな寿司桶いっぱいに五目ちらしが出来上がった。
「うわぁ~!***がこれ作ってくれたアルか!?銀ちゃん、私これ全部食べていいアルか!?」
青い瞳を輝かせた神楽がどんどん平らげていく。銀時と***はそれを満足げに眺めていた。
———神楽ちゃん、全部食べてね。いっぱい食べてね。ずっと万事屋でご飯を食べて、きっといつまでも私たちのお雛さまで居てね……
ほっぺたいっぱいに頬張る神楽を見つめて、***は祈るように思った。そしてソファに並んで座る銀時に小さな声でこそこそと囁いた。
「ねぇ、銀ちゃん、雛人形はずっと飾らないでね」
「言われなくても、んなモンうちにはねぇよ」
大きな手が***の頭をぐしゃっと撫でた。
「ちらしずし、おかわり!」という神楽の弾けるような声が、万事屋に響き渡っていた。
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【2021-0303ひなまつり記念】私たちのお雛さま