銀ちゃんが愛する女の子
ふたりの夢のくに
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【(6)19:00】
遊園地をひと通り遊びつくして、見たいものは全て見たと***が満足した頃、銀時はすでに夢の国にはもう飽きた、という顔をしていた。
日が暮れた遊園地は、昼間とは別の表情になっていた。色とりどりの照明でライトアップされた園内では、ありとあらゆるものがキラキラと輝き出す。はじめて見るイルミネーションに感心する***の隣で、銀時は興味もなさそうに鼻をほじっていた。それでもしっかりと手は繋いでいてくれることが嬉しい。
「なぁー、もうそろそろ出ねぇ?」
「あ、うん、そうですね、もう帰らないと……あ、でもお土産買わなきゃ!」
「は?みやげぇ?誰に?」
「誰って、新八くんと神楽ちゃんに決まってるじゃないですか。あ、あとお登勢さんたちにも」
「はぁ?なんで?」
「なんでって……」
ふたりで遊びに来させてもらったんだから、何か買って帰るのが礼儀ですよ、と言っても銀時は、解せない顔をしていた。腕時計をチラリと見て、***は小さくため息をつく。ああ、そろそろ本当に帰らなければ。そう思うと急に寂しくなって、なんだか名残惜しい。
遊園地の絵が描かれた缶入りのクッキーを2つ。大江戸遊園地と書かれたお饅頭の箱を2つ。マスコットキャラクターの小さなキーホルダーを2つ。買い物かごの中を見た銀時が「そんないらなくね?誰にあげんだよ誰にぃ」と疑わしげに言った。
買物を終えて店を出ると通りがにぎやかだった。人々の流れていく方で、パレードがはじまっている。ゴンドラに乗ったキャラクターやダンサーたちが、満面の笑みで観客に手を振っている。
人生初のパレードのきらびやかさに惹かれて、***は駆け出しそうになった。しかし、もう帰る時間だと自分に言い聞かせて、その場に踏みとどまる。
「あっと……じゃ、じゃあ帰りましょうか、銀ちゃん」
「は?アレ見なくていーのかよ」
「え?いやいや、見てたら遅くなっちゃうし、それに銀ちゃん」
もう帰りたいでしょう?と言う前に、既に銀時は歩きはじめていた。***の手を引いて、パレードの見える大きな広場へとぐんぐん進んでいく。
混みあう広場の中央には入れなかったから、少し離れた人のいないベンチに並んで腰かけた。パレードの輝きは遠い場所からでもよく見える。期待と不安を胸に***はちらっと銀時を見上げた。
「ねぇ、銀ちゃん……見ても、いいの?」
「いいに決まってんだろ。オラ、白タイツの王子がヒラヒラ踊ってんぞ。どーせお前、あーゆーのが好きなんだろ?目ぇかっぴらいてちゃんと見ろよ」
大きな手で頭を上からつかまれて、ぐいっと前を向かされる。コーヒーカップを模した大きな乗り物の上で、華やかな衣装の王子様とお姫様が舞い踊っていた。
「きれい、すごく綺麗です……」
自然と声が漏れる。抱き合うように踊るふたりは、この世のものとは思えないくらい美しい。
うっとりとして見惚れていたら隣から「ぶっ」と吹き出す声がした。横を向くと銀時が笑いながら***の顔を指さして「お前ってほんっとガキみてぇな顔すんのな」と言った。からかわれてぼわっと赤くなった***のほほを、銀時の左手が包んだから、驚いて反論できなかった。ただ***は照れ隠しのように早口でまくし立てた。
「きょっ、今日はいちにち、ありがとう銀ちゃん!連れ回しちゃってごめんなさい。銀ちゃんのお誕生日なのに、私の方が浮かれちゃったよね。あ、あの、銀ちゃんもちょっとは楽しめましたか?」
「あ~?まぁ、それなりに良かったんじゃねーの?オッサンひとりじゃこんなトコ来ねぇからな。たまにはパチ屋じゃねーとこで丸一日過ごすのも悪かァなかったよ」
気だるげに言われた返答に、***は心底安心した。よかったぁ、という声がため息と一緒に出る。少なくとも退屈でなければ、お誕生日デートとして成功と言っていい。頭から花が咲きそうなほどふにゃりと笑ったら、銀時はもう一度「ぶはっ」と笑った。
「んで、お前はどーなんだよ。夢の国とやらには満足できたんですかぁ、***お嬢さまはぁ~?」
「うん、私は大満足です!乗りものいっぱい乗ったし、綺麗なパレードも見たし、もう何も思い残すことは、」
ドォォォォンッッッ———!!!
急に打ちあがった花火が、***の声をかき消した。
パレードは最高潮を迎え、遊園地はその日いちばんの盛り上がりを見せる。わぁっ、と声を上げて***は花火を見ようとした。しかし、そのほほを銀時が両手でつかんで引き止める。ぐいっと顔を引っ張られて、気付いた時には唇がくっついていた。
「んっ……!」
ぎゅっと乱暴に押し付けるようなキスに驚いて、***は目を見開く。じっと見つめ合う赤い瞳のなかに、花火の色がチラチラとして、とても綺麗だった。まるで夢のなかにいるような気分で、ほんの一瞬が永遠に思えるほど長く感じた。
触れ合う唇の温度にとろけそうになった***が、自分のいる場所を思い出してハッとする。慌てて銀時の肩を両手でペシペシッと叩いたら、押し当てられていた唇が、名残惜しそうに離れていった。
「こここここんなところで、ダメだよ銀ちゃん!」
口をあわあわとさせて真っ赤な顔でそう言うと、銀時は不本意そうに「はぁ?」と言った。
周りに人の気配はないし、広場の端の暗い場所だから誰にも見えやしないし、別にいいだろうが、とつぶやいて再び顔を寄せてくる。
「んぎぎ銀ちゃ、ちょ、まっ……!」
「お前だってほんとはしてぇんだろ?観覧車でしそこなってから、ずっと物足りなそーな顔してたくせに。めっさ帰りたくなさそーにしょんぼりしてたくせに。やせ我慢してんじゃねーよ。ホラホラ、大好きな銀さんがキスしてやっから、おとなしくしとけって」
「なっ……い、いや、それはそのっ……」
ニヤついた銀時に、何もかも見透かされていた。
正直に言って、***は寂しくてしかたがない。もう帰らなければいけないことが。夢の国の時間が終わってしまうことが。あともう少しだけ、大好きな銀時とふたりきりでいられたら、と願っている自分がいる。
ああ、でも、と***は首をふるふると横に振った。
———ああ、でも、本当にもう帰らなきゃ。今日はずっと銀ちゃんと一緒にいられて幸せだった。そもそも遊園地に付き合ってもらっただけで十分なんだから、これ以上ワガママ言っちゃダメだよね……
そう思って小さくため息をつく。自然と眉が八の字に下がって苦笑いを浮かべた***は、銀時を伺うように上目づかいで見上げて口を開いた。
「銀ちゃん私ね、夢の国がもう終わりって思ったらちょっと寂しくなって、帰りたくないって気がしちゃっただけです……でも、もう大丈夫なの。いっぱい楽しい思い出ができて大満足です。さぁ、もう帰ろう?」
「まだだっつーの。俺は、まだ足りねぇ」
「わっ、ちょ、やっ……!!」
再び顔を引き寄せられて、さっきより深く唇が重なった。ほほをつかんでいた銀時の手がうなじに回って、***の顔を動かなくさせた。もう一方の手が腰にするりと回って、強く抱き寄せる。
ああ、ダメだ、こんな風にされたら、ますます帰りたくなくなってしまう。打ちあがる花火のドンッという響きと、心臓の鼓動の区別がつかない。すがるように***が白い着流しの襟元をぎゅうっとつかんだら、くっついたままの銀時の唇がフッと笑った。
触れては離れ、離れてはまた触れてのキスを何度も繰り返して、ヤケドしそうなくらい唇が熱を持つ。
息苦しさに***が涙ぐんだ頃、ようやくふたりは離れた。離れた後も***の細い首をつかんだまま銀時は、飼い犬が主人に甘えるように、***の鼻筋に鼻先をするりとこすりつけた。唇が触れ合いそうなほど近くで低い声が発せられた。
「***、お前、帰りたくねぇっつったよな……奇遇だけど、俺もお前を帰したくねぇよ」
「っ……!!ち、ちがっ、銀ちゃん」
帰りたくない、の意味がちがう。慌てて***は訂正しようとしたが、背中に回った腕で強く抱き寄せられて、声が出せなかった。花火やパレードのにぎやかさが遠のいて、耳に寄せられた銀時の唇から漏れる声だけが、***の鼓膜を震わせた。
「俺は***をこのまま帰したくねぇ……っつーか帰す気になれねぇわ……なぁ、俺、今日、誕生日なんだけど。遊園地で遊んで、手ぇ繋いでキスして、それで満足できるほど、銀さんはガキじゃねーんだよ……だから***、帰るなよ。このまま明日の朝までずっと、俺と一緒にいろよ」
「~~~~~っ、ぎ、銀ちゃん、そ、そのっ……」
熱い吐息と低い声の甘いささやきに、***は肩をすくめた。はっきりと言葉にしなくても、銀時が言いたいことの意味は分かる。
付き合ってひと月、はじめての誕生日、男女がふたりきり。そういう流れになるのは必然だと、いくら鈍い***でも理解できた。
———お誕生日に私を欲しいって言われるのは、ものすごく恥ずかしいけど、同じくらい嬉しい。こんなにキラキラしたロマンチックな場所で好きな人に誘われて、断れる女の子なんていないかもしれない……それにこんな声で、普段のあのふざけた感じとは全然ちがう銀ちゃんの声で「一緒にいろ」なんて言われたら、ぐらっと来そうだ……でも、でも、でもぉぉぉぉぉ~~~!!!
「っっ、銀ちゃん!残念だけど、それはできないんです!!」
「なっ……!?は、はぁぁぁぁ!!!?」
***は銀時の両肩をつかんで、ぐいっと身体を引き離した。そして真っ赤な顔で叫ぶと、銀時は口をあんぐりと開けて驚いていた。
「っんでだよ!?なんで出来ねーんだよ!?まさか、まだ心の準備ができてねーとか、ぐだぐだ言うつもりじゃねぇだろーな!?お前、俺の話聞いてた?今日銀さん誕生日!年に一度の彼氏の記念日だぞ?祝えよ!!***の全身捧げて、大好きな彼氏を祝い倒せよコノヤロォォォ!!!」
「なななな、なに言って……と、とにかくダメなんです。帰らなきゃいけないんです。その、あ、あんまり詳しくは言えないんだけど……」
もごもごと言いよどむ***を銀時が睨んだ。自分の誘いを断るくらいなんだから、それ相応の理由じゃないと許さない、というような顔つきだった。
「あ、あのね銀ちゃん……その、み、みんなが待ってるんです。私たちの、いや、銀ちゃんの帰りを、みんなが万事屋で待ってるの」
「はぁぁ?みんなって誰だよ?」
「みんなは皆だよ。新八くんと神楽ちゃんと、お登勢さんとキャサリンさんと……お妙さんも来てるし、たぶん長谷川さんと桂さんも居るんじゃないかなぁ」
「なっ……、なんでだよ!?」
「なんでってそりゃぁ、お誕生日会に決まってるじゃないですか。これは内緒だけど、みんな一生懸命パーティーの準備をしてるんです。ケーキは私が作ったけど、新八くんたちがお料理を作ってくれてるんだよ?それにお登勢さんが高いお酒を持ってくるって言ってたし……ねぇ、だから、主役の銀ちゃんがいないとお誕生日会がはじまらなくて、みんな困っちゃうんです。さぁ、だから、もう帰りましょう?」
にこやかに微笑んで***が言うと、銀時は片手で顔を押さえてがっくりとうつむいた。そういうことかと言ってお土産入りの紙袋を見た銀時が「はぁぁぁぁ~」とため息をつく。その手をつかんで***は立ち上がり、グイグイと引っ張った。ねぇ早く、と急かすと銀時は呆れた顔で面倒くさそうに立ち上がった。
「っだよちくしょ~~……え、じゃぁ、マジで***からのプレゼントってケーキだけかよ。ひらひらレースのスケスケ下着で贈り物は私ってヤツねぇのかよぉ~~~」
「ななななな無いよ!!そんなのあるわけないじゃないですか!銀ちゃんの馬鹿!!」
えぇ~、と後ろからまだ不満げな声がする。その手を痛いほどぎゅうっと握って、夜空の花火を見上げながら***はずんずんと出口へ向かって歩いて行く。ついさっきまで、少しの未練があった遊園地に、今はもうきっぱりと別れを告げられる。
———楽しかったな。また銀ちゃんと、いや今度は新八くんと神楽ちゃんも一緒に、みんなでここに遊びに来れたらいいなぁ……
パラパラと降る花火のなか、***はほんの少し先の未来に思いを馳せた。あと数十分後、銀時は万事屋の扉を開けて、新八と神楽に出迎えられる。弾けたクラッカーから飛び出すカラフルなテープを銀色の髪に浴びるだろう。飾りつけられた部屋や豪勢な料理に目を丸くする。腐れ縁なんて呼ぶけれど、なじみ深い人たちに「おめでとう」と言われている景色が目に浮かぶ。
あまのじゃくな銀時はきっと「人の誕生日でギャーギャー浮かれてんじゃねーよ」とか言うに決まってる。
けれど、***にはよく分かっている。憎まれ口を叩いて面倒くさそうな顔をしながら、鼻先を指で撫でる銀時が、内心は喜んでいることを。照れくさくて嬉しい気持ちを正直に表せないことを。
銀時が本当のところ、新八や神楽を抱きしめたいくらい大切に思っていることを***は知っている。お登勢や他の人たちも大事に思っていることも。でもその本心を知られるのが恥ずかしいから、照れ隠しにお酒をいっぱい飲んで悪酔いして、みんなに迷惑をかけて「やっぱりコイツはどうしようもないヤツだ」と、わざと呆れられようとすることも。全部、分かっていた。
———ほんとに素直じゃないよね、銀ちゃん。でも私、そんな風に銀ちゃんが温かい人たちの中にいるのが、嬉しくて仕方がないよ。そんな銀ちゃんを囲んで、笑ったり怒ったり、呆れたりしている皆と一緒にいるのが、私はいちばん幸せだよ……
振り返ると***に導かれるがまま、ズルズルと足を引きずるように歩く銀時と目が合った。明日の朝、二日酔いになって子どもたちに白い目で見られている姿まで想像できて、思わず***は「ぷっ」と吹き出した。
「あ゙ぁ゙?あんだよ、なに笑ってんだよ***~?なにがおかしいんだよコノヤロー」
「内緒です!ふふふっ……ねぇ、はやく帰ろう!私、銀ちゃんのお誕生日会が楽しみです!」
弾けるように笑ってそう言った***を、銀時はぽかんとした顔で見ていた。しばらくすると、チッと舌打ちをして気まずそうに目を逸らす。引きずっていた足を止めてそっぽを向いたせいで、手を引いていた***も進めなくなり、その場で足止めされた。
「銀ちゃん、ね、早くって、ばぁぁッッッ!!?」
繋いでいた手を突然つよく引かれて、***はつんのめるように銀時の胸に飛び込んだ。硬い胸板に顔からドンッとぶつかって「んぎゃッ!」と色気のない悲鳴を上げる。したたか打ち付けた鼻がじーんと痛むのをこらえてたら、肩に回った太い腕にぎゅうっと力が込められた。
「え、あの、ぎ、銀ちゃん……?」
顔を上げようとしたのに、頭のてっぺんに銀時のあごがのったせいで動けない。仕方なく心臓の鼓動を聞くように、胸に耳を押し当てて大人しくしていたら、真上から不満げな声が降ってきた。
「はぁぁぁぁ~~、お前にそんなこと言われたら、帰るしかねぇじゃねーかよ***~~~!っんだよ、せっかく誕生日の夜に、彼女とふたりでしっぽり過ごせると思ってったっつーのによぉぉぉ~~。ガキと婆さんと酔っ払いどもの相手なんざ聞いてねぇっつーのぉ……」
「っっ……、そ、そんなこと言われても」
困りきって***は言葉を失う。でも、どうしても万事屋へ銀時を連れ帰らなければならない。どうすべきか思案しながら、抱きしめ返した手で銀時の背中をポンポンと叩いたら、突然、頭上から大きな声がした。
「来年は絶ッッッ対、もらう!!!」
「へぁっ!?ら、来年!?」
「来年の誕生日には、お前を貰うっつったんだよ!一年後の10月10日はラブホにしけこんで、***とくんずほぐれつ、しこたま可愛がって俺の気のすむまでヤりまくるから!もーこれ決まりだから!お前に拒否権ねぇから!朝から晩まで銀さんに付き合ってもらうからぁ!覚悟しとけよコノヤロォォォ!!」
「あ、朝から晩までって、な、何言って、」
「いや、ちょっと待て、朝から晩までじゃ足りねーな。あ、アレだ、前夜祭と後夜祭とかいう、ふざけた文化祭のくだらねぇ風潮にならって、前日の夜から次の日の夜まで三日三晩、***のこと抱きまくってやらぁ!」
「だ、抱きっ……!?いややや、ちょっと待ってよ銀ちゃん!私まだそーゆーのしたことないですから。そんな約束できないよ!」
その言葉を聞いた銀時が身体をバッと離した。***の両肩を痛いほど強くつかむと、怒っているような目つきでギロリと見下ろす。
「だ~か~らぁ~、来年までに練習すんだよ***!一年後、お前が俺を満足させられるように早ぇとこ処女卒業して、あらゆるテクを体得しとくんだってぇ、銀さんが協力してあげるからぁ!っつーことで、来年の今日は俺と***でセックスざんま、イグガァァァッ!!!」
お土産のお菓子の箱や缶の入った紙袋が、銀時の顔面に直撃した。暗闇でも分かるほど真っ赤な顔の***が、頭から湯気が出そうな様子でブルブルと震えた。
「いっでぇぇぇ!!!あにすんだよコノヤロー!!!」
「~~~~っ、ぎ、銀ちゃんがおっきな声で恥ずかしいことベラベラ言うからでしょ!?この変態!スケベ!馬鹿ァ!!」
泣きそうになりながら振り回した袋が、銀時の腕や足にバシバシと当たる。「イテイテ」と言うくせにニヤついた銀時は、しばらくすると***の手首をパシッとつかんだ。持っていた紙袋をあっという間に取り上げられてしまった。
「別に恥ずかしくねーだろーが。観覧車でディープキスかますヤツらに比べたら、来年の約束ですますのなんざ健全どころか青臭ぇっつーの……なー、***は嫌なのかよ、来年、俺と一緒にいんのが。大好きな銀さんとず~っとべったりできんだぞ、喜べよ~!」
「い、嫌だなんて、言ってないけど……」
ただ考えただけで死にそうなほど恥ずかしい。まだキスとその少し先しか経験のない***には、銀時とホテルにふたりきりと想像するだけで刺激が強くて。
しかし、来年も一緒にいたいと言われたことの喜びが、胸にじわじわと広がってきた。知らぬ間ににぎられていた手に銀時がぎゅっと力を入れるから、そこから熱い体温が流れ込んできて、心臓がドキドキと鳴った。
———この大きくてあったかい手で頭を撫でたり、ほっぺを包まれたり、抱きしめてもらうのは幸せ。だからきっと、その先まで進むのも大丈夫。子どもっぽい私がまだ知らないことを、銀ちゃんに教えてもらえるなら、私たぶん夢の国にいるみたいに、幸せになれる気がする……
「わ、わかりました!来年のお誕生日は……あ、朝までずっと、銀ちゃんと一緒にいるっ!!」
「ラブホテルで?」
「うんっ!」
「三日三晩?」
「う、うんっ」
「セックスざんま、」
「うわぁー!!もーわかったからそれ以上言わないでください!!」
悲鳴のような声でさえぎると、銀時はゲラゲラと笑った。にぎっていた手を離して華奢な指を開くと、するりと小指を絡めた。
「そんじゃ、ゆびきり。嘘ついたらどーなるか、分かってんだろーな***」
「うっ……うん、針でもなんでも飲みますよ!」
言ったな、と大口を開けて笑われたのが悔しかったから、***は絡めた小指をわざとぶんぶんと強く上下させた。ゆびきりげんまん!と大声で言うと、銀時は満足げにうなずいて、その手を繋ぎ直した。
さっきまでとは打って変わって、銀時が***の手を引いて、遊園地の出口へと向かっていく。
前を歩く広い背中を見上げる。銀色の髪の跳ねる毛先に、花火の輝きがキラキラと反射して綺麗だった。夜空の星のように消えそうな光に胸が締めつけられて、***は繋いだ手に力を込めた。
「ねぇ銀ちゃん、お誕生日おめでとう」
「あ?おぉー……」
———銀ちゃん、生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。来年もその先もずっと銀ちゃんと一緒にいたいです……そんなこと言うと「こっぱずかしいヤツだな」って呆れられそうだから言えないけど、いつか伝えられたらいいなぁ……
「銀ちゃん……その、だ、大好きです」
花火の音で聞こえないかもしれない、と思いながらも***はいま言える精一杯の言葉を呟いた。
おめでとう、には振り向かなかった銀時が、パッとこちらに顔を向け***を見下ろすと、ふふん、と得意げに笑った。
「んなこた知ってるわ。ここにいる間ず~っとふにゃふにゃ楽しそーに笑ってる***の顔に "銀ちゃん大好き~" って書いてあったっつーの!」
「なっ、う、嘘!?」
「ほんとぉぉぉ!!!」
ガハハと笑った銀時が***の手を強くにぎり返す。
夢の国から遠ざかっても、ふたりの足取りはいつまでも軽やかで、笑い声はどこまでも絶えなかった。
さぁ、帰ろう、万事屋へ。
この世界でいちばんの幸福の待つ場所へ。
ふたりでいれば、どこだってそこは夢のくにだから。
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【(6)19:00】end
『ふたりの夢のくに』
(2019-1010♡坂田銀時 誕生日記念作品)end
『ふたりの夢のくに』をお読み頂きありがとうございます(*´꒳`*)♡
昨年の10月10日に第1話を公開してから、約1年かけてようやく完結することができました。あやうく今年の10月10日までずれ込んでしまうのではとヒヤヒヤしましたが、なんとかゴールできて嬉しいです。牛乳シリーズの番外編ですが、第3部のお祭りの後くらいのふたりの話なのでまだ初々しさがあって、書きながらおもちは「なんか懐かしいなこの感じ」と楽しかったです。
遊園地デートはいかがでしたでしょうか。2020年の現状、外出が難しい情勢のなか、せめてお話のなかではめいっぱい楽しく遊べたらいいなぁと思いながら書きました。楽しんで頂けたら幸いです。
♡(スキ)押下やコメント等いただけると大変励みになります。
もし気が向いたらどうぞよろしくお願い致します!
(2020-9-27 / おもち)
遊園地をひと通り遊びつくして、見たいものは全て見たと***が満足した頃、銀時はすでに夢の国にはもう飽きた、という顔をしていた。
日が暮れた遊園地は、昼間とは別の表情になっていた。色とりどりの照明でライトアップされた園内では、ありとあらゆるものがキラキラと輝き出す。はじめて見るイルミネーションに感心する***の隣で、銀時は興味もなさそうに鼻をほじっていた。それでもしっかりと手は繋いでいてくれることが嬉しい。
「なぁー、もうそろそろ出ねぇ?」
「あ、うん、そうですね、もう帰らないと……あ、でもお土産買わなきゃ!」
「は?みやげぇ?誰に?」
「誰って、新八くんと神楽ちゃんに決まってるじゃないですか。あ、あとお登勢さんたちにも」
「はぁ?なんで?」
「なんでって……」
ふたりで遊びに来させてもらったんだから、何か買って帰るのが礼儀ですよ、と言っても銀時は、解せない顔をしていた。腕時計をチラリと見て、***は小さくため息をつく。ああ、そろそろ本当に帰らなければ。そう思うと急に寂しくなって、なんだか名残惜しい。
遊園地の絵が描かれた缶入りのクッキーを2つ。大江戸遊園地と書かれたお饅頭の箱を2つ。マスコットキャラクターの小さなキーホルダーを2つ。買い物かごの中を見た銀時が「そんないらなくね?誰にあげんだよ誰にぃ」と疑わしげに言った。
買物を終えて店を出ると通りがにぎやかだった。人々の流れていく方で、パレードがはじまっている。ゴンドラに乗ったキャラクターやダンサーたちが、満面の笑みで観客に手を振っている。
人生初のパレードのきらびやかさに惹かれて、***は駆け出しそうになった。しかし、もう帰る時間だと自分に言い聞かせて、その場に踏みとどまる。
「あっと……じゃ、じゃあ帰りましょうか、銀ちゃん」
「は?アレ見なくていーのかよ」
「え?いやいや、見てたら遅くなっちゃうし、それに銀ちゃん」
もう帰りたいでしょう?と言う前に、既に銀時は歩きはじめていた。***の手を引いて、パレードの見える大きな広場へとぐんぐん進んでいく。
混みあう広場の中央には入れなかったから、少し離れた人のいないベンチに並んで腰かけた。パレードの輝きは遠い場所からでもよく見える。期待と不安を胸に***はちらっと銀時を見上げた。
「ねぇ、銀ちゃん……見ても、いいの?」
「いいに決まってんだろ。オラ、白タイツの王子がヒラヒラ踊ってんぞ。どーせお前、あーゆーのが好きなんだろ?目ぇかっぴらいてちゃんと見ろよ」
大きな手で頭を上からつかまれて、ぐいっと前を向かされる。コーヒーカップを模した大きな乗り物の上で、華やかな衣装の王子様とお姫様が舞い踊っていた。
「きれい、すごく綺麗です……」
自然と声が漏れる。抱き合うように踊るふたりは、この世のものとは思えないくらい美しい。
うっとりとして見惚れていたら隣から「ぶっ」と吹き出す声がした。横を向くと銀時が笑いながら***の顔を指さして「お前ってほんっとガキみてぇな顔すんのな」と言った。からかわれてぼわっと赤くなった***のほほを、銀時の左手が包んだから、驚いて反論できなかった。ただ***は照れ隠しのように早口でまくし立てた。
「きょっ、今日はいちにち、ありがとう銀ちゃん!連れ回しちゃってごめんなさい。銀ちゃんのお誕生日なのに、私の方が浮かれちゃったよね。あ、あの、銀ちゃんもちょっとは楽しめましたか?」
「あ~?まぁ、それなりに良かったんじゃねーの?オッサンひとりじゃこんなトコ来ねぇからな。たまにはパチ屋じゃねーとこで丸一日過ごすのも悪かァなかったよ」
気だるげに言われた返答に、***は心底安心した。よかったぁ、という声がため息と一緒に出る。少なくとも退屈でなければ、お誕生日デートとして成功と言っていい。頭から花が咲きそうなほどふにゃりと笑ったら、銀時はもう一度「ぶはっ」と笑った。
「んで、お前はどーなんだよ。夢の国とやらには満足できたんですかぁ、***お嬢さまはぁ~?」
「うん、私は大満足です!乗りものいっぱい乗ったし、綺麗なパレードも見たし、もう何も思い残すことは、」
ドォォォォンッッッ———!!!
急に打ちあがった花火が、***の声をかき消した。
パレードは最高潮を迎え、遊園地はその日いちばんの盛り上がりを見せる。わぁっ、と声を上げて***は花火を見ようとした。しかし、そのほほを銀時が両手でつかんで引き止める。ぐいっと顔を引っ張られて、気付いた時には唇がくっついていた。
「んっ……!」
ぎゅっと乱暴に押し付けるようなキスに驚いて、***は目を見開く。じっと見つめ合う赤い瞳のなかに、花火の色がチラチラとして、とても綺麗だった。まるで夢のなかにいるような気分で、ほんの一瞬が永遠に思えるほど長く感じた。
触れ合う唇の温度にとろけそうになった***が、自分のいる場所を思い出してハッとする。慌てて銀時の肩を両手でペシペシッと叩いたら、押し当てられていた唇が、名残惜しそうに離れていった。
「こここここんなところで、ダメだよ銀ちゃん!」
口をあわあわとさせて真っ赤な顔でそう言うと、銀時は不本意そうに「はぁ?」と言った。
周りに人の気配はないし、広場の端の暗い場所だから誰にも見えやしないし、別にいいだろうが、とつぶやいて再び顔を寄せてくる。
「んぎぎ銀ちゃ、ちょ、まっ……!」
「お前だってほんとはしてぇんだろ?観覧車でしそこなってから、ずっと物足りなそーな顔してたくせに。めっさ帰りたくなさそーにしょんぼりしてたくせに。やせ我慢してんじゃねーよ。ホラホラ、大好きな銀さんがキスしてやっから、おとなしくしとけって」
「なっ……い、いや、それはそのっ……」
ニヤついた銀時に、何もかも見透かされていた。
正直に言って、***は寂しくてしかたがない。もう帰らなければいけないことが。夢の国の時間が終わってしまうことが。あともう少しだけ、大好きな銀時とふたりきりでいられたら、と願っている自分がいる。
ああ、でも、と***は首をふるふると横に振った。
———ああ、でも、本当にもう帰らなきゃ。今日はずっと銀ちゃんと一緒にいられて幸せだった。そもそも遊園地に付き合ってもらっただけで十分なんだから、これ以上ワガママ言っちゃダメだよね……
そう思って小さくため息をつく。自然と眉が八の字に下がって苦笑いを浮かべた***は、銀時を伺うように上目づかいで見上げて口を開いた。
「銀ちゃん私ね、夢の国がもう終わりって思ったらちょっと寂しくなって、帰りたくないって気がしちゃっただけです……でも、もう大丈夫なの。いっぱい楽しい思い出ができて大満足です。さぁ、もう帰ろう?」
「まだだっつーの。俺は、まだ足りねぇ」
「わっ、ちょ、やっ……!!」
再び顔を引き寄せられて、さっきより深く唇が重なった。ほほをつかんでいた銀時の手がうなじに回って、***の顔を動かなくさせた。もう一方の手が腰にするりと回って、強く抱き寄せる。
ああ、ダメだ、こんな風にされたら、ますます帰りたくなくなってしまう。打ちあがる花火のドンッという響きと、心臓の鼓動の区別がつかない。すがるように***が白い着流しの襟元をぎゅうっとつかんだら、くっついたままの銀時の唇がフッと笑った。
触れては離れ、離れてはまた触れてのキスを何度も繰り返して、ヤケドしそうなくらい唇が熱を持つ。
息苦しさに***が涙ぐんだ頃、ようやくふたりは離れた。離れた後も***の細い首をつかんだまま銀時は、飼い犬が主人に甘えるように、***の鼻筋に鼻先をするりとこすりつけた。唇が触れ合いそうなほど近くで低い声が発せられた。
「***、お前、帰りたくねぇっつったよな……奇遇だけど、俺もお前を帰したくねぇよ」
「っ……!!ち、ちがっ、銀ちゃん」
帰りたくない、の意味がちがう。慌てて***は訂正しようとしたが、背中に回った腕で強く抱き寄せられて、声が出せなかった。花火やパレードのにぎやかさが遠のいて、耳に寄せられた銀時の唇から漏れる声だけが、***の鼓膜を震わせた。
「俺は***をこのまま帰したくねぇ……っつーか帰す気になれねぇわ……なぁ、俺、今日、誕生日なんだけど。遊園地で遊んで、手ぇ繋いでキスして、それで満足できるほど、銀さんはガキじゃねーんだよ……だから***、帰るなよ。このまま明日の朝までずっと、俺と一緒にいろよ」
「~~~~~っ、ぎ、銀ちゃん、そ、そのっ……」
熱い吐息と低い声の甘いささやきに、***は肩をすくめた。はっきりと言葉にしなくても、銀時が言いたいことの意味は分かる。
付き合ってひと月、はじめての誕生日、男女がふたりきり。そういう流れになるのは必然だと、いくら鈍い***でも理解できた。
———お誕生日に私を欲しいって言われるのは、ものすごく恥ずかしいけど、同じくらい嬉しい。こんなにキラキラしたロマンチックな場所で好きな人に誘われて、断れる女の子なんていないかもしれない……それにこんな声で、普段のあのふざけた感じとは全然ちがう銀ちゃんの声で「一緒にいろ」なんて言われたら、ぐらっと来そうだ……でも、でも、でもぉぉぉぉぉ~~~!!!
「っっ、銀ちゃん!残念だけど、それはできないんです!!」
「なっ……!?は、はぁぁぁぁ!!!?」
***は銀時の両肩をつかんで、ぐいっと身体を引き離した。そして真っ赤な顔で叫ぶと、銀時は口をあんぐりと開けて驚いていた。
「っんでだよ!?なんで出来ねーんだよ!?まさか、まだ心の準備ができてねーとか、ぐだぐだ言うつもりじゃねぇだろーな!?お前、俺の話聞いてた?今日銀さん誕生日!年に一度の彼氏の記念日だぞ?祝えよ!!***の全身捧げて、大好きな彼氏を祝い倒せよコノヤロォォォ!!!」
「なななな、なに言って……と、とにかくダメなんです。帰らなきゃいけないんです。その、あ、あんまり詳しくは言えないんだけど……」
もごもごと言いよどむ***を銀時が睨んだ。自分の誘いを断るくらいなんだから、それ相応の理由じゃないと許さない、というような顔つきだった。
「あ、あのね銀ちゃん……その、み、みんなが待ってるんです。私たちの、いや、銀ちゃんの帰りを、みんなが万事屋で待ってるの」
「はぁぁ?みんなって誰だよ?」
「みんなは皆だよ。新八くんと神楽ちゃんと、お登勢さんとキャサリンさんと……お妙さんも来てるし、たぶん長谷川さんと桂さんも居るんじゃないかなぁ」
「なっ……、なんでだよ!?」
「なんでってそりゃぁ、お誕生日会に決まってるじゃないですか。これは内緒だけど、みんな一生懸命パーティーの準備をしてるんです。ケーキは私が作ったけど、新八くんたちがお料理を作ってくれてるんだよ?それにお登勢さんが高いお酒を持ってくるって言ってたし……ねぇ、だから、主役の銀ちゃんがいないとお誕生日会がはじまらなくて、みんな困っちゃうんです。さぁ、だから、もう帰りましょう?」
にこやかに微笑んで***が言うと、銀時は片手で顔を押さえてがっくりとうつむいた。そういうことかと言ってお土産入りの紙袋を見た銀時が「はぁぁぁぁ~」とため息をつく。その手をつかんで***は立ち上がり、グイグイと引っ張った。ねぇ早く、と急かすと銀時は呆れた顔で面倒くさそうに立ち上がった。
「っだよちくしょ~~……え、じゃぁ、マジで***からのプレゼントってケーキだけかよ。ひらひらレースのスケスケ下着で贈り物は私ってヤツねぇのかよぉ~~~」
「ななななな無いよ!!そんなのあるわけないじゃないですか!銀ちゃんの馬鹿!!」
えぇ~、と後ろからまだ不満げな声がする。その手を痛いほどぎゅうっと握って、夜空の花火を見上げながら***はずんずんと出口へ向かって歩いて行く。ついさっきまで、少しの未練があった遊園地に、今はもうきっぱりと別れを告げられる。
———楽しかったな。また銀ちゃんと、いや今度は新八くんと神楽ちゃんも一緒に、みんなでここに遊びに来れたらいいなぁ……
パラパラと降る花火のなか、***はほんの少し先の未来に思いを馳せた。あと数十分後、銀時は万事屋の扉を開けて、新八と神楽に出迎えられる。弾けたクラッカーから飛び出すカラフルなテープを銀色の髪に浴びるだろう。飾りつけられた部屋や豪勢な料理に目を丸くする。腐れ縁なんて呼ぶけれど、なじみ深い人たちに「おめでとう」と言われている景色が目に浮かぶ。
あまのじゃくな銀時はきっと「人の誕生日でギャーギャー浮かれてんじゃねーよ」とか言うに決まってる。
けれど、***にはよく分かっている。憎まれ口を叩いて面倒くさそうな顔をしながら、鼻先を指で撫でる銀時が、内心は喜んでいることを。照れくさくて嬉しい気持ちを正直に表せないことを。
銀時が本当のところ、新八や神楽を抱きしめたいくらい大切に思っていることを***は知っている。お登勢や他の人たちも大事に思っていることも。でもその本心を知られるのが恥ずかしいから、照れ隠しにお酒をいっぱい飲んで悪酔いして、みんなに迷惑をかけて「やっぱりコイツはどうしようもないヤツだ」と、わざと呆れられようとすることも。全部、分かっていた。
———ほんとに素直じゃないよね、銀ちゃん。でも私、そんな風に銀ちゃんが温かい人たちの中にいるのが、嬉しくて仕方がないよ。そんな銀ちゃんを囲んで、笑ったり怒ったり、呆れたりしている皆と一緒にいるのが、私はいちばん幸せだよ……
振り返ると***に導かれるがまま、ズルズルと足を引きずるように歩く銀時と目が合った。明日の朝、二日酔いになって子どもたちに白い目で見られている姿まで想像できて、思わず***は「ぷっ」と吹き出した。
「あ゙ぁ゙?あんだよ、なに笑ってんだよ***~?なにがおかしいんだよコノヤロー」
「内緒です!ふふふっ……ねぇ、はやく帰ろう!私、銀ちゃんのお誕生日会が楽しみです!」
弾けるように笑ってそう言った***を、銀時はぽかんとした顔で見ていた。しばらくすると、チッと舌打ちをして気まずそうに目を逸らす。引きずっていた足を止めてそっぽを向いたせいで、手を引いていた***も進めなくなり、その場で足止めされた。
「銀ちゃん、ね、早くって、ばぁぁッッッ!!?」
繋いでいた手を突然つよく引かれて、***はつんのめるように銀時の胸に飛び込んだ。硬い胸板に顔からドンッとぶつかって「んぎゃッ!」と色気のない悲鳴を上げる。したたか打ち付けた鼻がじーんと痛むのをこらえてたら、肩に回った太い腕にぎゅうっと力が込められた。
「え、あの、ぎ、銀ちゃん……?」
顔を上げようとしたのに、頭のてっぺんに銀時のあごがのったせいで動けない。仕方なく心臓の鼓動を聞くように、胸に耳を押し当てて大人しくしていたら、真上から不満げな声が降ってきた。
「はぁぁぁぁ~~、お前にそんなこと言われたら、帰るしかねぇじゃねーかよ***~~~!っんだよ、せっかく誕生日の夜に、彼女とふたりでしっぽり過ごせると思ってったっつーのによぉぉぉ~~。ガキと婆さんと酔っ払いどもの相手なんざ聞いてねぇっつーのぉ……」
「っっ……、そ、そんなこと言われても」
困りきって***は言葉を失う。でも、どうしても万事屋へ銀時を連れ帰らなければならない。どうすべきか思案しながら、抱きしめ返した手で銀時の背中をポンポンと叩いたら、突然、頭上から大きな声がした。
「来年は絶ッッッ対、もらう!!!」
「へぁっ!?ら、来年!?」
「来年の誕生日には、お前を貰うっつったんだよ!一年後の10月10日はラブホにしけこんで、***とくんずほぐれつ、しこたま可愛がって俺の気のすむまでヤりまくるから!もーこれ決まりだから!お前に拒否権ねぇから!朝から晩まで銀さんに付き合ってもらうからぁ!覚悟しとけよコノヤロォォォ!!」
「あ、朝から晩までって、な、何言って、」
「いや、ちょっと待て、朝から晩までじゃ足りねーな。あ、アレだ、前夜祭と後夜祭とかいう、ふざけた文化祭のくだらねぇ風潮にならって、前日の夜から次の日の夜まで三日三晩、***のこと抱きまくってやらぁ!」
「だ、抱きっ……!?いややや、ちょっと待ってよ銀ちゃん!私まだそーゆーのしたことないですから。そんな約束できないよ!」
その言葉を聞いた銀時が身体をバッと離した。***の両肩を痛いほど強くつかむと、怒っているような目つきでギロリと見下ろす。
「だ~か~らぁ~、来年までに練習すんだよ***!一年後、お前が俺を満足させられるように早ぇとこ処女卒業して、あらゆるテクを体得しとくんだってぇ、銀さんが協力してあげるからぁ!っつーことで、来年の今日は俺と***でセックスざんま、イグガァァァッ!!!」
お土産のお菓子の箱や缶の入った紙袋が、銀時の顔面に直撃した。暗闇でも分かるほど真っ赤な顔の***が、頭から湯気が出そうな様子でブルブルと震えた。
「いっでぇぇぇ!!!あにすんだよコノヤロー!!!」
「~~~~っ、ぎ、銀ちゃんがおっきな声で恥ずかしいことベラベラ言うからでしょ!?この変態!スケベ!馬鹿ァ!!」
泣きそうになりながら振り回した袋が、銀時の腕や足にバシバシと当たる。「イテイテ」と言うくせにニヤついた銀時は、しばらくすると***の手首をパシッとつかんだ。持っていた紙袋をあっという間に取り上げられてしまった。
「別に恥ずかしくねーだろーが。観覧車でディープキスかますヤツらに比べたら、来年の約束ですますのなんざ健全どころか青臭ぇっつーの……なー、***は嫌なのかよ、来年、俺と一緒にいんのが。大好きな銀さんとず~っとべったりできんだぞ、喜べよ~!」
「い、嫌だなんて、言ってないけど……」
ただ考えただけで死にそうなほど恥ずかしい。まだキスとその少し先しか経験のない***には、銀時とホテルにふたりきりと想像するだけで刺激が強くて。
しかし、来年も一緒にいたいと言われたことの喜びが、胸にじわじわと広がってきた。知らぬ間ににぎられていた手に銀時がぎゅっと力を入れるから、そこから熱い体温が流れ込んできて、心臓がドキドキと鳴った。
———この大きくてあったかい手で頭を撫でたり、ほっぺを包まれたり、抱きしめてもらうのは幸せ。だからきっと、その先まで進むのも大丈夫。子どもっぽい私がまだ知らないことを、銀ちゃんに教えてもらえるなら、私たぶん夢の国にいるみたいに、幸せになれる気がする……
「わ、わかりました!来年のお誕生日は……あ、朝までずっと、銀ちゃんと一緒にいるっ!!」
「ラブホテルで?」
「うんっ!」
「三日三晩?」
「う、うんっ」
「セックスざんま、」
「うわぁー!!もーわかったからそれ以上言わないでください!!」
悲鳴のような声でさえぎると、銀時はゲラゲラと笑った。にぎっていた手を離して華奢な指を開くと、するりと小指を絡めた。
「そんじゃ、ゆびきり。嘘ついたらどーなるか、分かってんだろーな***」
「うっ……うん、針でもなんでも飲みますよ!」
言ったな、と大口を開けて笑われたのが悔しかったから、***は絡めた小指をわざとぶんぶんと強く上下させた。ゆびきりげんまん!と大声で言うと、銀時は満足げにうなずいて、その手を繋ぎ直した。
さっきまでとは打って変わって、銀時が***の手を引いて、遊園地の出口へと向かっていく。
前を歩く広い背中を見上げる。銀色の髪の跳ねる毛先に、花火の輝きがキラキラと反射して綺麗だった。夜空の星のように消えそうな光に胸が締めつけられて、***は繋いだ手に力を込めた。
「ねぇ銀ちゃん、お誕生日おめでとう」
「あ?おぉー……」
———銀ちゃん、生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。来年もその先もずっと銀ちゃんと一緒にいたいです……そんなこと言うと「こっぱずかしいヤツだな」って呆れられそうだから言えないけど、いつか伝えられたらいいなぁ……
「銀ちゃん……その、だ、大好きです」
花火の音で聞こえないかもしれない、と思いながらも***はいま言える精一杯の言葉を呟いた。
おめでとう、には振り向かなかった銀時が、パッとこちらに顔を向け***を見下ろすと、ふふん、と得意げに笑った。
「んなこた知ってるわ。ここにいる間ず~っとふにゃふにゃ楽しそーに笑ってる***の顔に "銀ちゃん大好き~" って書いてあったっつーの!」
「なっ、う、嘘!?」
「ほんとぉぉぉ!!!」
ガハハと笑った銀時が***の手を強くにぎり返す。
夢の国から遠ざかっても、ふたりの足取りはいつまでも軽やかで、笑い声はどこまでも絶えなかった。
さぁ、帰ろう、万事屋へ。
この世界でいちばんの幸福の待つ場所へ。
ふたりでいれば、どこだってそこは夢のくにだから。
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【(6)19:00】end
『ふたりの夢のくに』
(2019-1010♡坂田銀時 誕生日記念作品)end
『ふたりの夢のくに』をお読み頂きありがとうございます(*´꒳`*)♡
昨年の10月10日に第1話を公開してから、約1年かけてようやく完結することができました。あやうく今年の10月10日までずれ込んでしまうのではとヒヤヒヤしましたが、なんとかゴールできて嬉しいです。牛乳シリーズの番外編ですが、第3部のお祭りの後くらいのふたりの話なのでまだ初々しさがあって、書きながらおもちは「なんか懐かしいなこの感じ」と楽しかったです。
遊園地デートはいかがでしたでしょうか。2020年の現状、外出が難しい情勢のなか、せめてお話のなかではめいっぱい楽しく遊べたらいいなぁと思いながら書きました。楽しんで頂けたら幸いです。
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もし気が向いたらどうぞよろしくお願い致します!
(2020-9-27 / おもち)
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