銀ちゃんが愛する女の子
ふたりの夢のくに
おなまえをどうぞ
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【15:00】
「ポッポー…ポロッポー…」
数羽のハトが、地面に散らばるパンやポップコーンの欠片をついばんでいる。午後の日差しに温められた夢の国には、平和な時間が流れていた。
ジェットコースターやお化け屋敷を堪能し、他にもいくつかの乗り物に乗った。はしゃぎ通しの***と、満更でもない銀時は時間も忘れて、園内を行ったり来たり。ふと我に返り空腹に気付いた***が「銀ちゃん何か食べませんか?」と聞いたのと、銀時の腹がぐぅと鳴ったのは同時だった。
売店でホットドッグとポップコーンを買ってベンチに腰掛ける。銀時はすぐにむしゃむしゃと食べ始めた。***はポップコーンをつまんでは足元に落として、寄ってきたハトに分け与える。近づいてきた全部の鳥たちに、餌が行き渡ったのを見て、さてそろそろ食べようかと手元を見た時には、既に5本買ったホットドッグは全て、銀時の胃袋に消えていた。
「信じられない!なんで全部食べちゃうんですか!?」
「はぁ〜?***が銀ちゃんハイどーぞって渡してきたんだろうが!」
「5本全部どうぞなんて言ってない!5本もあったら1本くらい残して下さい!私だってお腹空いてたのに、銀ちゃんの馬鹿ッ!」
「あぁ?お前がのんきに鳥と遊んでんのがいけねぇんだよ。食える時に食っとかないとねって、あのオッサンも言ってただろ?銀さんは食べ盛りだからぁ、まだまだ育ち盛りだからぁ、ホットドッグ5本なんざ腹の足しにもならねぇっつーの。あ~まだ全然食えるなぁ〜、***ちゃ~ん、銀さん甘ぇもんが食いてぇな~」
「まだ食べるんですか!?もぉー食いしん坊にもほどがあるよ………はぁ、しょうがないから、もう1本ホットドッグ買ってきます。銀ちゃんは甘いもの何がいいの?ソフトクリーム?それともチュロス?」
銀時のことだから「両方買ってこい」とか「チュロス5本」とかワガママを言うと思っていた。しかし、財布を手にして立ち上がった***の腕を、後ろからぐいっとつかんで引き留めた銀時は、異様なほど真剣な表情で「ホットドッグはやめておけ」と言った。
「え、な、なんで?……もしかして、おいしくなかったですか?」
「いや、ふつーに美味かったけど……とにかくお前は食うな」
わけもわからず困惑した***は、売店のメニューを見つめて、それなら他に一体何を食べればいいのかと考え込んだ。
「えーと、じゃぁ……アメリカンドッグにしようかな」
「いや、それもダメ」
「え!?じゃ、じゃぁ、フランクフルトは?」
「もっとダメ。いちばんダメ。それだけは絶対、食わせねぇ」
「なんで!!?」
「なんでもクソもねぇの!ダメなもんはダメなんですぅ~!……っつーか***さぁ、ホットドッグにしろフランクフルトにしろ、お前はなーんでそんな形のモンばっか食いたがるかね。やめろよ、こんな公衆の面前で。どこで誰が見てるか分かんねぇだろうが。こんなとこでテメーの彼女が長くてぶっとい棒を口に突っ込んでるのなんて、銀さん気が気じゃないんですけどぉ。見ず知らずの野郎に、お前の卑猥な姿を想像されんのめっさ嫌なんですけどぉ。そーゆーの許さないって何度も言ってるだろ***~!いい加減分かれよぉ〜、縛るよマジでぇ~!!」
「はぁぁ!?意味分からないよ銀ちゃん!ホットドッグとかフランクフルト食べることの、どこが卑猥なんですか!?そんなに私が何かを食べるのが嫌?このまま餓死しろって言うんですか!?」
***は腕をぶんぶんと振って、手をほどこうしたが、銀時の大きな手はびくともしなかった。急に立ち上がった銀時がやけにニヤけた目で見下ろしてくる。
「ったく、ほんとーに世話が焼けるお嬢様ですね、***ちゃんはぁ〜。まぁ、お前はなぁ〜んも知らねぇお子ちゃまだもんな。なんでもかんでも銀さんが初めてだもんなぁ。しょーがねぇから買ってきてやるよ」
***には全く理解できない事を言いながら、やけに嬉しそうに銀時はヘラヘラと笑った。頭を乱暴に撫でられてぽかんとする***の手から財布を奪うと、銀時は勝手に売店へ行って、勝手にハンバーガーとチュロスを買って帰ってきた。
ほら食え、と手渡されたハンバーガーに、***は渋々かじりついた。銀ちゃんはよく分からないタイミングで私を子供扱いする、と眉間にシワを寄せていた***だったが、口に広がったテリヤキバーガーの甘辛いソースが美味しくて、勝手に頬が緩んでしまう。
直前まで不機嫌だったことも忘れて、口いっぱいにパンを頬張った***は「おいひい!」と言って、銀時に向かって微笑んだ。その顔を見た銀時がゲラゲラと笑って「これだからお子ちゃまなんだよオメーは」と言った。
隣でチュロスを食べる銀時の口元に、粉砂糖がたっぷりついていた。もくもく、という咀嚼音が聞こえるほど真剣な顔をしている。
甘い物を食べている時の銀ちゃんは子供みたいだ、と***は思う。こういう銀時の姿をこっそり見れることが、***は嬉しくて仕方がない。死んだ魚のような目で無気力そうにしていることの多い男が、こんな風に***の前で無邪気な顔をする。自分はオッサンだと自虐する銀時が、この時ばかりは少年のように見えた。
そしてそれを見るたび自然と、***の胸は甘酸っぱくギュッと締め付けられるのだった。
―――これが、惚れた弱みというヤツなのかなぁ……
ぼんやりとそんなことを思いながら、もぐもぐと口を動かす銀時を***は見つめていた。
「銀ちゃん、お砂糖いっぱいついてるよ」
ふふっ、と笑いながら銀時の横顔に手を伸ばして、ハンカチで口元を拭こうとした。しかしそれが届く前に、銀時の大きな手に手首を掴まれた。
「お前こそ、ソースがついてっけど」
「う、嘘っ、やだ、見ないでください」
恥ずかしくて***が顔を伏せるよりも早く、銀時の手が細い手首を引いた。ぐい、と強く引っ張られ、小さな身体はいともたやすく引き寄せられた。
目を見開いて驚いて固まっているうちに顔が近づいていて、いたずらっ子のように嬉しそうに細められた赤い瞳が、目の前にきていた。犬がじゃれる時のように、銀時の舌が***の唇の端を、ぺろりと舐めた。
「っっ!!!んぎぎぎぎ、銀ちゃんっ、ちょ、ここここんなとこで恥ずかしいから、やめてよ!」
「ん?……いや、それよか年頃の娘が口のまわりソースだらけになってる方が、よっぽど恥ずかしいだろ。ベッタベタになってんですけど。誰も見てねぇから、おとなしくしてろって***」
「んっ、ちょっ、と……んぅ〜〜〜っ!!!」
いつの間にか首を滑って登ってきた大きな手に、後頭部を掴まれて顔を背けることができない。ぎゅっと目を閉じた***の鼻先を、揚げ菓子の甘い香りのする吐息がかすめていった。
熱い舌はまるでその温度を残そうとしているみたいに、唇の周りをゆっくり動いた。左右の口角を舐め、唇の輪郭をじりじりとなぞり、アゴからほほにかけてまでをべろりと舐め上げた。
銀時の舌が唇の周りを何度行き来しても、砂糖の甘い香りがするばかりで、甘辛いソースの匂いはしなかった。すみずみまで舌を這わされて、あまりの恥ずかしさに***の顔は真っ赤に染まった。
「ほい、綺麗になったよ、お姫様」
その声と同時に、顔が離れた気配がしたのでこわごわと瞼を開いたら、おでこをこつんとくっつけた銀時と、すぐ近くで目が合った。
「なぁなぁ***ちゃーん、お前もやってくれよ。銀さんさぁ、今すっげぇ砂糖ついてっから、舐めて綺麗にしてくんね?」
「なっ………!!!」
熱い息と共にささやかれた言葉に驚いて声を失う。それと同時に***は、自分の唇にソースなどついていなかったことに気付いた。銀時は***に同じことをさせるために、嘘をついていたのだと、その瞬間に理解した。
「そそそそそんな恥ずかしいこと無理です!こんな、公衆の面前でっ、誰が見てるか分かんないって、さっき銀ちゃんも言ってたじゃん!!」
「っんだよ~***~!誰も見てねぇって!大丈夫だってぇ!***の色っぺぇ顔なんて、銀さん以外の誰かに見せるわけねぇってぇ~。ほらほら早くしろよ!今日、俺、誕生日なんですけどぉぉぉ!!」
「うぐっ……………ず、ずるい!!!」
それを今言うのはずるい。
誕生日なんてどうでもいいと言ってたくせに。
欲しい物なんてないって言ってたのに。人の唇を舐めるなんて死ぬほど恥ずかしいことを、こんな場所で急に求めてくるなんて。
―――ああ、でも……これこそ惚れた弱みだ……すっごく恥ずかしいし、絶対そんなことできないはずなのに……なのに銀ちゃんにしてほしいって言われたら、私きっと、どんなことも断れない。断れないどころか本当はちょっと、してあげたい……だって、こんな無邪気な目で見つめられたら、どんなことだってしてあげたくなっちゃう。何をしてでも、銀ちゃんに喜んでほしくなっちゃうよ……
「わ、分かりました……じゃ、じゃあ、ちょっと、目を閉じてくださいっ」
「ん、ほれ」
瞳を閉じていても銀時はニヤニヤしている。粉砂糖だらけの口元にはずっと笑みが浮かんでいる。悔しいと思いながらも***はぐっと息を飲んで、銀時の唇に顔を寄せた。
ほんの少し舌先を出して、子猫がミルクを飲む時のように、銀時の唇の端を小さく舐めた。甘い砂糖の味が背徳的で、こんな場所でこんなことをしていると思うと、くらくらと眩暈がする。片手を銀時のほほに添えて、ちろちろと舌を動かす。数回舐めたら砂糖は全部取れた。
「綺麗になったよ」とつぶやいて離れようとしたら、***の頭を掴む銀時の手がそれを阻んだ。目を閉じたまま眉間にシワを寄せた銀時が、意地悪な声を出した。
「オイオイ、まさかそんだけじゃねぇよな***。お前さ、自分が俺に何されたかも覚えてねぇの?俺のこと好きなら、何をどーやって、どーされたかくらい、細かく覚えとけよ。さっき銀さんが教えた通りにちゃーんとやらねぇと、もっかい最初っから教え直すことになるけど、どーすんの***?」
「っ!!!ぎ、銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!!」
憎らしく「ハッ」と声を上げて笑う銀時のほほに、もう一度手を添えた。ため息をひとつ吐いてから、***は自分が銀時にされたことと、全く同じことを繰り返した。
小さな舌をゆっくりと動かして、唇の輪郭をなぞる。熱いはずの舌先の温度が、銀時の肌に奪われていく。
自分がされている時よりもずっと恥ずかしくて、目に涙がにじんだ。誰も見てないと言われたれど、もし見られていたら、***から銀時にすがりついて、口付けているように見えるだろう。そう気付いたらますます頭に血が上り、火を吹きそうなほど顔が熱くなった。
確かいちばん最後はこうされたと、ようやく思い出して、***は銀時のアゴから頬までをぺろりと舐め上げた。砂糖の味なんて、もうとっくに無かった。
「こっ、これで満足ですか、銀ちゃんっ……!」
「ぶはっ!!!お前、すっげぇ顔!え、なに、もしかして***の顔にソーセージとかのっけたらジュージュー焼けるんじゃねぇの!?ぶーっ!!鉄板みてぇに真っ赤っかで熱々じゃねぇかよぉ!!!」
真っ赤に染まった***のほっぺたを、指先でつまんだ銀時は大声でゲラゲラと笑った。心底嬉しそうに笑い声をあげる銀時の腕をぽかぽかと殴りながら、***は泣きそうな声で叫んだ。
「だだだだ、誰のせいでっ!こんなに真っ赤になったと思ってるんですかぁ!銀ちゃんがへ、変なこと頼むからっ……お誕生日だからって、こんなの駄目ですからね!こんなお願いはもう聞かないから!もぉ~!!私にもチュロスひと口くださいよぉぉぉ!!!」
「いや、それは無理」
「なんでっ!!!?」
「公衆の面前だから」
「意味分かんないよ、馬鹿ぁ!!!!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ続けるふたりを見ていた1羽のハトが、呆れたような声で「ポロッポー」と鳴いた。
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【15:00】to be continued.
「ポッポー…ポロッポー…」
数羽のハトが、地面に散らばるパンやポップコーンの欠片をついばんでいる。午後の日差しに温められた夢の国には、平和な時間が流れていた。
ジェットコースターやお化け屋敷を堪能し、他にもいくつかの乗り物に乗った。はしゃぎ通しの***と、満更でもない銀時は時間も忘れて、園内を行ったり来たり。ふと我に返り空腹に気付いた***が「銀ちゃん何か食べませんか?」と聞いたのと、銀時の腹がぐぅと鳴ったのは同時だった。
売店でホットドッグとポップコーンを買ってベンチに腰掛ける。銀時はすぐにむしゃむしゃと食べ始めた。***はポップコーンをつまんでは足元に落として、寄ってきたハトに分け与える。近づいてきた全部の鳥たちに、餌が行き渡ったのを見て、さてそろそろ食べようかと手元を見た時には、既に5本買ったホットドッグは全て、銀時の胃袋に消えていた。
「信じられない!なんで全部食べちゃうんですか!?」
「はぁ〜?***が銀ちゃんハイどーぞって渡してきたんだろうが!」
「5本全部どうぞなんて言ってない!5本もあったら1本くらい残して下さい!私だってお腹空いてたのに、銀ちゃんの馬鹿ッ!」
「あぁ?お前がのんきに鳥と遊んでんのがいけねぇんだよ。食える時に食っとかないとねって、あのオッサンも言ってただろ?銀さんは食べ盛りだからぁ、まだまだ育ち盛りだからぁ、ホットドッグ5本なんざ腹の足しにもならねぇっつーの。あ~まだ全然食えるなぁ〜、***ちゃ~ん、銀さん甘ぇもんが食いてぇな~」
「まだ食べるんですか!?もぉー食いしん坊にもほどがあるよ………はぁ、しょうがないから、もう1本ホットドッグ買ってきます。銀ちゃんは甘いもの何がいいの?ソフトクリーム?それともチュロス?」
銀時のことだから「両方買ってこい」とか「チュロス5本」とかワガママを言うと思っていた。しかし、財布を手にして立ち上がった***の腕を、後ろからぐいっとつかんで引き留めた銀時は、異様なほど真剣な表情で「ホットドッグはやめておけ」と言った。
「え、な、なんで?……もしかして、おいしくなかったですか?」
「いや、ふつーに美味かったけど……とにかくお前は食うな」
わけもわからず困惑した***は、売店のメニューを見つめて、それなら他に一体何を食べればいいのかと考え込んだ。
「えーと、じゃぁ……アメリカンドッグにしようかな」
「いや、それもダメ」
「え!?じゃ、じゃぁ、フランクフルトは?」
「もっとダメ。いちばんダメ。それだけは絶対、食わせねぇ」
「なんで!!?」
「なんでもクソもねぇの!ダメなもんはダメなんですぅ~!……っつーか***さぁ、ホットドッグにしろフランクフルトにしろ、お前はなーんでそんな形のモンばっか食いたがるかね。やめろよ、こんな公衆の面前で。どこで誰が見てるか分かんねぇだろうが。こんなとこでテメーの彼女が長くてぶっとい棒を口に突っ込んでるのなんて、銀さん気が気じゃないんですけどぉ。見ず知らずの野郎に、お前の卑猥な姿を想像されんのめっさ嫌なんですけどぉ。そーゆーの許さないって何度も言ってるだろ***~!いい加減分かれよぉ〜、縛るよマジでぇ~!!」
「はぁぁ!?意味分からないよ銀ちゃん!ホットドッグとかフランクフルト食べることの、どこが卑猥なんですか!?そんなに私が何かを食べるのが嫌?このまま餓死しろって言うんですか!?」
***は腕をぶんぶんと振って、手をほどこうしたが、銀時の大きな手はびくともしなかった。急に立ち上がった銀時がやけにニヤけた目で見下ろしてくる。
「ったく、ほんとーに世話が焼けるお嬢様ですね、***ちゃんはぁ〜。まぁ、お前はなぁ〜んも知らねぇお子ちゃまだもんな。なんでもかんでも銀さんが初めてだもんなぁ。しょーがねぇから買ってきてやるよ」
***には全く理解できない事を言いながら、やけに嬉しそうに銀時はヘラヘラと笑った。頭を乱暴に撫でられてぽかんとする***の手から財布を奪うと、銀時は勝手に売店へ行って、勝手にハンバーガーとチュロスを買って帰ってきた。
ほら食え、と手渡されたハンバーガーに、***は渋々かじりついた。銀ちゃんはよく分からないタイミングで私を子供扱いする、と眉間にシワを寄せていた***だったが、口に広がったテリヤキバーガーの甘辛いソースが美味しくて、勝手に頬が緩んでしまう。
直前まで不機嫌だったことも忘れて、口いっぱいにパンを頬張った***は「おいひい!」と言って、銀時に向かって微笑んだ。その顔を見た銀時がゲラゲラと笑って「これだからお子ちゃまなんだよオメーは」と言った。
隣でチュロスを食べる銀時の口元に、粉砂糖がたっぷりついていた。もくもく、という咀嚼音が聞こえるほど真剣な顔をしている。
甘い物を食べている時の銀ちゃんは子供みたいだ、と***は思う。こういう銀時の姿をこっそり見れることが、***は嬉しくて仕方がない。死んだ魚のような目で無気力そうにしていることの多い男が、こんな風に***の前で無邪気な顔をする。自分はオッサンだと自虐する銀時が、この時ばかりは少年のように見えた。
そしてそれを見るたび自然と、***の胸は甘酸っぱくギュッと締め付けられるのだった。
―――これが、惚れた弱みというヤツなのかなぁ……
ぼんやりとそんなことを思いながら、もぐもぐと口を動かす銀時を***は見つめていた。
「銀ちゃん、お砂糖いっぱいついてるよ」
ふふっ、と笑いながら銀時の横顔に手を伸ばして、ハンカチで口元を拭こうとした。しかしそれが届く前に、銀時の大きな手に手首を掴まれた。
「お前こそ、ソースがついてっけど」
「う、嘘っ、やだ、見ないでください」
恥ずかしくて***が顔を伏せるよりも早く、銀時の手が細い手首を引いた。ぐい、と強く引っ張られ、小さな身体はいともたやすく引き寄せられた。
目を見開いて驚いて固まっているうちに顔が近づいていて、いたずらっ子のように嬉しそうに細められた赤い瞳が、目の前にきていた。犬がじゃれる時のように、銀時の舌が***の唇の端を、ぺろりと舐めた。
「っっ!!!んぎぎぎぎ、銀ちゃんっ、ちょ、ここここんなとこで恥ずかしいから、やめてよ!」
「ん?……いや、それよか年頃の娘が口のまわりソースだらけになってる方が、よっぽど恥ずかしいだろ。ベッタベタになってんですけど。誰も見てねぇから、おとなしくしてろって***」
「んっ、ちょっ、と……んぅ〜〜〜っ!!!」
いつの間にか首を滑って登ってきた大きな手に、後頭部を掴まれて顔を背けることができない。ぎゅっと目を閉じた***の鼻先を、揚げ菓子の甘い香りのする吐息がかすめていった。
熱い舌はまるでその温度を残そうとしているみたいに、唇の周りをゆっくり動いた。左右の口角を舐め、唇の輪郭をじりじりとなぞり、アゴからほほにかけてまでをべろりと舐め上げた。
銀時の舌が唇の周りを何度行き来しても、砂糖の甘い香りがするばかりで、甘辛いソースの匂いはしなかった。すみずみまで舌を這わされて、あまりの恥ずかしさに***の顔は真っ赤に染まった。
「ほい、綺麗になったよ、お姫様」
その声と同時に、顔が離れた気配がしたのでこわごわと瞼を開いたら、おでこをこつんとくっつけた銀時と、すぐ近くで目が合った。
「なぁなぁ***ちゃーん、お前もやってくれよ。銀さんさぁ、今すっげぇ砂糖ついてっから、舐めて綺麗にしてくんね?」
「なっ………!!!」
熱い息と共にささやかれた言葉に驚いて声を失う。それと同時に***は、自分の唇にソースなどついていなかったことに気付いた。銀時は***に同じことをさせるために、嘘をついていたのだと、その瞬間に理解した。
「そそそそそんな恥ずかしいこと無理です!こんな、公衆の面前でっ、誰が見てるか分かんないって、さっき銀ちゃんも言ってたじゃん!!」
「っんだよ~***~!誰も見てねぇって!大丈夫だってぇ!***の色っぺぇ顔なんて、銀さん以外の誰かに見せるわけねぇってぇ~。ほらほら早くしろよ!今日、俺、誕生日なんですけどぉぉぉ!!」
「うぐっ……………ず、ずるい!!!」
それを今言うのはずるい。
誕生日なんてどうでもいいと言ってたくせに。
欲しい物なんてないって言ってたのに。人の唇を舐めるなんて死ぬほど恥ずかしいことを、こんな場所で急に求めてくるなんて。
―――ああ、でも……これこそ惚れた弱みだ……すっごく恥ずかしいし、絶対そんなことできないはずなのに……なのに銀ちゃんにしてほしいって言われたら、私きっと、どんなことも断れない。断れないどころか本当はちょっと、してあげたい……だって、こんな無邪気な目で見つめられたら、どんなことだってしてあげたくなっちゃう。何をしてでも、銀ちゃんに喜んでほしくなっちゃうよ……
「わ、分かりました……じゃ、じゃあ、ちょっと、目を閉じてくださいっ」
「ん、ほれ」
瞳を閉じていても銀時はニヤニヤしている。粉砂糖だらけの口元にはずっと笑みが浮かんでいる。悔しいと思いながらも***はぐっと息を飲んで、銀時の唇に顔を寄せた。
ほんの少し舌先を出して、子猫がミルクを飲む時のように、銀時の唇の端を小さく舐めた。甘い砂糖の味が背徳的で、こんな場所でこんなことをしていると思うと、くらくらと眩暈がする。片手を銀時のほほに添えて、ちろちろと舌を動かす。数回舐めたら砂糖は全部取れた。
「綺麗になったよ」とつぶやいて離れようとしたら、***の頭を掴む銀時の手がそれを阻んだ。目を閉じたまま眉間にシワを寄せた銀時が、意地悪な声を出した。
「オイオイ、まさかそんだけじゃねぇよな***。お前さ、自分が俺に何されたかも覚えてねぇの?俺のこと好きなら、何をどーやって、どーされたかくらい、細かく覚えとけよ。さっき銀さんが教えた通りにちゃーんとやらねぇと、もっかい最初っから教え直すことになるけど、どーすんの***?」
「っ!!!ぎ、銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!!」
憎らしく「ハッ」と声を上げて笑う銀時のほほに、もう一度手を添えた。ため息をひとつ吐いてから、***は自分が銀時にされたことと、全く同じことを繰り返した。
小さな舌をゆっくりと動かして、唇の輪郭をなぞる。熱いはずの舌先の温度が、銀時の肌に奪われていく。
自分がされている時よりもずっと恥ずかしくて、目に涙がにじんだ。誰も見てないと言われたれど、もし見られていたら、***から銀時にすがりついて、口付けているように見えるだろう。そう気付いたらますます頭に血が上り、火を吹きそうなほど顔が熱くなった。
確かいちばん最後はこうされたと、ようやく思い出して、***は銀時のアゴから頬までをぺろりと舐め上げた。砂糖の味なんて、もうとっくに無かった。
「こっ、これで満足ですか、銀ちゃんっ……!」
「ぶはっ!!!お前、すっげぇ顔!え、なに、もしかして***の顔にソーセージとかのっけたらジュージュー焼けるんじゃねぇの!?ぶーっ!!鉄板みてぇに真っ赤っかで熱々じゃねぇかよぉ!!!」
真っ赤に染まった***のほっぺたを、指先でつまんだ銀時は大声でゲラゲラと笑った。心底嬉しそうに笑い声をあげる銀時の腕をぽかぽかと殴りながら、***は泣きそうな声で叫んだ。
「だだだだ、誰のせいでっ!こんなに真っ赤になったと思ってるんですかぁ!銀ちゃんがへ、変なこと頼むからっ……お誕生日だからって、こんなの駄目ですからね!こんなお願いはもう聞かないから!もぉ~!!私にもチュロスひと口くださいよぉぉぉ!!!」
「いや、それは無理」
「なんでっ!!!?」
「公衆の面前だから」
「意味分かんないよ、馬鹿ぁ!!!!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ続けるふたりを見ていた1羽のハトが、呆れたような声で「ポロッポー」と鳴いた。
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