銀ちゃんといつも一緒にいる女の子
まいにち♡銀ちゃん
おなまえをどうぞ
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【土曜日の銀ちゃん】
頭がぼぉっとして視界が回っている。居酒屋の前で別れた同僚たちはほろ酔いで楽しそうだったけど、お酒に弱い私が少し無理をすると、すぐこうだ。
飲んでないという嘘は、電話の向こうの銀ちゃんに一瞬でバレて、「なんだそのふにゃふにゃした声はぁぁぁ!お前は赤ん坊ですか!サ〇エさんのイクラちゃんでももーすこしマシな喋り方すんぞコノヤロー!」と怒られた。
終電を降りて千鳥足で改札を出た瞬間、待ち構えていた銀ちゃんに抱き留められた。後で「顔からぶっ倒れてくっから、ちょー焦ったんですけど」と文句を言われたけど、身体を包む銀ちゃん温かさと匂いに安心して、私は力が抜けてしまった。
「いや、***さぁ、休日返上で接待なんて最悪だし絶対飲まねぇっつってたよね?なんでこんなんなってんだよ。こーなるって分かってて、なぁんで飲むかなオメーはぁぁぁ」
「うぅ~ん……そーだねぇ、なんでだろぉ~……」
月明かりの下を銀ちゃんにおんぶしてもらって、家に帰る。
「オイコラ、***、テメーまさかエロいハゲ部長に“ホラもっと飲んで、酔って大胆になる***君を見せてくれ”とか言われて、無理やり飲まされたんじゃねぇだろーな。銀さんそーゆーの許さないよ?ハゲ部長をハゲ散らかし部長にするよ?窓際族ならぬ生え際族にするよ?」
「ちがうよぉ、そんなのないもん……え、銀ちゃん、生え際族ってなに?」
少しすねた顔の銀ちゃんが言った「部長」という言葉で、飲まないと決めてた自分が、どうして今日に限って飲んだのか、その理由を思い出した。
「私じゃなくって……新入社員のタナカ君がね、お酒飲めないのに部長にビールつがれて困ってたからぁ……ついかわりに飲んじゃったの。こーなるって分かってたのに……ごめんねぇ、銀ちゃん……」
そう言うと銀ちゃんは「はぁぁぁぁ!?なにこの子!?手のほどこしよーがねーんですけどぉぉぉ!!」と叫んだ。歩く速度を速めた横顔はより一層すねていた。
夜風のおかげで酔いが少し醒めて、お水が飲みたくてコンビニに寄る。店の前の喫煙所のベンチに私を座らせて、銀ちゃんが店に入っていく。深夜だから店内にも駐車場にも人っ子一人いない。
「オラ、飲めよ」
手渡されたペットボトルのフタを開けようとして初めて、自分が手に何かを握りしめていることに気付いた。
「あれ?あ、アメだ、いちごみるく……」
「んぁ?なにお前、そんなモン大事に握って帰ってきたのかよ。はじめてのおつかいかっつーの」
ベンチに並んで座った銀ちゃんが、呆れた顔で私の手の中をのぞきこんだ。
そうだ思い出した。タナカ君が帰り際に「***先輩ありがとうございました。今はこんな物しかなくて」と渡してきたんだ。まじまじとそれを見ると、いちご柄のビニールの包装には「かわいいからあげる!」とプリントされていた。
「ねぇ、見て銀ちゃんコレ……かわいいからあげるって書いてある。すごぉい!こんなのあるんだねぇ……後輩に気をつかわせて、先輩かわいいって言わせちゃったよ。私、オバサンになったなぁ」
「はぁ!?なに言ってんだよオメーは。酔っ払ってるからって何でも許されると思うなよ。銀さんの彼女をオバハン呼ばわりした罪は重いぞ」
いや、オバハンじゃなくてオバサンね、そこは結構違うから、譲れないものがあるから……とぶつぶつ言う私の手から、銀ちゃんはペットボトルを取り上げた。銀ちゃんがそれを飲み始めて、私は目の前でごくごくと上下する銀ちゃんのノドをぼぉっと見つめた。
銀ちゃんが飲み終わったので「私も」と手を伸ばしたら、急に後ろに回った大きな手で頭をつかまれた。ぐいっと引っ張られて気付いたら目の前に赤い瞳があった。唇が触れて「あ、キスだ」と思った直後、開かれた銀ちゃんの口から冷たい水が、だぁっと流れ込んできた。
「んっ!!?……んむ、ぁ、ぅうん!」
溢れるくらいの水を急にそそがれて、一生懸命こくこくと飲んだけど飲み切れなかった分が首や胸に滴って落ちた。唇が離れて、慌てて「自分で飲むから!」と言ったけど、銀ちゃんは「だ~め~!なんにも分かってねぇ***にはお仕置きが必要ですぅ」と言って、もう一度水を口に含んだ。ニヤニヤとしたSっ気たっぷりな目で私を見下ろす顔を見て、あわあわとしているうちに、もう一度口移しで飲むことになった。
「ふっ、ぅん、……もっ、もぉいいよ、銀ちゃん、ごめんってば!」
「よくねぇよ***、お前さぁ、さっきからそのごめんって何に謝ってんの?」
「え?だから酔って銀ちゃんに迷惑かけちゃったから……それで、怒ってるんでしょう?」
「ちげぇよ馬鹿!はぁぁぁぁ~、ほんっとーにお前って銀さんの気持ち分かってないよね。俺は***に迷惑かけられたなんて、毛ほども思ってねぇよ。ハゲ部長の毛根ほども思ってねぇ。そうじゃなくてぇ~……」
そう言った銀ちゃんはやる気のない目で私を見つめて、両手を伸ばすと私の両ほほを手のひらでぎゅっと包んだ。
「コレ!この顔!銀さんはオメーのこの顔に怒ってんのぉ!***さぁ、いま自分がどんな顔してっか分かってんの?風呂上りみてぇにほっぺた赤くして、目ぇうるうるさせてんだぞ。こんなんで駅で抱き着いてきやがって、こっちは理性たもつのに必死なんですけど。飲み会で他の男にこんな顔見られたってだけで、はらわた煮えくり返りそーだってのに、それを「私オバサンになったなぁ」だってぇ!?お前のその自覚のなさに、俺はいちばん怒ってんの!そんな顔で若い男かばって苦手な酒飲むなんてなぁ、好きになってくれって言ってるようなもんだろうがぁぁぁ!!!」
「な、ななななななに言ってるの、そんなんじゃないもん!好きになってくれなんて思ってないもん!!」
「お前が思ってなくても、男はその気になってるっつってんだよ!そのナカタっつー男は明らかに***に惚れてんじゃねぇか。‟かわいいからあげる!”だぁ!?銀さんは‟ムカつくから殺す!”なんですけどぉ!!ホースくわえさせて樽ごと鬼嫁流し込んでベロンベロンにして海に投げ捨ててやりたいんですけどぉぉぉぉ!!!」
「ナカタじゃなくてタナカ君だよ」と私が言うと、銀ちゃんはすごく怒った顔で「んなこと知るかっ!」と叫んだ。
そんなことは絶対起こらないのに、心配性の銀ちゃんは男の人のこととなるとすぐこうだ。いつもはなんでも「面倒くせぇ」で片づけるくせに、こういう時だけ想像力豊かになる。すぐ近くで目を血走らせて怒っている銀ちゃんを見ていたら、私はなぜか笑えてきた。いつもは銀ちゃんを怒らせちゃうと落ち込むけど、今日は多分、お酒のせいで少し気が大きくなっている。
「ふふっ……心配させてごめんね、銀ちゃん。でも、かわいいからあげるなんて、銀ちゃん以外の人から言われても私ぜんぜん嬉しくないし、絶対その気になんてならないから大丈夫だよ」
そう言いながら笑って、両ほほをつかまれたままの私は、いちごみるくアメの包装を解く。三角形のピンク色のアメを、不機嫌な子供のようにとがらせた銀ちゃんの唇にぴとっと当てた。無抵抗に開いた銀ちゃんの口の中に、そっとアメを入れると指先に銀ちゃんの唇の熱が残った。
「どうせなら銀ちゃんに、かわいいからあげるって言われたかったなぁ……」
私はそう言って、ほろ酔いで力の入らない顔で笑った。すると両ほほをつかむ銀ちゃんの手の力が強くなって、顔をぐいっと引っ張られた。
「俺はそんなこと言わねぇよ」
「えぇー……けち、言ってくれてもいいじゃん」
少し傾けた銀ちゃんの顔が近づいてきて、唇を重ねた。いちごみるくの味がすると思っていたら、薄く開いた口の隙間から銀ちゃんの舌が入ってくる。その舌に乗って、小さなアメが私の口の中に転がり込んできた。
「んっ!……ぁ、アメがっ」
おでこをこつん、とした銀ちゃんがじっと私を見つめた。
「***がかわいーのは俺がいちばん知ってるっつーの。んなこたぁわざわざ言わねぇよ。まぁ、しいて言うとしたら……好きだから、‟ちょー好きだからあげる”だな」
「なっ……!!なにそれっ!銀ちゃん酔ってるの?そんなこといつも言わないのにっ!!」
「はぁ?酔っ払いはテメーだろーが。オラ***も言えよ。銀さんのこと好きだろ。アメ寄こせって」
えぇっ!?と慌てているうちにまた唇をふさがれて、顔を抑えられて身動きの取れない私の口の中から、銀ちゃんの舌がアメを奪い去って行った。
「ん、あれぇ~、***、なぁんで銀さんにアメくれんの?ほら言ってみ?なんで?ほれほれ」
「やっ、あの、銀ちゃん、ここ外だよ!?ひ、人が来ちゃ、んんぅっ!!!」
またキスをされて、アメを口移しされる。銀ちゃんは静かな声で「***、ちょー好きだからあげる」と言って小さく笑った。笑いながらもう一度口づけられて、再びアメが私の口から銀ちゃんの口へと移っていく。
「なぁ、言ってくんねぇの?銀さんのこと好きって」
それは私しか知らない銀ちゃんのすごく優しくて甘い声だった。そしてそれが私のいちばんの弱点で、この声を出されたら私が何も抗えないことは、銀ちゃんがいちばん知っている。
「~~~~~っ!も、もぉ~~~、ずるいよぉぉぉ。……すっ、好きだからっ、好きだからだよ!!」
「おーっと***さん、“ちょー好きだから”なんですけどぉ?そーゆー細けぇとこ大事にしてくんねぇと、銀さんのガラスのハートに傷がつくよ?そんでまた怒っちまうよ?ナカタの死体が海に浮かぶよ?っつーことで、は~い、やり直~し!!!」
ちょっとまって!ちょー好き!ちょー好きだよ!!という私の叫び声が、誰もいない深夜の駐車場に響いた。でもどんなに抵抗しても、銀ちゃんは全然キスをやめてくれなかった。
いちごみるくアメは何度も銀ちゃんと私を行ったり来たりして、最後はとても小さくなって、どちらの口の中でか分からないうちに砕けた。
握りしめていたはずの“かわいいからあげる!”と書かれたビニールの包装紙が、気付いたら手から落ちていた。それは夜風にカサカサと音を立てて、真っ暗な街へと飛んで消えて行った。
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【土曜日の銀ちゃん】end
ずっとずっと頭の中にあった‟サクマ印のいちごみるくアメ”で、銀ちゃんのお話を書くことができました。お読み頂きありがとうございました。