銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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【(3)うまい話】
“ ***へ
銀ちゃんと両想いになれたこと、お母さんはとても嬉しいです。お祝いにお赤飯を炊いて夕飯に出したら、お父さんがお母さんに子供ができたと勘違いして大変でした。仕方なく***に彼氏ができたと教えたら、お父さんは数日間寝込みました。本当に困った人です。
ところでこないだの手紙の返事だけど、お母さんは***のことを応援はしてるけど、交際の手助けはできません。ひとつ覚えていてほしいのは、この世界には恋人たちの数だけ、様々な恋愛の形があるということです。どんな助言も結局は他人の言葉です。他人の手助けで交際がスムーズにいくなんて、そんなにうまい話はありません。2人のことは2人にしか解決できません。***は私の娘だから、きっとできると信じています。自分ひとりの力で乗り越えていってね。
PS.お母さんにできることを考えたけど、何も思い浮かばなかったので、市場で見つけた可愛い下着のセットを送ります。銀ちゃんとおそろいのいちご柄のブラとショーツです。とっても可愛いよ。
母より ”
「な、な、なんでだぁぁぁ!お母さぁぁぁん!!」
そう叫んだ***の前には、開かれた小包が置いてある。手紙の下の薄紙を開くと、シフォン生地の下着のセットが入っていた。ふわふわとした白い生地に、小さなイチゴの絵が散りばめられたそれは、女の子らしくてとても可愛い。
―――いや、どういうことお母さん。お赤飯炊いてお祝いして、お父さんにまで知らせたのに、ひとりで頑張れって冷たくない!?それにこの下着はなんなの?確かに可愛い、可愛いけどもっ、銀ちゃんとおそろいっておかしいでしょ!もぉ~!お母さんの馬鹿っ!!
眉を八の字に下げて座り込んだ***は、胸に下着を抱いて「はぁ~」と深いため息をついた。
数日後の昼下がり、万事屋の電話が鳴った。
気だるげに電話を取った銀時の耳に、早口で喋る***の声が響いた。
『いまスーパーで仕事中なんですけど、万事屋のみんなで店に来てもらえないかな?』
そう言った***は、何かから隠れているかのようにコソコソとしていた。
「はぁ?なんで?言っとくけどウチはスーパーの手伝いなんてやんねぇぞ。品出しとかレジ打ちとかめんどくせぇし。ぱっつぁんはレジ打てねぇし、神楽にいたっては並んでる食いモン勝手に食うからな。俺たちに任せたら店がつぶれて、***もどっかのマダオみてぇに無職になっからやめとけよ。今回ばかりは銀さんも役に立てねぇみたいで悪かったな」
『ちがうよ!依頼じゃなくって……実は店長がトイレットペーパーの発注を間違えて、大量に仕入れちゃったんです。倉庫にも入らないからタイムセールで12ロール入りを200円で売ることになって、それで、』
「マジでかっ!?いくら便所紙といえども200円は安すぎねぇ?なぁ、前から思ってたけどお前んとこの店長って大丈夫?こないだも発注ミスっつって、大量のあんぱんとマヨネーズの大売り出しやってなかった?店長としてどーなの?頼りなさすぎるだろ。万事屋が手を下すまでもなく、そのうちお前の店、潰れちまうんじゃねぇの」
『うっ……確かにすぐ発注ミスしちゃうけど、店長は決して悪い人ではなくって……あ、いや、店長のことはどうでもいいよ!トイレットペーパーだよトイレットペーパー!万事屋にはいくらあってもいいと思って、いっぱい買って倉庫に隠してあるんです。本当はひとり1個まででバレたら怒られちゃうから、みんなでコッソリ取りに来てくれませんか?ちゃんとダブルを買ってあるんですよ。銀ちゃんシングルじゃなくてダブル派でしょ?』
「でかした***!」と言って電話を切ると、銀時はさっそく新八と神楽、それに定春も連れてスーパーに向かった。
すでにタイムセール中のスーパーの入り口付近は、トイレットペーパーを買い求める人々でごった返していた。それはまるで、かぶき町中の人間が集まったのでは、というほどの人出だった。
「おーおー、どいつもこいつも便所紙ひとつに群がりやがって、卑しい奴らだよほんとに。新八ぃ神楽ぁ定春ぅ、いいかー、あーゆー姑息な大人にだけはなんなよ。貧乏はいいが貧乏くせぇのは駄目ですからね。ったく……こりゃ店に入んのもひと苦労だな。ここは一旦俺が倉庫まで見に行ってくっから、お前らはここで見張りしとけって…、オイィィィィ!!!!」
振り向いた銀時の後ろには、既に誰もいなかった。定春に乗った神楽が客を蹴散らして店内に入り、お菓子や総菜売り場へ突進していた。
一方、新八はトイレットペーパー売場のすぐ隣で、特売の卵の最後のひとパックを、見知らぬ主婦と取り合いをしていた。
「ア、アイツら……」
「……んっ、ぎんちゃんっ!こっちですよぉ!」
呆れて立ち尽くす銀時の耳に、遠くから***の声が届いた。店の裏手に顔を向けると、倉庫の扉が開いて、中から顔を出した***が小さく手招きをしていた。
頭を掻きながらのんびりと歩いて向かっていたら、しびれを切らした***が倉庫から飛び出してきて、銀時に駆け寄ると片手をぎゅっとつかんだ。
「もぉ~早く!店長に見つかる前に来て下さい!」
慌てた顔でそう言った***が、銀時の手を強くにぎると、ぐいぐいと引っ張って走り出す。ふたりそろって倉庫の中に駆け込んだ。
細長くて奥行きのある倉庫は、両側の壁に沿って背の高い棚がずらりと並んでいた。向き合う棚の間には、人がすれ違うのもギリギリくらいのスペースしかない。そしてどの棚にも大きな段ボールが所狭しと置いてあった。
***に手を引かれるがままに一番奥までたどり着く。「この上に隠したんです」と言って***が指さしたのは、天井に届きそうな高さの棚の上。トイレットペーパーを10個以上確保したと言うが、前面に置かれた段ボール箱のせいで見えない。
「あれ?こんなの今朝は置いてなかったのに……」
ガシャンと音を立てて脚立を開き、***が上っていく。倒れないよう銀時が後ろから脚立を支えると、上りきった***のふくらはぎが、銀時の視線の高さにきた。少し顔を上げるとすぐ目の前に、***の腰とお尻があった。
「え、なにこの箱、何が入ってるんだろ……ん~~~っ!お、重いぃぃぃ!」
重い箱を退かそうと必死な***の身体が、左右に動く。それと同時に小さなお尻がふりふりと揺れた。押しても引いても箱はなかなか動かない。それと同時に銀時の目の前に、ちんまりとしたお尻が突き出された。
「ちょっと待ってね銀ちゃん、すぐに取るから!」
「はいはい、待ちますよ。銀さんはおとなしく待ってますよぉ。ゆっくりでいいですからねぇ、***ちゃぁん」
これは絶景と、銀時はにやつきながら***のお尻を見ている。棚の上しか見ていない***は、目尻の下がったデレデレ顔の銀時が、自分のお尻を見ていることに、全く気付かない。
「いや、ゆっくりはできないんだってば!店長にバレたら、私、怒られちゃいます……よいしょっと!」
脚立の上でつま先立ちになった***が、段ボールを避けたわずかな隙間から、奥にあるトイレットペーパーに手を伸ばす。指先がビニールの袋に触れて、ぎゅっとつかんだと同時に、予想外の感覚が***の身体を走った。
むにゅっ―――
「えっ」
「おー、なんだ***。オメー細ぇから全然期待してなかったけど、ケツはまぁまぁ柔らけぇんだな。それなりに女っぽいケツじゃねぇか。感心かんし~ん!」
「なっ………!!!」
トイレットペーパーを抱えたまま、顔だけ振り向いて見下ろす。真後ろに立つ銀時が、***のお尻を両手でつかんでいた。その手は遠慮なく動き、指先が食い込むほど強く、***のお尻を揉みしだいていた。
「ちょっ、なっ、なにしてるんですかぁぁぁ!やっ、やめてよ、馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!」
「は?彼女のケツが目の前にあったから、触ってるだけなんですけど?世の中の男子全員、目の前にケツがあったら触るに決まってんだろ。当たり前のことをしてるだけなんですけどぉ~!」
顔を真っ赤にして***は逃げようとするが、脚立の上で身動きが取れない。下世話な顔をした銀時が、そんな***を見上げて、おもしろいものを見つけた子供のように目を輝かせた。
いつもは死んだ魚のような目が嘘のように、きらめきが宿る赤い瞳に驚いた***は「えええっ!」と叫び、トイレットペーパーをぎゅっと抱きしめた。
「おっ、もしかしてこれ、触り放題じゃね?」
そう言った銀時の手が移動する。お尻を揉みしだくような動きをしていた手が、さわさわと撫でるような繊細な手つきになる。恥ずかしさとくすぐったさで、***の身体はこわばった。
お尻から手が離れて、ホッとしたのも束の間。足に沿って降りた手が、裾からするりと着物の中に入ってきて、足袋の上から***のくるぶしを撫でた。
「ひっ、ぎ、銀ちゃん、ちょっと、あぶ、危ないからっ!落ちちゃうからっ、んっ……ゃあっ!」
「あっれ~~~***、なに今の声ぇぇぇ~~、もしかして触られて、気持ちよくなっちゃった?落ちちゃうってどういう落ちちゃう?銀さんの手の動きがヨくてオチちゃうってことぉ?」
「っ~~~!ちっ、ちがうよ馬鹿っ!く、くすぐったいからやめてくださいぃぃぃぃ!」
足首からゆっくりと上っていく銀時の手に、両足がガクガクと震えた。優しく動く長い指に、ふくらはぎを撫でられたら、ぞわっとした感覚が腰まで上がってくる。
「っ……!だめだよ、銀ちゃんっ!」
「はは、全然だめじゃなさそーじゃん***。首まで真っ赤にしちゃってさぁ。そういやお前、ふくらはぎとか太ももとか、足が弱ぇのな。あん時も足さわった途端、可愛い声出しちゃってたもんなぁぁぁ」
あの時と言われたのがどの時か、全然思い出せない。足を触られたことなんてあったっけ?何も考えられずにただ恥ずかしくて、***の顔はますます熱くなる。変な声だけは出さないようにと、片手で口元を抑えた。
ゆっくりとだが容赦なく、銀時の手が足を上ってくる。ひざ裏に親指が置かれて、残りの指でひざ頭を撫でられる。大きな手のひらが太ももの後ろをかすめていく。
銀時の腕で着物の裾が持ち上げられていることに気付き、慌てて見下ろすと、まくれ上がった着物の中を、首を傾げた銀時がのぞこうとしていた。
「なっ!ななななななにしてんですかっ!」
「なにって、パンツなに色かなぁ~って。どーせ***のことだから色気のねぇ白とか水色とかだろ。そうゆう清純派なパンツもいいけどさぁ、銀さん的には後ろが全部レースでスッケスケとか、ほっそい紐でギリッギリ繋がってるみてぇなエッロいのがいいよね。まぁ、彼氏できたてのおぼこい***に、そこまで期待しねぇから安心しろよ。だから、見せてみろってパンツ!オラッ!」
そう言って銀時が着物の裾をばっと持ち上げたのと、***が銀時の脳天めがけてトイレットペーパーを振り下ろしたのは、同時だった。
「ぐぇっ」という声を上げて、銀時がよろける。それと同時に脚立もぐらぐらと揺れて、足元の覚束ない***は、棚の上の段ボールをつかんだ。
「わわわっ、銀ちゃん!やだっ、あ、危ない!!!」
「なっ、ちょ、***っ!倒れっからこっち来んなってオイッ!おまっ、おわああぁぁぁっ!!!!」
ガッシャンッッッ―――
大きな音を立てて脚立が倒れると同時に、滑り落ちた***を銀時が受け止めた。元々よろけていた所に、人ひとり抱えた銀時は、そのまま後ろにばったりと倒れて、頭を床に打ち付けた。その胸に抱き留められた***が、落ちる直前までつかんでいた段ボールが棚の上で倒れて、中身がバラバラと降ってくる。
「ぃ、っつぅ~……あっ、銀ちゃん!大丈夫!?」
「ゔぅぅぅぅ、い゙ッでぇぇぇぇ!あにすんだよ***っ!お前、なんでもかんでも俺の顔とか頭とか狙ってぶつけてくっけど、銀さん不死身じゃないからねっ!石頭っつっても限界があっからねマジで!」
「ご、ごめんッ、でも銀ちゃんがパンツ見ようとするからっ、あっ……!」
寝転がった銀時の胸に両手をついて、***は身体を起こす。銀時のおでこにはトイレットペーパーが当たった時の、大きなたんこぶが出来ていた。
手で触れると「痛ぇよ」と銀時が顔をしかめた。ごめん、と謝りながら泣きそうな顔で触れ続けると、***の手の上に、銀時の手が重ねられた。
「あ~、でも***の手ひゃっこいから気持ちいいわ」
「え、そ、そうですか?大丈夫かな?このたんこぶ、冷やしたら治るかなぁ」
眉を八の字に下げて、不安げな顔の***が、仰向けの銀時に馬乗りになったまま額に手を当て続ける。
「なんかお前さぁ……」
おでこを抑えている手の下で、銀時が細目で***を見つめる。そしてにやりと笑って口を開いた。
「もしかして、お前、俺に触られんの、前より慣れたんじゃね?」
「えっ!!?」
驚いて口をあんぐりと開けた***を見て、銀時が嬉しそうに笑う。思わず離そうとした手を、大きな手が上から強くにぎった。「イテテ」と言いながら起き上がった銀時の、もう一方の手が***の腰に回った。
「こんな誰もいねぇ倉庫に彼氏連れ込んで、どーするつもり***。こっちが手ぇ繋ぐのも我慢してやってんのに、そっちからはあっさり触ってきやがって。ぐいぐい手ぇ引っ張って?せまい場所でふたりっきりで?目の前でちいせぇケツふりふりして?こっちは気が気じゃないっつーの。なに***、お前どーしたいの?俺にどーされたいの?なぁ?」
「いややややっ!そそそそそんなつもり全然なくって、ただっ、あのトイレットペーパーを、店長に見つかる前にその、あのっ」
「ふぅーん……じゃぁ、なにそのパンツ。いちご柄のかわいいヤツ。まさかお前がそんなのはいてるとはなぁ~。***、それさ、銀さんとおそろいっつって、はしゃいで買ったの?なにソレ、やばいんですけど、可愛すぎてやばいんですけどぉぉぉ」
「っ!!!」
母から届いたいちご柄のパンツを見られたと分かった瞬間、***の顔がいちごと同じ位真っ赤になった。頭から湯気が出そうなほど熱くなる。あわあわとしているうちに、銀時の顔が近づいてくる。上に座っているのに、腕で腰を抑えつけられて、微動だにできない。
「***、お前少し痩せたろ?」
腰の周りを動いた手が、骨盤の周りやくびれを撫でる。前に回ったその手が、お腹も優しく触った。少し心配そうに細められた銀時の目を見て、***の胸は締め付けられた。
「あん時より細くなってるし……なぁ、上もパンツと同じいちご柄?それ銀さんに見せてくんね?俺に見せる為に着てんだろ?ほれほれ、ちょっと見せてみろって」
二回聞いてようやく、銀時の言う「あの時」があの嵐の夜のことだと気付いた***は、ハッとして息もできなくなった。ただあの日、身体を触られた感触が全身に蘇る。その感覚に耐えると、目にじわりと涙が浮かんだ。
「やっ、だめだよ銀ちゃん、私、仕事中です……て、店長にバレたらほんとに私、」
「あぁぁ~~!彼氏の前で他の男のこと考えんのかよ。***もいっちょ前に大人んなったねー。でも銀さんそーゆーの傷つくし、許さないからねマジで」
少し怒った顔の銀時が、首を傾けて***に近寄る。
どうしようどうしよう。キスをされてしまう。仕事中なのに。誰が来るかも分からないこんな場所で。
そう思うのに身体が全く動かない。受け入れるみたいにぎゅっと目を閉じた***の唇に、銀時の熱い唇が、ふにっと押し付けられた。
バンッ!!!!!
「***ちゃんっ!!いるっ!!?」
突然倉庫の扉が開き、入ってきたのは店長だった。驚いた***が、勢いよく銀時の胸を押して跳ねのける。ぱっと立ち上がると、真っ赤な顔のまま返事をした。
「はいっ、店長!ごめんなさい!ここにいます!」
「もぉ~***ちゃん、どーゆーことだよこれはぁ!」
店長の怒った声に、***は一瞬で真っ青になる。
―――ああ、もう駄目だ。ズルしてトイレットペーパーを買ってたのも、こんな所で銀ちゃんとキスしてたのもバレてる。怒られる!怒られるだけじゃない。クビだ、きっとクビになるぅぅぅ!
「ててて、店長ごめんなさいっ!あの、どうしても銀ちゃんにトイレットペーパーをあげたくて、そのっ、お金は払ってますから。いや、やっぱり払い戻して、すぐ店頭に持っていきますから今回だけはそのっ、あのっ」
クビだけは勘弁してください、と言いかけた***を店長が遮る。そして***の肩を両手でむんずとつかむと、予想もしないことを言い放った。
「万事屋さんが来るなら言ってよ!俺、頼みたいことがあるんだからさぁ!!!」
「「へっ?」」
***と銀時、ふたり同時に驚きの声を上げた。押しのけられて仰向けに倒れたままの銀時に、店長はすたすたと近づいていく。
「いやぁ~万事屋さんですよね、いつも***ちゃんからお話聞いてますよ。報酬さえ払えば、どんな依頼でも引き受けてくれるんですよね?実は、個人的に頼みたいことがあるんですけど、お話聞いて頂けます?」
そう言いながら店長は、銀時に手を貸して立ち上がらせた。
「はぁ?あんだよアホ店長ぉ、いっつも***がお前の世話してるっつーのに、俺にまで頼みごとたぁ、ツラの皮がぶ厚すぎるだろ。なに、お前の顔はジャンプですか?それともマガジンですかぁぁぁ?」
「ははは!話に聞いた通りおもしろい人だな、万事屋さんは。実はアレなんですけど……」
気まずそうな顔で店長が指さしたのは、倉庫の奥の床。***が倒した段ボール箱の中身が落ちて、色とりどりの細長い棒のようなものが散らばっていた。
「あの、店長、あれって……は、花火?」
「うん、***ちゃんそうなんだよ。手持ち花火」
銀時が拾い上げるとそれは確かに手持ち花火だった。落ちているだけでも数十本あったが、それぞれ色や種類の違う、多種多様なものだった。
「で、アホ店長、この花火を俺にどうしろって?」
「いやね、万事屋さん、花火はそれだけじゃないんですよ。俺、発注ミスって大量に入荷しちゃったんですよ。もう夏も終わりだっていうのに。週末に合せて少し発注しとこーって思ってバラで頼んだつもりが100本単位だったみたいで、ハハハッ!」
「いや、ハハハじゃねぇだろ!!」
「この倉庫にある段ボール、全部花火なんですよ。本社にバレたらマズいんで、内密に引き取ってもらえませんか?ほら、花火って湿気っちゃうから来年にはもう売れないでしょ?頼みますよ万事屋さぁん!引き受けてくれたら、あのチャイナ服着た女の子と犬に壊された店内の修理費は、こっち持ちにしますし、どうですか?うまい話じゃないですか?」
「なっ!!!か、神楽、あの馬鹿ァァァ」
渋い顔の銀時が「仕方ねぇな」と言って依頼を引き受けると、店長は朗らかな笑顔を浮かべた。
店長は***の肩を叩くと「いや~よかったよ***ちゃん!今日は早退して万事屋さんと段ボール運ぶの手伝ってあげてよ!タイムカードは5時になったら押しとくから」と言って、倉庫を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと店長っ!発注ミスって言っても、そんなにたくさん花火頼まないですよね?あの、一体これ、どんだけあるんですか!?」
倉庫のドアまでたどり着いた店長が、***の問いに振りむくと苦笑いをして頭を掻いた。気まずそうに口を開くと、へらりと笑って言った。
「う~ん、10万本、くらいあるかなぁ~アハハハハッ」
バタン、という音を立てて倉庫の扉が閉まる。呆気にとられた***と銀時が顔を見合わせて、一瞬言葉を失う。しかし同時に大きな叫び声を上げた。
「「じゅ、じゅうまんぼんんんんん!!!?」」
―――いやいやいや、オカシイだろあの店長!あの店長っつーかアホ店長っ!この夏の終わりに花火10万本なんてどーすんだよ!ロケット花火に店長くくりつけて、夜空に咲かすくらいしか使い道ねぇだろーが!全然、ひとつも、うまい話じゃねぇぇぇ!!!
―――この店ダメだきっと。転職しようかな、転職。あんな人が店長じゃ潰れちゃうよ。ああ、でも、お給料はいいし、同僚もお客さんもみんな良い人だし……なにより店長だって、決して悪い人じゃないし、憎めない人なんだよなぁぁぁ……
「「はぁぁぁぁ~」」
ふたり同時についた深いため息が、花火置き場と化している倉庫にひっそりと響いた。
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【(3)うまい話】end
ビジネスライクにいきましょう
“ ***へ
銀ちゃんと両想いになれたこと、お母さんはとても嬉しいです。お祝いにお赤飯を炊いて夕飯に出したら、お父さんがお母さんに子供ができたと勘違いして大変でした。仕方なく***に彼氏ができたと教えたら、お父さんは数日間寝込みました。本当に困った人です。
ところでこないだの手紙の返事だけど、お母さんは***のことを応援はしてるけど、交際の手助けはできません。ひとつ覚えていてほしいのは、この世界には恋人たちの数だけ、様々な恋愛の形があるということです。どんな助言も結局は他人の言葉です。他人の手助けで交際がスムーズにいくなんて、そんなにうまい話はありません。2人のことは2人にしか解決できません。***は私の娘だから、きっとできると信じています。自分ひとりの力で乗り越えていってね。
PS.お母さんにできることを考えたけど、何も思い浮かばなかったので、市場で見つけた可愛い下着のセットを送ります。銀ちゃんとおそろいのいちご柄のブラとショーツです。とっても可愛いよ。
母より ”
「な、な、なんでだぁぁぁ!お母さぁぁぁん!!」
そう叫んだ***の前には、開かれた小包が置いてある。手紙の下の薄紙を開くと、シフォン生地の下着のセットが入っていた。ふわふわとした白い生地に、小さなイチゴの絵が散りばめられたそれは、女の子らしくてとても可愛い。
―――いや、どういうことお母さん。お赤飯炊いてお祝いして、お父さんにまで知らせたのに、ひとりで頑張れって冷たくない!?それにこの下着はなんなの?確かに可愛い、可愛いけどもっ、銀ちゃんとおそろいっておかしいでしょ!もぉ~!お母さんの馬鹿っ!!
眉を八の字に下げて座り込んだ***は、胸に下着を抱いて「はぁ~」と深いため息をついた。
数日後の昼下がり、万事屋の電話が鳴った。
気だるげに電話を取った銀時の耳に、早口で喋る***の声が響いた。
『いまスーパーで仕事中なんですけど、万事屋のみんなで店に来てもらえないかな?』
そう言った***は、何かから隠れているかのようにコソコソとしていた。
「はぁ?なんで?言っとくけどウチはスーパーの手伝いなんてやんねぇぞ。品出しとかレジ打ちとかめんどくせぇし。ぱっつぁんはレジ打てねぇし、神楽にいたっては並んでる食いモン勝手に食うからな。俺たちに任せたら店がつぶれて、***もどっかのマダオみてぇに無職になっからやめとけよ。今回ばかりは銀さんも役に立てねぇみたいで悪かったな」
『ちがうよ!依頼じゃなくって……実は店長がトイレットペーパーの発注を間違えて、大量に仕入れちゃったんです。倉庫にも入らないからタイムセールで12ロール入りを200円で売ることになって、それで、』
「マジでかっ!?いくら便所紙といえども200円は安すぎねぇ?なぁ、前から思ってたけどお前んとこの店長って大丈夫?こないだも発注ミスっつって、大量のあんぱんとマヨネーズの大売り出しやってなかった?店長としてどーなの?頼りなさすぎるだろ。万事屋が手を下すまでもなく、そのうちお前の店、潰れちまうんじゃねぇの」
『うっ……確かにすぐ発注ミスしちゃうけど、店長は決して悪い人ではなくって……あ、いや、店長のことはどうでもいいよ!トイレットペーパーだよトイレットペーパー!万事屋にはいくらあってもいいと思って、いっぱい買って倉庫に隠してあるんです。本当はひとり1個まででバレたら怒られちゃうから、みんなでコッソリ取りに来てくれませんか?ちゃんとダブルを買ってあるんですよ。銀ちゃんシングルじゃなくてダブル派でしょ?』
「でかした***!」と言って電話を切ると、銀時はさっそく新八と神楽、それに定春も連れてスーパーに向かった。
すでにタイムセール中のスーパーの入り口付近は、トイレットペーパーを買い求める人々でごった返していた。それはまるで、かぶき町中の人間が集まったのでは、というほどの人出だった。
「おーおー、どいつもこいつも便所紙ひとつに群がりやがって、卑しい奴らだよほんとに。新八ぃ神楽ぁ定春ぅ、いいかー、あーゆー姑息な大人にだけはなんなよ。貧乏はいいが貧乏くせぇのは駄目ですからね。ったく……こりゃ店に入んのもひと苦労だな。ここは一旦俺が倉庫まで見に行ってくっから、お前らはここで見張りしとけって…、オイィィィィ!!!!」
振り向いた銀時の後ろには、既に誰もいなかった。定春に乗った神楽が客を蹴散らして店内に入り、お菓子や総菜売り場へ突進していた。
一方、新八はトイレットペーパー売場のすぐ隣で、特売の卵の最後のひとパックを、見知らぬ主婦と取り合いをしていた。
「ア、アイツら……」
「……んっ、ぎんちゃんっ!こっちですよぉ!」
呆れて立ち尽くす銀時の耳に、遠くから***の声が届いた。店の裏手に顔を向けると、倉庫の扉が開いて、中から顔を出した***が小さく手招きをしていた。
頭を掻きながらのんびりと歩いて向かっていたら、しびれを切らした***が倉庫から飛び出してきて、銀時に駆け寄ると片手をぎゅっとつかんだ。
「もぉ~早く!店長に見つかる前に来て下さい!」
慌てた顔でそう言った***が、銀時の手を強くにぎると、ぐいぐいと引っ張って走り出す。ふたりそろって倉庫の中に駆け込んだ。
細長くて奥行きのある倉庫は、両側の壁に沿って背の高い棚がずらりと並んでいた。向き合う棚の間には、人がすれ違うのもギリギリくらいのスペースしかない。そしてどの棚にも大きな段ボールが所狭しと置いてあった。
***に手を引かれるがままに一番奥までたどり着く。「この上に隠したんです」と言って***が指さしたのは、天井に届きそうな高さの棚の上。トイレットペーパーを10個以上確保したと言うが、前面に置かれた段ボール箱のせいで見えない。
「あれ?こんなの今朝は置いてなかったのに……」
ガシャンと音を立てて脚立を開き、***が上っていく。倒れないよう銀時が後ろから脚立を支えると、上りきった***のふくらはぎが、銀時の視線の高さにきた。少し顔を上げるとすぐ目の前に、***の腰とお尻があった。
「え、なにこの箱、何が入ってるんだろ……ん~~~っ!お、重いぃぃぃ!」
重い箱を退かそうと必死な***の身体が、左右に動く。それと同時に小さなお尻がふりふりと揺れた。押しても引いても箱はなかなか動かない。それと同時に銀時の目の前に、ちんまりとしたお尻が突き出された。
「ちょっと待ってね銀ちゃん、すぐに取るから!」
「はいはい、待ちますよ。銀さんはおとなしく待ってますよぉ。ゆっくりでいいですからねぇ、***ちゃぁん」
これは絶景と、銀時はにやつきながら***のお尻を見ている。棚の上しか見ていない***は、目尻の下がったデレデレ顔の銀時が、自分のお尻を見ていることに、全く気付かない。
「いや、ゆっくりはできないんだってば!店長にバレたら、私、怒られちゃいます……よいしょっと!」
脚立の上でつま先立ちになった***が、段ボールを避けたわずかな隙間から、奥にあるトイレットペーパーに手を伸ばす。指先がビニールの袋に触れて、ぎゅっとつかんだと同時に、予想外の感覚が***の身体を走った。
むにゅっ―――
「えっ」
「おー、なんだ***。オメー細ぇから全然期待してなかったけど、ケツはまぁまぁ柔らけぇんだな。それなりに女っぽいケツじゃねぇか。感心かんし~ん!」
「なっ………!!!」
トイレットペーパーを抱えたまま、顔だけ振り向いて見下ろす。真後ろに立つ銀時が、***のお尻を両手でつかんでいた。その手は遠慮なく動き、指先が食い込むほど強く、***のお尻を揉みしだいていた。
「ちょっ、なっ、なにしてるんですかぁぁぁ!やっ、やめてよ、馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!」
「は?彼女のケツが目の前にあったから、触ってるだけなんですけど?世の中の男子全員、目の前にケツがあったら触るに決まってんだろ。当たり前のことをしてるだけなんですけどぉ~!」
顔を真っ赤にして***は逃げようとするが、脚立の上で身動きが取れない。下世話な顔をした銀時が、そんな***を見上げて、おもしろいものを見つけた子供のように目を輝かせた。
いつもは死んだ魚のような目が嘘のように、きらめきが宿る赤い瞳に驚いた***は「えええっ!」と叫び、トイレットペーパーをぎゅっと抱きしめた。
「おっ、もしかしてこれ、触り放題じゃね?」
そう言った銀時の手が移動する。お尻を揉みしだくような動きをしていた手が、さわさわと撫でるような繊細な手つきになる。恥ずかしさとくすぐったさで、***の身体はこわばった。
お尻から手が離れて、ホッとしたのも束の間。足に沿って降りた手が、裾からするりと着物の中に入ってきて、足袋の上から***のくるぶしを撫でた。
「ひっ、ぎ、銀ちゃん、ちょっと、あぶ、危ないからっ!落ちちゃうからっ、んっ……ゃあっ!」
「あっれ~~~***、なに今の声ぇぇぇ~~、もしかして触られて、気持ちよくなっちゃった?落ちちゃうってどういう落ちちゃう?銀さんの手の動きがヨくてオチちゃうってことぉ?」
「っ~~~!ちっ、ちがうよ馬鹿っ!く、くすぐったいからやめてくださいぃぃぃぃ!」
足首からゆっくりと上っていく銀時の手に、両足がガクガクと震えた。優しく動く長い指に、ふくらはぎを撫でられたら、ぞわっとした感覚が腰まで上がってくる。
「っ……!だめだよ、銀ちゃんっ!」
「はは、全然だめじゃなさそーじゃん***。首まで真っ赤にしちゃってさぁ。そういやお前、ふくらはぎとか太ももとか、足が弱ぇのな。あん時も足さわった途端、可愛い声出しちゃってたもんなぁぁぁ」
あの時と言われたのがどの時か、全然思い出せない。足を触られたことなんてあったっけ?何も考えられずにただ恥ずかしくて、***の顔はますます熱くなる。変な声だけは出さないようにと、片手で口元を抑えた。
ゆっくりとだが容赦なく、銀時の手が足を上ってくる。ひざ裏に親指が置かれて、残りの指でひざ頭を撫でられる。大きな手のひらが太ももの後ろをかすめていく。
銀時の腕で着物の裾が持ち上げられていることに気付き、慌てて見下ろすと、まくれ上がった着物の中を、首を傾げた銀時がのぞこうとしていた。
「なっ!ななななななにしてんですかっ!」
「なにって、パンツなに色かなぁ~って。どーせ***のことだから色気のねぇ白とか水色とかだろ。そうゆう清純派なパンツもいいけどさぁ、銀さん的には後ろが全部レースでスッケスケとか、ほっそい紐でギリッギリ繋がってるみてぇなエッロいのがいいよね。まぁ、彼氏できたてのおぼこい***に、そこまで期待しねぇから安心しろよ。だから、見せてみろってパンツ!オラッ!」
そう言って銀時が着物の裾をばっと持ち上げたのと、***が銀時の脳天めがけてトイレットペーパーを振り下ろしたのは、同時だった。
「ぐぇっ」という声を上げて、銀時がよろける。それと同時に脚立もぐらぐらと揺れて、足元の覚束ない***は、棚の上の段ボールをつかんだ。
「わわわっ、銀ちゃん!やだっ、あ、危ない!!!」
「なっ、ちょ、***っ!倒れっからこっち来んなってオイッ!おまっ、おわああぁぁぁっ!!!!」
ガッシャンッッッ―――
大きな音を立てて脚立が倒れると同時に、滑り落ちた***を銀時が受け止めた。元々よろけていた所に、人ひとり抱えた銀時は、そのまま後ろにばったりと倒れて、頭を床に打ち付けた。その胸に抱き留められた***が、落ちる直前までつかんでいた段ボールが棚の上で倒れて、中身がバラバラと降ってくる。
「ぃ、っつぅ~……あっ、銀ちゃん!大丈夫!?」
「ゔぅぅぅぅ、い゙ッでぇぇぇぇ!あにすんだよ***っ!お前、なんでもかんでも俺の顔とか頭とか狙ってぶつけてくっけど、銀さん不死身じゃないからねっ!石頭っつっても限界があっからねマジで!」
「ご、ごめんッ、でも銀ちゃんがパンツ見ようとするからっ、あっ……!」
寝転がった銀時の胸に両手をついて、***は身体を起こす。銀時のおでこにはトイレットペーパーが当たった時の、大きなたんこぶが出来ていた。
手で触れると「痛ぇよ」と銀時が顔をしかめた。ごめん、と謝りながら泣きそうな顔で触れ続けると、***の手の上に、銀時の手が重ねられた。
「あ~、でも***の手ひゃっこいから気持ちいいわ」
「え、そ、そうですか?大丈夫かな?このたんこぶ、冷やしたら治るかなぁ」
眉を八の字に下げて、不安げな顔の***が、仰向けの銀時に馬乗りになったまま額に手を当て続ける。
「なんかお前さぁ……」
おでこを抑えている手の下で、銀時が細目で***を見つめる。そしてにやりと笑って口を開いた。
「もしかして、お前、俺に触られんの、前より慣れたんじゃね?」
「えっ!!?」
驚いて口をあんぐりと開けた***を見て、銀時が嬉しそうに笑う。思わず離そうとした手を、大きな手が上から強くにぎった。「イテテ」と言いながら起き上がった銀時の、もう一方の手が***の腰に回った。
「こんな誰もいねぇ倉庫に彼氏連れ込んで、どーするつもり***。こっちが手ぇ繋ぐのも我慢してやってんのに、そっちからはあっさり触ってきやがって。ぐいぐい手ぇ引っ張って?せまい場所でふたりっきりで?目の前でちいせぇケツふりふりして?こっちは気が気じゃないっつーの。なに***、お前どーしたいの?俺にどーされたいの?なぁ?」
「いややややっ!そそそそそんなつもり全然なくって、ただっ、あのトイレットペーパーを、店長に見つかる前にその、あのっ」
「ふぅーん……じゃぁ、なにそのパンツ。いちご柄のかわいいヤツ。まさかお前がそんなのはいてるとはなぁ~。***、それさ、銀さんとおそろいっつって、はしゃいで買ったの?なにソレ、やばいんですけど、可愛すぎてやばいんですけどぉぉぉ」
「っ!!!」
母から届いたいちご柄のパンツを見られたと分かった瞬間、***の顔がいちごと同じ位真っ赤になった。頭から湯気が出そうなほど熱くなる。あわあわとしているうちに、銀時の顔が近づいてくる。上に座っているのに、腕で腰を抑えつけられて、微動だにできない。
「***、お前少し痩せたろ?」
腰の周りを動いた手が、骨盤の周りやくびれを撫でる。前に回ったその手が、お腹も優しく触った。少し心配そうに細められた銀時の目を見て、***の胸は締め付けられた。
「あん時より細くなってるし……なぁ、上もパンツと同じいちご柄?それ銀さんに見せてくんね?俺に見せる為に着てんだろ?ほれほれ、ちょっと見せてみろって」
二回聞いてようやく、銀時の言う「あの時」があの嵐の夜のことだと気付いた***は、ハッとして息もできなくなった。ただあの日、身体を触られた感触が全身に蘇る。その感覚に耐えると、目にじわりと涙が浮かんだ。
「やっ、だめだよ銀ちゃん、私、仕事中です……て、店長にバレたらほんとに私、」
「あぁぁ~~!彼氏の前で他の男のこと考えんのかよ。***もいっちょ前に大人んなったねー。でも銀さんそーゆーの傷つくし、許さないからねマジで」
少し怒った顔の銀時が、首を傾けて***に近寄る。
どうしようどうしよう。キスをされてしまう。仕事中なのに。誰が来るかも分からないこんな場所で。
そう思うのに身体が全く動かない。受け入れるみたいにぎゅっと目を閉じた***の唇に、銀時の熱い唇が、ふにっと押し付けられた。
バンッ!!!!!
「***ちゃんっ!!いるっ!!?」
突然倉庫の扉が開き、入ってきたのは店長だった。驚いた***が、勢いよく銀時の胸を押して跳ねのける。ぱっと立ち上がると、真っ赤な顔のまま返事をした。
「はいっ、店長!ごめんなさい!ここにいます!」
「もぉ~***ちゃん、どーゆーことだよこれはぁ!」
店長の怒った声に、***は一瞬で真っ青になる。
―――ああ、もう駄目だ。ズルしてトイレットペーパーを買ってたのも、こんな所で銀ちゃんとキスしてたのもバレてる。怒られる!怒られるだけじゃない。クビだ、きっとクビになるぅぅぅ!
「ててて、店長ごめんなさいっ!あの、どうしても銀ちゃんにトイレットペーパーをあげたくて、そのっ、お金は払ってますから。いや、やっぱり払い戻して、すぐ店頭に持っていきますから今回だけはそのっ、あのっ」
クビだけは勘弁してください、と言いかけた***を店長が遮る。そして***の肩を両手でむんずとつかむと、予想もしないことを言い放った。
「万事屋さんが来るなら言ってよ!俺、頼みたいことがあるんだからさぁ!!!」
「「へっ?」」
***と銀時、ふたり同時に驚きの声を上げた。押しのけられて仰向けに倒れたままの銀時に、店長はすたすたと近づいていく。
「いやぁ~万事屋さんですよね、いつも***ちゃんからお話聞いてますよ。報酬さえ払えば、どんな依頼でも引き受けてくれるんですよね?実は、個人的に頼みたいことがあるんですけど、お話聞いて頂けます?」
そう言いながら店長は、銀時に手を貸して立ち上がらせた。
「はぁ?あんだよアホ店長ぉ、いっつも***がお前の世話してるっつーのに、俺にまで頼みごとたぁ、ツラの皮がぶ厚すぎるだろ。なに、お前の顔はジャンプですか?それともマガジンですかぁぁぁ?」
「ははは!話に聞いた通りおもしろい人だな、万事屋さんは。実はアレなんですけど……」
気まずそうな顔で店長が指さしたのは、倉庫の奥の床。***が倒した段ボール箱の中身が落ちて、色とりどりの細長い棒のようなものが散らばっていた。
「あの、店長、あれって……は、花火?」
「うん、***ちゃんそうなんだよ。手持ち花火」
銀時が拾い上げるとそれは確かに手持ち花火だった。落ちているだけでも数十本あったが、それぞれ色や種類の違う、多種多様なものだった。
「で、アホ店長、この花火を俺にどうしろって?」
「いやね、万事屋さん、花火はそれだけじゃないんですよ。俺、発注ミスって大量に入荷しちゃったんですよ。もう夏も終わりだっていうのに。週末に合せて少し発注しとこーって思ってバラで頼んだつもりが100本単位だったみたいで、ハハハッ!」
「いや、ハハハじゃねぇだろ!!」
「この倉庫にある段ボール、全部花火なんですよ。本社にバレたらマズいんで、内密に引き取ってもらえませんか?ほら、花火って湿気っちゃうから来年にはもう売れないでしょ?頼みますよ万事屋さぁん!引き受けてくれたら、あのチャイナ服着た女の子と犬に壊された店内の修理費は、こっち持ちにしますし、どうですか?うまい話じゃないですか?」
「なっ!!!か、神楽、あの馬鹿ァァァ」
渋い顔の銀時が「仕方ねぇな」と言って依頼を引き受けると、店長は朗らかな笑顔を浮かべた。
店長は***の肩を叩くと「いや~よかったよ***ちゃん!今日は早退して万事屋さんと段ボール運ぶの手伝ってあげてよ!タイムカードは5時になったら押しとくから」と言って、倉庫を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと店長っ!発注ミスって言っても、そんなにたくさん花火頼まないですよね?あの、一体これ、どんだけあるんですか!?」
倉庫のドアまでたどり着いた店長が、***の問いに振りむくと苦笑いをして頭を掻いた。気まずそうに口を開くと、へらりと笑って言った。
「う~ん、10万本、くらいあるかなぁ~アハハハハッ」
バタン、という音を立てて倉庫の扉が閉まる。呆気にとられた***と銀時が顔を見合わせて、一瞬言葉を失う。しかし同時に大きな叫び声を上げた。
「「じゅ、じゅうまんぼんんんんん!!!?」」
―――いやいやいや、オカシイだろあの店長!あの店長っつーかアホ店長っ!この夏の終わりに花火10万本なんてどーすんだよ!ロケット花火に店長くくりつけて、夜空に咲かすくらいしか使い道ねぇだろーが!全然、ひとつも、うまい話じゃねぇぇぇ!!!
―――この店ダメだきっと。転職しようかな、転職。あんな人が店長じゃ潰れちゃうよ。ああ、でも、お給料はいいし、同僚もお客さんもみんな良い人だし……なにより店長だって、決して悪い人じゃないし、憎めない人なんだよなぁぁぁ……
「「はぁぁぁぁ~」」
ふたり同時についた深いため息が、花火置き場と化している倉庫にひっそりと響いた。
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【(3)うまい話】end
ビジネスライクにいきましょう