銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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【(41)まずい展開】
‟拝啓、お母さん
お元気ですか。私はとても元気です。お仕事も順調だし、銀ちゃんや皆とも楽しくなかよく過ごしています。たまに大変なこともあるけれど……”
「大変な、ことも、あるけれど……た、大変、な、ぅ、う、うわぁあああん!!!」
万事屋に***の声が響いた。
便箋をグシャッと丸めながらテーブルに突っ伏す。泣きながら「お母さぁん」と叫んだ***の頭を、銀時がパシンッとはたいて「オメーは何回泣けば気が済むんだよ!」と怒鳴った。
———お母さん、大変なことになりました……私、銀ちゃんから貰った、とっても大切な指輪を、なくしちゃった……!!
涙まじりに書いた手紙を持って、***は銀時と共に万事屋を出る。久しぶりのデートなのに楽しい気分になれない。でも手紙を出さなければならないし、人を訪ねる予定もある。ひぃっく、としゃくりあげる***の手を引いて銀時は「んじゃ、このバカ連れてちょっくら行ってくる」と玄関の戸を閉めた。ふたりを見送った後、神楽と新八と定春は顔を突き合わせて、相談をはじめた。
「あのバカ天パは冷たいアル!自分の彼女があんなに泣いてるのに全然慰めてやらないなんて薄情ネ。あんな腑抜けが彼氏で、***はかわいそうヨ!」
「神楽ちゃん……実は僕も銀さんに指輪を探そうって言ったんだけど、なくしたモンは出てこねぇって取り合ってくれなくてさ。あ、そうだ!僕たちだけでも探そうよ。もしかしたら見つかるかもしれないし」
「ワンッ!!!」
定春の「そうしよう!」という鳴き声で一致団結した2人と1匹は、万事屋中の家具という家具をひっくり返して指輪を探しはじめた。だが結局は見つからずに数時間後、定春の嗅覚を頼りに街へ繰り出すことになる。
同じ頃、階下でお登勢が天井を見上げていた。ドタバタする音にキャサリンと共に首を傾げる。
また何かくだらないことでもやってるんだろう、とお登勢は呆れ顔で口を開いた。
「まったく銀時のバカは何してんだかね。どうせ暇なら***ちゃんの指輪探しを手伝えってんだ。あの子はこの一週間ずっと町中歩き回って探してるってのに……しょげてる***ちゃんが可哀想でアタシは見てらんないよ」
「オ登勢サン、指輪ッテ言ッテモ所詮ガラクタデスヨ。アホノ坂田ガソウ言ッテタジャナイデスカ」
そういう問題じゃないとお登勢は首を振った。
好きな男から貰った物はどんな物だって、女にとっては宝物だ。泣きはらした目で「指輪を知りませんか」と尋ねてまわる***が不憫で、娘を心配する母親のようにお登勢の胸は痛んだ。
開店まではまだ余裕がある。買い出しついでに大江戸スーパーまで歩いて探してみるか。そう言ってお登勢は嫌がるキャサリンとふたりで店を出た。
数時間後、やってきたスーパーが***のバイト先だと気づいたお登勢は更衣室にまで入っていき、店長やスタッフまで巻き込んで指輪探しをすることになる。
手紙を出す為に***と銀時が立ち寄ったポストには見知った姿があった。ストレートの長髪を緩く結った綺麗なホステスと、その隣にペンギンお化けが立っている。
振り向いたホステスと目が合った瞬間、嫌そうな顔をした銀時が「げっ」と言った。
「ヅラァ、てめぇ昼間っからこんなとこで何してやがる。しかもなんつー恰好してんだよ。公然わいせつ罪でケーサツ呼ぶぞ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ。今日は西郷殿の店で仕事でな。出勤ついでに‟かまっ娘倶楽部・特別ご招待券”の葉書を出してたとこだ……して***殿、浮かない顔だが、何かあったのか?」
「ヅラ子さん……あの、つかぬことを伺いますが、私の指輪を知りませんか?赤い石がついてるヤツで、あ、違う、えっと石は取れてるんですけど、そのっ……」
潤んだ目で指輪をなくしたと告げる***に、桂は腕を組んで神妙に頷いた。見つけるのは難しいと分かっていたが、目の前の***があまりにも悲痛な顔をするものだから、桂は「ならば俺も探そう」と口にしていた。銀時が「見つかるはずねぇって」と叫ぶのを無視してエリザベスと歩き出す。まん丸な瞳で桂をじっと見つめたエリザベスが、プラカードを出した。
『桂さん、***さんの指輪ってあのオモチャのヤツですよね?あんなに小さい物、見つからないんじゃ……』
「エリザベス、探す前からそう弱気になってはならん。武士はやると決めたらやるんだ」
そう答えながら桂は既に目を皿のようにして“指輪が道端に落ちているかもしれない歩行”になっていた。だが見つからないまま、かまっ娘倶楽部に辿りつく。
数時間後「***ちゃんの為ならひと肌脱ぐわよ」という西郷のひと声で、オカマ達総出で裏通りを探し始めることになる。
街を進む銀時と***に、声を掛けてきたのは長谷川さんだった。全身泥だらけで髪には蜘蛛の巣がついている。ポケットから出した物をジャラッと鳴らして、***の前に広げた。
「いやぁ、***ちゃん、俺も一生懸命探してみたけど、どうかな?こんなかに***ちゃんの指輪ないかな?」
「オイオイオイオイ、すげぇじゃねーか長谷川さん、これ探したんじゃなくて盗んだの間違いだろ?こんな大量の指輪どっからかっぱらってきたんだよ?」
「人聞き悪いこと言うなよ銀さ~ん。***ちゃんが指輪なくしたって言うから、なんか力になれねぇかってホームレス仲間誘ってゴミ捨て場やらドブやらを漁ったんだよ。そしたら出るわ出るわ、宝の山がわんさかと!これ全部本物だったら、売れば良い金になるぞ!!」
「いや、それ目的変わってんじゃねーか!!」
長谷川さんの手の中のアクセサリーを***はじっと眺めたが、しばらくして眉を下げると首を振った。
「長谷川さん……せっかく探してくれたのにごめんなさい。この中には、私の指輪は無いみたいです」
「そうか!それは残念だな!ま、でも気を落とすなよ***ちゃん!オジサンまた他の所も探してみるからさ!とりあえずこれは売っぱらってくらぁ!!」
そう言って走り出した長谷川さんの背中はやけに上機嫌だった。かたや***はしょんぼりと肩を落とす。それを見た銀時は頭をガリガリと掻いて、気だるげに「おら行くぞ」と呟くと***の手を握って歩きはじめた。
同じ頃、お妙はプロポーズを受けていた。
ストーカーこと近藤は志村家の庭先で「お妙さぁん!俺と結婚してくださぁぁぁい!」と叫んだ。顔面にお妙の鉄拳がさく裂して、その手から大きなダイヤモンドのついた婚約指輪が飛ぶ。お妙はそれを拾って握りつぶしながら「はぁ」とため息をついた。悩ましげな表情のお妙に、立ち上がった近藤はハッとして尋ねた。
「お妙さん、なぜそんなにも悲しげな表情を!?もしかして俺からの愛に応えるのが、幸せすぎて怖いとグギガアアア!!!」
「そんなわけねーだろゴリラ!人間とゴリラは結婚しねぇんだよ!こんな指輪よか、もぉ~と大事な指輪を私は探してんだっつーの!!!」
オラオラと殴りながら、お妙は***が指輪を探していることを告げた。ボコボコにされた近藤がゴロンッと転がる。その瞬間お妙はひらめいて、指をバキバキ鳴らしながらにっこり笑った。
「オイ、ゴリラ、***さんの指輪探してこいよ。捜索範囲はかぶき町全域な」
「えっ、お妙さん、いくらなんでもそれは難しいんじゃないかな。さすがの勲もひとりで街ぜんぶ探すってのはちょっと……」
「あぁ!?誰がひとりでっつった?お前には真選組とかいう部下がいんだろーが。そいつらに探させろよ。さっさと見つけねーとまたタコ殴りにすんぞゴリラ」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」
真っ青な近藤を見て満足げに笑ったお妙は、自分も仕事前に探してみようと考えていた。数時間後、スナックスマイルのキャバ嬢総出で、かぶき町のクラブ通りを探し回ることになる。
真選組屯所の応接用のだだっ広い和室、その中央の大きな机の前で、銀時はだらしなくあぐらをかいていた。
隣でちょこんと正座する***は、薄い浅葱色の着物に身を包んでいる。さわやかな空色の和服は贈り物で、***によく似合っていた。だからこそ銀時は苦々しい顔でそれを見ていた。
「っつーかさぁ、別に着物の礼なんてしなくてよくねぇ?アイツらが勝手に贈りつけてきたんだろ?着てやってるだけで十分だっつーのぉ~」
「そんなわけないじゃないですか銀ちゃん!真選組はうちの農園のお得意様だし、この着物だけじゃなくて他にも色々と迷惑かけてるし……ちゃんと礼を尽くさなきゃダメなんです」
「はぁ?迷惑だぁ!?んなモン、かけられた覚えはあってもかけた覚えはねーよ!アイツらに迷惑かけるくれぇなら、定春のションベンかけてやるっつーの!!あんな野暮くせぇ虫けら共なんかに礼を尽くしてねーで、***は銀さんに生涯尽くせよなァァァ!!!」
「野暮くせぇ虫けらで悪かったな、万事屋ァ」
突然、襖が開いて入ってきた土方が、銀時をギロッと睨んだ。続けて沖田と山崎が入ってくる。銀時は土方を睨み返しながら、悪い虫がぞろぞろ湧いてきやがったと眉をしかめた。
隣の***はそれに気づかず、菓子折りを差し出していた。受け取った沖田が風呂敷を解くと「なんでィ、まーた羊羹かよ。相変わらず***はババァみてぇな趣味してやがら」と言って、土方にゲンコツを食らった。それを見た***と山崎は目を合わせてくすくすと笑った。
その一連の流れに驚いた銀時は心の中で叫んだ。
———オイィィィィ、ちょっと待てぇぇぇぇ!なに!?なんなのコイツら!?なにこのホームドラマっぽい和気あいあいとした雰囲気ィ!?っつーか、***ってここに来たことあんの!?お得意様ってどーゆーお得意様ァァァ!?いや銀さん知らないから!!そんなん聞いてねぇからァァァ!!!
頬杖をついて何気ない風を装いつつも、銀時のおでこからはあぶら汗がダラダラと垂れていた。そんなことは露知らず、***は土方にぺこりと頭を下げた。胸元から一通の手紙を取り出すと震える手で渡す。
「土方さん、素敵なお着物をありがとうございました。実は、ぉ、お礼状も書きましたので、そのっ……お納めください」
「いや、***、その着物は詫びの品だから礼なんざいらねぇよ。気を使わせて悪かったな」
いえいえそんな、と***は両手を振った。土方は受け取った手紙に目を通す。“拝啓、土方様”から始まる文章は拙い。だが懸命に書いたのが分かって微笑ましい。フッと土方が笑うと***はおずおず口を開いた。
「ひ、土方さんっ、いかんせん私は学がないので、その程度の文しか読めません。こ、こないだのお手紙はとても嬉しかったのですが、その、私には難しくって……もしまたお手紙を書いて下さる時には子供でも分かるよう書いて頂けたら、た、助かります」
だんだんと声がすぼまり小さくなる姿を見て、土方は自分の書いた堅苦しい手紙を思い出した。***は土方に失礼がないよう「もっと簡単な手紙を」と頼んでいた。
上質だが飾らない着物も稚拙だがあたたかい手紙も、謙虚な***によく似合っていた。
「あぁ、悪かったな、次は気を付ける」
得意げな気持ちでそう答えると、***はホッと息をついて「ありがとうございます」と微笑んだ。
切り分けた羊羹に茶を添えて運んできた山崎が、さりげなく***に声をかけた。
「そうだ***ちゃん、指輪は見つかった?」
「山崎さん、あの、まだ見つからなくて……」
しゅんとした***に山崎も肩を落とした。スーパーのレジで元気のなかった***から事情を聞いて、山崎も街中を探したのだ。だが見つからないままもうすぐ張り込みの任務に就く。「力になれなくて残念だよ」と言った山崎に、***は慌てて首を振った。
「山崎さんは力になってくれましたよ!落ち込んでた私に声をかけて励ましてくれたじゃないですか……あ、そうか、今度は私が山崎さんを励ます番ですね。張り込み頑張って下さい。明日にでもあんぱんとうちの牛乳を届けますから!」
「***ちゃん……ありがとう、嬉しいよ!」
似た者同士の地味な顔で、山崎と***は笑い合った。あんぱんと牛乳を***に届けてもらえたら張り込みも頑張れる。次の任務はうまく行くぞ、と山崎は浮かれた。
羊羹をむしゃむしゃと食べながら沖田が、***に向かって投げやりに言った。
「そういや***、こないだアンタが助けようとしてた女だが、意識が戻ったって連絡があった。アンタに礼がしてぇって病院でわめいてるってよ」
それは沖田と***にしか分からない話だった。あの事件に関わったのは真選組一番隊のわずかな隊士だけで、被害者リストから***の名前は抹消されたから。
「総悟、それなんの話だ」と訝しむ土方を無視して、沖田は***を病院に連れて行ってやると約束した。
「総悟くん、ありがとう。あの時も総悟くんが救護を呼んでくれたから、あの子は助かったの。私からもお礼を言います」
「アンタ馬鹿か、礼を言われんのは俺じゃなくて***だろぃ。そんなんじゃ謝礼金もふんだくれねぇぞ。これだからお人よしの***ねえちゃんは目が離せねぇや」
謝礼金なんて、と困り顔で笑った***に沖田はピシッとデコピンを食らわせた。病院に連れてく代わりに団子を奢ってくれ、と言う声は姉に甘える弟そのものだった。
ブチッッッッッ!!!!!
いきなり部屋に大きな音が響いた。音の出どころは***のすぐ隣で、同時に大きな手が細い手首をガシッとつかんだ。ぐいっと引き寄せられて「あっ」と正座の崩れた***が銀時に寄りかかる。あぐらをかく脚が激しい貧乏ゆすりをしていた。伏せた顔の表情は見えないが、銀時の手は尋常じゃないほど汗ばんで、手の甲から腕にかけて血管が浮き上がっている。
大きな音は銀時の怒りが、沸点を超えた音だった。
「え、ぎ、銀ちゃん?」
「てめぇらァァァ!!!人が黙って聞いてりゃいい気になって、ぺらぺらぺらぺら、変なことばっかぬかしやがってェェェ!!!」
「な、何言って、っ、うわぁぁあ!?」
地の底から響くような声と共に銀時が顔を上げると、その目は血走ってひどくイラ立っていた。息を飲んだ***の腰に銀時の腕が巻きつき、そのまま立ち上がる。人質を取るように***を背後から羽交い絞めにすると、他の3人に向かって大声で叫んだ。
「虫けら共が揃いも揃って、ギャーギャーギャーギャー騒いでんじゃねーよコノヤロォォォ!いいかお前らァ、耳の穴かっぽじってよ~く聞きやがれ。のんきな***がふにゃふにゃ笑うせーでテメェらは友達だって勘違いしてっけど、コイツは俺の女なんで!俺と付き合ってるんでぇ!他の野郎にどんなに優しくしたとこで、***は銀さんにぞっこんなんでぇぇぇ!!!特にひぃ~じか~たく~ん、手紙貰ってニヤついてたけど次は無ぇから。次っつーか金輪際ないからぁ!拝啓なんちゃらって堅ぇ文しか書けねぇよーじゃモテねぇだろーが、お情けでも俺の***と文通なんざさせねぇよ。それと総一郎く~ん、前から言ってるけど無邪気なフリして***に言い寄んの、いい加減やめてくれるぅ!?コイツはお前と団子食わねぇから、そんな時間あったら大好きな銀さんとパフェ食うからぁ!あとジミーは張り込みお疲れ様で~す!そのまま一生張り込んでてくださぁ~い!そんで二度と***の前に現れないで下さい、お願いします!!だいたいお前ら警察が、こんな小娘ひとりに捕まってて情けなくねぇのかよ。もっと他に捕まえなきゃなんねぇモンがあんだろ。さっき道端で指名手配のテロリストっぽいヤツ見たぞ。君たち一体何してんの?この税金泥棒がよォォォォ!!!」
なんだと!?と怒った土方を、山崎が必死で止めた。ゼーハーと息を切らせた銀時を肩越しに振り返った***が、ほほをほんのり赤くして困惑しながら言った。
「ぎ、銀ちゃん、なんでそんなに怒ってるんですか?」
眉を八の字に下げて困り切った顔を見て、銀時はある事を思い出す。そうだ!そういや***は俺のモンだという確固たる証拠があんじゃねーか!
そう思うや否や腕の中の小さな身体をくるんっとひっくり返した。「わわっ!?」と驚く***の髪を片手でかき上げる。もう一方の手で水色の着物の襟首を掴んで、ぐいっと下げると白いうなじが露わになった。
顔を硬い胸に押し付けられた***は「んぶっ!?」と苦しそうにうめいた。それにも構わず銀時は、ずいっと身を押し出して土方と沖田と山崎の目の前に、***のうなじをさらした。
「オラァァァ!コイツのココをしっかり見やがれ!コレが証拠だから!***は俺のモンって揺るぎねぇ印だから!分かったかっつーのォォォ!!!」
「「「なっ……!!?」」」
3人が息を飲んで見つめた***の首筋には、赤い鬱血痕がくっきりとついていた。そんな場所にそんな痕を残すような行為を、自分たちは経験済だと知らしめた銀時は、ふふんと得意げな顔になる。
知らないうちに残されたキスマークだから***は「なに!?銀ちゃんっ、そこに何があるんですか!?」とワケが分からない。ただ腕の中でじたばたしていた。そのまま銀時は後ずさり、***を引きずって和室から庭へ下りた。そして屯所の出口の方へと去っていった。
「お、沖田隊長、副長が白目剥いてんですけど」
「ザキ、こりゃ死んでやがる。淋しくなるが副長の座は俺が守るよ。だから安心して逝きなせぇ、土方さん」
「いや土方さん死んでないけどォォォ!」
清らかな***にキスマークは似合わない。お兄ちゃんこと土方は驚愕のあまり一瞬意識が飛んだ。正気を取り戻した土方は煙草を大量に吸って、山崎は寂しげに苦笑いし、沖田はつまらなそうな顔をした。
その時、土方の胸ポケットで携帯が鳴った。
『トシィィィ!助けてェェェ!!!』
「なっ、近藤さん!?一体なにがあった!?」
『頼むトシ!勲の一生のお願い!***ちゃんの指輪、探すの手伝ってくれぇぇぇ!!!』
「「「…………は?」」」
携帯から漏れた近藤の叫び声に、沖田と山崎も目を丸くした。事情を聞いた土方は、いくら局長の頼みでもダメだと断った。あの憎き天パ白髪が***にあげた指輪なんざゴミだと吐き捨てようとしたのを、近藤の涙ながらの声が遮った。
『お妙さんが言うには、万事屋のあげた指輪は祭りで買った安物なんだ。それでも***ちゃんは喜んで、後生大事にしてたらしい。好きな人から貰ったものはどんなものでも宝物だって……なぁ、トシってそーゆー感動系、弱くなかったっけ?』
「ぐっ……こ、近藤さん、アンタ何言ってんだ」
確かに感動系には弱い。あの一途で純情な***のことだから、そりゃぁ指輪を大切にしてたろう。見つかればいいとは思う。歯を食いしばって「公私混同はいかん」と答えようとした土方に山崎が言った。
「副長、俺からもお願いします。***ちゃん、さっきは笑ってましたが本当は毎日泣いてんです。目ぇ真っ赤にしてスーパーでレジ打って、その後で町中歩いて、内偵のプロの俺より聞き込みしてんです。このままほっとくなんてかわいそうすぎます」
「山崎の分際で俺に指図するたぁ、」
いい度胸じゃねーか、という言葉を土方は飲み込んだ。銀時のあげた指輪というのは苦々しいが、悲しむ***の為には何かしてやりたい。耳に当てた携帯の向こうで『トシ、頼むよ』と近藤が言った。チッと舌打ちした土方は沖田に尋ねた。
「総悟、さっきの話くわしく聞かせろ。***が女を助けたとかなんとか言ってただろ」
「めんどくせーからイヤでィ。いっぺん死ねよ土方ァ」
「よぉ~し言わねぇなら山崎共々、切腹させたらァ」
「えっ!?なんで俺もなんですか副長ォォォ!!!」
言い合いのすえ沖田は先日の事件を土方に伝えた。***が危険な目にあっていたことに土方は怒り、山崎は狼狽した。だが全てはもう済んだことで、なくした指輪を見つけてやるくらいしか自分たちに出来ることはない。
腹をくくった鬼の副長の声が、屯所中に響き渡った。
「総員に告ぐ!!!かぶき町へ出動だァァァ!!!」
パトカーが幾台も出て、隊士たちが町中で指輪を探しはじめた。数時間後、土方と沖田と山崎は、例の事件現場であるつぶれたキャバクラ店で近藤と合流する。
そして4人で真っ暗な廃墟の中を這いずり回って指輪を探すことになる。
「ね、ねぇっ、銀ちゃん!私の首に何があるの!?揺るぎない証拠ってなんですか!?」
「あ゛あ゛あ゛っ!?うるっせーな、別にあんだっていーだろーが!!そんなことよか、***は銀さんとのデートの続きにもっと集中しろっつーのォォォ!!!」
「えぇぇぇぇ!?」
銀時の小脇に抱えられて引きずられながら、***は泣きそうな声を上げた。ブーツの足は止まらずに屯所からずんずん離れていく。小さな手で押さえた自分の首筋に一体何があるのか、***には見当もつかなかった。
多くの人が指輪を探しているなんて、銀時も***も知る由もない。そして指輪を探している多くの人もまた、この街のどこにも指輪がないなんて知る由もなかった。
銀時と***の楽しいデートは、まだまだこれから。
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【(41)まずい展開】end
たとえどんなゴミだってガラクタだって
‟拝啓、お母さん
お元気ですか。私はとても元気です。お仕事も順調だし、銀ちゃんや皆とも楽しくなかよく過ごしています。たまに大変なこともあるけれど……”
「大変な、ことも、あるけれど……た、大変、な、ぅ、う、うわぁあああん!!!」
万事屋に***の声が響いた。
便箋をグシャッと丸めながらテーブルに突っ伏す。泣きながら「お母さぁん」と叫んだ***の頭を、銀時がパシンッとはたいて「オメーは何回泣けば気が済むんだよ!」と怒鳴った。
———お母さん、大変なことになりました……私、銀ちゃんから貰った、とっても大切な指輪を、なくしちゃった……!!
涙まじりに書いた手紙を持って、***は銀時と共に万事屋を出る。久しぶりのデートなのに楽しい気分になれない。でも手紙を出さなければならないし、人を訪ねる予定もある。ひぃっく、としゃくりあげる***の手を引いて銀時は「んじゃ、このバカ連れてちょっくら行ってくる」と玄関の戸を閉めた。ふたりを見送った後、神楽と新八と定春は顔を突き合わせて、相談をはじめた。
「あのバカ天パは冷たいアル!自分の彼女があんなに泣いてるのに全然慰めてやらないなんて薄情ネ。あんな腑抜けが彼氏で、***はかわいそうヨ!」
「神楽ちゃん……実は僕も銀さんに指輪を探そうって言ったんだけど、なくしたモンは出てこねぇって取り合ってくれなくてさ。あ、そうだ!僕たちだけでも探そうよ。もしかしたら見つかるかもしれないし」
「ワンッ!!!」
定春の「そうしよう!」という鳴き声で一致団結した2人と1匹は、万事屋中の家具という家具をひっくり返して指輪を探しはじめた。だが結局は見つからずに数時間後、定春の嗅覚を頼りに街へ繰り出すことになる。
同じ頃、階下でお登勢が天井を見上げていた。ドタバタする音にキャサリンと共に首を傾げる。
また何かくだらないことでもやってるんだろう、とお登勢は呆れ顔で口を開いた。
「まったく銀時のバカは何してんだかね。どうせ暇なら***ちゃんの指輪探しを手伝えってんだ。あの子はこの一週間ずっと町中歩き回って探してるってのに……しょげてる***ちゃんが可哀想でアタシは見てらんないよ」
「オ登勢サン、指輪ッテ言ッテモ所詮ガラクタデスヨ。アホノ坂田ガソウ言ッテタジャナイデスカ」
そういう問題じゃないとお登勢は首を振った。
好きな男から貰った物はどんな物だって、女にとっては宝物だ。泣きはらした目で「指輪を知りませんか」と尋ねてまわる***が不憫で、娘を心配する母親のようにお登勢の胸は痛んだ。
開店まではまだ余裕がある。買い出しついでに大江戸スーパーまで歩いて探してみるか。そう言ってお登勢は嫌がるキャサリンとふたりで店を出た。
数時間後、やってきたスーパーが***のバイト先だと気づいたお登勢は更衣室にまで入っていき、店長やスタッフまで巻き込んで指輪探しをすることになる。
手紙を出す為に***と銀時が立ち寄ったポストには見知った姿があった。ストレートの長髪を緩く結った綺麗なホステスと、その隣にペンギンお化けが立っている。
振り向いたホステスと目が合った瞬間、嫌そうな顔をした銀時が「げっ」と言った。
「ヅラァ、てめぇ昼間っからこんなとこで何してやがる。しかもなんつー恰好してんだよ。公然わいせつ罪でケーサツ呼ぶぞ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ。今日は西郷殿の店で仕事でな。出勤ついでに‟かまっ娘倶楽部・特別ご招待券”の葉書を出してたとこだ……して***殿、浮かない顔だが、何かあったのか?」
「ヅラ子さん……あの、つかぬことを伺いますが、私の指輪を知りませんか?赤い石がついてるヤツで、あ、違う、えっと石は取れてるんですけど、そのっ……」
潤んだ目で指輪をなくしたと告げる***に、桂は腕を組んで神妙に頷いた。見つけるのは難しいと分かっていたが、目の前の***があまりにも悲痛な顔をするものだから、桂は「ならば俺も探そう」と口にしていた。銀時が「見つかるはずねぇって」と叫ぶのを無視してエリザベスと歩き出す。まん丸な瞳で桂をじっと見つめたエリザベスが、プラカードを出した。
『桂さん、***さんの指輪ってあのオモチャのヤツですよね?あんなに小さい物、見つからないんじゃ……』
「エリザベス、探す前からそう弱気になってはならん。武士はやると決めたらやるんだ」
そう答えながら桂は既に目を皿のようにして“指輪が道端に落ちているかもしれない歩行”になっていた。だが見つからないまま、かまっ娘倶楽部に辿りつく。
数時間後「***ちゃんの為ならひと肌脱ぐわよ」という西郷のひと声で、オカマ達総出で裏通りを探し始めることになる。
街を進む銀時と***に、声を掛けてきたのは長谷川さんだった。全身泥だらけで髪には蜘蛛の巣がついている。ポケットから出した物をジャラッと鳴らして、***の前に広げた。
「いやぁ、***ちゃん、俺も一生懸命探してみたけど、どうかな?こんなかに***ちゃんの指輪ないかな?」
「オイオイオイオイ、すげぇじゃねーか長谷川さん、これ探したんじゃなくて盗んだの間違いだろ?こんな大量の指輪どっからかっぱらってきたんだよ?」
「人聞き悪いこと言うなよ銀さ~ん。***ちゃんが指輪なくしたって言うから、なんか力になれねぇかってホームレス仲間誘ってゴミ捨て場やらドブやらを漁ったんだよ。そしたら出るわ出るわ、宝の山がわんさかと!これ全部本物だったら、売れば良い金になるぞ!!」
「いや、それ目的変わってんじゃねーか!!」
長谷川さんの手の中のアクセサリーを***はじっと眺めたが、しばらくして眉を下げると首を振った。
「長谷川さん……せっかく探してくれたのにごめんなさい。この中には、私の指輪は無いみたいです」
「そうか!それは残念だな!ま、でも気を落とすなよ***ちゃん!オジサンまた他の所も探してみるからさ!とりあえずこれは売っぱらってくらぁ!!」
そう言って走り出した長谷川さんの背中はやけに上機嫌だった。かたや***はしょんぼりと肩を落とす。それを見た銀時は頭をガリガリと掻いて、気だるげに「おら行くぞ」と呟くと***の手を握って歩きはじめた。
同じ頃、お妙はプロポーズを受けていた。
ストーカーこと近藤は志村家の庭先で「お妙さぁん!俺と結婚してくださぁぁぁい!」と叫んだ。顔面にお妙の鉄拳がさく裂して、その手から大きなダイヤモンドのついた婚約指輪が飛ぶ。お妙はそれを拾って握りつぶしながら「はぁ」とため息をついた。悩ましげな表情のお妙に、立ち上がった近藤はハッとして尋ねた。
「お妙さん、なぜそんなにも悲しげな表情を!?もしかして俺からの愛に応えるのが、幸せすぎて怖いとグギガアアア!!!」
「そんなわけねーだろゴリラ!人間とゴリラは結婚しねぇんだよ!こんな指輪よか、もぉ~と大事な指輪を私は探してんだっつーの!!!」
オラオラと殴りながら、お妙は***が指輪を探していることを告げた。ボコボコにされた近藤がゴロンッと転がる。その瞬間お妙はひらめいて、指をバキバキ鳴らしながらにっこり笑った。
「オイ、ゴリラ、***さんの指輪探してこいよ。捜索範囲はかぶき町全域な」
「えっ、お妙さん、いくらなんでもそれは難しいんじゃないかな。さすがの勲もひとりで街ぜんぶ探すってのはちょっと……」
「あぁ!?誰がひとりでっつった?お前には真選組とかいう部下がいんだろーが。そいつらに探させろよ。さっさと見つけねーとまたタコ殴りにすんぞゴリラ」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!」
真っ青な近藤を見て満足げに笑ったお妙は、自分も仕事前に探してみようと考えていた。数時間後、スナックスマイルのキャバ嬢総出で、かぶき町のクラブ通りを探し回ることになる。
真選組屯所の応接用のだだっ広い和室、その中央の大きな机の前で、銀時はだらしなくあぐらをかいていた。
隣でちょこんと正座する***は、薄い浅葱色の着物に身を包んでいる。さわやかな空色の和服は贈り物で、***によく似合っていた。だからこそ銀時は苦々しい顔でそれを見ていた。
「っつーかさぁ、別に着物の礼なんてしなくてよくねぇ?アイツらが勝手に贈りつけてきたんだろ?着てやってるだけで十分だっつーのぉ~」
「そんなわけないじゃないですか銀ちゃん!真選組はうちの農園のお得意様だし、この着物だけじゃなくて他にも色々と迷惑かけてるし……ちゃんと礼を尽くさなきゃダメなんです」
「はぁ?迷惑だぁ!?んなモン、かけられた覚えはあってもかけた覚えはねーよ!アイツらに迷惑かけるくれぇなら、定春のションベンかけてやるっつーの!!あんな野暮くせぇ虫けら共なんかに礼を尽くしてねーで、***は銀さんに生涯尽くせよなァァァ!!!」
「野暮くせぇ虫けらで悪かったな、万事屋ァ」
突然、襖が開いて入ってきた土方が、銀時をギロッと睨んだ。続けて沖田と山崎が入ってくる。銀時は土方を睨み返しながら、悪い虫がぞろぞろ湧いてきやがったと眉をしかめた。
隣の***はそれに気づかず、菓子折りを差し出していた。受け取った沖田が風呂敷を解くと「なんでィ、まーた羊羹かよ。相変わらず***はババァみてぇな趣味してやがら」と言って、土方にゲンコツを食らった。それを見た***と山崎は目を合わせてくすくすと笑った。
その一連の流れに驚いた銀時は心の中で叫んだ。
———オイィィィィ、ちょっと待てぇぇぇぇ!なに!?なんなのコイツら!?なにこのホームドラマっぽい和気あいあいとした雰囲気ィ!?っつーか、***ってここに来たことあんの!?お得意様ってどーゆーお得意様ァァァ!?いや銀さん知らないから!!そんなん聞いてねぇからァァァ!!!
頬杖をついて何気ない風を装いつつも、銀時のおでこからはあぶら汗がダラダラと垂れていた。そんなことは露知らず、***は土方にぺこりと頭を下げた。胸元から一通の手紙を取り出すと震える手で渡す。
「土方さん、素敵なお着物をありがとうございました。実は、ぉ、お礼状も書きましたので、そのっ……お納めください」
「いや、***、その着物は詫びの品だから礼なんざいらねぇよ。気を使わせて悪かったな」
いえいえそんな、と***は両手を振った。土方は受け取った手紙に目を通す。“拝啓、土方様”から始まる文章は拙い。だが懸命に書いたのが分かって微笑ましい。フッと土方が笑うと***はおずおず口を開いた。
「ひ、土方さんっ、いかんせん私は学がないので、その程度の文しか読めません。こ、こないだのお手紙はとても嬉しかったのですが、その、私には難しくって……もしまたお手紙を書いて下さる時には子供でも分かるよう書いて頂けたら、た、助かります」
だんだんと声がすぼまり小さくなる姿を見て、土方は自分の書いた堅苦しい手紙を思い出した。***は土方に失礼がないよう「もっと簡単な手紙を」と頼んでいた。
上質だが飾らない着物も稚拙だがあたたかい手紙も、謙虚な***によく似合っていた。
「あぁ、悪かったな、次は気を付ける」
得意げな気持ちでそう答えると、***はホッと息をついて「ありがとうございます」と微笑んだ。
切り分けた羊羹に茶を添えて運んできた山崎が、さりげなく***に声をかけた。
「そうだ***ちゃん、指輪は見つかった?」
「山崎さん、あの、まだ見つからなくて……」
しゅんとした***に山崎も肩を落とした。スーパーのレジで元気のなかった***から事情を聞いて、山崎も街中を探したのだ。だが見つからないままもうすぐ張り込みの任務に就く。「力になれなくて残念だよ」と言った山崎に、***は慌てて首を振った。
「山崎さんは力になってくれましたよ!落ち込んでた私に声をかけて励ましてくれたじゃないですか……あ、そうか、今度は私が山崎さんを励ます番ですね。張り込み頑張って下さい。明日にでもあんぱんとうちの牛乳を届けますから!」
「***ちゃん……ありがとう、嬉しいよ!」
似た者同士の地味な顔で、山崎と***は笑い合った。あんぱんと牛乳を***に届けてもらえたら張り込みも頑張れる。次の任務はうまく行くぞ、と山崎は浮かれた。
羊羹をむしゃむしゃと食べながら沖田が、***に向かって投げやりに言った。
「そういや***、こないだアンタが助けようとしてた女だが、意識が戻ったって連絡があった。アンタに礼がしてぇって病院でわめいてるってよ」
それは沖田と***にしか分からない話だった。あの事件に関わったのは真選組一番隊のわずかな隊士だけで、被害者リストから***の名前は抹消されたから。
「総悟、それなんの話だ」と訝しむ土方を無視して、沖田は***を病院に連れて行ってやると約束した。
「総悟くん、ありがとう。あの時も総悟くんが救護を呼んでくれたから、あの子は助かったの。私からもお礼を言います」
「アンタ馬鹿か、礼を言われんのは俺じゃなくて***だろぃ。そんなんじゃ謝礼金もふんだくれねぇぞ。これだからお人よしの***ねえちゃんは目が離せねぇや」
謝礼金なんて、と困り顔で笑った***に沖田はピシッとデコピンを食らわせた。病院に連れてく代わりに団子を奢ってくれ、と言う声は姉に甘える弟そのものだった。
ブチッッッッッ!!!!!
いきなり部屋に大きな音が響いた。音の出どころは***のすぐ隣で、同時に大きな手が細い手首をガシッとつかんだ。ぐいっと引き寄せられて「あっ」と正座の崩れた***が銀時に寄りかかる。あぐらをかく脚が激しい貧乏ゆすりをしていた。伏せた顔の表情は見えないが、銀時の手は尋常じゃないほど汗ばんで、手の甲から腕にかけて血管が浮き上がっている。
大きな音は銀時の怒りが、沸点を超えた音だった。
「え、ぎ、銀ちゃん?」
「てめぇらァァァ!!!人が黙って聞いてりゃいい気になって、ぺらぺらぺらぺら、変なことばっかぬかしやがってェェェ!!!」
「な、何言って、っ、うわぁぁあ!?」
地の底から響くような声と共に銀時が顔を上げると、その目は血走ってひどくイラ立っていた。息を飲んだ***の腰に銀時の腕が巻きつき、そのまま立ち上がる。人質を取るように***を背後から羽交い絞めにすると、他の3人に向かって大声で叫んだ。
「虫けら共が揃いも揃って、ギャーギャーギャーギャー騒いでんじゃねーよコノヤロォォォ!いいかお前らァ、耳の穴かっぽじってよ~く聞きやがれ。のんきな***がふにゃふにゃ笑うせーでテメェらは友達だって勘違いしてっけど、コイツは俺の女なんで!俺と付き合ってるんでぇ!他の野郎にどんなに優しくしたとこで、***は銀さんにぞっこんなんでぇぇぇ!!!特にひぃ~じか~たく~ん、手紙貰ってニヤついてたけど次は無ぇから。次っつーか金輪際ないからぁ!拝啓なんちゃらって堅ぇ文しか書けねぇよーじゃモテねぇだろーが、お情けでも俺の***と文通なんざさせねぇよ。それと総一郎く~ん、前から言ってるけど無邪気なフリして***に言い寄んの、いい加減やめてくれるぅ!?コイツはお前と団子食わねぇから、そんな時間あったら大好きな銀さんとパフェ食うからぁ!あとジミーは張り込みお疲れ様で~す!そのまま一生張り込んでてくださぁ~い!そんで二度と***の前に現れないで下さい、お願いします!!だいたいお前ら警察が、こんな小娘ひとりに捕まってて情けなくねぇのかよ。もっと他に捕まえなきゃなんねぇモンがあんだろ。さっき道端で指名手配のテロリストっぽいヤツ見たぞ。君たち一体何してんの?この税金泥棒がよォォォォ!!!」
なんだと!?と怒った土方を、山崎が必死で止めた。ゼーハーと息を切らせた銀時を肩越しに振り返った***が、ほほをほんのり赤くして困惑しながら言った。
「ぎ、銀ちゃん、なんでそんなに怒ってるんですか?」
眉を八の字に下げて困り切った顔を見て、銀時はある事を思い出す。そうだ!そういや***は俺のモンだという確固たる証拠があんじゃねーか!
そう思うや否や腕の中の小さな身体をくるんっとひっくり返した。「わわっ!?」と驚く***の髪を片手でかき上げる。もう一方の手で水色の着物の襟首を掴んで、ぐいっと下げると白いうなじが露わになった。
顔を硬い胸に押し付けられた***は「んぶっ!?」と苦しそうにうめいた。それにも構わず銀時は、ずいっと身を押し出して土方と沖田と山崎の目の前に、***のうなじをさらした。
「オラァァァ!コイツのココをしっかり見やがれ!コレが証拠だから!***は俺のモンって揺るぎねぇ印だから!分かったかっつーのォォォ!!!」
「「「なっ……!!?」」」
3人が息を飲んで見つめた***の首筋には、赤い鬱血痕がくっきりとついていた。そんな場所にそんな痕を残すような行為を、自分たちは経験済だと知らしめた銀時は、ふふんと得意げな顔になる。
知らないうちに残されたキスマークだから***は「なに!?銀ちゃんっ、そこに何があるんですか!?」とワケが分からない。ただ腕の中でじたばたしていた。そのまま銀時は後ずさり、***を引きずって和室から庭へ下りた。そして屯所の出口の方へと去っていった。
「お、沖田隊長、副長が白目剥いてんですけど」
「ザキ、こりゃ死んでやがる。淋しくなるが副長の座は俺が守るよ。だから安心して逝きなせぇ、土方さん」
「いや土方さん死んでないけどォォォ!」
清らかな***にキスマークは似合わない。お兄ちゃんこと土方は驚愕のあまり一瞬意識が飛んだ。正気を取り戻した土方は煙草を大量に吸って、山崎は寂しげに苦笑いし、沖田はつまらなそうな顔をした。
その時、土方の胸ポケットで携帯が鳴った。
『トシィィィ!助けてェェェ!!!』
「なっ、近藤さん!?一体なにがあった!?」
『頼むトシ!勲の一生のお願い!***ちゃんの指輪、探すの手伝ってくれぇぇぇ!!!』
「「「…………は?」」」
携帯から漏れた近藤の叫び声に、沖田と山崎も目を丸くした。事情を聞いた土方は、いくら局長の頼みでもダメだと断った。あの憎き天パ白髪が***にあげた指輪なんざゴミだと吐き捨てようとしたのを、近藤の涙ながらの声が遮った。
『お妙さんが言うには、万事屋のあげた指輪は祭りで買った安物なんだ。それでも***ちゃんは喜んで、後生大事にしてたらしい。好きな人から貰ったものはどんなものでも宝物だって……なぁ、トシってそーゆー感動系、弱くなかったっけ?』
「ぐっ……こ、近藤さん、アンタ何言ってんだ」
確かに感動系には弱い。あの一途で純情な***のことだから、そりゃぁ指輪を大切にしてたろう。見つかればいいとは思う。歯を食いしばって「公私混同はいかん」と答えようとした土方に山崎が言った。
「副長、俺からもお願いします。***ちゃん、さっきは笑ってましたが本当は毎日泣いてんです。目ぇ真っ赤にしてスーパーでレジ打って、その後で町中歩いて、内偵のプロの俺より聞き込みしてんです。このままほっとくなんてかわいそうすぎます」
「山崎の分際で俺に指図するたぁ、」
いい度胸じゃねーか、という言葉を土方は飲み込んだ。銀時のあげた指輪というのは苦々しいが、悲しむ***の為には何かしてやりたい。耳に当てた携帯の向こうで『トシ、頼むよ』と近藤が言った。チッと舌打ちした土方は沖田に尋ねた。
「総悟、さっきの話くわしく聞かせろ。***が女を助けたとかなんとか言ってただろ」
「めんどくせーからイヤでィ。いっぺん死ねよ土方ァ」
「よぉ~し言わねぇなら山崎共々、切腹させたらァ」
「えっ!?なんで俺もなんですか副長ォォォ!!!」
言い合いのすえ沖田は先日の事件を土方に伝えた。***が危険な目にあっていたことに土方は怒り、山崎は狼狽した。だが全てはもう済んだことで、なくした指輪を見つけてやるくらいしか自分たちに出来ることはない。
腹をくくった鬼の副長の声が、屯所中に響き渡った。
「総員に告ぐ!!!かぶき町へ出動だァァァ!!!」
パトカーが幾台も出て、隊士たちが町中で指輪を探しはじめた。数時間後、土方と沖田と山崎は、例の事件現場であるつぶれたキャバクラ店で近藤と合流する。
そして4人で真っ暗な廃墟の中を這いずり回って指輪を探すことになる。
「ね、ねぇっ、銀ちゃん!私の首に何があるの!?揺るぎない証拠ってなんですか!?」
「あ゛あ゛あ゛っ!?うるっせーな、別にあんだっていーだろーが!!そんなことよか、***は銀さんとのデートの続きにもっと集中しろっつーのォォォ!!!」
「えぇぇぇぇ!?」
銀時の小脇に抱えられて引きずられながら、***は泣きそうな声を上げた。ブーツの足は止まらずに屯所からずんずん離れていく。小さな手で押さえた自分の首筋に一体何があるのか、***には見当もつかなかった。
多くの人が指輪を探しているなんて、銀時も***も知る由もない。そして指輪を探している多くの人もまた、この街のどこにも指輪がないなんて知る由もなかった。
銀時と***の楽しいデートは、まだまだこれから。
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【(41)まずい展開】end
たとえどんなゴミだってガラクタだって