銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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※※※大人向け/注意※※※
☆全篇テーマは一貫して下ネタです
☆ぬるい性的描写があります、苦手な方はご遠慮下さい
☆話中の性行為に関する全ての事項を、筆者は推奨しません
※“Room No.1010”(+α)という名の蛇足です
※無駄に長くて不必要な補足です、読まなくても問題ないです
【(**)くるおしさ】
今朝の配達に***は行けない。銀時がそう告げると、牛乳屋の主人は電話口で「えっ」と驚いていた。
早朝4時半、いつもなら働いているはずの***はまだ夢の中にいる。神楽と***が銭湯へ行ったのが昨日の夕方、つぶれたキャバクラ店へ誘拐されたのが夜8時頃、救い出してホテルに着いたのはたぶん11時近かった。
その時点で***は疲れていた。無理をさせたくなかったのに、結局は勢い任せに抱いてしまった。付き合って半年、ずっと***が欲しかった。渇きを癒すみたいな激しいセックスの、その終わりの瞬間が、銀時の脳裏に鮮明によみがえってくる。
長く溜めこんだ欲望は、白濁となってとめどなく爆ぜた。やけっぱちのように強く腰を打ちつけて吐いた熱を、小さな身体が全て受け止めてくれた。それも一度ではなく二度も。最後の一滴まで遠慮なく注ぎ込んだ銀時は、恍惚のさなかで呟いた。
「っは……ん、***……ずっと、ここにいてぇ……お前んナカに、ずっと……」
その言葉は***に届かなかった。見下ろすと放心状態でボロボロ泣いていたから驚いた。背中からすべり落ちた細い腕も、汗だくの首や胸も弱々しく痙攣していた。愛おしげに銀時を見つめる瞳の焦点が、だんだんと合わなくなる。あれ、コイツ気ィ失うんじゃね?そう思ってほほを叩くと、***は急に息を深く吸って言った。
「ぎっ、ちゃん、銀、ちゃん、は、離さ、ないでっ……このまま、っと、ずっと……いっしょ、に……」
「ちょ、……***ッ、オイッ!!」
離さねぇよ、泣いて頼まれても離してやんねぇ。
そう答える前に***のまぶたは閉じていた。脱力した身体を抱きとめるとあまりに華奢で怖くなった。こんなにひ弱な女に何てことをしたんだろう。罪悪感に襲われた銀時をよそに、***は静かな寝息を立てていた。
口元に手をかざし、数分おきに***の呼吸を確認した。身体が冷えないよう胸に抱き寄せて、ふたりでシーツに包まる。触れ合う素肌の温度があたたかい。くったりと眠る穏やかな***の吐息が、耳に心地よかった。知らないうちに浅い眠りに落ちた銀時が、次に目を開くとカーテンの向こうが白みはじめていた。
『旦那ァ、お~い、聞いてるかい?』
牛乳屋の主人の声でハッと我に返る。いちご柄のトランクス一枚でベッドに腰かけて、サイドテーブル据え付けの電話の受話器を持っていた。
『仕事は休んでも構わねぇが、***ちゃんはどうしたんだい?風邪でも引いたかい?まさかまたぶっ倒れちまったか!?あの子になんかあったら困るよ。なんたって***ちゃんはウチの大事な跡取りだ。いま、万事屋に居候してんだろ?あとでカカァに見舞いに行かせるよ』
「ちょちょちょちょ、ちょっと待てジジィィィ!なに勝手なこと抜かしてんだよ!お前んとこのしょぼくれたババァが来たって、なんも変わんねーし!別に***はどうってことねぇし……あ゛~~、なんつーか疲れてるだけっつーか、爆睡して起きねぇっつーか……と、とにかく今日は行けねぇんだよ!ったく、跡取りだかなんだか知らねーが、***みてーな小娘を頼りにするほど、お前はまだ老いぼれちゃいねーだろーが。ぐだぐだ言うなよクソジジィ!」
欠勤理由を知られてはならないと、銀時は必死で取り繕った。ましてやその原因が自分だとバレたら一巻の終わりだ。たぶん殺される。冷や汗を流しながら、慌てて電話を切ろうとした銀時を遮った主人の声は、地獄の底から響いてくるようなドスの利いたものだった。
『旦那ァ、ちょいと待ちなぁ、お前さん、もしかすると……***ちゃんに何かしたな?何かっつーか、ナニをしただろう?』
「しししし、してねーよ!!なんだよいきなり!?なに急に変なこと言ってんだよ、このエロジジィが!!」
『嘘ついたって無駄さ。旦那も知ってるだろうが俺ァ、スケベだ。カカァにゲンコツされても風俗に行くくらいの筋金入りのな……だから声だけでよぉく分からァ。好きな女を思う存分抱いた男っつーのは、どいつこいつも清々しくってスッキリした声で喋るんだ。ちょうど今のオメェみてぇにな……オイ、うちの***に何てことしやがる。俺にとっちゃ娘同然だぞ。つまり何か?盛った犬みてぇにヤるだけヤッて、つぶしちまったから今日は休ませますってか?ぶっ殺すぞ、このクソガキ!!』
「ひぇッ!!……ぃ、いや、そのっ、それはだな、」
そこからは怒涛の説教だった。鼓膜が破れそうなほど大声で叱られた。かわいい***の貞操を奪われたことはもちろんだが、それよりも主人は銀時が、***相手に手加減をしなかったことに腹を立てていた。
そもそも銀時と***では身体のつくりが違う。あの子は普通の女の子で、体力馬鹿の相手をまともにさせたら壊れてしまう。恋人を大切に思うなら限度をわきまえろ。それが出来ないなら金輪際、***には会わせない。
と、いうようなことを怒鳴り散らされて、銀時は「ほんっと、すんませんでした」と謝るしかできなかった。気づけばベッドから降りて、床に正座をして頭を下げていた。
「あ、あのー……ぉ、親父さん?こ、こう見えて俺、結構反省してますよ?なんつーか今日は?男の見せ所だと思って?銀さんの銀さんが調子に乗っちまったっていうかぁ?……つ、次は気をつけるから、それでいいだろ?***になんかあったら困るのは、俺だって同じだっつーの。悪かったってマジで、勘弁してくれよ頼むから」
『はぁぁ……***ちゃんも大人だから、俺ァ別にヤるなって言ってるわけじゃねぇ。だがな旦那、責任だけはしっかり取れ。ガキでもこさえて面倒見れねぇなんてなった日にゃ、俺はお前さんを切り刻んで牛の餌にしなきゃなんねぇ。そんなのはお互いイヤだろう。そんじゃ、ま、そーゆーことだから。***ちゃんを頼んだよ』
ガチャンッと電話が切れて、銀時はチッと舌を打った。頭をガリガリ搔きながら、ベッドで丸まって眠る***の隣に座り、寝顔を見下ろした。お前のせいでごっさ怒られたんですけど。ぼそぼそと呟いて、***の鼻先を指でつまんだら「んんっ」と唸り声がした。白い手がシーツの上をよろよろと這ってきて、銀時の人さし指を両手で掴んだ。ぎゅうっと握って引き寄せ、瞳を閉じたまま***は、銀時の指にほっぺたをすりつけた。
「ははっ……なにコイツ、赤ん坊かよ」
昨夜の事件が嘘みたいな寝顔だ。こんなに能天気に寝てる女がまさか、生きるか死ぬかの瀬戸際をすり抜けてきたなんて、誰が信じるだろう。でも唇の端には内出血のあざが、首と背中には小さな切り傷がある。傷だらけなのにシーツの中の***は平和そのものだ。わずかに微笑んでいるようにも見える寝顔は、銀時に向かって「恐れるものは何も無いよ」と言っているように見えた。
「弱っちぃくせに、っとに、強ぇ女ぁ……」
顔に掛かる黒髪を払ったら、***のほほに涙の跡があった。身体を繋げて、貫いた最奥で銀時がはじめて果てた後、***が大泣きしながら言った言葉が耳に響いた。
———銀ちゃんは汚くなんてないです……だって私、幸せでした。銀ちゃんに初めてをあげられて。銀ちゃんを一番近くに感じられて……私すごく嬉しかったのに、銀ちゃんは違ったの?
「違うわけねぇだろーが」
好きな女を手に入れて幸せだった。そのまま死んでもいいと思うくらいの快感だった。銀時は身体を味わえれば十分だったのに、***はそうじゃなかった。避妊具の隔たりなしに繋がりたいと求めた。体内で欲熱を吐かれることも拒まなかった。***は身体どころか、心の奥深くまで銀時をまねき入れた。頼りなく小柄な***が、銀時の大きな身体を全て包みこんだ。何もかもを受け入れて許された感覚は、幸福なんて言葉じゃ足りない。
———責任だ?……んなもん、取るに決まってんだろ。ガキができたとして、それがなんだっつーんだよ。
牛乳屋の主人にそんなことは言えなかった。言ったところであの状況で信じてもらえるはずもない。だが決して嘘じゃなかった。この先も***は銀時のものだし、離すつもりは毛頭なかった。例え牛の餌にされるような目にあったとしても。
髪を背中に流すと横向きで眠る***の首筋が露わになった。首の切り傷はもうかさぶたになりかけている。顔を屈めて耳のすぐ下に唇を寄せたら花のように甘い香りがした。***の柔い白肌に強く吸いついて、濃い赤色の鬱血痕をつけた。
「ん、これでよし……と」
うなじに近い耳の後ろに、くっきりと所有の印がつく。繋いだ手に視線を移すと***の左手が目に入った。くすり指にはオモチャの指輪。プラスチックの赤い石が取れて、もはやただの輪っかだ。泣きそうにそれを見ていた***を思い出すとおかしくて、銀時は声もなく笑った。指輪をつまんで、華奢な指からするりと抜く。カーテンの隙間から射し込む朝陽にかざしたら、メッキの指輪は鈍いながらも、キラキラと輝いていた。
瞳をひらいた時、***が最初に感じたのは痛みだった。自転車で長距離を全力疾走した後のように身体中が疲れていた。特に腰がひどく痛んで、まるで重石を載せているみたいだ。
「っ、うぅん……ぎ、んちゃん……?」
手のひらには、ついさっきまで誰かと繋いでいたような温もりが残っている。だが部屋には人の気配がない。よろよろと起き上がって、きょろきょろ見回すとベッドサイドに書き置きがあった。
「服、洗ってくる……すぐ、戻る」
メモ紙の上の走り書きの文字さえ愛おしい。布団にぺたりと座り込んで、***はその紙を眺めながらぼんやりしていた。しかし、ふと窓の外が明るいことに気づき、時計を見た瞬間、さぁっと青ざめた。
「えっ!!?ごごごごご、5時っ……!?やだっ、私、配達が……ど、どうしよう、あ、ぃ、痛ッ!!」
慌てて立ち上がろうとしたら腰に痛みが走った。ギシッときしんだのがベッドなのか腰なのか分からなかった。これじゃ自転車はこげそうにない。それにこの時間じゃもう間に合わない。とにかく無断欠勤を謝らなければと、***はシーツの上を這って行き、受話器をつかむと電話をかけた。出たのはおかみさんだった。
「すっ、すみません、おかみさん!私、寝坊してしまって……あ、あと体調が悪くって今日は行けないです!!ほんとに申し訳ありま、」
『あら、***ちゃん大丈夫?さっき銀さんから休むって電話来たって、主人から聞いたわよ。***ちゃんが休むなんて珍しいじゃない。風邪でも引いたの?万事屋に居候してんでしょう?あとでお見舞いでも行こうか?』
「いややややっ!お、おかみさん、それは結構です!すこし腰を痛めただけですし、ちょっと疲れちゃったかな~なぁんて、アハハッ!あ、明日はちゃんと行きますんで、おじさんにも謝っておいてください!」
『そうなの?それならいいけど……それよりうちの人、今朝はなんか変なの。***ちゃんが休むって言ったきり急に泣き出しちゃって。飲まなきゃやってられないってお酒まで出してくる始末でさ。だから忙しくって大変!じゃぁ***ちゃん無理はしないで、お大事にね!』
ガチャッと切れて、***は深いため息をついた。てっきり怒られると思ったが、銀時のおかげで助かった。ホッとするあまり、おかみさんの言っていた事はよく理解できなかった。おじさんが泣いてお酒を飲んでいる?なぜ?と思うが、考える気力がない。
疲れた身体を癒したくて、***はふらつく足でお風呂場へ行った。熱いシャワーを浴びたら全身の痛みが和らいでいく。腰はズーンと重たいが、これなら何とかなりそうだ。
「あったかくて……きもちいい」
呟きながらシャワーをお腹に当てた時、脚の間に違和感が走った。味わったことのない不思議な感覚にうつむいて、下半身に目をやる。そしてそこに広がる光景に、***は息を飲んで固まった。
「っ……ゃ、やだっ……!」
見下ろした内ももに、ドロッとした白い半液体が垂れていた。秘部から溢れてお湯で少しづつ流れていく。それは数時間前に銀時が、***の体内で出したもの。そう気づいた途端、猛烈な恥ずかしさに襲われて***の顔が、ばぁぁっと真っ赤に染まった。
———そ、そうだった……私、銀ちゃんと……し、しちゃったんだ……!最後まで、してもらって、それで、な、中に……っ!!
「ひぇぇぇぇっ!!!」
冷静になればとんでもない事をした。しかも自分から求めたなんて、はしたないにも程がある。羞恥心に泣きそうになりながら、急いでシャワーで流した。すぐに流れ去ったと思ったら、残っていた白濁がまた溢れてきたから、再び「ぎゃっ」と声を上げた。なんて恥ずかしいことをしたんだろう。いたたまれなさを掻き消そうと、石鹸の泡でごしごしと全身を洗った。
「そういえば銀ちゃんも……勢い余ってやっちまったって、言ってたっけ」
ニヤつきながら「どーすんだよ***~?おぼこい生娘が処女喪失と同時に妊娠とかシャレになんねーだろ?」と言われたのを思い出す。
確かにシャレにならない。でも***は、何も考えなしにそんなことをしたわけじゃない。うっかり妊娠するなんて、間違いを起こす気はなかった。万事屋で手いっぱいの銀時に「子どもができた」なんてことは許されないと分かっている。
そもそも、そんな未来はありえない———
あの瞬間、***だけはそれを知っていた。
「あぁ、でも、銀ちゃんは知らないから……シャレにならないって、思っちゃうよねぇ」
それは銀時だけでなく、家族すら知らない秘密だ。***自身が知ったのも数か月前、過労で倒れて入院した時だった。大江戸病院の医者が告げた現実を思い出すと、今でも少しだけ悲しい。
若い男の医師はあっさりした口調で「***さんが妊娠するのは難しいでしょう」と言った。頭が真っ白になった***に向かって、医者はこう続けた。
「***さんは飢饉のせいで、十代の頃に栄養が足りなかったんです。成長期に十分な栄養を摂れてないから未成熟なんです。それと若いうちから身体を酷使しすぎてます。ずっと生理不順だというのに、疲れて倒れるまで働くなんて……これじゃ妊娠なんて、そうとう努力しないと無理ですよ」
どの理由も***にはどうしようもなかった。
ザァァァ、というシャワーの音が苦い記憶を打ち消した。聞いた直後はショックだったが、今では仕方がないと納得できてる。銀時に言えなかったのは、どんな反応をされるか分からなくて怖かったから。
「でも、はやく言わなきゃダメだよねぇ……」
ため息をついてシャワーを止めた。温まって疲れのとれた身体にバスローブを纏う。ドアを開けてお風呂場から出た瞬間、***を包んだのは、とてつもなく甘い香りだった。
「え?……あ、銀ちゃん!」
「よぉ***、やぁっと起きたか、この寝ぼすけが」
知らぬ間に戻った銀時がベッドでくつろいでいた。洗濯された***の浴衣と渦巻き模様の着物が、ソファに掛かっていた。銀時は黒い上下の服でブーツを脱ぎ、ヘッドボードに背中をついて座っている。「こっち来いよ」と言われて近づくと、そこに甘い香りの正体があった。投げ出された銀時の脚の間に、大きなお皿が置かれていた。
「へっ、こ、これ……なんですか?」
「あ?見りゃ分かんだろ、ハニートーストだよ」
ルームサービスで頼んだというハニートーストは、食パンを一斤まるごと使った大きなものだった。こんがり焼けたパンの上に苺やバナナが散る。アイスクリームとホイップクリーム、そしてハチミツがたっぷり掛かっている。だが何より***の目を引いたのは、それらが乗るお皿の方だった。チョコレートの文字で「おめでとう」と書かれていた。
「な、なんで?どうしてハニートースト?おめでとうって何?いったい何がおめでたいんですか?」
「はぁぁ?お前バカか?そりゃァ晴れて銀さんとセックスできてー、持て余してた処女をようやく捨ててー、ひと皮剥けて立派な女んなった***ちゃ~ん、おめでとうって意味に決まってんだろーが」
「ばっ、バカは、どっちですかぁぁぁ!!!」
真っ赤になって叫んだ***の頭から、湯気がボンッと出た。目の前のスイーツも、生々しく蘇った記憶も悶絶するほど恥ずかしい。口をあわあわさせる***に向かって、頭をガリガリと掻いた銀時が「あー……***の名前入りのチョコプレートがあった方がよかった?」と言うので、思わず足元にあったクッションを投げつけた。
「っぶねーな、俺のハニトーに何すんだよゴラァ!!」
「んぎぎぎ、銀ちゃんこそ……何てことしてくれるんですか!そんなの、そんな恥ずかしいもの、頼んだりしてっ……も、もう、バカァァァ!!!」
手当たり次第にクッションを投げたが、銀時はひょいひょいと避けてしまう。ハニートーストもしっかり抱えて守ってるから憎らしい。クッションが無くなり***が「ううっ」と悔しがると、素知らぬ顔した銀時がナイフとフォークを手にとった。鼻歌まじりにトーストを切り取り、アイスを乗せてパクっと頬張る。
「うんまぁ~~~!ホラ、***も食えよ!!」
そう言って***に手招きする。恥ずかしくて食べられるわけない。そう思うのに、美味しそうに食べる銀時を見ていたら、不思議と口の中に甘い味が広がった。ハチミツの芳醇な香りにゴクッと唾を飲む。お腹まで小さくきゅぅっと鳴ってしまって、***は慌てた。そういえば昨日は晩ご飯を食べてない。最後に何かを口にしたのは一体いつだろう?考えこむ***の腕を大きな手が掴んで、ベッドに引きずり上げた。
「ぼけっとしてねぇでさっさと食えって***、お前腹ァ減ってんだろーが」
「うっ……じゃぁ、ちょっとだけ、いただきます」
ふたり並んでベッドの背もたれに寄りかかる。銀時が膝に乗せた皿からパンを切り取り、アイスと生クリームをたっぷりのせると***の口に運んだ。
「ほい、あーん」
「わゎっ、んむっ、……んんぅっ!」
口いっぱいに広がった甘さが、じわぁっと全身に染み渡った。おいしい!と瞳を輝かせて隣を見ると、銀時が得意げに「な?うめーだろ」と笑った。口元を手で押さえて、生まれて初めて食べるハニートーストをゆっくり噛みしめる。ハチミツの染みたパン、しっとりした生クリームとひんやりしたバニラアイス、こんなに美味しいスイーツは初めてだ。***が小さなひと口を味わっている間、銀時はばくばくと食べ進めながら口を開いた。
「そーだ、***、お前さぁー……もっとたらふく飯食って体力つけろよ。セックスの一発、ちげぇや、二発したくらいで意識飛ばしてたら、銀さんの相手できねーぞ。しっかりしろよなー」
「んぶッッッ!!?ゲホッ、ゴホゴホッ……なっ、なに言って、やだ、銀ちゃんが変なこと言うから、吹き出しちゃったじゃないですか!」
「あ?だってホントのことじゃねーか。終わるやいなや死んだみてーに寝ちまいやがって。あん時まだ抜いてなかったぞ、***の中から銀さんのチン」
「うわぁぁあ!!やややっ、やめてください!そーゆー卑猥なことをサラッと言うのはぁ!!」
「卑猥だろうがなんだろーが大事なことだから言ってんだっつーの!ガキができるよーなこと男にさせといて、テメェだけスヤスヤのんきに寝てんじゃねーよバカ!」
赤らんだ顔で***は「へっ」と固まって銀時を見上げた。もぐもぐと動く銀時の口の周りには生クリームがついて、小さな男の子みたいだ。食べものに夢中なふりをして、***から目を逸らしている。気まずい時やバツが悪い時の銀時はいつもそうだ。決して***の顔を見ずに唇を尖らせて、ふてくされた少年のようになる。
———いま、銀ちゃんを気まずくさせてるのは、私だ。もっと早く打ち明けるべきだったな。そうすれば銀ちゃんに、こんな無駄な心配をかけなくて済んだもん……
自分の体質を後ろめたく感じていたのが情けない。銀時はそんなことを気にする人じゃない。そう思ったら肩からストンと力が抜けた。
大丈夫だよ***、今が言う時だよ。そう奮い立たせて「銀ちゃん、あのね、聞いて欲しいことがあります」と言った声は、思った以上に穏やかだった。深刻に取られないように、なるべく気楽に。そう微笑んで口を開くと、こちらを向いた銀時と目が合った。
「銀ちゃん、私ね、前にお医者さんに……その、妊娠しにくい身体って、言われたんです」
告げている間、意外なほど心は乱れなかった。しっかりと銀時を見つめて、落ち着いて伝えられた。医者の言葉をそのまますべて打ち明けて「と、いうことなんです」と締めくくっても、銀時は何も言わなかった。視線も逸らさないから、***は気恥ずかしくなって「えへへ」と小さく笑った。
でもやっぱり少し悲しい———、と思った時には、言うつもりのなかった言葉が口をついて出ていた。
「結婚してるわけでもないのにおこがましいけど、私いつか銀ちゃんの赤ちゃんが欲しいなぁなーんて、ちょっぴり思ってました。でも難しいんだって……だから安心していいんだよ銀ちゃん。昨日のことで妊娠するなんて間違いは起こらないし、この先もそんなことで銀ちゃんを困らせたりしないから。何も問題ないから、心配しないでください」
「……ぇよ……」
笑いまじりの言葉を低い声が遮った。なんと言ったか分からずに「え?」と聞き返すと、赤い瞳にギロッと睨まれた。心底不満そうな銀時が、***を射抜くように見つめて口を開いた。
「問題なくねぇ、っつったんだよ……問題ねぇどころか、こちとら大問題なんですけど。***が妊娠しにくい?栄養が足りてねぇから?ふざけんなっつーのコノヤロォォォォ!!!」
「えぇ!?な、なんで怒るんですか!?」
「うるせー!!オラッ、コレでも食らいやがれ!!」
「んむむむっ!!?」
いきなり怒り出した銀時が***の口に、ハニートーストの大きなひときれを、ぎゅうっと押し込んだ。どうして!?と目を白黒させていると両肩をつかまれた。顔や腕にビキビキと血管を浮かべた銀時が、***を見下ろして怒鳴るように言った。
「***、お前、勘ちがいしてっから!俺が!いつ!ガキができたら困るなんて言った!?んなこと、ひとことも言ってねーだろーが!!ったく、どいつもこいつも人を無責任な野郎扱いしやがって……ちっせぇ***がちっせぇ赤ん坊産んだところで、そんなん面倒でもなんでもねーし!こちとら社長だし!今でもでけぇガキふたりと、バカでけぇ犬の世話してるしぃ~~~!!テメェの女とガキの責任取るくらい朝飯前、いや朝飯前に二度寝するくらい、余裕だっつーのぉぉぉ!!!」
「んぐぐぅっ……!!?」
口いっぱいに頬張っていて***は言葉が出ない。銀時がまるで「子どもができても良い、むしろ欲しい」と言ったように思えて驚いた。困惑する***の両ほほを、大きな手がガシッとつかむ。そして異様なまでに真剣な声色で尋ねた。
「ガキは難しいって……そう言われたんだよな?出来ねぇじゃなくて難しいって、そうとう努力しなきゃ無理だって……***、そう言われたんだな?」
唖然としたまま***がコクンと頷くと、銀時は「はぁー」と深いため息をついた。「このバカチンが」と言って***のほっぺたを指でむにゅむにゅと押した。うぐぐと苦しがる***を見つめた赤い瞳はもう怒ってなくて、いつもの気の抜けた眼差しだった。
「そんじゃァ、努力すりゃいいだろ。何度だって俺ァ頑張ってやるよ。やるっつーか、ヤッてやるよ。ガキができるまでヤりゃいいだけじゃねーか……っつーか***さぁ~……そーゆー大事なことはもっと早く言ってくんね?知ってたら昨日だって2回じゃ済まさなかったっつーの!ひっぱたいてでも無理やり起こして、もう何回戦かしたっつーのによぉぉ~!!」
「ん゛ん゛っ!!?んぐっ……は、ぁ、んなっ、なに言ってるんですか!?だって、お医者さんが無理って、」
「無理じゃねーよ***」
「っ………!!」
ようやく口の中の物を飲み込み、***は慌てて問いただしたけれど、銀時の静かな声で制された。恥ずかしすぎる話題にほっぺたが熱いのに、それを包む大きな手のひらが熱くて、なぜだか泣きたくなる。そして耳に入ってきた銀時の声が、予想もしないことを言った。
「無理だなんて誰にも言わせねーよ。お前、俺のガキが欲しいんだろ。大好きな銀さんの子どもだぞ?それをそんな簡単に諦められんのか***?諦められねぇだろ?諦められねぇからお前は俺に、ゴムすんなって言ったんじゃねーの?あと俺、あん時もう決めたから。このさき一生セックスする時は生でするって。どーせ***しか抱かねぇし、どーせ抱くなら、」
そこまで言った時に、***のほほを包んだ手の親指だけが動いて、唇の端を撫でた。そこについていた生クリームをぬぐって、銀時は自分の口に運んだ。舌でペロリと舐めとる仕草が艶っぽくて、***は「ひっ」と動けなくなった。ほほから離れた手が***の肩に触れて、胸とお腹の上をするする降りると、お臍の下あたりで止まった。そこをさわさわと撫でられ、驚いて離れようとしたら、もう一方の手で腰を引き寄せられた。鼻先が触れるほど顔を寄せた銀時が、バスローブの上から***の下腹部をさすって言葉を続けた。
「……どーせ抱くなら***のここに、俺のをたんまり出して、ぜってぇ孕ませるって決めたから。お前が嫌だって言っても、泣いて逃げても諦めねぇから。風呂入ったんなら、もう見ただろ?昨日、***のここに2回もぶちまけられた、銀さんの濃ぉいザーメンをさぁ~?」
「~~~~~っ!!ぎ、銀ちゃん、だからっ、そういう卑猥なこと言うのはやめてってば!!」
「やめねぇよ。卑猥だろうが大事なことだってさっきから言ってんだろ。***さぁ、照れてねぇで頭使ってよく考えろ。ガキができねぇっつった医者とガキ作る気満々の銀さん、どっちが正しいと思う?お前のこと何も知らねぇヤブ医者と、***のことなんでも知っててセックスもしたことある俺の、どっちをお前は信じる?なぁ、答えろよさっさと」
「っ……そ、な……そんなの……」
分かりきった答えをわざと訊く銀時が恨めしい。でも敢えて言わせるのが銀時の優しさだと分かっているから、狂おしいほど胸が締め付けられた。どんな時だって銀ちゃんは私に希望を持たせてくれる。そんな事とっくに知っていたのに。そう思うとじわっと熱くなった瞳が涙ぐんだ。黒いシャツの胸元を両手でぎゅっと掴んで、すがりつくように銀時を見上げた。ようやく吐き出した声は震えてか細かった。
「ぎ、銀ちゃんを信じたい……私、銀ちゃんの、赤ちゃんが今でも欲しいです。いつか私がお母さんになって、銀ちゃんがお父さんで、万事屋の皆と暮らしてて、そんないつかを、いつでも夢に見てます。お医者さんに無理って言われても、そんな未来をずっと、私っ……」
蚊の鳴くような声でも十分伝わった。銀時が***の背中に手を回して、シャツを掴む腕ごとすっぽり抱きしめた。その力がどんどん強まるから息苦しい。銀時の肩にあごをのせて「銀ちゃん」と呼ぶと、耳元で響いた声は少しかすれて、でも力強かった。
「……***、それが俺たちにふさわしい未来なら、絶対に守んなきゃなんねーだろ。俺たちにしか掴めねぇ幸せを、俺たちが捨てるなんて許されねぇ……そうだろ***、そうだって言えよ」
それを聞いた瞬間、***の脳裏に見たことのない未来が、走馬灯のように駆け巡った。胸に小さな赤ちゃんを抱いて「私はこの子を一生守る」と思っていた。すぐ隣に銀時がいて、当然のように***の腕から赤ん坊を抱き上げた。そんな銀時を新八が心配そうに見ていた。神楽が私も抱っこしたいと銀時の腕を掴んだ。赤ちゃんの柔らかな髪は美しい銀色だった。面映ゆい表情の銀時がこっちを見て「おい、***」と優しく呼びかけた———、息を飲むほど幸せな、そんな未来だった。
零れる寸前の涙を***はぐっと飲み込んだ。この涙はいつか今見た未来に追いついた時の為に取っておく。
そして息をひとつ深く吸うと力強い声で答えた。
「そう、そうですっ……銀ちゃんの言う通りです。私も絶対に守りたい。だから銀ちゃんを信じて頑張る……私、お医者さんが思うよりずっと努力します!」
その答えに銀時は満足げに「よし」と言った。そして背中をポンポンと叩いてから、ゆっくりと身体を離した。でも努力って何をすれば?と考え込んだ***の目に、シーツに置かれたお皿が飛び込んでくる。ハニートーストはまだ少し残っていた。
もっと食べて体力をつけろと銀時は言った。栄養が足りないと医者は言っていた。それならまずはこれを食べようと膝に抱えて、フォークを拾った***の手を銀時が掴んで止めた。
「オイコラ***、お前なに勝手に食おうとしちゃってんの!?それ俺のハニトーだから!まだ食いかけだから!!」
「えぇっ!?これ私のじゃないんですか!?だって、この「おめでとう」は「***おめでとう」って意味って、銀ちゃんが言ってたんですよ?だ、だから……食べてもいいでしょう?」
「はぁあ!?俺そんなこと言ったっけ!?あ゛~~~……ったく、しょーがねぇな、じゃぁホラ、食えよ」
自分で食べると言っても銀時は聞き入れずに、奪い取ったフォークで切り取ったパンを***の口に運んだ。ホイ、あーん、もぐもぐ、ごくん、あーん、もぐもぐ、ごくんを何度も繰り返す。そして最後にチョコで書かれた「おめでとう」の文字をこすり取ったひときれが、***の口にむぎゅっと押し込まれた。
「はぁ……ごちそうさまでした」
満たされて手を合わせた***の頭に、大きな手がポンッと乗る。強く撫でられて髪がぐしゃぐしゃになった。やめてよ、と笑っていたら、急に肩を掴まれて、ぐんっと後ろに押し倒された。
「うわぁあっ!?ぎ、んちゃんっ!?」
「んー、なにー?」
「な、何って、銀ちゃんこそ何ですか?私、もう眠くないです。お風呂も入ったし、もう着替えなきゃ。そろそろ帰らないと」
「はぁ~?なぁ~にふざけたこと抜かしてんだよ***~、お前が言ったんだろーが、努力するって……銀さんのハニトー横取りして食っといて、風呂も入ったしもう帰る?いやいやいやいや……そんなん許されねぇって」
「え、それってどういう、んぅっ!?」
覆いかぶさった銀時が***に深く口づけた。生クリームと蜂蜜の味の残る唇を、はむはむと柔く噛む。さし込まれた舌でほほの内側をゆっくりと舐められたら、「ふぁ」とおかしな声が出てしまった。
キスで終わりそうにない雰囲気に***は慌てた。抵抗しようと脚をばたつかせたらベッドがギシギシときしんだ。脚の間に銀時の膝が割り込んでくる。丈の長いバスローブの裾がめくれて、隙間から入ってきた手が***の膝をつかんだ。汗ばんだ手が太ももの裏をのぼって、最後はお尻をむにゅっと揉みしだいた。知らぬ間に腰紐を解かれてローブが開くと、あっという間に下着だけの素肌が露わになった。
「やっ、ぁ、んぅっ、ふ、ぁあっ……!」
のしかかってくる硬い胸を、***は必死で押し返した。しかしその手首を掴まれて、両腕をベッドに抑えつけられてしまう。舌をきつく絡め合って、のどの奥まで入られたら口端から唾液が溢れた。息苦しくて涙ぐんだ***が、声にならない声で「銀ちゃん」と呼んだ直後、銀時は「はぁっ」と呼吸を乱しながら唇を離した。
「よく寝て疲れもとれて、腹いっぱい食ったんだから、あとする事っつったらひとつしかねぇだろ。昨日みてーに銀さんと楽しもうじゃねーか、なぁ?」
「だだだだだ、ダメだよ銀ちゃん!だってもう朝だし……あの、な、何だっけ、ちぇ、チェックアウトでしたっけ?しないとお金がかかっちゃうから、」
「ぶははっ!お子ちゃまな***ちゃんは知らないでちゅよねぇ~。こーゆーラブホは夜中に入ると宿泊になるんですぅ~。だから今帰っても昼に帰っても同じなんですぅ~~~。なぁなぁ、いーだろ***~、めいっぱい気持ちよくしてやっからぁ。それにお前だって、ちょっとその気になってんだろ?よくばりだもんな、***はぁ」
「なっ……!!」
なってない、という言葉が出なかった。昨晩以上に欲情した赤い瞳と見つめ合うせいで。唇と舌にキスの名残があるせいで。銀時の熱い手のひらで下腹部をじっとりと撫でられたら、突かれた時の感覚を思い出して胸元までかぁっと赤くなった。恥ずかしさとは別の熱が身体の奥で生まれた。覚えたばかりの快感を、身体がもう一度求めていた。
「~~~~~っ、ぎ、銀ちゃんの、馬鹿ぁ……き、昨日までは、私……こんな、よくばりなんかじゃ、なかったのに……」
泣きそうなほど赤い顔で、***は銀時の首に腕を回した。たくましい首筋に、ほっぺたを遠慮がちにすりよせたら、ははっと嬉しそうな笑い声がした。熱くて大きな手が後頭部からうなじまでを優しく撫でた。
「***はよくばりだよ……よくばりで、やらしくて、俺好みのすげぇいい女ぁ……」
熱い吐息と一緒に耳元で囁かれたら、何も止められなくなった。低い声が途切れた直後、銀時が***の耳をガブッと噛んだ。それだけで重く痛んでいたはずの腰がビリビリと痺れて反りかえる。降参した***は全てを銀時にゆだねて、まだぬくもりの残るシーツに沈んだ。
「は、ぁ、***っ……」
「っ……ぎ、ちゃ……ぁあっ!」
日が高くなっても銀時は***を求め続けた。それに応えるのに必死で、***は時間の感覚を失った。ただ赤い瞳を見つめて繋がっているのが、狂おしいほどの幸福で。ベッドがギシギシときしむ音が部屋中に響き続けたが、それすらふたりの耳に入る余地はなかった。
———***、ずっとお前のナカに居たい
———銀ちゃん、離さないでこのままずっと
その言葉どおり銀時と***はくりかえし抱き合って、より奥深くに互いを刻み続けた。
この先の未来を、ふたりはまだ知らない。
腰が立たなくなって銀時に抱えられてホテルを出る恥ずかしい未来を、***はまだ知らない。
翌朝ふらふらで出勤した***を見た牛乳屋の主人に、ボコボコに殴られる未来を、銀時はまだ知らない。
やがて愛しい命に出会う未来がふたりに訪れることを、今はまだ神さましか知らなかった。
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【(**)くるおしさ】
"Room No.1010" (おまけ / end)
あなたと歩む世界は息を飲むほど美しい
☆全篇テーマは一貫して下ネタです
☆ぬるい性的描写があります、苦手な方はご遠慮下さい
☆話中の性行為に関する全ての事項を、筆者は推奨しません
※“Room No.1010”(+α)という名の蛇足です
※無駄に長くて不必要な補足です、読まなくても問題ないです
【(**)くるおしさ】
今朝の配達に***は行けない。銀時がそう告げると、牛乳屋の主人は電話口で「えっ」と驚いていた。
早朝4時半、いつもなら働いているはずの***はまだ夢の中にいる。神楽と***が銭湯へ行ったのが昨日の夕方、つぶれたキャバクラ店へ誘拐されたのが夜8時頃、救い出してホテルに着いたのはたぶん11時近かった。
その時点で***は疲れていた。無理をさせたくなかったのに、結局は勢い任せに抱いてしまった。付き合って半年、ずっと***が欲しかった。渇きを癒すみたいな激しいセックスの、その終わりの瞬間が、銀時の脳裏に鮮明によみがえってくる。
長く溜めこんだ欲望は、白濁となってとめどなく爆ぜた。やけっぱちのように強く腰を打ちつけて吐いた熱を、小さな身体が全て受け止めてくれた。それも一度ではなく二度も。最後の一滴まで遠慮なく注ぎ込んだ銀時は、恍惚のさなかで呟いた。
「っは……ん、***……ずっと、ここにいてぇ……お前んナカに、ずっと……」
その言葉は***に届かなかった。見下ろすと放心状態でボロボロ泣いていたから驚いた。背中からすべり落ちた細い腕も、汗だくの首や胸も弱々しく痙攣していた。愛おしげに銀時を見つめる瞳の焦点が、だんだんと合わなくなる。あれ、コイツ気ィ失うんじゃね?そう思ってほほを叩くと、***は急に息を深く吸って言った。
「ぎっ、ちゃん、銀、ちゃん、は、離さ、ないでっ……このまま、っと、ずっと……いっしょ、に……」
「ちょ、……***ッ、オイッ!!」
離さねぇよ、泣いて頼まれても離してやんねぇ。
そう答える前に***のまぶたは閉じていた。脱力した身体を抱きとめるとあまりに華奢で怖くなった。こんなにひ弱な女に何てことをしたんだろう。罪悪感に襲われた銀時をよそに、***は静かな寝息を立てていた。
口元に手をかざし、数分おきに***の呼吸を確認した。身体が冷えないよう胸に抱き寄せて、ふたりでシーツに包まる。触れ合う素肌の温度があたたかい。くったりと眠る穏やかな***の吐息が、耳に心地よかった。知らないうちに浅い眠りに落ちた銀時が、次に目を開くとカーテンの向こうが白みはじめていた。
『旦那ァ、お~い、聞いてるかい?』
牛乳屋の主人の声でハッと我に返る。いちご柄のトランクス一枚でベッドに腰かけて、サイドテーブル据え付けの電話の受話器を持っていた。
『仕事は休んでも構わねぇが、***ちゃんはどうしたんだい?風邪でも引いたかい?まさかまたぶっ倒れちまったか!?あの子になんかあったら困るよ。なんたって***ちゃんはウチの大事な跡取りだ。いま、万事屋に居候してんだろ?あとでカカァに見舞いに行かせるよ』
「ちょちょちょちょ、ちょっと待てジジィィィ!なに勝手なこと抜かしてんだよ!お前んとこのしょぼくれたババァが来たって、なんも変わんねーし!別に***はどうってことねぇし……あ゛~~、なんつーか疲れてるだけっつーか、爆睡して起きねぇっつーか……と、とにかく今日は行けねぇんだよ!ったく、跡取りだかなんだか知らねーが、***みてーな小娘を頼りにするほど、お前はまだ老いぼれちゃいねーだろーが。ぐだぐだ言うなよクソジジィ!」
欠勤理由を知られてはならないと、銀時は必死で取り繕った。ましてやその原因が自分だとバレたら一巻の終わりだ。たぶん殺される。冷や汗を流しながら、慌てて電話を切ろうとした銀時を遮った主人の声は、地獄の底から響いてくるようなドスの利いたものだった。
『旦那ァ、ちょいと待ちなぁ、お前さん、もしかすると……***ちゃんに何かしたな?何かっつーか、ナニをしただろう?』
「しししし、してねーよ!!なんだよいきなり!?なに急に変なこと言ってんだよ、このエロジジィが!!」
『嘘ついたって無駄さ。旦那も知ってるだろうが俺ァ、スケベだ。カカァにゲンコツされても風俗に行くくらいの筋金入りのな……だから声だけでよぉく分からァ。好きな女を思う存分抱いた男っつーのは、どいつこいつも清々しくってスッキリした声で喋るんだ。ちょうど今のオメェみてぇにな……オイ、うちの***に何てことしやがる。俺にとっちゃ娘同然だぞ。つまり何か?盛った犬みてぇにヤるだけヤッて、つぶしちまったから今日は休ませますってか?ぶっ殺すぞ、このクソガキ!!』
「ひぇッ!!……ぃ、いや、そのっ、それはだな、」
そこからは怒涛の説教だった。鼓膜が破れそうなほど大声で叱られた。かわいい***の貞操を奪われたことはもちろんだが、それよりも主人は銀時が、***相手に手加減をしなかったことに腹を立てていた。
そもそも銀時と***では身体のつくりが違う。あの子は普通の女の子で、体力馬鹿の相手をまともにさせたら壊れてしまう。恋人を大切に思うなら限度をわきまえろ。それが出来ないなら金輪際、***には会わせない。
と、いうようなことを怒鳴り散らされて、銀時は「ほんっと、すんませんでした」と謝るしかできなかった。気づけばベッドから降りて、床に正座をして頭を下げていた。
「あ、あのー……ぉ、親父さん?こ、こう見えて俺、結構反省してますよ?なんつーか今日は?男の見せ所だと思って?銀さんの銀さんが調子に乗っちまったっていうかぁ?……つ、次は気をつけるから、それでいいだろ?***になんかあったら困るのは、俺だって同じだっつーの。悪かったってマジで、勘弁してくれよ頼むから」
『はぁぁ……***ちゃんも大人だから、俺ァ別にヤるなって言ってるわけじゃねぇ。だがな旦那、責任だけはしっかり取れ。ガキでもこさえて面倒見れねぇなんてなった日にゃ、俺はお前さんを切り刻んで牛の餌にしなきゃなんねぇ。そんなのはお互いイヤだろう。そんじゃ、ま、そーゆーことだから。***ちゃんを頼んだよ』
ガチャンッと電話が切れて、銀時はチッと舌を打った。頭をガリガリ搔きながら、ベッドで丸まって眠る***の隣に座り、寝顔を見下ろした。お前のせいでごっさ怒られたんですけど。ぼそぼそと呟いて、***の鼻先を指でつまんだら「んんっ」と唸り声がした。白い手がシーツの上をよろよろと這ってきて、銀時の人さし指を両手で掴んだ。ぎゅうっと握って引き寄せ、瞳を閉じたまま***は、銀時の指にほっぺたをすりつけた。
「ははっ……なにコイツ、赤ん坊かよ」
昨夜の事件が嘘みたいな寝顔だ。こんなに能天気に寝てる女がまさか、生きるか死ぬかの瀬戸際をすり抜けてきたなんて、誰が信じるだろう。でも唇の端には内出血のあざが、首と背中には小さな切り傷がある。傷だらけなのにシーツの中の***は平和そのものだ。わずかに微笑んでいるようにも見える寝顔は、銀時に向かって「恐れるものは何も無いよ」と言っているように見えた。
「弱っちぃくせに、っとに、強ぇ女ぁ……」
顔に掛かる黒髪を払ったら、***のほほに涙の跡があった。身体を繋げて、貫いた最奥で銀時がはじめて果てた後、***が大泣きしながら言った言葉が耳に響いた。
———銀ちゃんは汚くなんてないです……だって私、幸せでした。銀ちゃんに初めてをあげられて。銀ちゃんを一番近くに感じられて……私すごく嬉しかったのに、銀ちゃんは違ったの?
「違うわけねぇだろーが」
好きな女を手に入れて幸せだった。そのまま死んでもいいと思うくらいの快感だった。銀時は身体を味わえれば十分だったのに、***はそうじゃなかった。避妊具の隔たりなしに繋がりたいと求めた。体内で欲熱を吐かれることも拒まなかった。***は身体どころか、心の奥深くまで銀時をまねき入れた。頼りなく小柄な***が、銀時の大きな身体を全て包みこんだ。何もかもを受け入れて許された感覚は、幸福なんて言葉じゃ足りない。
———責任だ?……んなもん、取るに決まってんだろ。ガキができたとして、それがなんだっつーんだよ。
牛乳屋の主人にそんなことは言えなかった。言ったところであの状況で信じてもらえるはずもない。だが決して嘘じゃなかった。この先も***は銀時のものだし、離すつもりは毛頭なかった。例え牛の餌にされるような目にあったとしても。
髪を背中に流すと横向きで眠る***の首筋が露わになった。首の切り傷はもうかさぶたになりかけている。顔を屈めて耳のすぐ下に唇を寄せたら花のように甘い香りがした。***の柔い白肌に強く吸いついて、濃い赤色の鬱血痕をつけた。
「ん、これでよし……と」
うなじに近い耳の後ろに、くっきりと所有の印がつく。繋いだ手に視線を移すと***の左手が目に入った。くすり指にはオモチャの指輪。プラスチックの赤い石が取れて、もはやただの輪っかだ。泣きそうにそれを見ていた***を思い出すとおかしくて、銀時は声もなく笑った。指輪をつまんで、華奢な指からするりと抜く。カーテンの隙間から射し込む朝陽にかざしたら、メッキの指輪は鈍いながらも、キラキラと輝いていた。
瞳をひらいた時、***が最初に感じたのは痛みだった。自転車で長距離を全力疾走した後のように身体中が疲れていた。特に腰がひどく痛んで、まるで重石を載せているみたいだ。
「っ、うぅん……ぎ、んちゃん……?」
手のひらには、ついさっきまで誰かと繋いでいたような温もりが残っている。だが部屋には人の気配がない。よろよろと起き上がって、きょろきょろ見回すとベッドサイドに書き置きがあった。
「服、洗ってくる……すぐ、戻る」
メモ紙の上の走り書きの文字さえ愛おしい。布団にぺたりと座り込んで、***はその紙を眺めながらぼんやりしていた。しかし、ふと窓の外が明るいことに気づき、時計を見た瞬間、さぁっと青ざめた。
「えっ!!?ごごごごご、5時っ……!?やだっ、私、配達が……ど、どうしよう、あ、ぃ、痛ッ!!」
慌てて立ち上がろうとしたら腰に痛みが走った。ギシッときしんだのがベッドなのか腰なのか分からなかった。これじゃ自転車はこげそうにない。それにこの時間じゃもう間に合わない。とにかく無断欠勤を謝らなければと、***はシーツの上を這って行き、受話器をつかむと電話をかけた。出たのはおかみさんだった。
「すっ、すみません、おかみさん!私、寝坊してしまって……あ、あと体調が悪くって今日は行けないです!!ほんとに申し訳ありま、」
『あら、***ちゃん大丈夫?さっき銀さんから休むって電話来たって、主人から聞いたわよ。***ちゃんが休むなんて珍しいじゃない。風邪でも引いたの?万事屋に居候してんでしょう?あとでお見舞いでも行こうか?』
「いややややっ!お、おかみさん、それは結構です!すこし腰を痛めただけですし、ちょっと疲れちゃったかな~なぁんて、アハハッ!あ、明日はちゃんと行きますんで、おじさんにも謝っておいてください!」
『そうなの?それならいいけど……それよりうちの人、今朝はなんか変なの。***ちゃんが休むって言ったきり急に泣き出しちゃって。飲まなきゃやってられないってお酒まで出してくる始末でさ。だから忙しくって大変!じゃぁ***ちゃん無理はしないで、お大事にね!』
ガチャッと切れて、***は深いため息をついた。てっきり怒られると思ったが、銀時のおかげで助かった。ホッとするあまり、おかみさんの言っていた事はよく理解できなかった。おじさんが泣いてお酒を飲んでいる?なぜ?と思うが、考える気力がない。
疲れた身体を癒したくて、***はふらつく足でお風呂場へ行った。熱いシャワーを浴びたら全身の痛みが和らいでいく。腰はズーンと重たいが、これなら何とかなりそうだ。
「あったかくて……きもちいい」
呟きながらシャワーをお腹に当てた時、脚の間に違和感が走った。味わったことのない不思議な感覚にうつむいて、下半身に目をやる。そしてそこに広がる光景に、***は息を飲んで固まった。
「っ……ゃ、やだっ……!」
見下ろした内ももに、ドロッとした白い半液体が垂れていた。秘部から溢れてお湯で少しづつ流れていく。それは数時間前に銀時が、***の体内で出したもの。そう気づいた途端、猛烈な恥ずかしさに襲われて***の顔が、ばぁぁっと真っ赤に染まった。
———そ、そうだった……私、銀ちゃんと……し、しちゃったんだ……!最後まで、してもらって、それで、な、中に……っ!!
「ひぇぇぇぇっ!!!」
冷静になればとんでもない事をした。しかも自分から求めたなんて、はしたないにも程がある。羞恥心に泣きそうになりながら、急いでシャワーで流した。すぐに流れ去ったと思ったら、残っていた白濁がまた溢れてきたから、再び「ぎゃっ」と声を上げた。なんて恥ずかしいことをしたんだろう。いたたまれなさを掻き消そうと、石鹸の泡でごしごしと全身を洗った。
「そういえば銀ちゃんも……勢い余ってやっちまったって、言ってたっけ」
ニヤつきながら「どーすんだよ***~?おぼこい生娘が処女喪失と同時に妊娠とかシャレになんねーだろ?」と言われたのを思い出す。
確かにシャレにならない。でも***は、何も考えなしにそんなことをしたわけじゃない。うっかり妊娠するなんて、間違いを起こす気はなかった。万事屋で手いっぱいの銀時に「子どもができた」なんてことは許されないと分かっている。
そもそも、そんな未来はありえない———
あの瞬間、***だけはそれを知っていた。
「あぁ、でも、銀ちゃんは知らないから……シャレにならないって、思っちゃうよねぇ」
それは銀時だけでなく、家族すら知らない秘密だ。***自身が知ったのも数か月前、過労で倒れて入院した時だった。大江戸病院の医者が告げた現実を思い出すと、今でも少しだけ悲しい。
若い男の医師はあっさりした口調で「***さんが妊娠するのは難しいでしょう」と言った。頭が真っ白になった***に向かって、医者はこう続けた。
「***さんは飢饉のせいで、十代の頃に栄養が足りなかったんです。成長期に十分な栄養を摂れてないから未成熟なんです。それと若いうちから身体を酷使しすぎてます。ずっと生理不順だというのに、疲れて倒れるまで働くなんて……これじゃ妊娠なんて、そうとう努力しないと無理ですよ」
どの理由も***にはどうしようもなかった。
ザァァァ、というシャワーの音が苦い記憶を打ち消した。聞いた直後はショックだったが、今では仕方がないと納得できてる。銀時に言えなかったのは、どんな反応をされるか分からなくて怖かったから。
「でも、はやく言わなきゃダメだよねぇ……」
ため息をついてシャワーを止めた。温まって疲れのとれた身体にバスローブを纏う。ドアを開けてお風呂場から出た瞬間、***を包んだのは、とてつもなく甘い香りだった。
「え?……あ、銀ちゃん!」
「よぉ***、やぁっと起きたか、この寝ぼすけが」
知らぬ間に戻った銀時がベッドでくつろいでいた。洗濯された***の浴衣と渦巻き模様の着物が、ソファに掛かっていた。銀時は黒い上下の服でブーツを脱ぎ、ヘッドボードに背中をついて座っている。「こっち来いよ」と言われて近づくと、そこに甘い香りの正体があった。投げ出された銀時の脚の間に、大きなお皿が置かれていた。
「へっ、こ、これ……なんですか?」
「あ?見りゃ分かんだろ、ハニートーストだよ」
ルームサービスで頼んだというハニートーストは、食パンを一斤まるごと使った大きなものだった。こんがり焼けたパンの上に苺やバナナが散る。アイスクリームとホイップクリーム、そしてハチミツがたっぷり掛かっている。だが何より***の目を引いたのは、それらが乗るお皿の方だった。チョコレートの文字で「おめでとう」と書かれていた。
「な、なんで?どうしてハニートースト?おめでとうって何?いったい何がおめでたいんですか?」
「はぁぁ?お前バカか?そりゃァ晴れて銀さんとセックスできてー、持て余してた処女をようやく捨ててー、ひと皮剥けて立派な女んなった***ちゃ~ん、おめでとうって意味に決まってんだろーが」
「ばっ、バカは、どっちですかぁぁぁ!!!」
真っ赤になって叫んだ***の頭から、湯気がボンッと出た。目の前のスイーツも、生々しく蘇った記憶も悶絶するほど恥ずかしい。口をあわあわさせる***に向かって、頭をガリガリと掻いた銀時が「あー……***の名前入りのチョコプレートがあった方がよかった?」と言うので、思わず足元にあったクッションを投げつけた。
「っぶねーな、俺のハニトーに何すんだよゴラァ!!」
「んぎぎぎ、銀ちゃんこそ……何てことしてくれるんですか!そんなの、そんな恥ずかしいもの、頼んだりしてっ……も、もう、バカァァァ!!!」
手当たり次第にクッションを投げたが、銀時はひょいひょいと避けてしまう。ハニートーストもしっかり抱えて守ってるから憎らしい。クッションが無くなり***が「ううっ」と悔しがると、素知らぬ顔した銀時がナイフとフォークを手にとった。鼻歌まじりにトーストを切り取り、アイスを乗せてパクっと頬張る。
「うんまぁ~~~!ホラ、***も食えよ!!」
そう言って***に手招きする。恥ずかしくて食べられるわけない。そう思うのに、美味しそうに食べる銀時を見ていたら、不思議と口の中に甘い味が広がった。ハチミツの芳醇な香りにゴクッと唾を飲む。お腹まで小さくきゅぅっと鳴ってしまって、***は慌てた。そういえば昨日は晩ご飯を食べてない。最後に何かを口にしたのは一体いつだろう?考えこむ***の腕を大きな手が掴んで、ベッドに引きずり上げた。
「ぼけっとしてねぇでさっさと食えって***、お前腹ァ減ってんだろーが」
「うっ……じゃぁ、ちょっとだけ、いただきます」
ふたり並んでベッドの背もたれに寄りかかる。銀時が膝に乗せた皿からパンを切り取り、アイスと生クリームをたっぷりのせると***の口に運んだ。
「ほい、あーん」
「わゎっ、んむっ、……んんぅっ!」
口いっぱいに広がった甘さが、じわぁっと全身に染み渡った。おいしい!と瞳を輝かせて隣を見ると、銀時が得意げに「な?うめーだろ」と笑った。口元を手で押さえて、生まれて初めて食べるハニートーストをゆっくり噛みしめる。ハチミツの染みたパン、しっとりした生クリームとひんやりしたバニラアイス、こんなに美味しいスイーツは初めてだ。***が小さなひと口を味わっている間、銀時はばくばくと食べ進めながら口を開いた。
「そーだ、***、お前さぁー……もっとたらふく飯食って体力つけろよ。セックスの一発、ちげぇや、二発したくらいで意識飛ばしてたら、銀さんの相手できねーぞ。しっかりしろよなー」
「んぶッッッ!!?ゲホッ、ゴホゴホッ……なっ、なに言って、やだ、銀ちゃんが変なこと言うから、吹き出しちゃったじゃないですか!」
「あ?だってホントのことじゃねーか。終わるやいなや死んだみてーに寝ちまいやがって。あん時まだ抜いてなかったぞ、***の中から銀さんのチン」
「うわぁぁあ!!やややっ、やめてください!そーゆー卑猥なことをサラッと言うのはぁ!!」
「卑猥だろうがなんだろーが大事なことだから言ってんだっつーの!ガキができるよーなこと男にさせといて、テメェだけスヤスヤのんきに寝てんじゃねーよバカ!」
赤らんだ顔で***は「へっ」と固まって銀時を見上げた。もぐもぐと動く銀時の口の周りには生クリームがついて、小さな男の子みたいだ。食べものに夢中なふりをして、***から目を逸らしている。気まずい時やバツが悪い時の銀時はいつもそうだ。決して***の顔を見ずに唇を尖らせて、ふてくされた少年のようになる。
———いま、銀ちゃんを気まずくさせてるのは、私だ。もっと早く打ち明けるべきだったな。そうすれば銀ちゃんに、こんな無駄な心配をかけなくて済んだもん……
自分の体質を後ろめたく感じていたのが情けない。銀時はそんなことを気にする人じゃない。そう思ったら肩からストンと力が抜けた。
大丈夫だよ***、今が言う時だよ。そう奮い立たせて「銀ちゃん、あのね、聞いて欲しいことがあります」と言った声は、思った以上に穏やかだった。深刻に取られないように、なるべく気楽に。そう微笑んで口を開くと、こちらを向いた銀時と目が合った。
「銀ちゃん、私ね、前にお医者さんに……その、妊娠しにくい身体って、言われたんです」
告げている間、意外なほど心は乱れなかった。しっかりと銀時を見つめて、落ち着いて伝えられた。医者の言葉をそのまますべて打ち明けて「と、いうことなんです」と締めくくっても、銀時は何も言わなかった。視線も逸らさないから、***は気恥ずかしくなって「えへへ」と小さく笑った。
でもやっぱり少し悲しい———、と思った時には、言うつもりのなかった言葉が口をついて出ていた。
「結婚してるわけでもないのにおこがましいけど、私いつか銀ちゃんの赤ちゃんが欲しいなぁなーんて、ちょっぴり思ってました。でも難しいんだって……だから安心していいんだよ銀ちゃん。昨日のことで妊娠するなんて間違いは起こらないし、この先もそんなことで銀ちゃんを困らせたりしないから。何も問題ないから、心配しないでください」
「……ぇよ……」
笑いまじりの言葉を低い声が遮った。なんと言ったか分からずに「え?」と聞き返すと、赤い瞳にギロッと睨まれた。心底不満そうな銀時が、***を射抜くように見つめて口を開いた。
「問題なくねぇ、っつったんだよ……問題ねぇどころか、こちとら大問題なんですけど。***が妊娠しにくい?栄養が足りてねぇから?ふざけんなっつーのコノヤロォォォォ!!!」
「えぇ!?な、なんで怒るんですか!?」
「うるせー!!オラッ、コレでも食らいやがれ!!」
「んむむむっ!!?」
いきなり怒り出した銀時が***の口に、ハニートーストの大きなひときれを、ぎゅうっと押し込んだ。どうして!?と目を白黒させていると両肩をつかまれた。顔や腕にビキビキと血管を浮かべた銀時が、***を見下ろして怒鳴るように言った。
「***、お前、勘ちがいしてっから!俺が!いつ!ガキができたら困るなんて言った!?んなこと、ひとことも言ってねーだろーが!!ったく、どいつもこいつも人を無責任な野郎扱いしやがって……ちっせぇ***がちっせぇ赤ん坊産んだところで、そんなん面倒でもなんでもねーし!こちとら社長だし!今でもでけぇガキふたりと、バカでけぇ犬の世話してるしぃ~~~!!テメェの女とガキの責任取るくらい朝飯前、いや朝飯前に二度寝するくらい、余裕だっつーのぉぉぉ!!!」
「んぐぐぅっ……!!?」
口いっぱいに頬張っていて***は言葉が出ない。銀時がまるで「子どもができても良い、むしろ欲しい」と言ったように思えて驚いた。困惑する***の両ほほを、大きな手がガシッとつかむ。そして異様なまでに真剣な声色で尋ねた。
「ガキは難しいって……そう言われたんだよな?出来ねぇじゃなくて難しいって、そうとう努力しなきゃ無理だって……***、そう言われたんだな?」
唖然としたまま***がコクンと頷くと、銀時は「はぁー」と深いため息をついた。「このバカチンが」と言って***のほっぺたを指でむにゅむにゅと押した。うぐぐと苦しがる***を見つめた赤い瞳はもう怒ってなくて、いつもの気の抜けた眼差しだった。
「そんじゃァ、努力すりゃいいだろ。何度だって俺ァ頑張ってやるよ。やるっつーか、ヤッてやるよ。ガキができるまでヤりゃいいだけじゃねーか……っつーか***さぁ~……そーゆー大事なことはもっと早く言ってくんね?知ってたら昨日だって2回じゃ済まさなかったっつーの!ひっぱたいてでも無理やり起こして、もう何回戦かしたっつーのによぉぉ~!!」
「ん゛ん゛っ!!?んぐっ……は、ぁ、んなっ、なに言ってるんですか!?だって、お医者さんが無理って、」
「無理じゃねーよ***」
「っ………!!」
ようやく口の中の物を飲み込み、***は慌てて問いただしたけれど、銀時の静かな声で制された。恥ずかしすぎる話題にほっぺたが熱いのに、それを包む大きな手のひらが熱くて、なぜだか泣きたくなる。そして耳に入ってきた銀時の声が、予想もしないことを言った。
「無理だなんて誰にも言わせねーよ。お前、俺のガキが欲しいんだろ。大好きな銀さんの子どもだぞ?それをそんな簡単に諦められんのか***?諦められねぇだろ?諦められねぇからお前は俺に、ゴムすんなって言ったんじゃねーの?あと俺、あん時もう決めたから。このさき一生セックスする時は生でするって。どーせ***しか抱かねぇし、どーせ抱くなら、」
そこまで言った時に、***のほほを包んだ手の親指だけが動いて、唇の端を撫でた。そこについていた生クリームをぬぐって、銀時は自分の口に運んだ。舌でペロリと舐めとる仕草が艶っぽくて、***は「ひっ」と動けなくなった。ほほから離れた手が***の肩に触れて、胸とお腹の上をするする降りると、お臍の下あたりで止まった。そこをさわさわと撫でられ、驚いて離れようとしたら、もう一方の手で腰を引き寄せられた。鼻先が触れるほど顔を寄せた銀時が、バスローブの上から***の下腹部をさすって言葉を続けた。
「……どーせ抱くなら***のここに、俺のをたんまり出して、ぜってぇ孕ませるって決めたから。お前が嫌だって言っても、泣いて逃げても諦めねぇから。風呂入ったんなら、もう見ただろ?昨日、***のここに2回もぶちまけられた、銀さんの濃ぉいザーメンをさぁ~?」
「~~~~~っ!!ぎ、銀ちゃん、だからっ、そういう卑猥なこと言うのはやめてってば!!」
「やめねぇよ。卑猥だろうが大事なことだってさっきから言ってんだろ。***さぁ、照れてねぇで頭使ってよく考えろ。ガキができねぇっつった医者とガキ作る気満々の銀さん、どっちが正しいと思う?お前のこと何も知らねぇヤブ医者と、***のことなんでも知っててセックスもしたことある俺の、どっちをお前は信じる?なぁ、答えろよさっさと」
「っ……そ、な……そんなの……」
分かりきった答えをわざと訊く銀時が恨めしい。でも敢えて言わせるのが銀時の優しさだと分かっているから、狂おしいほど胸が締め付けられた。どんな時だって銀ちゃんは私に希望を持たせてくれる。そんな事とっくに知っていたのに。そう思うとじわっと熱くなった瞳が涙ぐんだ。黒いシャツの胸元を両手でぎゅっと掴んで、すがりつくように銀時を見上げた。ようやく吐き出した声は震えてか細かった。
「ぎ、銀ちゃんを信じたい……私、銀ちゃんの、赤ちゃんが今でも欲しいです。いつか私がお母さんになって、銀ちゃんがお父さんで、万事屋の皆と暮らしてて、そんないつかを、いつでも夢に見てます。お医者さんに無理って言われても、そんな未来をずっと、私っ……」
蚊の鳴くような声でも十分伝わった。銀時が***の背中に手を回して、シャツを掴む腕ごとすっぽり抱きしめた。その力がどんどん強まるから息苦しい。銀時の肩にあごをのせて「銀ちゃん」と呼ぶと、耳元で響いた声は少しかすれて、でも力強かった。
「……***、それが俺たちにふさわしい未来なら、絶対に守んなきゃなんねーだろ。俺たちにしか掴めねぇ幸せを、俺たちが捨てるなんて許されねぇ……そうだろ***、そうだって言えよ」
それを聞いた瞬間、***の脳裏に見たことのない未来が、走馬灯のように駆け巡った。胸に小さな赤ちゃんを抱いて「私はこの子を一生守る」と思っていた。すぐ隣に銀時がいて、当然のように***の腕から赤ん坊を抱き上げた。そんな銀時を新八が心配そうに見ていた。神楽が私も抱っこしたいと銀時の腕を掴んだ。赤ちゃんの柔らかな髪は美しい銀色だった。面映ゆい表情の銀時がこっちを見て「おい、***」と優しく呼びかけた———、息を飲むほど幸せな、そんな未来だった。
零れる寸前の涙を***はぐっと飲み込んだ。この涙はいつか今見た未来に追いついた時の為に取っておく。
そして息をひとつ深く吸うと力強い声で答えた。
「そう、そうですっ……銀ちゃんの言う通りです。私も絶対に守りたい。だから銀ちゃんを信じて頑張る……私、お医者さんが思うよりずっと努力します!」
その答えに銀時は満足げに「よし」と言った。そして背中をポンポンと叩いてから、ゆっくりと身体を離した。でも努力って何をすれば?と考え込んだ***の目に、シーツに置かれたお皿が飛び込んでくる。ハニートーストはまだ少し残っていた。
もっと食べて体力をつけろと銀時は言った。栄養が足りないと医者は言っていた。それならまずはこれを食べようと膝に抱えて、フォークを拾った***の手を銀時が掴んで止めた。
「オイコラ***、お前なに勝手に食おうとしちゃってんの!?それ俺のハニトーだから!まだ食いかけだから!!」
「えぇっ!?これ私のじゃないんですか!?だって、この「おめでとう」は「***おめでとう」って意味って、銀ちゃんが言ってたんですよ?だ、だから……食べてもいいでしょう?」
「はぁあ!?俺そんなこと言ったっけ!?あ゛~~~……ったく、しょーがねぇな、じゃぁホラ、食えよ」
自分で食べると言っても銀時は聞き入れずに、奪い取ったフォークで切り取ったパンを***の口に運んだ。ホイ、あーん、もぐもぐ、ごくん、あーん、もぐもぐ、ごくんを何度も繰り返す。そして最後にチョコで書かれた「おめでとう」の文字をこすり取ったひときれが、***の口にむぎゅっと押し込まれた。
「はぁ……ごちそうさまでした」
満たされて手を合わせた***の頭に、大きな手がポンッと乗る。強く撫でられて髪がぐしゃぐしゃになった。やめてよ、と笑っていたら、急に肩を掴まれて、ぐんっと後ろに押し倒された。
「うわぁあっ!?ぎ、んちゃんっ!?」
「んー、なにー?」
「な、何って、銀ちゃんこそ何ですか?私、もう眠くないです。お風呂も入ったし、もう着替えなきゃ。そろそろ帰らないと」
「はぁ~?なぁ~にふざけたこと抜かしてんだよ***~、お前が言ったんだろーが、努力するって……銀さんのハニトー横取りして食っといて、風呂も入ったしもう帰る?いやいやいやいや……そんなん許されねぇって」
「え、それってどういう、んぅっ!?」
覆いかぶさった銀時が***に深く口づけた。生クリームと蜂蜜の味の残る唇を、はむはむと柔く噛む。さし込まれた舌でほほの内側をゆっくりと舐められたら、「ふぁ」とおかしな声が出てしまった。
キスで終わりそうにない雰囲気に***は慌てた。抵抗しようと脚をばたつかせたらベッドがギシギシときしんだ。脚の間に銀時の膝が割り込んでくる。丈の長いバスローブの裾がめくれて、隙間から入ってきた手が***の膝をつかんだ。汗ばんだ手が太ももの裏をのぼって、最後はお尻をむにゅっと揉みしだいた。知らぬ間に腰紐を解かれてローブが開くと、あっという間に下着だけの素肌が露わになった。
「やっ、ぁ、んぅっ、ふ、ぁあっ……!」
のしかかってくる硬い胸を、***は必死で押し返した。しかしその手首を掴まれて、両腕をベッドに抑えつけられてしまう。舌をきつく絡め合って、のどの奥まで入られたら口端から唾液が溢れた。息苦しくて涙ぐんだ***が、声にならない声で「銀ちゃん」と呼んだ直後、銀時は「はぁっ」と呼吸を乱しながら唇を離した。
「よく寝て疲れもとれて、腹いっぱい食ったんだから、あとする事っつったらひとつしかねぇだろ。昨日みてーに銀さんと楽しもうじゃねーか、なぁ?」
「だだだだだ、ダメだよ銀ちゃん!だってもう朝だし……あの、な、何だっけ、ちぇ、チェックアウトでしたっけ?しないとお金がかかっちゃうから、」
「ぶははっ!お子ちゃまな***ちゃんは知らないでちゅよねぇ~。こーゆーラブホは夜中に入ると宿泊になるんですぅ~。だから今帰っても昼に帰っても同じなんですぅ~~~。なぁなぁ、いーだろ***~、めいっぱい気持ちよくしてやっからぁ。それにお前だって、ちょっとその気になってんだろ?よくばりだもんな、***はぁ」
「なっ……!!」
なってない、という言葉が出なかった。昨晩以上に欲情した赤い瞳と見つめ合うせいで。唇と舌にキスの名残があるせいで。銀時の熱い手のひらで下腹部をじっとりと撫でられたら、突かれた時の感覚を思い出して胸元までかぁっと赤くなった。恥ずかしさとは別の熱が身体の奥で生まれた。覚えたばかりの快感を、身体がもう一度求めていた。
「~~~~~っ、ぎ、銀ちゃんの、馬鹿ぁ……き、昨日までは、私……こんな、よくばりなんかじゃ、なかったのに……」
泣きそうなほど赤い顔で、***は銀時の首に腕を回した。たくましい首筋に、ほっぺたを遠慮がちにすりよせたら、ははっと嬉しそうな笑い声がした。熱くて大きな手が後頭部からうなじまでを優しく撫でた。
「***はよくばりだよ……よくばりで、やらしくて、俺好みのすげぇいい女ぁ……」
熱い吐息と一緒に耳元で囁かれたら、何も止められなくなった。低い声が途切れた直後、銀時が***の耳をガブッと噛んだ。それだけで重く痛んでいたはずの腰がビリビリと痺れて反りかえる。降参した***は全てを銀時にゆだねて、まだぬくもりの残るシーツに沈んだ。
「は、ぁ、***っ……」
「っ……ぎ、ちゃ……ぁあっ!」
日が高くなっても銀時は***を求め続けた。それに応えるのに必死で、***は時間の感覚を失った。ただ赤い瞳を見つめて繋がっているのが、狂おしいほどの幸福で。ベッドがギシギシときしむ音が部屋中に響き続けたが、それすらふたりの耳に入る余地はなかった。
———***、ずっとお前のナカに居たい
———銀ちゃん、離さないでこのままずっと
その言葉どおり銀時と***はくりかえし抱き合って、より奥深くに互いを刻み続けた。
この先の未来を、ふたりはまだ知らない。
腰が立たなくなって銀時に抱えられてホテルを出る恥ずかしい未来を、***はまだ知らない。
翌朝ふらふらで出勤した***を見た牛乳屋の主人に、ボコボコに殴られる未来を、銀時はまだ知らない。
やがて愛しい命に出会う未来がふたりに訪れることを、今はまだ神さましか知らなかった。
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【(**)くるおしさ】
"Room No.1010" (おまけ / end)
あなたと歩む世界は息を飲むほど美しい