銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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※※※大人向け/やや注意※※※
☆若干ですが大人向けな表現があります
☆ぬるいですが性的描写を含む為、苦手な方はお戻りください
【(38)やさしさ】
半年前と変わらずホテルの自動ドアはスムーズに開き、そして閉まった。あの大雨の夜、銀時と知らない女性がここにいるのを***は呆然と見ていた。
まるで昨日のことのように思い出せる。雨でびしょ濡れで恥ずかしかった。悲しくて情けなかった。でも、それ以上に必死だったのは、銀時を失いたくなかったから。引きとめる以外にどうすればいいのか分からなかった。それでも***は銀時を追いかけるのに微塵も迷わなかったし、手放したくないとなりふり構わなかった。
そして今、同じ場所に銀時と立っている。
自動チェックイン機と睨めっこする銀時が「はぁ~?あんだコレ、どーやんだっけ?っつーか俺、コレやったことなくね?」とぶつぶつ言う。その横顔を見つめながら、***の胸は不安に押しつぶされそうになった。
———ど、どうしよう、もしかしたら私、早まりすぎたかなぁ。帰りたくないなんて言われて、きっと銀ちゃん困ってるよね。それに、銀ちゃんの気持ちも聞かずに「そーゆーことしたい」なんて言ったの、ものすごく迷惑だった気がする……
自分から行きたいと言ったのに、どうやってここまで来たのか思い出せない。ぐいぐいと腕を引っ張られ、ずんずんと前を行く銀時の背中ばかり見ていた。てっきり銀時は忘れたと思っていたホテルに、気づけば辿りついていて、入り口の暖簾をくぐった途端、ほんとに来ちゃったと***は冷静になった。
「ほらよ、コレだろ、***のお望みのモンは」
「え?あっ……」
手のひらに落とされたカードキーには「No.1010」の文字。それを見てぼんやりしていたら、銀時はひとりでエレベーターの方へと歩いていってしまった。離れていく後ろ姿にはどこか***を突き放すような雰囲気があって、ねぇ銀ちゃんは本当にいいの?と聞こうとした言葉が、のどに詰まって出せなかった。
慌てて乗り込んだエレベーターが上昇すると、脚がおぼつかなくなる。高所へと向かう恐怖が***を包み、足元から浮遊感がぞわっと上ってきた。ふらつきながら銀時に手を伸ばし、凛々しい腕にぎゅっと抱きつく。
ひっ、と小さな悲鳴を漏らして見上げたら、目を見開いた銀時が「オイッ」と怒ったような声を出した。
「ごめ、銀ちゃん、私っ、こ、怖くてっ……」
「あ゛ー………っんだよ、クソッ!」
青ざめてすがりついていたら、チッと舌打ちをした銀時が急に***の両肩をつかんだ。強い力でぐんっと押されて、後ろの壁に抑えつけられる。驚いて「きゃっ」と上げた声は、かぶり付くように口づけてきた唇に、あっという間に飲み込まれてしまった。
「んんぅっ……!?」
雄々しく硬い身体と壁の間に挟まれて、***は自然とつま先立ちになる。あごをつかまれて顔を上に向けられて、親指で唇をくいっと開かれた。至近距離の赤い瞳に映る***は、きょとんと呆けた顔をしていた。
「っ、ぅん、ぁッ……、はぅっぁ」
するんとなめらかに入ってきた舌は、触れたところから溶けそうなほど熱い。その高い温度で狭い口のなかがいっぱいになった。遠慮なくノドの奥まで入ってきた舌の、尖った先端だけがやけに繊細に動く。上あごの粘膜を舌先でこちょこちょとくすぐられたら、それだけで***の肩がびくんっと跳ねた。キスだけで反応してしまうのが恥ずかしくて、顔がカァーッと熱くなった。
「……***っ、」
「ひ、んぁッ……!」
一瞬だけ離れて名前を呼ばれたが、下唇をはむっと甘噛みされて銀ちゃんと呼び返せない。再びねじ込まれた分厚い舌で、歯列を奥から手前になぞられて息もできなかった。***はされるがまま情熱的な口づけを受け入れ、ふらつきながらも必死に背伸びをして銀時の肩につかまっていた。
「ん゛んっ、んぅッ——、いッ……!!」
ほほの内側の傷をざらついた舌がかすめて、チクッとした鈍い痛みが走った。薄っすらと鉄の味が広がって身体がこわばる。それに気づいた銀時が眉をしかめてパッと唇を離した。まつ毛が触れ合うほど近くで***を見つめた顔は不機嫌そうだったが、その声は全然怒っていなくて、むしろ困っているように聞こえた。
「ったくよぉ~……こんなホテルのこんな場所で、目ぇ潤ませて男を誘うテクなんて、お前いつの間に覚えたんだよ。銀さん***に教えてねぇんだけど?危うく部屋まで待てなくなっちゃうとこだったでしょーがぁ……今さら怖ぇとか言われても、もう遅ぇから。お前が来たいっつったんだろーが。それにもうチェックインしちまったっつーのぉー……」
「ちが、ぎ、銀ちゃん、怖いって言ったのは、そーゆー意味じゃなくってただ足が……って、へぁあ!?」
急に調子はずれの声が出たのは、太ももに感じた異物感のせい。キスの間もずっと、そこに硬い何かがぐりぐりと当たっていた。何だろうと反射的にうつむいて、それが銀時の下腹部の硬くなっている部分だと気づいた***は、脳天から湯気が出るほど真っ赤になった。
———銀ちゃんも、したいんだ……
沸騰した頭の片隅でそう思う。赤い瞳がイラだって見えたのは間違いで、欲情と興奮が渦巻いていた。それに気づいた***がハッと息を飲んだ瞬間、チンッ!と音を立ててエレベーターの扉が開いた。
「オラ、とっとと行くぞ」
「わっ、ま、待ってよ、銀ちゃん!」
引きずるように連れてこられた部屋の扉に、記憶と同じNo.1010の数字。あの夜と同じように、あぁ銀ちゃんのお誕生日だ、と***は悠長に思った。
早くしろと急かされて、震える手でカードキーを差し込む。扉が開くと腕をつかまれて引き込まれた。銀時の背中越しにうす暗い部屋とベッドがチラッと見える。あの夜の記憶が脳裏にぱっとよみがえった。
そういえばあの時、ドアが閉まるや否や銀時が覆いかぶさってきた。痛いほど強くほほに噛みつかれて、ベッドに押し倒された後は首や胸元にも同じようにされた。ふくらはぎや太ももをまさぐられ、濡れた唇で耳にも吸いつかれた。身体を這う手の感触や唇の温度、キスをした時の雨の香りさえ、記憶の中で鮮やかだった。
———もしかして、同じこと、され、る……?
ぎくりと固まった***の脳内で、想像がどんどん広がる。ドアに抑えつけられてキスをされる?もしくはベッドに直行?浴衣も下着も乱暴にはぎ取られる?
銀時の前であられもない姿をさらしている自分が見えて、心臓がバクンッと鳴った。ああ、どうしよう!と思いながら両手を握って身構えた***の背後で、パタンッと扉が閉まった。
「ぁっ……、」
石のようにカチコチになって立ちすくむ***を、銀時が横目でちらりと見た。大きな手が頭にポンッと乗り、後頭部を優しく撫でて離れていく。それ以上は触れずに、銀時は廊下を進んで部屋の奥へと行ってしまった。
「ぎ、んちゃん……?」
ダルそうな足取りで歩いていった銀時が「はぁぁ~」と深いため息をついて、ベッドの縁に腰かける。頭をガリガリと掻きながら部屋を見まわした。つられて***もぐるりと視線を動かした。間接照明で淡く照らされた部屋には、ソファと大きなベッドがあるだけ。
———こんなお部屋だったっけ……?なんだかあんまり思い出せない。あの時は銀ちゃんのことで頭がいっぱいで、周りを気にする余裕がなかったから。ずっと銀ちゃんのことを見つめて、ずっと銀ちゃんの腕のなかにいたから……
それを思い出したら、ベッドに座る銀時との距離がひどく遠く思えた。この期に及んでまごついている自分がたまらなくもどかしい。
「銀ちゃんッ……えぇっと、そ、そのっ、」
口ごもりながら廊下を進む。ここまで連れてきてもらったのだから、自分から行動すべきだ。恥ずかしさも怖さも超えて、もっと銀時に近づきたい。思い切って***は浴衣の帯をつかむと引き抜こうとした。力を入れて引いた細帯が、シュッと空気を切るような音を立てた。ぼけっとした銀時と目があって、何か言わなければと***は口をあわあわとさせた。
「ま、待ってね銀ちゃん、今、ぬ、脱ぎますからっ!やだ、帯が絡まっちゃって……あっ、先にシャ、シャワー浴びた方がいいのかな!?こここ、此処がバスルームでしたっけ!?違うこれ冷蔵庫だっ!!」
「ぶはっ!!!」
両目をぐるぐると回して赤面しながら慌てていたら、銀時が吹き出した。風呂場と冷蔵庫を間違えるヤツは初めて見た、と呆れたように言う。「うぅっ」と悔しげに冷蔵庫のドアを閉めた***に向かって、微かに笑った銀時が片手を伸ばして、手のひらを差し出した。
「こっちおいで、***」
「え……?」
さっきまでとは一変して、やけに優しくて静かな声だった。おいで、なんて銀時が言うのは珍しくて、***は戸惑ってしまう。
「で、でも、お風呂は、」
「いーから、早く来いって、ほら」
ほれほれ、と上を向いた手のひらが揺れる。そこに***が手をおずおずと載せたら、腕をゆっくりと引かれた。ベッドに腰かけた銀時と向かい合って立つ。
枕元のサイドテーブルには箱があり、四角い小さな包みがいくつも置いてあった。
それが何か気づいた***は「っっ、」と息を止め、真っ赤な顔でそこから目を逸らした。何も言わずにじっとしていたら、急に銀時の両腕が腰にするりと回った。引き寄せるように強く抱きしめられる。
「わゎっ、銀ちゃん、ど、したの?」
銀時が胸元に顔を押し付けるから、うつむいても銀色の頭のてっぺんしか見えない。お腹を締め付けられてちょっと苦しい。***が困惑していると銀時の息で胸が温かくなり、同時にぼそぼそとした声が聞こえた。
「………ぇ……」
「え、な、なんですか?」
「はいりてぇ……俺は***んなかに入りてぇ……」
「っ……!!」
かすれた声で言われた言葉に、***は息を飲んた。
入りたい、がどういう意味かは分かる。ついさっき太ももに感じたあの硬さを、奥まった所に受け入れるのを想像したら、羞恥と恐怖が一緒にやってきて身体がきゅうっと縮こまる。けれど同時に、銀時に求められることが嬉しくて心臓がトクトクと高鳴った。
「ぅ、うん、いいよ銀ちゃん……ほんとのこと言うとね、前にこのお部屋に来た時に銀ちゃんに……その、し、してもらえば良かったって思ってます。そうすればこんなに待たせなくて済んだから」
小さな声でつぶやきながら、***は銀色の髪をそっと撫でた。鈍い照明でも銀時の髪はキラキラと光って綺麗だ。指先に絡まるくせっ毛にぼうっと見とれていたら、いつの間にか顔を上げた銀時が***を見ていた。
「そういやぁ、あん時もお前は、んなこと言ってたっけなぁ……俺にさんざんいじめられても全然へこたれねぇで、自分から着物脱いですけすけの恰好になって、銀ちゃん抱いてぇってすがりついてきやがった」
「そ、そうでしたっけ?そんなにあけすけだった?必死だったこと以外、私あんまり覚えてないんです」
「はぁ?忘れてんじゃねぇよ***。あん時オメーは俺に、私を大人にして下さいっつったんだ……んで、この半年かけて、俺はお前をちゃんと大人にしたじゃねーか。めっさ時間かかって銀さんツラかったんですけど。我慢すんのごっさ苦しかったんですけどぉ。だからさ、***、お前今度は大人になるんじゃなくて……」
そこまで言ってふと口をつぐんだ銀時が、片腕で***の腰を引き寄せ、もう一方の手をほほに添える。包みこむ温かさが心地よくて、***は首をかしげて銀時の手に顔を預けた。まぶしいものでも見るように瞳を細めた銀時が口を開くと、低くて静かな声で言った。
「大人じゃなくて俺のもんになって。***の身体も心も全部、俺の、俺だけのもんにさせて……お前が嫌だって言っても俺はもう、我慢できそーにねぇから」
「っ……銀ちゃん……」
あまりの嬉しさで胸がいっぱいになり、言葉が見つからない。ほほを包む手に小さな手を重ねて、こくこくと何度もうなずいたら目に涙がじわっとにじんだ。泣くまいとこらえたら眉間にシワが寄っておかしな顔になって、銀時が「ははっ」と笑った。
腰に絡まったままの細帯を解かれて、帯が床に落ちると同時に襟の中に手が入ってきた。浴衣が肩からするりと抜けていって、長襦袢だけで銀時と向かい合ったら、おぼろげな記憶が戻ってくる。
淡い思い出を探るように、***は銀時の手をそっとつかんだ。か細い声が震える唇から勝手に漏れていった。
「銀ちゃん……私を銀ちゃんのものにしてください」
「っ……!!」
両手でつかんだ銀時の手を、***は自分の胸に押し付けた。ささやかな膨らみは、いつかの夜と同じように大きな手にすっぽりとおさまる。驚き顔の銀時が何も言わずに胸をじっと見つめるから、いたたまれなくなった。手のひらを押し当てた乳房の下で、心臓がバクバクとうるさく鳴った。恥ずかしさで首まで赤くなって、緊張した***の膝はカタカタと震えはじめた。考え込むように黙っていた銀時が、急に指を動かしてむぎゅっと胸を揉みしだいた。え、と***が驚くと、いつもの銀時の気の抜けた声が響いた。
「なぁ、***さぁ、もしかして胸デカくなった?」
「え……、ほ、本当にッ!?」
「嘘に決まってんだろ」
「なっ、~~~~っひ、ひどい!銀ちゃんの馬鹿!!」
ゲラゲラと笑う銀髪頭を、両手でぽかぽかと叩く。イテイテと言いながら銀時は、***の腰をつかんで軽々と持ち上げた。ぐるんっと視界が回って、わぁっと声を上げた時にはもう背中がベッドに沈んでいた。馬乗りになった銀時の手が脇腹に伸びてきて、こしょこしょとくすぐられた***は「きゃぁぁあ!」と笑い声をあげた。
「ひゃははははッ!んやぁっあ!ちょ、っと、銀ちゃっ、や、やめ、く、くすぐったいぃぃ~~~!やだぁああっ!!」
あまりのくすぐったさに涙が出る。両足をばたつかせたら裾が乱れて太ももまで露わになった。やだやだと頭を振ったら簪が抜けて、長い髪がぱらぱらとシーツに広がっていく。銀時の手が止まった時には、笑いすぎて呼吸が荒くなっていた。はぁ、っと息をついて「何するんですか」と言った***に、身をかがめた銀時が顔を寄せる。唇の端を上げて見下ろす表情はどこか得意げだった。
「やぁ~っと笑ったな、***……ったく、いつまでもガチガチに緊張しやがって、触ろうにも触りにくくてしょーがねぇっつーの」
「あっ、う、ご、ごめん……」
唖然とした***を柔らかなまなざしの赤い瞳が見下ろす。心臓がギュッと痛いほど締め付けられた。いつかの夜、銀時に「優しくして下さい」と頼んだことを思い出して、自分はなんて愚かだっただろうと***は後悔した。
———銀ちゃんは、出会った時からずっと優しかった。銀ちゃんが私に優しくなかった時なんて、今までに一度だって一秒だって無かった……
「すき、銀ちゃん……大好きです」
溢れた思いが勝手に唇から零れていくのを、銀時の唇が受け止めた。「ん、」と漏れた声もかき消えて、大きな手が髪をさらさらと撫でる音と、唇同士がやさしく触れ合う音だけが***の耳を支配した。
噛みつくような力任せのキスではなかった。ちゅ、ちゅ、と小鳥が餌をついばむみたいに小さな音を立てて、柔らかな温もりが唇の上を移動していく。もっと深く触れ合いたくて***が薄く口を開いても、銀時は舌を入れてこなかった。
「っ、ふぁ、ん……っぎ、んちゃ……?」
「……***、あの野郎にキスされてねぇよな」
「へっ!?さ、されてないよ!!」
「ふーん、あっそぉ~……」
唇を離した銀時は不満げで、横たわる***のはだけた胸元や華奢な首を探るようにじろじろと見た。疑うような視線を肌に感じた途端、数時間前のことを思い出した。銀時以外の男がそこに触れて、口づけたり舐めたりした。その事実が***の背筋をぞっと凍らせる。
———そうだ、私、汚れてるんだった……!
「ま、待って、銀ちゃん、私シャワー浴びてくる!」
「あ゛ぁ?そんなん待ってられっかよ」
慌てて飛び起きようとしたが、のしかかられて動けない。襦袢の襟元が引っぱられてぱっくりと開き、肩まで露わになる。帽子の男に舐められた鎖骨や胸元が汚らわしくて、そんな身体が銀時の目に映ることが***は後ろめたくて仕方がなかった。
「でも、よご、汚れてるからっ!」
「なんで?アイツに何されたんだよ?気にしないで言えよ***、俺は別に怒らねぇから」
怒らないと言うのにその声には少しトゲがある。
骨ばった指が鎖骨のくぼみに沿って、肩までを優しく撫でていった。唇を噛んで言いよどんでも逃れられない。瞳に溢れそうな涙をためて、***は震える声で言った。
「ちょ、ちょっぴり、だけど、あの人に触ったりされて……だから、き、汚いから、」
せめて洗い流したいと言っている途中で、銀時が首に口づけてきた。「ひゃあ」と高い声が上がる。吸い付くようなキスをされて、耳のすぐ下にチクッとした痛みが走った。銀時の熱い息が髪に当たるだけでくすぐったくて、おかしな声が出そうになる。
ぬるついた舌があごの下からのど仏を伝っていく。肌にぴたりとくっついた唇が、首の横筋を上から下へ。首元のいくつかの切り傷が、舐められてわずかに痛む感覚さえ、身体の奥を熱くさせた。
「ここを、アイツに触られたんだな?なら尚更、シャワーなんか浴びさせるかっつーの」
「や、銀ちゃっ……あっ、ひぁあ!?」
鎖骨の始まりから肩までべろりと舐められて、こそばゆい感覚に***の腰が浮き上がる。舌を押し付けられていたのが、やがて唇で吸いつかれ骨に沿って歯を立てて、最後は肩の丸みにガリッと歯形を残された。
唾液まみれになった首元から、てらてらとしたよだれが胸の谷間へと垂れていく。銀時の手がせわしなく動いて、襦袢の腰紐が解かれ開かれると、イチゴ柄のブラとショーツが丸見えになった。
「あっ、や……ぎん、ちゃ……」
「胸は……***、胸も触られた?」
耳元で問われても答えられない。しかし一瞬交わした視線に気まずさが混じって、それだけで全て伝わった。下着の上から乳房をつかんだ銀時の手に、ぎゅうっと力が込められた。
「っくしょぉぉぉ……」
「ゃっ、ぁあッ———!」
ギリッと歯を噛しめる音がした後、ごつごつした指がブラジャーのストラップをつかんだ。肩紐をするっと外されて下着がずり落ちる。ふるん、とこぼれた胸の膨らみを、銀時の手が迷うことなく包んだ。指先が食い込むほど強く、むにゅむにゅと揉みしだかれて、***は「あ、あ、」と情けない声を上げた。羞恥に赤く染まった胸元に銀時が身をかがめて、桜色の先端にちゅうっと吸いついた。
「ひっ、ゃぁあんッ……!んぅあッ、っ、」
「胸ぇ揉まれて、乳首も見られた?なぁ、***、そんでこーやって噛みつかれたりした?」
そんなことされてない。でも答える前にまた胸を食まれて、敏感な粒をきゅうきゅうと吸われたら、電流のような痺れが走って言葉が出なかった。ぴんっと硬くなった桃色の乳首をくにゅくにゅと噛まれて、耐えきれずに「あぁんっ」と恥ずかしい声を上げてしまう。
いつの間にか下着はお腹までずり落ちて、乳房が全てさらされていた。膨らみのひとつにむしゃぶりつかれ、もう片方も揉みしだかれて先端を指でこねられると、***の身体は震えるばかりで抵抗できずに、されるがままになった。
「~~~~っ、んぁッ、ぅあ……きゃぁッ!」
浮き上がる腰をつかまれて、くるんとひっくり返された。うつぶせになると腕から袖が抜けて襦袢が脱げた。背中に押しあたる物を感じた直後、留め具の外れたブラジャーがぽたっとシーツに落ちた。
「あっ、銀ちゃん、な、に……?」
「っんだよコレ、傷だらけじゃねーか」
後ろから***に被さった銀時が、長い髪を払って一糸纏わない背中を眺めた。うなじに唇の温もりとチクリとした心地よい痛みを感じて、背骨を甘い刺激が走る。
脇から差し込まれた手で乳房を揉まれ、もう一方の手で背中を撫でられる。古い傷と今日ついたばかりの新しい傷が入り混じる素肌を、銀時の唇が這っていった。
肩甲骨のでっぱりや背骨の曲線を舌でなぞられたら、はぁっ、と熱い吐息が漏れる。好きな人に触られる悦びで***は頭がぼうっとして、銀時の変化に気づくのに遅れた。だから急に背後で、低い声がぼそっとつぶやいた言葉を聞いた瞬間、心臓が凍りそうになった。
「やっぱりアイツ、ぶっ殺しときゃよかった」
「っっ……!!!」
驚いて飛びはねた***が仰向けに戻ると、銀時は苦虫を嚙み潰すような顔をしていた。しかめっつらで眉根を寄せて怒りに満ちている。困り切った***が言葉を失っていたら、胸から伝ってきた大きな手が首元にそっと触れた。そろそろと怖がるように動いた指が、ナイフの切っ先で付けられた些細な傷をひとつひとつ撫でていく。触られる***よりも、触っている銀時の方が痛そうな目をしていた。
「銀ちゃん、それ、もう痛くないですよ?」
「あのなぁー……痛いからダメとか、痛くねぇから大丈夫とか、そーゆーことじゃねーんだよ。そんくらい分かれよ馬鹿」
普段のダラけた顔が嘘のように、銀時は真剣な表情だった。不快感あらわにしかめた眉と瞳の距離が近くて、いつもとは別人のよう。***の頭のなかで誰かが「銀ちゃんって格好いいな」と能天気につぶやく。しかし、身をかがめた銀時が頬骨の上に口づけた瞬間、そんな呑気な考えは消えてしまった。
「い、痛ッ……!?」
「そーだろ、痛ぇだろ、ここ切れてっから。***にとって平気でも、俺にとっちゃそうじゃねぇ。大事な女の顔に傷つけられて、平気でいられる男なんざ馬鹿か腑抜けか、そのどっちかだよ」
下まぶたに近い頬の上のケガは、いつできたのか覚えてない。横長の切り傷をざらりと舐められて、かすかに血の匂いがたつ。涙ぐんで見上げた銀時は、嫌悪感に満ちた顔をしていた。
その瞳は***ではなく、***にケガを負わせた男を思い返していた。無抵抗になっても殴り続けるほどの強い怒りを、簡単に忘れられるはずがない。
遠慮がちに伸びてきた長い指が、怯えるようにそっと***のほほや唇の横の傷に触れた。見つめ合った銀時が誰よりもずっと傷ついているのを感じて、***の胸は痛いほど締め付けられた。
「おねがい、銀ちゃん……私、」
そこまで言って***は両手を伸ばすと、銀時のほほをつかんだ。くんっと首を持ち上げて「あ?」と驚いている銀時の唇に、自分の唇をふにっと押し当てた。
「はっ……!?」
おかしな声を上げた銀時は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。***からキスをするのは初めてで、どうすればいいのか分からなかった。
目を泳がせて迷いながらも懸命に唇をくっつけていたら、銀時の口が導くようにふわっと開いた。あまりに恥ずかしくて目をぎゅっとつむり、こわごわと舌を差し込んでいく。
小刻みに震える舌先で、歯列やほほの内側をチロチロとなぞる。まるで子猫がミルクを飲むようなたどたどしさで情けない。いつも銀ちゃんはどんな風にキスをしてくれるっけ?そう思いながら***は、必死で銀時にキスをし続けた。
「っは、ぁ、ぎ、ちゃっ……ったし、私、」
必死だったから唇を離した時には***の方が息が上がっていた。背中をシーツにつけて横たわった身体の横に、銀時が両手をつく。襦袢もブラも無くて胸が丸見えなことも忘れてしまった。何だよ、と言いたそうな銀時のほっぺたに両手を添えたまま、濡れた唇から***の震える声がこぼれた。
「お願い、銀ちゃん、私を見て、私のことだけ考えてください……今だけでいい、今夜ここにいる間だけでいいから。私は銀ちゃんのことしか見ない。銀ちゃんのことしか考えないよ。私の全部、銀ちゃんにあげるから、おねがいっ……」
「っ……、***ッ……!」
シーツと首の間に入ってきた手が、***のうなじをつかんで持ち上げた。細められた赤い瞳が近づいてきて、思い描く通りに口づけられた。今度こそためらいなく入ってきた舌は燃えるように熱くて、吐息まで飲み込むように深く触れ合うと、頭の奥がびりびりと痺れる。
「ふぁっ、んぅ、ぁっ……、」
「っは……好きだ、***、俺はお前が」
「ぎ、ぎんちゃ……!」
私も好き、と答えたくても濃密なキスがすぐに再開して、何も言えない。白い腕を銀時の首に回して、ぎゅうっと抱き寄せたら、くっついたままの唇が声もなくフッと笑った。うっとりとしながら見つめた赤い瞳はもう、***だけをじっと見すえていた。
しっとりと汗ばんだ首筋と腰を銀時の手が支えた。呼吸も唾液もまじりあうキスに、華奢な身体が痙攣して背中が弓なりに反りかえる。裸の乳房を押し付けることに、今さら恥ずかしくなった。ふわっと薄赤く色づいた***の耳に唇をくっつけた銀時が、脳まで溶けそうな甘く低い声で囁いた。
「俺は、***しか見えねぇ……***しか欲しくねぇよ、ずーっと前から。この小せぇ身体の頭のてっぺんからつま先まで、誰も知らねぇ奥の奥まで全部、欲しくて欲しくてたまらねぇよ」
うん、とうなずくのが精いっぱいで、***は温かい腕の中でじっと息をひそめた。ショーツだけの身体のあちこちを、大きな手が触れてゆっくりと開いていく。その手にはいつもどおりの優しさが宿っていた。
じっと見つめ合う赤い瞳、吐息まじりに名前を呼んでくれる声、触れ合う肌の温もりのすべてに***は沈みこんでいく。大好きな銀時に何もかもゆだねる幸福感に涙が出そうで、言葉はひとつも出てこなかった。
———私も……私も銀ちゃんに、早く私をあげたい
(この幸福のなかで、恐れるものは何もないから)
-----------------------------------------------------
【(38)やさしさ】end
"Room No.1010" (1)
ぬくもり満ちた腕の中で 私を呼びさまして
☆若干ですが大人向けな表現があります
☆ぬるいですが性的描写を含む為、苦手な方はお戻りください
【(38)やさしさ】
半年前と変わらずホテルの自動ドアはスムーズに開き、そして閉まった。あの大雨の夜、銀時と知らない女性がここにいるのを***は呆然と見ていた。
まるで昨日のことのように思い出せる。雨でびしょ濡れで恥ずかしかった。悲しくて情けなかった。でも、それ以上に必死だったのは、銀時を失いたくなかったから。引きとめる以外にどうすればいいのか分からなかった。それでも***は銀時を追いかけるのに微塵も迷わなかったし、手放したくないとなりふり構わなかった。
そして今、同じ場所に銀時と立っている。
自動チェックイン機と睨めっこする銀時が「はぁ~?あんだコレ、どーやんだっけ?っつーか俺、コレやったことなくね?」とぶつぶつ言う。その横顔を見つめながら、***の胸は不安に押しつぶされそうになった。
———ど、どうしよう、もしかしたら私、早まりすぎたかなぁ。帰りたくないなんて言われて、きっと銀ちゃん困ってるよね。それに、銀ちゃんの気持ちも聞かずに「そーゆーことしたい」なんて言ったの、ものすごく迷惑だった気がする……
自分から行きたいと言ったのに、どうやってここまで来たのか思い出せない。ぐいぐいと腕を引っ張られ、ずんずんと前を行く銀時の背中ばかり見ていた。てっきり銀時は忘れたと思っていたホテルに、気づけば辿りついていて、入り口の暖簾をくぐった途端、ほんとに来ちゃったと***は冷静になった。
「ほらよ、コレだろ、***のお望みのモンは」
「え?あっ……」
手のひらに落とされたカードキーには「No.1010」の文字。それを見てぼんやりしていたら、銀時はひとりでエレベーターの方へと歩いていってしまった。離れていく後ろ姿にはどこか***を突き放すような雰囲気があって、ねぇ銀ちゃんは本当にいいの?と聞こうとした言葉が、のどに詰まって出せなかった。
慌てて乗り込んだエレベーターが上昇すると、脚がおぼつかなくなる。高所へと向かう恐怖が***を包み、足元から浮遊感がぞわっと上ってきた。ふらつきながら銀時に手を伸ばし、凛々しい腕にぎゅっと抱きつく。
ひっ、と小さな悲鳴を漏らして見上げたら、目を見開いた銀時が「オイッ」と怒ったような声を出した。
「ごめ、銀ちゃん、私っ、こ、怖くてっ……」
「あ゛ー………っんだよ、クソッ!」
青ざめてすがりついていたら、チッと舌打ちをした銀時が急に***の両肩をつかんだ。強い力でぐんっと押されて、後ろの壁に抑えつけられる。驚いて「きゃっ」と上げた声は、かぶり付くように口づけてきた唇に、あっという間に飲み込まれてしまった。
「んんぅっ……!?」
雄々しく硬い身体と壁の間に挟まれて、***は自然とつま先立ちになる。あごをつかまれて顔を上に向けられて、親指で唇をくいっと開かれた。至近距離の赤い瞳に映る***は、きょとんと呆けた顔をしていた。
「っ、ぅん、ぁッ……、はぅっぁ」
するんとなめらかに入ってきた舌は、触れたところから溶けそうなほど熱い。その高い温度で狭い口のなかがいっぱいになった。遠慮なくノドの奥まで入ってきた舌の、尖った先端だけがやけに繊細に動く。上あごの粘膜を舌先でこちょこちょとくすぐられたら、それだけで***の肩がびくんっと跳ねた。キスだけで反応してしまうのが恥ずかしくて、顔がカァーッと熱くなった。
「……***っ、」
「ひ、んぁッ……!」
一瞬だけ離れて名前を呼ばれたが、下唇をはむっと甘噛みされて銀ちゃんと呼び返せない。再びねじ込まれた分厚い舌で、歯列を奥から手前になぞられて息もできなかった。***はされるがまま情熱的な口づけを受け入れ、ふらつきながらも必死に背伸びをして銀時の肩につかまっていた。
「ん゛んっ、んぅッ——、いッ……!!」
ほほの内側の傷をざらついた舌がかすめて、チクッとした鈍い痛みが走った。薄っすらと鉄の味が広がって身体がこわばる。それに気づいた銀時が眉をしかめてパッと唇を離した。まつ毛が触れ合うほど近くで***を見つめた顔は不機嫌そうだったが、その声は全然怒っていなくて、むしろ困っているように聞こえた。
「ったくよぉ~……こんなホテルのこんな場所で、目ぇ潤ませて男を誘うテクなんて、お前いつの間に覚えたんだよ。銀さん***に教えてねぇんだけど?危うく部屋まで待てなくなっちゃうとこだったでしょーがぁ……今さら怖ぇとか言われても、もう遅ぇから。お前が来たいっつったんだろーが。それにもうチェックインしちまったっつーのぉー……」
「ちが、ぎ、銀ちゃん、怖いって言ったのは、そーゆー意味じゃなくってただ足が……って、へぁあ!?」
急に調子はずれの声が出たのは、太ももに感じた異物感のせい。キスの間もずっと、そこに硬い何かがぐりぐりと当たっていた。何だろうと反射的にうつむいて、それが銀時の下腹部の硬くなっている部分だと気づいた***は、脳天から湯気が出るほど真っ赤になった。
———銀ちゃんも、したいんだ……
沸騰した頭の片隅でそう思う。赤い瞳がイラだって見えたのは間違いで、欲情と興奮が渦巻いていた。それに気づいた***がハッと息を飲んだ瞬間、チンッ!と音を立ててエレベーターの扉が開いた。
「オラ、とっとと行くぞ」
「わっ、ま、待ってよ、銀ちゃん!」
引きずるように連れてこられた部屋の扉に、記憶と同じNo.1010の数字。あの夜と同じように、あぁ銀ちゃんのお誕生日だ、と***は悠長に思った。
早くしろと急かされて、震える手でカードキーを差し込む。扉が開くと腕をつかまれて引き込まれた。銀時の背中越しにうす暗い部屋とベッドがチラッと見える。あの夜の記憶が脳裏にぱっとよみがえった。
そういえばあの時、ドアが閉まるや否や銀時が覆いかぶさってきた。痛いほど強くほほに噛みつかれて、ベッドに押し倒された後は首や胸元にも同じようにされた。ふくらはぎや太ももをまさぐられ、濡れた唇で耳にも吸いつかれた。身体を這う手の感触や唇の温度、キスをした時の雨の香りさえ、記憶の中で鮮やかだった。
———もしかして、同じこと、され、る……?
ぎくりと固まった***の脳内で、想像がどんどん広がる。ドアに抑えつけられてキスをされる?もしくはベッドに直行?浴衣も下着も乱暴にはぎ取られる?
銀時の前であられもない姿をさらしている自分が見えて、心臓がバクンッと鳴った。ああ、どうしよう!と思いながら両手を握って身構えた***の背後で、パタンッと扉が閉まった。
「ぁっ……、」
石のようにカチコチになって立ちすくむ***を、銀時が横目でちらりと見た。大きな手が頭にポンッと乗り、後頭部を優しく撫でて離れていく。それ以上は触れずに、銀時は廊下を進んで部屋の奥へと行ってしまった。
「ぎ、んちゃん……?」
ダルそうな足取りで歩いていった銀時が「はぁぁ~」と深いため息をついて、ベッドの縁に腰かける。頭をガリガリと掻きながら部屋を見まわした。つられて***もぐるりと視線を動かした。間接照明で淡く照らされた部屋には、ソファと大きなベッドがあるだけ。
———こんなお部屋だったっけ……?なんだかあんまり思い出せない。あの時は銀ちゃんのことで頭がいっぱいで、周りを気にする余裕がなかったから。ずっと銀ちゃんのことを見つめて、ずっと銀ちゃんの腕のなかにいたから……
それを思い出したら、ベッドに座る銀時との距離がひどく遠く思えた。この期に及んでまごついている自分がたまらなくもどかしい。
「銀ちゃんッ……えぇっと、そ、そのっ、」
口ごもりながら廊下を進む。ここまで連れてきてもらったのだから、自分から行動すべきだ。恥ずかしさも怖さも超えて、もっと銀時に近づきたい。思い切って***は浴衣の帯をつかむと引き抜こうとした。力を入れて引いた細帯が、シュッと空気を切るような音を立てた。ぼけっとした銀時と目があって、何か言わなければと***は口をあわあわとさせた。
「ま、待ってね銀ちゃん、今、ぬ、脱ぎますからっ!やだ、帯が絡まっちゃって……あっ、先にシャ、シャワー浴びた方がいいのかな!?こここ、此処がバスルームでしたっけ!?違うこれ冷蔵庫だっ!!」
「ぶはっ!!!」
両目をぐるぐると回して赤面しながら慌てていたら、銀時が吹き出した。風呂場と冷蔵庫を間違えるヤツは初めて見た、と呆れたように言う。「うぅっ」と悔しげに冷蔵庫のドアを閉めた***に向かって、微かに笑った銀時が片手を伸ばして、手のひらを差し出した。
「こっちおいで、***」
「え……?」
さっきまでとは一変して、やけに優しくて静かな声だった。おいで、なんて銀時が言うのは珍しくて、***は戸惑ってしまう。
「で、でも、お風呂は、」
「いーから、早く来いって、ほら」
ほれほれ、と上を向いた手のひらが揺れる。そこに***が手をおずおずと載せたら、腕をゆっくりと引かれた。ベッドに腰かけた銀時と向かい合って立つ。
枕元のサイドテーブルには箱があり、四角い小さな包みがいくつも置いてあった。
それが何か気づいた***は「っっ、」と息を止め、真っ赤な顔でそこから目を逸らした。何も言わずにじっとしていたら、急に銀時の両腕が腰にするりと回った。引き寄せるように強く抱きしめられる。
「わゎっ、銀ちゃん、ど、したの?」
銀時が胸元に顔を押し付けるから、うつむいても銀色の頭のてっぺんしか見えない。お腹を締め付けられてちょっと苦しい。***が困惑していると銀時の息で胸が温かくなり、同時にぼそぼそとした声が聞こえた。
「………ぇ……」
「え、な、なんですか?」
「はいりてぇ……俺は***んなかに入りてぇ……」
「っ……!!」
かすれた声で言われた言葉に、***は息を飲んた。
入りたい、がどういう意味かは分かる。ついさっき太ももに感じたあの硬さを、奥まった所に受け入れるのを想像したら、羞恥と恐怖が一緒にやってきて身体がきゅうっと縮こまる。けれど同時に、銀時に求められることが嬉しくて心臓がトクトクと高鳴った。
「ぅ、うん、いいよ銀ちゃん……ほんとのこと言うとね、前にこのお部屋に来た時に銀ちゃんに……その、し、してもらえば良かったって思ってます。そうすればこんなに待たせなくて済んだから」
小さな声でつぶやきながら、***は銀色の髪をそっと撫でた。鈍い照明でも銀時の髪はキラキラと光って綺麗だ。指先に絡まるくせっ毛にぼうっと見とれていたら、いつの間にか顔を上げた銀時が***を見ていた。
「そういやぁ、あん時もお前は、んなこと言ってたっけなぁ……俺にさんざんいじめられても全然へこたれねぇで、自分から着物脱いですけすけの恰好になって、銀ちゃん抱いてぇってすがりついてきやがった」
「そ、そうでしたっけ?そんなにあけすけだった?必死だったこと以外、私あんまり覚えてないんです」
「はぁ?忘れてんじゃねぇよ***。あん時オメーは俺に、私を大人にして下さいっつったんだ……んで、この半年かけて、俺はお前をちゃんと大人にしたじゃねーか。めっさ時間かかって銀さんツラかったんですけど。我慢すんのごっさ苦しかったんですけどぉ。だからさ、***、お前今度は大人になるんじゃなくて……」
そこまで言ってふと口をつぐんだ銀時が、片腕で***の腰を引き寄せ、もう一方の手をほほに添える。包みこむ温かさが心地よくて、***は首をかしげて銀時の手に顔を預けた。まぶしいものでも見るように瞳を細めた銀時が口を開くと、低くて静かな声で言った。
「大人じゃなくて俺のもんになって。***の身体も心も全部、俺の、俺だけのもんにさせて……お前が嫌だって言っても俺はもう、我慢できそーにねぇから」
「っ……銀ちゃん……」
あまりの嬉しさで胸がいっぱいになり、言葉が見つからない。ほほを包む手に小さな手を重ねて、こくこくと何度もうなずいたら目に涙がじわっとにじんだ。泣くまいとこらえたら眉間にシワが寄っておかしな顔になって、銀時が「ははっ」と笑った。
腰に絡まったままの細帯を解かれて、帯が床に落ちると同時に襟の中に手が入ってきた。浴衣が肩からするりと抜けていって、長襦袢だけで銀時と向かい合ったら、おぼろげな記憶が戻ってくる。
淡い思い出を探るように、***は銀時の手をそっとつかんだ。か細い声が震える唇から勝手に漏れていった。
「銀ちゃん……私を銀ちゃんのものにしてください」
「っ……!!」
両手でつかんだ銀時の手を、***は自分の胸に押し付けた。ささやかな膨らみは、いつかの夜と同じように大きな手にすっぽりとおさまる。驚き顔の銀時が何も言わずに胸をじっと見つめるから、いたたまれなくなった。手のひらを押し当てた乳房の下で、心臓がバクバクとうるさく鳴った。恥ずかしさで首まで赤くなって、緊張した***の膝はカタカタと震えはじめた。考え込むように黙っていた銀時が、急に指を動かしてむぎゅっと胸を揉みしだいた。え、と***が驚くと、いつもの銀時の気の抜けた声が響いた。
「なぁ、***さぁ、もしかして胸デカくなった?」
「え……、ほ、本当にッ!?」
「嘘に決まってんだろ」
「なっ、~~~~っひ、ひどい!銀ちゃんの馬鹿!!」
ゲラゲラと笑う銀髪頭を、両手でぽかぽかと叩く。イテイテと言いながら銀時は、***の腰をつかんで軽々と持ち上げた。ぐるんっと視界が回って、わぁっと声を上げた時にはもう背中がベッドに沈んでいた。馬乗りになった銀時の手が脇腹に伸びてきて、こしょこしょとくすぐられた***は「きゃぁぁあ!」と笑い声をあげた。
「ひゃははははッ!んやぁっあ!ちょ、っと、銀ちゃっ、や、やめ、く、くすぐったいぃぃ~~~!やだぁああっ!!」
あまりのくすぐったさに涙が出る。両足をばたつかせたら裾が乱れて太ももまで露わになった。やだやだと頭を振ったら簪が抜けて、長い髪がぱらぱらとシーツに広がっていく。銀時の手が止まった時には、笑いすぎて呼吸が荒くなっていた。はぁ、っと息をついて「何するんですか」と言った***に、身をかがめた銀時が顔を寄せる。唇の端を上げて見下ろす表情はどこか得意げだった。
「やぁ~っと笑ったな、***……ったく、いつまでもガチガチに緊張しやがって、触ろうにも触りにくくてしょーがねぇっつーの」
「あっ、う、ご、ごめん……」
唖然とした***を柔らかなまなざしの赤い瞳が見下ろす。心臓がギュッと痛いほど締め付けられた。いつかの夜、銀時に「優しくして下さい」と頼んだことを思い出して、自分はなんて愚かだっただろうと***は後悔した。
———銀ちゃんは、出会った時からずっと優しかった。銀ちゃんが私に優しくなかった時なんて、今までに一度だって一秒だって無かった……
「すき、銀ちゃん……大好きです」
溢れた思いが勝手に唇から零れていくのを、銀時の唇が受け止めた。「ん、」と漏れた声もかき消えて、大きな手が髪をさらさらと撫でる音と、唇同士がやさしく触れ合う音だけが***の耳を支配した。
噛みつくような力任せのキスではなかった。ちゅ、ちゅ、と小鳥が餌をついばむみたいに小さな音を立てて、柔らかな温もりが唇の上を移動していく。もっと深く触れ合いたくて***が薄く口を開いても、銀時は舌を入れてこなかった。
「っ、ふぁ、ん……っぎ、んちゃ……?」
「……***、あの野郎にキスされてねぇよな」
「へっ!?さ、されてないよ!!」
「ふーん、あっそぉ~……」
唇を離した銀時は不満げで、横たわる***のはだけた胸元や華奢な首を探るようにじろじろと見た。疑うような視線を肌に感じた途端、数時間前のことを思い出した。銀時以外の男がそこに触れて、口づけたり舐めたりした。その事実が***の背筋をぞっと凍らせる。
———そうだ、私、汚れてるんだった……!
「ま、待って、銀ちゃん、私シャワー浴びてくる!」
「あ゛ぁ?そんなん待ってられっかよ」
慌てて飛び起きようとしたが、のしかかられて動けない。襦袢の襟元が引っぱられてぱっくりと開き、肩まで露わになる。帽子の男に舐められた鎖骨や胸元が汚らわしくて、そんな身体が銀時の目に映ることが***は後ろめたくて仕方がなかった。
「でも、よご、汚れてるからっ!」
「なんで?アイツに何されたんだよ?気にしないで言えよ***、俺は別に怒らねぇから」
怒らないと言うのにその声には少しトゲがある。
骨ばった指が鎖骨のくぼみに沿って、肩までを優しく撫でていった。唇を噛んで言いよどんでも逃れられない。瞳に溢れそうな涙をためて、***は震える声で言った。
「ちょ、ちょっぴり、だけど、あの人に触ったりされて……だから、き、汚いから、」
せめて洗い流したいと言っている途中で、銀時が首に口づけてきた。「ひゃあ」と高い声が上がる。吸い付くようなキスをされて、耳のすぐ下にチクッとした痛みが走った。銀時の熱い息が髪に当たるだけでくすぐったくて、おかしな声が出そうになる。
ぬるついた舌があごの下からのど仏を伝っていく。肌にぴたりとくっついた唇が、首の横筋を上から下へ。首元のいくつかの切り傷が、舐められてわずかに痛む感覚さえ、身体の奥を熱くさせた。
「ここを、アイツに触られたんだな?なら尚更、シャワーなんか浴びさせるかっつーの」
「や、銀ちゃっ……あっ、ひぁあ!?」
鎖骨の始まりから肩までべろりと舐められて、こそばゆい感覚に***の腰が浮き上がる。舌を押し付けられていたのが、やがて唇で吸いつかれ骨に沿って歯を立てて、最後は肩の丸みにガリッと歯形を残された。
唾液まみれになった首元から、てらてらとしたよだれが胸の谷間へと垂れていく。銀時の手がせわしなく動いて、襦袢の腰紐が解かれ開かれると、イチゴ柄のブラとショーツが丸見えになった。
「あっ、や……ぎん、ちゃ……」
「胸は……***、胸も触られた?」
耳元で問われても答えられない。しかし一瞬交わした視線に気まずさが混じって、それだけで全て伝わった。下着の上から乳房をつかんだ銀時の手に、ぎゅうっと力が込められた。
「っくしょぉぉぉ……」
「ゃっ、ぁあッ———!」
ギリッと歯を噛しめる音がした後、ごつごつした指がブラジャーのストラップをつかんだ。肩紐をするっと外されて下着がずり落ちる。ふるん、とこぼれた胸の膨らみを、銀時の手が迷うことなく包んだ。指先が食い込むほど強く、むにゅむにゅと揉みしだかれて、***は「あ、あ、」と情けない声を上げた。羞恥に赤く染まった胸元に銀時が身をかがめて、桜色の先端にちゅうっと吸いついた。
「ひっ、ゃぁあんッ……!んぅあッ、っ、」
「胸ぇ揉まれて、乳首も見られた?なぁ、***、そんでこーやって噛みつかれたりした?」
そんなことされてない。でも答える前にまた胸を食まれて、敏感な粒をきゅうきゅうと吸われたら、電流のような痺れが走って言葉が出なかった。ぴんっと硬くなった桃色の乳首をくにゅくにゅと噛まれて、耐えきれずに「あぁんっ」と恥ずかしい声を上げてしまう。
いつの間にか下着はお腹までずり落ちて、乳房が全てさらされていた。膨らみのひとつにむしゃぶりつかれ、もう片方も揉みしだかれて先端を指でこねられると、***の身体は震えるばかりで抵抗できずに、されるがままになった。
「~~~~っ、んぁッ、ぅあ……きゃぁッ!」
浮き上がる腰をつかまれて、くるんとひっくり返された。うつぶせになると腕から袖が抜けて襦袢が脱げた。背中に押しあたる物を感じた直後、留め具の外れたブラジャーがぽたっとシーツに落ちた。
「あっ、銀ちゃん、な、に……?」
「っんだよコレ、傷だらけじゃねーか」
後ろから***に被さった銀時が、長い髪を払って一糸纏わない背中を眺めた。うなじに唇の温もりとチクリとした心地よい痛みを感じて、背骨を甘い刺激が走る。
脇から差し込まれた手で乳房を揉まれ、もう一方の手で背中を撫でられる。古い傷と今日ついたばかりの新しい傷が入り混じる素肌を、銀時の唇が這っていった。
肩甲骨のでっぱりや背骨の曲線を舌でなぞられたら、はぁっ、と熱い吐息が漏れる。好きな人に触られる悦びで***は頭がぼうっとして、銀時の変化に気づくのに遅れた。だから急に背後で、低い声がぼそっとつぶやいた言葉を聞いた瞬間、心臓が凍りそうになった。
「やっぱりアイツ、ぶっ殺しときゃよかった」
「っっ……!!!」
驚いて飛びはねた***が仰向けに戻ると、銀時は苦虫を嚙み潰すような顔をしていた。しかめっつらで眉根を寄せて怒りに満ちている。困り切った***が言葉を失っていたら、胸から伝ってきた大きな手が首元にそっと触れた。そろそろと怖がるように動いた指が、ナイフの切っ先で付けられた些細な傷をひとつひとつ撫でていく。触られる***よりも、触っている銀時の方が痛そうな目をしていた。
「銀ちゃん、それ、もう痛くないですよ?」
「あのなぁー……痛いからダメとか、痛くねぇから大丈夫とか、そーゆーことじゃねーんだよ。そんくらい分かれよ馬鹿」
普段のダラけた顔が嘘のように、銀時は真剣な表情だった。不快感あらわにしかめた眉と瞳の距離が近くて、いつもとは別人のよう。***の頭のなかで誰かが「銀ちゃんって格好いいな」と能天気につぶやく。しかし、身をかがめた銀時が頬骨の上に口づけた瞬間、そんな呑気な考えは消えてしまった。
「い、痛ッ……!?」
「そーだろ、痛ぇだろ、ここ切れてっから。***にとって平気でも、俺にとっちゃそうじゃねぇ。大事な女の顔に傷つけられて、平気でいられる男なんざ馬鹿か腑抜けか、そのどっちかだよ」
下まぶたに近い頬の上のケガは、いつできたのか覚えてない。横長の切り傷をざらりと舐められて、かすかに血の匂いがたつ。涙ぐんで見上げた銀時は、嫌悪感に満ちた顔をしていた。
その瞳は***ではなく、***にケガを負わせた男を思い返していた。無抵抗になっても殴り続けるほどの強い怒りを、簡単に忘れられるはずがない。
遠慮がちに伸びてきた長い指が、怯えるようにそっと***のほほや唇の横の傷に触れた。見つめ合った銀時が誰よりもずっと傷ついているのを感じて、***の胸は痛いほど締め付けられた。
「おねがい、銀ちゃん……私、」
そこまで言って***は両手を伸ばすと、銀時のほほをつかんだ。くんっと首を持ち上げて「あ?」と驚いている銀時の唇に、自分の唇をふにっと押し当てた。
「はっ……!?」
おかしな声を上げた銀時は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。***からキスをするのは初めてで、どうすればいいのか分からなかった。
目を泳がせて迷いながらも懸命に唇をくっつけていたら、銀時の口が導くようにふわっと開いた。あまりに恥ずかしくて目をぎゅっとつむり、こわごわと舌を差し込んでいく。
小刻みに震える舌先で、歯列やほほの内側をチロチロとなぞる。まるで子猫がミルクを飲むようなたどたどしさで情けない。いつも銀ちゃんはどんな風にキスをしてくれるっけ?そう思いながら***は、必死で銀時にキスをし続けた。
「っは、ぁ、ぎ、ちゃっ……ったし、私、」
必死だったから唇を離した時には***の方が息が上がっていた。背中をシーツにつけて横たわった身体の横に、銀時が両手をつく。襦袢もブラも無くて胸が丸見えなことも忘れてしまった。何だよ、と言いたそうな銀時のほっぺたに両手を添えたまま、濡れた唇から***の震える声がこぼれた。
「お願い、銀ちゃん、私を見て、私のことだけ考えてください……今だけでいい、今夜ここにいる間だけでいいから。私は銀ちゃんのことしか見ない。銀ちゃんのことしか考えないよ。私の全部、銀ちゃんにあげるから、おねがいっ……」
「っ……、***ッ……!」
シーツと首の間に入ってきた手が、***のうなじをつかんで持ち上げた。細められた赤い瞳が近づいてきて、思い描く通りに口づけられた。今度こそためらいなく入ってきた舌は燃えるように熱くて、吐息まで飲み込むように深く触れ合うと、頭の奥がびりびりと痺れる。
「ふぁっ、んぅ、ぁっ……、」
「っは……好きだ、***、俺はお前が」
「ぎ、ぎんちゃ……!」
私も好き、と答えたくても濃密なキスがすぐに再開して、何も言えない。白い腕を銀時の首に回して、ぎゅうっと抱き寄せたら、くっついたままの唇が声もなくフッと笑った。うっとりとしながら見つめた赤い瞳はもう、***だけをじっと見すえていた。
しっとりと汗ばんだ首筋と腰を銀時の手が支えた。呼吸も唾液もまじりあうキスに、華奢な身体が痙攣して背中が弓なりに反りかえる。裸の乳房を押し付けることに、今さら恥ずかしくなった。ふわっと薄赤く色づいた***の耳に唇をくっつけた銀時が、脳まで溶けそうな甘く低い声で囁いた。
「俺は、***しか見えねぇ……***しか欲しくねぇよ、ずーっと前から。この小せぇ身体の頭のてっぺんからつま先まで、誰も知らねぇ奥の奥まで全部、欲しくて欲しくてたまらねぇよ」
うん、とうなずくのが精いっぱいで、***は温かい腕の中でじっと息をひそめた。ショーツだけの身体のあちこちを、大きな手が触れてゆっくりと開いていく。その手にはいつもどおりの優しさが宿っていた。
じっと見つめ合う赤い瞳、吐息まじりに名前を呼んでくれる声、触れ合う肌の温もりのすべてに***は沈みこんでいく。大好きな銀時に何もかもゆだねる幸福感に涙が出そうで、言葉はひとつも出てこなかった。
———私も……私も銀ちゃんに、早く私をあげたい
(この幸福のなかで、恐れるものは何もないから)
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【(38)やさしさ】end
"Room No.1010" (1)
ぬくもり満ちた腕の中で 私を呼びさまして