銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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※※※大人向け/やや注意※※※
☆前半部分に若干、大人向けな表現があります
☆ぬるいですが性的描写を含む為、苦手な方はお戻りください
☆大人向け部分を避けて先をお読みになりたい方はこちら
【(17)怯える】
しゅるり、という細帯を解く音が、暗い部屋に響く。
「電気は消してください……」
泣きそうな声で***が乞うので、仕方なく蛍光灯を消した。気付けば夜が更けていて、曇りガラスの窓の外に大きな満月が浮かんでいた。四畳半の狭い部屋に、月明かりは音もなく降りそそいで、部屋中が青白く染まっていた。
———電気消したとこで、なんの意味もねぇけど……
戦場の夜を経験したことのある銀時にとって、こんなに月の明るい晩は昼間と同じようなものだ。灯りなんて無くてもよく見える。
まして目の前で好きな女が乱れていれば、尚更。灯りを消したことでより一層、視界が研ぎ澄まされた。横たわる***の華奢な身体のかすかな震えや、唾液に濡れた浴衣ごしに尖る胸の蕾、汗ばんだ額の光る産毛まで、見たいと思うもの全てが、銀時にはよく見えていた。
「***、手ぇ邪魔、どけろって」
「っ、ぅ、うん……」
男の大きな手で胸を散々揉まれたせいで、浴衣はとっくにはだけていた。その襟元を未練がましく押さえていた小さな手が、おずおずと離れていった。銀時は腰元に手を差し入れると、肌襦袢の腰ひもを引き抜いた。襦袢ごと浴衣の合わせを開くと、袖だけを残して***の白い肌が露わになった。
「っ……~~~あ、んまり、見ないで、くださぃ」
「はぁ?んな無茶なこと言うなって……」
綺麗な女の裸体が目の前にあって、見ない男なんていないだろ。いや、コイツの裸を俺以外の男に見せる気なんて、さらさら無ぇけど。内心そう思いながら銀時は、***の細い腰や白い腹、震えるふたつの乳房をじっくりと眺めた。
「も、もぉっ、恥ずかしっ……そんなに見ちゃ、ゃッ」
そう言って***は両手で顔を覆った。隠された顔が沸騰したみたいに真っ赤で、触ったらヤケドしそうだ。キスで感じた***の舌の熱さを思い出して、ぞくぞくと鳥肌が立った。
———こりゃ、想像以上に、ヤバイんですけど……
ゴクリと唾を飲んだら、汗が背中を伝った。強く押し寄せてくる欲情の波に、銀時の身体はむせかえるほど興奮している。腹の奥がうずく感覚がどんどん高まってくる。***の下着姿は見たことがあるし、触れ合ったことは幾度もあるのに、いま月明かりに素肌をさらす無防備な姿は、比べ物にならないほど魅惑的だった。
それなのになぜか、銀時は***に指一本触れることができない。不思議なほど胸が苦しい。見たくてたまらなかった***の身体を前にして、息がつまるほどの切なさに襲われた。
「ぁ、あれ?……ぎん、ちゃん?」
「あー……」
きめの細かい白肌は陶器のようになめらかで、触れたくなった。小さく震える肩や細い指が儚げで、抱きしめたくなる。桃色に染まった首と胸元は果物のように甘そうで、舌を這わせて舐めたくなった。唾液に濡れてテラテラと光る乳房の、つんと尖った先端に直接噛みついたら、***はどんな声を上げるだろう。
ただ眺めるだけで何も言わずにいたら、***は不安そうな声で「銀ちゃん?」と呼んだ。何度か呼ばれても空返事をしていたら、ついに弱々しい声になった。顔を覆う指の隙間から、チラチラと銀時を見上げる黒い瞳が、今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。
「あ、あの、銀ちゃん、もしかして……胸が小さいから、その……が、がっかりしてますか……?」
「はぁぁぁぁ!?何言ってんのお前っ!?なに馬鹿なこと言ってんだよコノヤロー!っんなこと俺ぁ、ひとことも言ってねぇだろーが!!」
「だ、だってぇ、~~~っきゅ、急に何も言わなくなるから……さっきまでペラペラ喋ってたくせにっ、は、裸を見た途端、銀ちゃん黙っちゃうんだもんっ……」
「ちげぇよ馬鹿!!あ~~~~ッ!クソッ!!!」
ガリガリッと頭を強く掻く。同じように掻きむしりたいほど、胸が締め付けられて苦しい。「ぇえっ!?」と驚いた***が顔から手をどけたから、潤んだ黒い瞳と視線がかち合った。その澄んだ瞳と見つめ合ってようやく、苦しさの理由が分かった。
———コイツに触るのが、怖ぇ。触りたくてたまんねぇのに、簡単にぶっ壊れちまいそうで……触ったとこから汚れちまう気がして……
がっかりなんて微塵もしてない。ようやく***の身体を見れたことが心底嬉しい。確かに胸はひかえめだが、そんなことはどうでもいい。戸惑うほど***は綺麗だ。今まで見たことのあるどんな身体とも違う。比べようがないほど、無垢で一点の曇りも無い。ひと晩で降り積もった真っ白な初雪のように、その身体はまだ誰の手も知らない。月明かりに照らされて青白く染まった素肌は、恐ろしいほど清らかだった。
小さな頭の両脇に手をついて顔を近づけると、銀時は真剣な表情で***に問いかける。女にこんなことを訊くのは、生まれて初めてだった。
「***、触っていい」
「えっ……き、聞かないでください、そんなこと……いつも嫌って言っても、勝手に触るのにっ……!」
「そりゃぁ、いつもはお前が怒って騒ぐからぁ、んなこと聞いてる余裕ねぇじゃん。でも今はちげぇし、お前嫌そうじゃねぇし、なんならちょっとノリ気っぽいしぃ?なぁ、***、答えろよ。触っていい?っつーか、触ってほしい、俺に」
思わぬ問いかけに困惑した***は、声を失ってあわあわと銀時を見つめていた。一気にぼわっと赤みを増したほっぺたが愛おしい。何度もしつこく「なぁなぁ触っていい」と問い続けたら、ついに***は観念して、小さくこくりと頷いた。それを合図にようやく手を伸ばす。右手で頬に触れただけで***の肩がびくりと揺れた。
「がっかりなんてするわけねぇだろ***……胸がどうとかケツがどうとか、そーゆー女の見てくれだけで、ギャーギャー騒ぐような、そこいらのゲスっぽい野郎どもと、銀さんを一緒にしないでくれる?」
「っ、ぅ、うんっ……ごめん、銀ちゃん、私」
自信がなくて、と動く小さな唇を深く口付けて塞いだ。んむっ!?という***のおかしな声に笑いが漏れる。差し込んだ舌で、狭い口の中を淫らに舐め尽くしていった。
手で包んだ赤い顔より***の唇と舌は熱っぽくて、我を忘れてしまいそうだ。ぎゅっと目をつむった***が、銀時の襟元を両手でつかんだ。すがりつかれているようで嬉しくなる。
逃げ惑う小さな舌を捕まえて、その表も裏も舐めた。絡めた舌同士を絞り上げるように強く吸う。もっと奥を味わいたくて、何度も顔の角度を変えているうちに、***の目尻から小さな涙の粒が一滴落ちた。
「ふっ、んぅ、ぁっ……んんっ……っふぁ、」
「っは、泣くなよ***、キスしたくれぇで」
「はぁっ、っん、だ、って……息できなっ、ひぁっ!」
顔を下げて細い首筋にも唇を落とした。ちゅ、ちゅ、とついばむように首を降りて行く。首横の筋に沿って軽く歯を立てたら、***はくすぐったそうに肩をすくめた。鎖骨のくぼみを肩まで横一直線に、べろりと舌を這わせたら「んっ」と声が上がる。先ほどのキスで胸元に落ちた唾液の跡をゆっくりと舐めとった。胸の谷間や乳房の横を舌先で丹念に撫でる。這いまわる唇と舌に怯えるように、ふたつの膨らみがふるりと震えた。
胸の先端の薄いピンク色の部分に、ちゅっと音を立てて口づけたら、***の背中がびくんと跳ねた。舌先でちょんちょんと触れ、もう一方の蕾も指の腹で円を描くように撫で回す。
「ひっぁ、やっ、んんっ……~~~っっ!!」
「はは、ちょっと触っただけで超ビクビクすんじゃん。おまえ乳首弱ぇのな。***、ホラここ、すげぇ固くなってんの分かる?俺に舐められてビンビンに勃ってんの。やらしいピンク色で、もっと舐めてぇって言ってんの見えんだろ」
「ぎん、ちゃ、んゃっ、ぁぁあッ!」
むしゃぶりつくように右胸を口に含み、その硬くなった先をきゅうっと強く吸った。強い刺激に***は喘ぎ、腰が浮き上がる。口の中の小さな乳首をこりこりと甘噛みをしては、舌先でピンッと弾くのを繰り返す。左胸も揉みしだきながら、二本の指で先端をつまんだり、指先でくにゅくにゅと転がし続けていたら、小さな蕾は熟れたさくらんぼのように硬く色づいた。
「ひぅ…っんゃ、ぁあっ、あっ……ゃぁっん、」
銀時の肩を***の手が押すが、全然力が入っていない。腰が浮き上がりびくびくと震えている。銀時の足の下で、膝頭をすり合わせている。胸にしゃぶりついたまま視線を下げると、白い下腹部とショーツが見えた。
———あ~~、脱がしてぇぇぇ、触りてぇぇぇ!!!
ショーツの中を想像すると、手が勝手に動きそうだ。小さな尻の触感が手によみがえる。指が沈むほどの柔肌だった。そういえば***は、胸もふにゃふにゃとして柔らかい。脂肪の少ない華奢な身体でも、そこは確かに女らしい。こんなこと神楽は知らないだろうと思うと、優越感に満たされた。
「ぁ、っぎ、んちゃ、っっ……もっ、むね、やぁ」
「あー、ヤじゃねぇだろ***ー、発情期のメス猫みてぇにニャーニャー鳴いて、気持ちよさそうによがってるくせに説得力ねぇってのー」
「っっ……んぁ、っ、ぅうっんぁ」
胸を触っただけでこんなに悶える敏感な身体を、もっと深く求めたらどうなるのか。想像だけで息が上がる。***は初めてなのだから、ゆっくり進めるべきだ。頭ではそう思っているのに、銀時だって余裕がなかった。
乳房を愛撫していた手をそのまま下ろしていく。腰が浮いて突き出された下腹部を手のひらで撫でた。少し汗ばんだ肌は手に吸い付くほどしっとりとしていた。
更に手を滑らせて、ショーツの上から恥丘を撫でる。見えない割れ目を探して、指先に力を入れて擦ったら、ハッとした***が銀時の手首を掴んだ。
「っっ!!やっぁ、触っちゃ、やだぁ!!」
「んだよ、さっき触っていいっつったろーが」
「~~~~っ……そ、そこはだめですっ」
なんでだよ、と言いながら***の制止を振り切る。手のひら全体でショーツの上から下腹部をさわさわと撫で続けたら、こそばゆいのか***は目を細めた。太腿がひくひくと震えはじめ、閉じていた膝が緩む。銀時はすかさず、その足の間に手を割り入れ、ショーツのクロッチ部分を後ろから前まで、指先でつつつ、と擦り上げた。
「ひゃぁっ!!~~~っや、ほんとにっ、待って、」
「だめです~、待ちません~。なぁなぁ、もうこのパンツ脱がしていい?お前だってこんな小せぇ布切れ、いつまでも履いてんの苦しいだろ?さっさと脱いじまえって、銀さんに見せなさいってぇ」
「だだだだだだめッ!!!絶対ダメです!!!」
ショーツに指をかけて脱がそうとする銀時の手を、真っ赤な顔をした***が両手で掴んで必死で止めた。銀ちゃんの馬鹿!スケベ天然パーマ!と泣きそうな顔で叫んでいる。
胸だけであんなに感じていた***のことだから、下着も濡れているのではと期待したが、予想に反してショーツは乾いていた。銀時は「ふーん」と面白くない顔をして、人差し指の爪を立てて、布越しに割れ目をなぞった。奥まった秘部を探し出そうと、くにくにと指を動かしたら、***の身体がびくっと跳ねた。
「やぁぁっん!っゃ、だッ、ぎ、ちゃんっ……さわっ、ん、ないでぇっ……」
「お~お~***~、ヤダって言うわりに可愛い声出てんじゃん。もうコレ脱げって。直接触ればもっとよくなっから。な、ホラ、脱がしてやるから足上げろよ」
「~~~~っ、ヤダヤダッ!」
小さなシルク地の下着をぐいぐいと引っ張って下げようとしたら、***はあわあわと焦った顔で抵抗した。あまりの恥ずかしさに耳の裏まで真っ赤で、眉間にシワを寄せて必死に自分の下着を押さえている。
困りきった***の顔は、こんな時でも銀時の中のいじめっ子を刺激する。下着を脱がされないよう必死な***の肩から浴衣が落ちて、袖が手首に引っかかっているだけになっていた。
「んじゃ、先にこっち脱いじまうか」
「えっ!?きゃぁ!!」
いたずらっぽく笑って、銀時はショーツからぱっと手を離した。驚いた***が固まっているうちに、浴衣の袖を掴んで思い切り引っ張った。腕から抜き取った浴衣を後ろにポイっと投げると、***は文字通りショーツ1枚の姿になった。
「なななななっ!急になにするんですかっ!」
「なにって、脱がせてんだよ」
丸裸になった上半身を隠すように、***は胸の前で腕を交差した。その身体の横に両手をついて見下ろしたら、獲物を捕らえた充足感のようなものに満たされた。さぁ、どう可愛がってやろうかと舌なめずりするような気分で。
しかし、その気分は長続きはしなかった———
銀時はただ***の身体に触れただけだった。
横たわった身体のつるりとした脇腹を撫でたら、***は腕で胸を隠したまま「あっ」と声を出した。そしてその手をゆっくりと腰に回して、そのまま背中を上ろうとした瞬間だった。***が急に目を大きく見開いて、両腕をぱっと突き出すと、銀時の肩を強く押した。
「やだっ!!さ、触らないでッ!!!!」
それはその日はじめて聞く拒絶の声だった。胸や尻を揉んだ時も服を脱がせた時も、ショーツを脱がせようとした時だって、***はここまで嫌がらなかった。いぶかし気な顔で銀時は、***を見下ろした。
「はぁ?急になんだよ***、別にいいだろーが、」
背中ぐらい、と言いかけた言葉は急に途切れた。
ハッとして開いた口をそのままに、銀時は***をじっと見つめた。黒い瞳は怯えるようにゆらゆらと揺れて、怖いものを見るような目で、銀時を見つめ返した。
指先に走る感覚が、銀時は信じられなかった。脇腹から腰へと続いていた肌のなめらかさが、背中のある一点で急に途絶えた。そこに突如、砂のようにザラザラとした触感が現れた。指は戸惑いながらも勝手に動いて、***の背中の中心を肩甲骨までなぞり上げた。
「ぁ、あっ、銀ちゃんっ、ちがうの、違くてっ」
何かを言おうとする***の唇は、恐怖に震えていた。さっきまで紅潮していた顔が、さーっと青ざめていく。その表情を見た瞬間に、銀時は神楽が何気なく言っていた言葉を思い出した。
———***の背中に傷跡があったから、それ天使の羽根が生えてた跡みたいって私言ったヨ———
それは傷跡なんていう生半可なものじゃなかった。見なくても銀時には分かる。それは古いが、かなり大きな傷だ。それも普通の女なら本来負うはずのない大怪我だ。手のひらの感触だけでも、それが分かる。
黙って背中を撫で続ける銀時を見つめて、***は恐々と口を開くと、蚊の鳴くような小さな声で言った。
「銀ちゃん、急に大声出してごめんね。でも、あの……私の背中、綺麗じゃなくって……み、見せられるものじゃないというか、見ても気持ちのいいものじゃないので……その、服は、着たままじゃ、ダメですか?」
そう言って無理に笑おうとする***の唇は、引きつっていた。これ以上何も聞かれたくないという顔で、すがるような目で銀時を見つめている。嘘をつけない***があまりに必死な顔で取り繕っているのを見て、そりゃそうか、と銀時は思う。
———そりゃ、見られたくねぇコトとか、知られたくねぇコトのひとつやふたつ、***にもあんだろ。俺だってコイツに言いたくねぇ過去なんざ、ごまんとあるし。聞かれないからわざわざ言わねぇってこともあるに決まってるだろ、お互いに。付き合ってるから何もかも理解できるなんて夢みてぇな話、ガキじゃあるまいし……
頭ではよく分かっていた。多分、こんなに怯えた***に何かを求めるのは間違いだ。今じゃなくていい、いつかお前が話したくなったらでいい、と言うべきだとよく分かっていた。
でも、どうしても銀時の心が、それを良しとできない。ここまで来て引き返す気になれない。心底***に惚れているからこそ誰よりも多くを見たかった。今まで知り合った誰よりも深く知りたかった。
「はぁぁぁぁ~~……」
深い溜息をつくと銀時は身体を起こした。ホッとした顔の***を見下ろしたまま、無造作に白い着物の両袖から腕を抜いた。
「えっ!?ぎ、銀ちゃん!?」
目を丸くした***の前で、おもむろに黒いシャツを脱ぐ。ぱっと首から抜いたシャツを乱雑に投げた。乱れた銀髪の前髪が邪魔で、頭をぶんと振る。
「なっ……!ぬ、脱ぐなら脱ぐって言ってくださいっ」
驚いた***は両手で目を覆った。いきなり目の前に現れた筋肉質な身体に戸惑って、逃げるように顔を背ける。
「***、見ろよ」
「え?わゎゎっ……!」
顔を隠す***の細い手首を掴むと、ぐいっと強く引いて起き上がらせた。身体同士が近づいて慌てた***が、銀時の厚い胸板に小さな手をついた。その手を銀時の大きな手が上から押さえつけた。恥ずかしさに目を逸らそうとする***の顔を、銀時の片手が掴んで引き留めた。
「オイ、ちゃんと見ろって」
どうすればいいのか分からず***は困惑していた。重ねた手を胸から肩へ、みぞおちから脇腹へと凛々しい身体の上をゆっくり移動させると、銀時の意図に気付いた***はハッとして息を飲んだ。ふたつの手はその身体に数多くある傷跡をなぞりながら動いていた。
「っ、ぎ、銀ちゃんっ……」
急に泣きそうな顔になった***を見下ろして、銀時は口を開いた。いつも通りの気の抜けた声が出た。
「あ?この傷?これは定春に噛まれたヤツだな。アイツの牙、結構ぐっさり刺さるんだよねぇ。んで、コレが、家賃滞納しすぎてババァにデッキブラシでぶん殴られた時のヤツ。あと、この胸んとこのヤツあんだろ?こりゃ確か、人斬りなんちゃらっつーのに、なんとかっつー気持ちわりぃ刀でぶった切られた時のヤツね。そんでこっちがぁ……」
ふざけた口調で喋りながら手を動かしていく。***の指先で、傷のひとつひとつを触らせながら。
正直に言えば、いつ誰につけられた傷かなんて頓着してない。多すぎる傷跡に記憶が追い付かなくなり、最後の方は「勇者にエクスカリバーで切られた」とかテキトーな逸話をでっちあげた。
「ごめん、銀ちゃん……ごめんねっ……」
作り話も底をつきそうになった時に、***が小さな声で銀時を制した。
「私、自分のことしか考えてなくて……見ても気持ちのいいものじゃないなんて酷いこと言って、ごめんなさい。銀ちゃんだって、いっぱい傷跡あるのに……私、」
うつむきそうになった***の顎を片手でつかんで、くいっと上げると涙に潤んだ双眼と目が合った。脇腹の傷跡の上で、細い指先がカタカタと震えていた。
「***、さっき俺がなんつったか覚えてるか」
「え……さっき?ぇ、えーと、家賃滞納しすぎて、お登勢さんにデッキブラシで殴られたってやつですか?」
「ちげぇーよ馬鹿。なんでババァの話をいちばん覚えてんだよ。もっと前に大事なこと言ったろーが。オイオイ***~、ちゃんと覚えとけよ~。銀さんめっさ大切なこと言ってたんですけどぉ~。ったく、しょーがねぇからもっかい言ってやるけどさぁ」
きょとんとした***の頬を両手で包む。唇が触れそうなほど顔を寄せた。さっき自分が言ったセリフと同じ言葉を、銀時はとても静かな声で繰り返した。
「……女の見てくれだけで、ギャーギャー騒ぐような、そこいらのゲスっぽい野郎どもと、銀さんを一緒にしないでくれる?」
「っっ……!!!」
その言葉を聞いた途端、***は目を見開いてから、一瞬だけ苦しそうに唇を噛んだ。眉根を下げた困り顔でじっと銀時を見つめた後、迷いを吹っ切るように小さく息を吐いた。
「一緒にしないよ、銀ちゃん」
そう言った***の目はもう潤んでいなかった。頬を包む銀時の手を掴んで、ゆっくりと離れていく。横座りのまま膝だけをすりすりと動かして、銀時から少し距離を取る。落ちていた銀時の黒いシャツを拾って、胸を隠すように腕に抱くと、***はくるりと背を向けた。小さな後ろ姿に月明かりが落ちる。後ろ手で長い髪が払われたら、銀時の眼前に白い背中が露わになった。
「銀ちゃん、私……背中に傷があるの」
「っっ………!***、お前、これ」
一体どうしたんだ、と思わず問いかけそうになるのを、銀時は必死でこらえた。それほど***の背中の傷跡は大きかった。
肩のすぐ下から腰の上あたりまでを斜めに、長い創痕が何本も走っている。それはすり傷とか切り傷とか、そんな生ぬるいものではなかった。刀ではこんな粗雑な傷はつかない。硬く尖った何かで故意に殴られたとしか思えない。深い裂傷が針で縫われた痕跡があるが、どれも素人の手による急場しのぎだ。
長い傷の合間には、いくつもの歪んだ丸い痕が点在していた。目を細めてよく見て、それがヤケド痕だと気付いた途端、銀時は全身の血液が凍った気がした。こんな傷を***が背負っていることがあまりに恐ろしくて、生きた心地がしない。
「今まで黙っててごめんなさい……こういう時に驚かせないように、いつか話さなきゃって、ずっと思ってたんだけど……勇気が出なくて……でも、その……」
肩越しに振り向いた***は、銀時を見つめて悲しそうに笑った。その顔を見た途端、自分のしたことの残酷さに眩暈がしそうになった。ただ***のことを深く知りたかった。惚れた女のことなら、どんなに悲しい思い出でも、どんなに罪深い過去でも、知りたかった。余計なお節介だと言われても、共に背負いたいと思っていた。
———背負えるのかよ、お前に。テメェの身体の傷も大して覚えてねぇような馬鹿野郎に。女の身体にこんなでっけぇ傷抱えて、***は生きてるのに。こんなでっけぇ傷より、もっと深く傷つきながら、誰にも気づかれずに笑って生きてきたっつーのに……!
自分から求めておいて、いざ真相に近づいた途端、銀時の方が怖気づきそうだった。そんな銀時を見つめて、***はおずおずと何かを語ろうとしていた。その小さな唇が青ざめて見えたのは、***が怯えているからなのか、月明かりのせいなのか、銀時には分からなかった。
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【(17)怯える】end
"きみは天使(3)"
罪を覚えるよりも君に教わりたい
☆前半部分に若干、大人向けな表現があります
☆ぬるいですが性的描写を含む為、苦手な方はお戻りください
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【(17)怯える】
しゅるり、という細帯を解く音が、暗い部屋に響く。
「電気は消してください……」
泣きそうな声で***が乞うので、仕方なく蛍光灯を消した。気付けば夜が更けていて、曇りガラスの窓の外に大きな満月が浮かんでいた。四畳半の狭い部屋に、月明かりは音もなく降りそそいで、部屋中が青白く染まっていた。
———電気消したとこで、なんの意味もねぇけど……
戦場の夜を経験したことのある銀時にとって、こんなに月の明るい晩は昼間と同じようなものだ。灯りなんて無くてもよく見える。
まして目の前で好きな女が乱れていれば、尚更。灯りを消したことでより一層、視界が研ぎ澄まされた。横たわる***の華奢な身体のかすかな震えや、唾液に濡れた浴衣ごしに尖る胸の蕾、汗ばんだ額の光る産毛まで、見たいと思うもの全てが、銀時にはよく見えていた。
「***、手ぇ邪魔、どけろって」
「っ、ぅ、うん……」
男の大きな手で胸を散々揉まれたせいで、浴衣はとっくにはだけていた。その襟元を未練がましく押さえていた小さな手が、おずおずと離れていった。銀時は腰元に手を差し入れると、肌襦袢の腰ひもを引き抜いた。襦袢ごと浴衣の合わせを開くと、袖だけを残して***の白い肌が露わになった。
「っ……~~~あ、んまり、見ないで、くださぃ」
「はぁ?んな無茶なこと言うなって……」
綺麗な女の裸体が目の前にあって、見ない男なんていないだろ。いや、コイツの裸を俺以外の男に見せる気なんて、さらさら無ぇけど。内心そう思いながら銀時は、***の細い腰や白い腹、震えるふたつの乳房をじっくりと眺めた。
「も、もぉっ、恥ずかしっ……そんなに見ちゃ、ゃッ」
そう言って***は両手で顔を覆った。隠された顔が沸騰したみたいに真っ赤で、触ったらヤケドしそうだ。キスで感じた***の舌の熱さを思い出して、ぞくぞくと鳥肌が立った。
———こりゃ、想像以上に、ヤバイんですけど……
ゴクリと唾を飲んだら、汗が背中を伝った。強く押し寄せてくる欲情の波に、銀時の身体はむせかえるほど興奮している。腹の奥がうずく感覚がどんどん高まってくる。***の下着姿は見たことがあるし、触れ合ったことは幾度もあるのに、いま月明かりに素肌をさらす無防備な姿は、比べ物にならないほど魅惑的だった。
それなのになぜか、銀時は***に指一本触れることができない。不思議なほど胸が苦しい。見たくてたまらなかった***の身体を前にして、息がつまるほどの切なさに襲われた。
「ぁ、あれ?……ぎん、ちゃん?」
「あー……」
きめの細かい白肌は陶器のようになめらかで、触れたくなった。小さく震える肩や細い指が儚げで、抱きしめたくなる。桃色に染まった首と胸元は果物のように甘そうで、舌を這わせて舐めたくなった。唾液に濡れてテラテラと光る乳房の、つんと尖った先端に直接噛みついたら、***はどんな声を上げるだろう。
ただ眺めるだけで何も言わずにいたら、***は不安そうな声で「銀ちゃん?」と呼んだ。何度か呼ばれても空返事をしていたら、ついに弱々しい声になった。顔を覆う指の隙間から、チラチラと銀時を見上げる黒い瞳が、今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。
「あ、あの、銀ちゃん、もしかして……胸が小さいから、その……が、がっかりしてますか……?」
「はぁぁぁぁ!?何言ってんのお前っ!?なに馬鹿なこと言ってんだよコノヤロー!っんなこと俺ぁ、ひとことも言ってねぇだろーが!!」
「だ、だってぇ、~~~っきゅ、急に何も言わなくなるから……さっきまでペラペラ喋ってたくせにっ、は、裸を見た途端、銀ちゃん黙っちゃうんだもんっ……」
「ちげぇよ馬鹿!!あ~~~~ッ!クソッ!!!」
ガリガリッと頭を強く掻く。同じように掻きむしりたいほど、胸が締め付けられて苦しい。「ぇえっ!?」と驚いた***が顔から手をどけたから、潤んだ黒い瞳と視線がかち合った。その澄んだ瞳と見つめ合ってようやく、苦しさの理由が分かった。
———コイツに触るのが、怖ぇ。触りたくてたまんねぇのに、簡単にぶっ壊れちまいそうで……触ったとこから汚れちまう気がして……
がっかりなんて微塵もしてない。ようやく***の身体を見れたことが心底嬉しい。確かに胸はひかえめだが、そんなことはどうでもいい。戸惑うほど***は綺麗だ。今まで見たことのあるどんな身体とも違う。比べようがないほど、無垢で一点の曇りも無い。ひと晩で降り積もった真っ白な初雪のように、その身体はまだ誰の手も知らない。月明かりに照らされて青白く染まった素肌は、恐ろしいほど清らかだった。
小さな頭の両脇に手をついて顔を近づけると、銀時は真剣な表情で***に問いかける。女にこんなことを訊くのは、生まれて初めてだった。
「***、触っていい」
「えっ……き、聞かないでください、そんなこと……いつも嫌って言っても、勝手に触るのにっ……!」
「そりゃぁ、いつもはお前が怒って騒ぐからぁ、んなこと聞いてる余裕ねぇじゃん。でも今はちげぇし、お前嫌そうじゃねぇし、なんならちょっとノリ気っぽいしぃ?なぁ、***、答えろよ。触っていい?っつーか、触ってほしい、俺に」
思わぬ問いかけに困惑した***は、声を失ってあわあわと銀時を見つめていた。一気にぼわっと赤みを増したほっぺたが愛おしい。何度もしつこく「なぁなぁ触っていい」と問い続けたら、ついに***は観念して、小さくこくりと頷いた。それを合図にようやく手を伸ばす。右手で頬に触れただけで***の肩がびくりと揺れた。
「がっかりなんてするわけねぇだろ***……胸がどうとかケツがどうとか、そーゆー女の見てくれだけで、ギャーギャー騒ぐような、そこいらのゲスっぽい野郎どもと、銀さんを一緒にしないでくれる?」
「っ、ぅ、うんっ……ごめん、銀ちゃん、私」
自信がなくて、と動く小さな唇を深く口付けて塞いだ。んむっ!?という***のおかしな声に笑いが漏れる。差し込んだ舌で、狭い口の中を淫らに舐め尽くしていった。
手で包んだ赤い顔より***の唇と舌は熱っぽくて、我を忘れてしまいそうだ。ぎゅっと目をつむった***が、銀時の襟元を両手でつかんだ。すがりつかれているようで嬉しくなる。
逃げ惑う小さな舌を捕まえて、その表も裏も舐めた。絡めた舌同士を絞り上げるように強く吸う。もっと奥を味わいたくて、何度も顔の角度を変えているうちに、***の目尻から小さな涙の粒が一滴落ちた。
「ふっ、んぅ、ぁっ……んんっ……っふぁ、」
「っは、泣くなよ***、キスしたくれぇで」
「はぁっ、っん、だ、って……息できなっ、ひぁっ!」
顔を下げて細い首筋にも唇を落とした。ちゅ、ちゅ、とついばむように首を降りて行く。首横の筋に沿って軽く歯を立てたら、***はくすぐったそうに肩をすくめた。鎖骨のくぼみを肩まで横一直線に、べろりと舌を這わせたら「んっ」と声が上がる。先ほどのキスで胸元に落ちた唾液の跡をゆっくりと舐めとった。胸の谷間や乳房の横を舌先で丹念に撫でる。這いまわる唇と舌に怯えるように、ふたつの膨らみがふるりと震えた。
胸の先端の薄いピンク色の部分に、ちゅっと音を立てて口づけたら、***の背中がびくんと跳ねた。舌先でちょんちょんと触れ、もう一方の蕾も指の腹で円を描くように撫で回す。
「ひっぁ、やっ、んんっ……~~~っっ!!」
「はは、ちょっと触っただけで超ビクビクすんじゃん。おまえ乳首弱ぇのな。***、ホラここ、すげぇ固くなってんの分かる?俺に舐められてビンビンに勃ってんの。やらしいピンク色で、もっと舐めてぇって言ってんの見えんだろ」
「ぎん、ちゃ、んゃっ、ぁぁあッ!」
むしゃぶりつくように右胸を口に含み、その硬くなった先をきゅうっと強く吸った。強い刺激に***は喘ぎ、腰が浮き上がる。口の中の小さな乳首をこりこりと甘噛みをしては、舌先でピンッと弾くのを繰り返す。左胸も揉みしだきながら、二本の指で先端をつまんだり、指先でくにゅくにゅと転がし続けていたら、小さな蕾は熟れたさくらんぼのように硬く色づいた。
「ひぅ…っんゃ、ぁあっ、あっ……ゃぁっん、」
銀時の肩を***の手が押すが、全然力が入っていない。腰が浮き上がりびくびくと震えている。銀時の足の下で、膝頭をすり合わせている。胸にしゃぶりついたまま視線を下げると、白い下腹部とショーツが見えた。
———あ~~、脱がしてぇぇぇ、触りてぇぇぇ!!!
ショーツの中を想像すると、手が勝手に動きそうだ。小さな尻の触感が手によみがえる。指が沈むほどの柔肌だった。そういえば***は、胸もふにゃふにゃとして柔らかい。脂肪の少ない華奢な身体でも、そこは確かに女らしい。こんなこと神楽は知らないだろうと思うと、優越感に満たされた。
「ぁ、っぎ、んちゃ、っっ……もっ、むね、やぁ」
「あー、ヤじゃねぇだろ***ー、発情期のメス猫みてぇにニャーニャー鳴いて、気持ちよさそうによがってるくせに説得力ねぇってのー」
「っっ……んぁ、っ、ぅうっんぁ」
胸を触っただけでこんなに悶える敏感な身体を、もっと深く求めたらどうなるのか。想像だけで息が上がる。***は初めてなのだから、ゆっくり進めるべきだ。頭ではそう思っているのに、銀時だって余裕がなかった。
乳房を愛撫していた手をそのまま下ろしていく。腰が浮いて突き出された下腹部を手のひらで撫でた。少し汗ばんだ肌は手に吸い付くほどしっとりとしていた。
更に手を滑らせて、ショーツの上から恥丘を撫でる。見えない割れ目を探して、指先に力を入れて擦ったら、ハッとした***が銀時の手首を掴んだ。
「っっ!!やっぁ、触っちゃ、やだぁ!!」
「んだよ、さっき触っていいっつったろーが」
「~~~~っ……そ、そこはだめですっ」
なんでだよ、と言いながら***の制止を振り切る。手のひら全体でショーツの上から下腹部をさわさわと撫で続けたら、こそばゆいのか***は目を細めた。太腿がひくひくと震えはじめ、閉じていた膝が緩む。銀時はすかさず、その足の間に手を割り入れ、ショーツのクロッチ部分を後ろから前まで、指先でつつつ、と擦り上げた。
「ひゃぁっ!!~~~っや、ほんとにっ、待って、」
「だめです~、待ちません~。なぁなぁ、もうこのパンツ脱がしていい?お前だってこんな小せぇ布切れ、いつまでも履いてんの苦しいだろ?さっさと脱いじまえって、銀さんに見せなさいってぇ」
「だだだだだだめッ!!!絶対ダメです!!!」
ショーツに指をかけて脱がそうとする銀時の手を、真っ赤な顔をした***が両手で掴んで必死で止めた。銀ちゃんの馬鹿!スケベ天然パーマ!と泣きそうな顔で叫んでいる。
胸だけであんなに感じていた***のことだから、下着も濡れているのではと期待したが、予想に反してショーツは乾いていた。銀時は「ふーん」と面白くない顔をして、人差し指の爪を立てて、布越しに割れ目をなぞった。奥まった秘部を探し出そうと、くにくにと指を動かしたら、***の身体がびくっと跳ねた。
「やぁぁっん!っゃ、だッ、ぎ、ちゃんっ……さわっ、ん、ないでぇっ……」
「お~お~***~、ヤダって言うわりに可愛い声出てんじゃん。もうコレ脱げって。直接触ればもっとよくなっから。な、ホラ、脱がしてやるから足上げろよ」
「~~~~っ、ヤダヤダッ!」
小さなシルク地の下着をぐいぐいと引っ張って下げようとしたら、***はあわあわと焦った顔で抵抗した。あまりの恥ずかしさに耳の裏まで真っ赤で、眉間にシワを寄せて必死に自分の下着を押さえている。
困りきった***の顔は、こんな時でも銀時の中のいじめっ子を刺激する。下着を脱がされないよう必死な***の肩から浴衣が落ちて、袖が手首に引っかかっているだけになっていた。
「んじゃ、先にこっち脱いじまうか」
「えっ!?きゃぁ!!」
いたずらっぽく笑って、銀時はショーツからぱっと手を離した。驚いた***が固まっているうちに、浴衣の袖を掴んで思い切り引っ張った。腕から抜き取った浴衣を後ろにポイっと投げると、***は文字通りショーツ1枚の姿になった。
「なななななっ!急になにするんですかっ!」
「なにって、脱がせてんだよ」
丸裸になった上半身を隠すように、***は胸の前で腕を交差した。その身体の横に両手をついて見下ろしたら、獲物を捕らえた充足感のようなものに満たされた。さぁ、どう可愛がってやろうかと舌なめずりするような気分で。
しかし、その気分は長続きはしなかった———
銀時はただ***の身体に触れただけだった。
横たわった身体のつるりとした脇腹を撫でたら、***は腕で胸を隠したまま「あっ」と声を出した。そしてその手をゆっくりと腰に回して、そのまま背中を上ろうとした瞬間だった。***が急に目を大きく見開いて、両腕をぱっと突き出すと、銀時の肩を強く押した。
「やだっ!!さ、触らないでッ!!!!」
それはその日はじめて聞く拒絶の声だった。胸や尻を揉んだ時も服を脱がせた時も、ショーツを脱がせようとした時だって、***はここまで嫌がらなかった。いぶかし気な顔で銀時は、***を見下ろした。
「はぁ?急になんだよ***、別にいいだろーが、」
背中ぐらい、と言いかけた言葉は急に途切れた。
ハッとして開いた口をそのままに、銀時は***をじっと見つめた。黒い瞳は怯えるようにゆらゆらと揺れて、怖いものを見るような目で、銀時を見つめ返した。
指先に走る感覚が、銀時は信じられなかった。脇腹から腰へと続いていた肌のなめらかさが、背中のある一点で急に途絶えた。そこに突如、砂のようにザラザラとした触感が現れた。指は戸惑いながらも勝手に動いて、***の背中の中心を肩甲骨までなぞり上げた。
「ぁ、あっ、銀ちゃんっ、ちがうの、違くてっ」
何かを言おうとする***の唇は、恐怖に震えていた。さっきまで紅潮していた顔が、さーっと青ざめていく。その表情を見た瞬間に、銀時は神楽が何気なく言っていた言葉を思い出した。
———***の背中に傷跡があったから、それ天使の羽根が生えてた跡みたいって私言ったヨ———
それは傷跡なんていう生半可なものじゃなかった。見なくても銀時には分かる。それは古いが、かなり大きな傷だ。それも普通の女なら本来負うはずのない大怪我だ。手のひらの感触だけでも、それが分かる。
黙って背中を撫で続ける銀時を見つめて、***は恐々と口を開くと、蚊の鳴くような小さな声で言った。
「銀ちゃん、急に大声出してごめんね。でも、あの……私の背中、綺麗じゃなくって……み、見せられるものじゃないというか、見ても気持ちのいいものじゃないので……その、服は、着たままじゃ、ダメですか?」
そう言って無理に笑おうとする***の唇は、引きつっていた。これ以上何も聞かれたくないという顔で、すがるような目で銀時を見つめている。嘘をつけない***があまりに必死な顔で取り繕っているのを見て、そりゃそうか、と銀時は思う。
———そりゃ、見られたくねぇコトとか、知られたくねぇコトのひとつやふたつ、***にもあんだろ。俺だってコイツに言いたくねぇ過去なんざ、ごまんとあるし。聞かれないからわざわざ言わねぇってこともあるに決まってるだろ、お互いに。付き合ってるから何もかも理解できるなんて夢みてぇな話、ガキじゃあるまいし……
頭ではよく分かっていた。多分、こんなに怯えた***に何かを求めるのは間違いだ。今じゃなくていい、いつかお前が話したくなったらでいい、と言うべきだとよく分かっていた。
でも、どうしても銀時の心が、それを良しとできない。ここまで来て引き返す気になれない。心底***に惚れているからこそ誰よりも多くを見たかった。今まで知り合った誰よりも深く知りたかった。
「はぁぁぁぁ~~……」
深い溜息をつくと銀時は身体を起こした。ホッとした顔の***を見下ろしたまま、無造作に白い着物の両袖から腕を抜いた。
「えっ!?ぎ、銀ちゃん!?」
目を丸くした***の前で、おもむろに黒いシャツを脱ぐ。ぱっと首から抜いたシャツを乱雑に投げた。乱れた銀髪の前髪が邪魔で、頭をぶんと振る。
「なっ……!ぬ、脱ぐなら脱ぐって言ってくださいっ」
驚いた***は両手で目を覆った。いきなり目の前に現れた筋肉質な身体に戸惑って、逃げるように顔を背ける。
「***、見ろよ」
「え?わゎゎっ……!」
顔を隠す***の細い手首を掴むと、ぐいっと強く引いて起き上がらせた。身体同士が近づいて慌てた***が、銀時の厚い胸板に小さな手をついた。その手を銀時の大きな手が上から押さえつけた。恥ずかしさに目を逸らそうとする***の顔を、銀時の片手が掴んで引き留めた。
「オイ、ちゃんと見ろって」
どうすればいいのか分からず***は困惑していた。重ねた手を胸から肩へ、みぞおちから脇腹へと凛々しい身体の上をゆっくり移動させると、銀時の意図に気付いた***はハッとして息を飲んだ。ふたつの手はその身体に数多くある傷跡をなぞりながら動いていた。
「っ、ぎ、銀ちゃんっ……」
急に泣きそうな顔になった***を見下ろして、銀時は口を開いた。いつも通りの気の抜けた声が出た。
「あ?この傷?これは定春に噛まれたヤツだな。アイツの牙、結構ぐっさり刺さるんだよねぇ。んで、コレが、家賃滞納しすぎてババァにデッキブラシでぶん殴られた時のヤツ。あと、この胸んとこのヤツあんだろ?こりゃ確か、人斬りなんちゃらっつーのに、なんとかっつー気持ちわりぃ刀でぶった切られた時のヤツね。そんでこっちがぁ……」
ふざけた口調で喋りながら手を動かしていく。***の指先で、傷のひとつひとつを触らせながら。
正直に言えば、いつ誰につけられた傷かなんて頓着してない。多すぎる傷跡に記憶が追い付かなくなり、最後の方は「勇者にエクスカリバーで切られた」とかテキトーな逸話をでっちあげた。
「ごめん、銀ちゃん……ごめんねっ……」
作り話も底をつきそうになった時に、***が小さな声で銀時を制した。
「私、自分のことしか考えてなくて……見ても気持ちのいいものじゃないなんて酷いこと言って、ごめんなさい。銀ちゃんだって、いっぱい傷跡あるのに……私、」
うつむきそうになった***の顎を片手でつかんで、くいっと上げると涙に潤んだ双眼と目が合った。脇腹の傷跡の上で、細い指先がカタカタと震えていた。
「***、さっき俺がなんつったか覚えてるか」
「え……さっき?ぇ、えーと、家賃滞納しすぎて、お登勢さんにデッキブラシで殴られたってやつですか?」
「ちげぇーよ馬鹿。なんでババァの話をいちばん覚えてんだよ。もっと前に大事なこと言ったろーが。オイオイ***~、ちゃんと覚えとけよ~。銀さんめっさ大切なこと言ってたんですけどぉ~。ったく、しょーがねぇからもっかい言ってやるけどさぁ」
きょとんとした***の頬を両手で包む。唇が触れそうなほど顔を寄せた。さっき自分が言ったセリフと同じ言葉を、銀時はとても静かな声で繰り返した。
「……女の見てくれだけで、ギャーギャー騒ぐような、そこいらのゲスっぽい野郎どもと、銀さんを一緒にしないでくれる?」
「っっ……!!!」
その言葉を聞いた途端、***は目を見開いてから、一瞬だけ苦しそうに唇を噛んだ。眉根を下げた困り顔でじっと銀時を見つめた後、迷いを吹っ切るように小さく息を吐いた。
「一緒にしないよ、銀ちゃん」
そう言った***の目はもう潤んでいなかった。頬を包む銀時の手を掴んで、ゆっくりと離れていく。横座りのまま膝だけをすりすりと動かして、銀時から少し距離を取る。落ちていた銀時の黒いシャツを拾って、胸を隠すように腕に抱くと、***はくるりと背を向けた。小さな後ろ姿に月明かりが落ちる。後ろ手で長い髪が払われたら、銀時の眼前に白い背中が露わになった。
「銀ちゃん、私……背中に傷があるの」
「っっ………!***、お前、これ」
一体どうしたんだ、と思わず問いかけそうになるのを、銀時は必死でこらえた。それほど***の背中の傷跡は大きかった。
肩のすぐ下から腰の上あたりまでを斜めに、長い創痕が何本も走っている。それはすり傷とか切り傷とか、そんな生ぬるいものではなかった。刀ではこんな粗雑な傷はつかない。硬く尖った何かで故意に殴られたとしか思えない。深い裂傷が針で縫われた痕跡があるが、どれも素人の手による急場しのぎだ。
長い傷の合間には、いくつもの歪んだ丸い痕が点在していた。目を細めてよく見て、それがヤケド痕だと気付いた途端、銀時は全身の血液が凍った気がした。こんな傷を***が背負っていることがあまりに恐ろしくて、生きた心地がしない。
「今まで黙っててごめんなさい……こういう時に驚かせないように、いつか話さなきゃって、ずっと思ってたんだけど……勇気が出なくて……でも、その……」
肩越しに振り向いた***は、銀時を見つめて悲しそうに笑った。その顔を見た途端、自分のしたことの残酷さに眩暈がしそうになった。ただ***のことを深く知りたかった。惚れた女のことなら、どんなに悲しい思い出でも、どんなに罪深い過去でも、知りたかった。余計なお節介だと言われても、共に背負いたいと思っていた。
———背負えるのかよ、お前に。テメェの身体の傷も大して覚えてねぇような馬鹿野郎に。女の身体にこんなでっけぇ傷抱えて、***は生きてるのに。こんなでっけぇ傷より、もっと深く傷つきながら、誰にも気づかれずに笑って生きてきたっつーのに……!
自分から求めておいて、いざ真相に近づいた途端、銀時の方が怖気づきそうだった。そんな銀時を見つめて、***はおずおずと何かを語ろうとしていた。その小さな唇が青ざめて見えたのは、***が怯えているからなのか、月明かりのせいなのか、銀時には分からなかった。
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【(17)怯える】end
"きみは天使(3)"
罪を覚えるよりも君に教わりたい